外伝02-1부산:《最終日》チュオタンの日

 汚い話から始めるけど…完全に便秘が直ってる。
 大規模減量で腸管がダブついたらしく,糞詰まり気味だったのが完全解決。唐辛子が腸を刺激するんだろか?
 あんまり偏向しない程度にコリアン飯の全体評価をしてみよう。

 9時,昨夕の国際市場西北エリアに向かう。やや迷ったけど9時半に目的の「クボチム」発見。
 既に客がいる。「チュオタン,ハンゲジュセヨ」と頼んで10分,緑に濁ったドロドロの鍋が出る。ハリポタで調合してた魔法薬みたいな…
 これまで食ってきたコリアン飯は大きく2種類。真っ赤なコチュジャン系か真っ白かグレイのソルロンタン系です。前者の卓には追加用のコチュジャンが,後者には胡椒と岩塩がセットされてる。けどこのチュオタン専門店の卓には…やはり緑色の粉。臭いを嗅いでみると山椒でした。
 このドロドロ緑は…経験ないぞ?
 「チュオ」はドジョウ。ドロドロ緑の中に肉片らしきものは見えないから,すりつぶしてあるらしい。
 箸でちょっと口に入れる。…何て言うんだこの味?心地良く泥臭い舌応えのある味覚だけど,野菜は柔らかで,なのにドジョウの肉がザラッと後味に残りほのかに染みる。
 スプーンで汁を啜る。泥臭さと調和してるのは中華の五香粉みたいなハーブ。ウイキョウか?それだけじゃなさそうな不思議な味色。だけど…コレは凄いぞお~!
 胡椒も唐辛子もアジアに入ってきたのは近世以降のはず。とすればコチュジャンやソルロンタン以前の味の「生きた化石」がこのチュオタンの部類なのか?
 ドジョウも中華ハーブもこれより少しでも強いと食えなくなるはずなんだ。このバランスは絶妙!拍手したい!

 この場を借りてついでに紹介しときたいのがカムジャタン。実は初日のタッカルビのベースがそれだったんだけど,あんま日本でイメージされない超人気メニュー。「カムジャ」はイモ。ホクホクに煮たイモにコチュジャンが染みると素晴らしい食感なんだわ!
 牛肉系のスープもいいけど,これら魚や野菜とベストマッチするスープも奥が深そう。和食と同じ原理だけど,肉汁でごまかせない分相当な工夫の技術が注ぎ込まれてまっせ。

 昨日確認してた「ムルコンシッタン」に立て続けに向かう。
 ここはアグタン(アンコウ鍋)の専門店。アンコウそのものは淡白で美味いけど,海雲台のフグと同様に正直日本でも食える味。
 釜山名物とされる刺身や海鮮鍋(ヘムルタン)を含めて日本人受けはいいだろけどコリアン飯の本領発揮の料理じゃなさそう。
 ただこのムルコンシッタンで出てきた塩辛には驚いた。シソに似た味覚の葉っぱが重ねて塩辛にしてあるのね。唐辛子は入ってない。でもこれがイケるんだわ!思わずお代わりしちゃったほど。
 コリアン飯にズラッと付いてくる副菜は実に多種多様。名店ほどユニークでハッとする小技を効かせてあるのに出会う。各店とも自慢のソウザイをジャブに使ってる節すらある。心してかかられよ!
 なお,塩辛の文化は海人の保存食が源流みたい。日本にもイカの塩辛や高知名物酒盗なんかがあるけど,韓国にも伝えられてる。けど,韓国のは海鮮類じゃなくて野菜のものが多いみたい。で,これがまた辛いんだ!キリリと舌が震える辛さ。

 滞在時間があと8時間程になったんで,恒例の東莱の温泉「虚心亭」へ。
 今回は地下鉄の1つ先の駅・釜山大学まで乗りすごしてみた。最近開発されてるエリアと聞いてたけど,ホントに建設ラッシュの地帯。学生街はまだ小さいけど小洒落たショップが並んでる。例によってスタバでエスプレッソを仰いで東莱へ。
 虚心亭でいつもの通り1時間以上のんびりする。半身浴用のコーナーがあって机の付いた風呂になってる。500mlペットボトルを持って入ってみたら,結構同じよに持ってる奴がいてあまり浮かなかった。皆さん分かってらっしゃる!今度から単行本とタオルも持ち込んでやろ。

 コリアン飯のラストはサムゲタンで締めた。──実は初めて。
 ナンポ・サムゲタンってかなりガイドブックに乗ってる店に行くと,半分位日本人でした。白濁スープに淡白な鶏肉ってのは,やはり日本人向きだわな。確かに美味いけど…やっぱり同じ非コチュジャン系ならソコギやソルロンタン,コムタンみたいな肉の凶暴さを秘めたのが韓国らしい気がする。
 国際市場で馴染みになったオバチャンの屋台へ。昨日はぜんざい食べたんで,今日は初めてのパッピンス(かき氷)を食ってみる。…侮れない!金時プラス練乳プラスフルーツみたいな豪勢なやつ。夏場真っ盛りにはロッテリアにもパッピンスが登場するらしいけど,流石に10月にはここにしかない。オバチャン曰く「ちょっと寒くない?」

 宿でバックパックを受け取り,歩いて港へ。
 何か今回はこれまでで最もドップリ浸かってしまった感じ。もう1日いたい!
 途中のコンビニで,お茶を買う。──実は…まだ書いてなかったけど,今回ハマったもう一つの味覚が,このコンビニのお茶なんでありんす。
 韓国って茶ドコロだったっけ?──いや,そうじゃないんよ。わしが言うのは雑穀茶の部類ね。
 日本にも麦茶や蕎麦茶,昆布茶があるから,それはそれで一方の雄だと思う。けど韓国のは梅茶,アンス茶に始まって幅が凄い!コンビニで一番メジャーなのがオコゲ茶とトウモロコシ茶ね。
 この2つは色んな種類がある。ティーパックで売られてもいる。どれも目を見張る美味さ!しかも当然ゼロカロリーなんです!
 オコゲ茶の渋みと微かな甘み。韓国土産として徐々に定着しつつあるオコゲ飴でご存知の方も多いはずです。
 トウモロコシ茶の爽やかな風味と芳醇な甘み。これは癖になる。
 さらに,少しカロリーはあるけどジャム系のハーブティーも捨てがたい。ユズなどを中心に瓶詰めがコンビニにも並んでて,これを熱湯で溶かして飲むと…風邪なんか吹っ飛びそうなホットな満足感。
 今回は常にこのペットボトルを片手に歩いてた感じ。色んなの飲みたいから敢えて500mlより小さいのを買ってたほど。
 全く…何で今回初めて気付いたんだろ?
 こう考えた時,今回の満足感の背景がやっと見えてきた気がした。──トウモロコシ茶もトッポッギも以前味わった記憶があるんだわ。その時「ウゲ~何これ!」って捨てちゃった記憶も。

 この1年の体重半減過程,とりわけ最後の100日で注力した食感育成(要はグルメ旅行集中敢行)でわしの舌は格段にセンシティブになった。
 朝鮮半島は秀吉の朝鮮出兵後しばらく交易ルートを閉ざされた。その後日朝交易が再開されても鎖国政策を取った。
 胡椒と砂糖キビが入らない国際環境下で,生命力の強い新興食材・唐辛子と,穀物や果実などの微妙な甘みによる独自の食文化が築かれる。
 朝鮮半島の食文化は若く,それだけにツッパってる。室町期にはかなり完成してた和食より独自性が強いのです。
 そのツッパった味覚に,ようやくわしの舌が追いついてきた。…とこーゆーことなんだ!
 同時に気付かされるんはコリアン飯に比べた時の和食の保守性。多彩に花開くコリアン飯に対し,旧態を脱せずに洋食に客層を奪われる一方の和食。カレー味やキムチ味,パスタを使った和食は生まれて来てない。
 日本独自の肥満リスク事情がここにある。頑張れ和食!そして更にツッパれ,コリアン飯!