元旦払暁から疾走しました。
バスの車窓は霧海の暗がり。
今回は「座8号的」と座席指定がなされた。中国のパスで座席番号を降られたのは初めてかもしれん。ただ,どう数えても10人以上客はいない。この辺どーも小役人的やなあ。制度がニーズに関わりなく機能する。
7時は回ってるんだけど,日本だと6時半位の明るさか?あの広大さで単一時間を使ってるもんだから,成都だと体感時間は,2時間はいかなくても1時間半は早い。やはり空が白み始めるのは8時前やな。
で,この日の移動行程ですが――7時10分雅安発のバスに揺られまして成都新南門バスターミナルへ帰還した足で,そのまんま黄龍渓という市近郊の見どころへのバス往復しました。この道行きについては,あれやこれやで長めの講釈になりましたので別記としまして――なかで食い物だけちょっと。
ところは新南門バスターミナル裏通り。バス発車時刻まで時間が開いたから,ちょっと腹に入れとこうと適当に入ったお店。
あ,ついでみたいになりますけど──新年明けましておめでとうさんあるよ。
満席だったんで相席で何とか席を確保したけど…もの凄く汚い,いや庶民派の店です。
周りを見てると通常は二両みたいだけど,わしには一両でかなり食いごたえがありましたです。
いや量はともかく,一口一口が重い!
てゆーか端的に言えばムチャクチャに辛い!食い終わっても口がピリピリしてる。かなり強い麻なんだけど不思議にむせたり手が止まりはしない。
ゴマか薬味のせいか,辣のラー油が香り主体で抑えてあるせいか,それとも四川食への慣れか?
焦げ味もない。真っ赤な唐辛子スープですが,何がどうバランスしてるんだ!?
「炒手」はワンタンを四川ではこう言うという呼び名らしい。
少し肉が入ってる。生地がふわふわで食える。爽やかな麻と合わさっていい味になってます。豆類は全く入ってないみたい。
この頃には,到着当初には同じに思えた麻辣も,素材によって微妙な使い分けが出来てることが実感できてきました。
「あのお」錦星飯店の部屋に荷を置いた後,キーを預けついでにフロントに言ってみる。「さっきチェックインした部屋,禁煙部屋みたいなんだけど…?」
お姉さん,帳簿をチェックしてから「あ,ゴメンナサイ」とあっさり認めちゃう。「灰皿持ってっときますから」
…いーのかそんだけで?
宿は一昨日と同じここにした。駅前の方が動きやすくはあるから迷ったが,やはり旧城内,殊に文殊院辺りは居心地がいい。生活感の温度が違う。
市内西部に寛巷子という雰囲気いいエリアがあるらしい。
何が雰囲気いいのかと言うと,どうやらオシャレでヤングが群れてるらしい。
謎は謎を呼ぶが,地図上の場所は分かってるから,とにかく徒歩で向かってみる。
1時間近い距離でした。この時期,まさか経済発展前にあれだけ悪名高かった中国バスがあんなに乗りやすくなってるとは想像もつかず,歩く方を選択してました。
夕方のラッシュに至る直前,息を荒げつつある中心部の雑踏を過ぎる。
ふと閑静な通りに入る。白壁に柳,旧い中国を残す雰囲気。商業后街という場所らしい。
何を意識してるのか,健康になりそうな歌がいくつか壁に並ぶ。一日一万歩の歌とか。日本の演歌より一万倍速。
さらにこんなのもあったから,眺めながら一服しました。
戒[火因]歌(タバコを止める歌)
「都説飯后一支[火因] 生活賽過活神仙…吸[火因]要掴疾病患…」
寛巷子に着く。
雰囲気は商業后街並みだけど,確かに小洒落たレストランとかが目立つ通りです。
コーヒー店があったから一杯。
濃縮珈琲 15元
おお!!…マズい!
どうも初めて淹れるっぽいお兄ちゃんだし…。やはり漢民族系のエリアにコーヒーのセンスは期待しない方がいーな。
そうこうしてるうちに…すげえ人出になってきたぞ!隣の広場で音楽会…と書いたビラがあちこちに貼ってあったが,何とパンクが演奏を始めてる。ただでさえ身動き取れないのに皆さんエラく興奮してきて,大変なことになってきたぞ?てゆーか既に若干コワいぞ!?
すごすごと西へ離脱することに。
▲離脱してる途中で購入した鉄カップ。糖包添え。
「為人民服務」は共産時代のキャッチで「人民のために働くのだぞ」みたいな感じだけど,この「人民」が「人民幣」(中国元紙幣)に代えちゃう感性も現代中国らしいし,こんなギャグが大っぴらに言える事に時代の推移を感じる。
[後日談]このコップ,2020現在まで大事に使わせて頂いております。なお,このギャグ文字,香港のオヤジのツボにハマったらしく,笑いが止まらなくなった一幕も後刻ございました。
品味坊という店で波[糸糸]糖と称するマントウを購入。8つで10元。
搾巷子西側出口に至る。路側に椅子を並べただけの青空茶庄があったから腰を下ろして一服。
蒙毛茶 10元
蒙山茶のつもりで頼んだら…何か,昨日自分で淹れたのとかなり違う…と思ってよく見たら「山」じゃなくて「毛」やがな!
ただ,味はいい。
渋みの重心が低くて落ち着いて飲める味わいではある。「山」と違い甘味が僅かに,後口にフワッと首をもたげて来るのが好ましい。
この甘味に焦点を定めると,日本茶にも紅茶にもない独特の甘味だってことに気付く。四川茶独特の青臭い感じの苦味と表裏一体の…葉の香りが風に運ばれて来たような甘味。全然花は入ってないのに,キンモクセイみたいな官能をも微かに湛えてる。このヘンな甘味は,3杯目で一気に強まった気がする。
よく見て気付いたが,この店は「多穂[舌甘]茶」というお茶のアンテナショップっぽい店らしい。どんな茶か知らん。聞いたことないが…。
昨夜読み過ぎたのか,隣のメガネの太っちょ中国人を小松左京に見間違えた。
しかし面白い。中国茶の奥はまだまだ深そうです。
[後記]
…と何となく納得しとりますが,後で得た知識では,「毛茶」というカテゴリーがあるらしく,これは製茶工程を一通り完了した精製前のお茶のことらしい。荒茶とも呼ぶ。
とすると,この時飲んだのは――ガッカリどころか,恐らく地元でしか飲めない蒙山茶の荒茶だった可能性があるわけで――。
余程バスに乗るのを嫌ってたと思われる。まただらだら1時間ほど歩いて春熙路に帰ってきてます。
飯を食う適当な店がなかなか見つからない。こうなったらベタに行くか?「MOI」と称する茂業百貨に入り,地下のフードコートへ。
[竹/快]楽民魚 Happy Cateという,ローカルっぽい店を選ぶ。
宮爆鶏丁餐套 13元
+玉子豆腐 3元
日本でお気に入りのメニュー,宮爆鶏丁を本場で食すという企画にしてみた。
うん,確かに面白い。
ラー油ではなく唐辛子の香りのみの味わいです。
麻はたっぷり効いてる。豆はカシューだけじゃなくピーナッツも入ってて,花椒とがっちりマッチする。
ただファミレスの限界なのか,味が均等でないようです。
米は香りが立つ。四川って米も作ってるんだっけ?
ついでに付けた玉子豆腐にも驚く。玉子の味わいが実に生々しい。卵を料理させたら,やはり中華は,類を見ない卓越ぶりです。
同じ地下フードコートを物色してて,つい入ってしまった小店。5つほどしか席のない角の店でしたが客はひっきりなしに入ってます。
藍袁味…というのが店名なのか,何かの常套句なのかすら分からん。
豆腐脳水粉 8元
「豆腐脳」――この漢字を見て,何より懐かしさが先に立った。大意は豆腐のような柔らかい思考法…じゃなくて,豆腐の麻辣ソース和えみたいな料理。西安の学食での定番メニューでした。
そう,これこれ!ふわふわの豆花とぷよぷよの水粉が麻辣の中にとろけております。
目の前で作る過程も懐かしく見ました。水粉を入れた碗に豆花を投じ,花椒,辣子,ピーナッツ,カシューを一匙ずつ。
記憶してたキツい味わいに対し,意外にも優しい味覚。ラー油じゃないから辣はダイレクトだけど,麻が2つの素材の円い味覚に融和してどこまでも緩い。
麻辣ってこんなに優しい味わいになりうるのか?
広東の味覚にも意外に通ずるところがあります。豆腐そのものみたいな豆花が,四川に来るとこんな強い味と,しかもチャンと融和するってのは…これ一種,驚異的なことだと初めて気付かせられました。
暗くなってきた帰り道,文殊坊に出てた小店2軒に立ち寄る。
四川名小[口乞]
痣胡子龍眼包子8個(1篭) 7元
文武路 絶味
レンコンとキクラゲ 6元
たまたま目に入ったのをピックアップしただけのこの2つが,ムチャクチャに最高の相性でした。
包子は,広東の深い底味でも北京の肉汁でもない,肉プラスの中華スパイスが抜群に効いてる。辣はなく,ごく普通の肉味のようで麻を含めたスパイスがじわりと底に効いてくる。そんな感じに,当たり前のようで微妙に未知の味わいです。
いかにもチェーン店っぽい「絶味」は,売ってるモノの気配が台湾の滷味に近かったから興味を惹かれて手が出たんだけど――一口食ったら素材そのもののようなアッサリした味。こんなもんか…と二口目をうっかり口にしちゃった頃に口中がピリピリと震撼する。辣ではない,麻を純化したような衝撃的な味付け。四川滷味と言うべき味か!?
どちらも四川にしかない味だと思う。唐辛子移入以前から形成されてきた中華スパイスの融合味の巧さに魅了される。
つまり,麻辣以前にあったと思われる麻主体の味覚体系の手触りです。
これを蒙頂山と一緒に頂く。至福である。
宿近くの百貨店に立ち寄るとお茶の専門店を見つける。摩[ワ/小]百貨という店の一階。
竹叶青
同茶2袋 98元
1つだと60元するという。この竹叶青専門店,今日だけで成都の3箇所で見つけた敷居の高そな店。場所的にはチェーンの中ではアンテナショップ的な位置付けか?
この安売りは道路脇に出されたワゴンに最後に残った元旦贈答用っぽい。
ここ何日か安いのを物色してたからラッキーでした。単価的には少し高いんだけど…即購入決定。
たんまり買い込んだ品々を味見しながら,宿の部屋でテレビのチャンネルをチェック。
SCTVというチャンネルが1~7まである。四(Si)川(Chuang)電視台の略らしい。それぞれの守備範囲が決まってるらしく
1現代映画
2コメディ
3TVドラマ
4ニュース
5懐かしの映画
6テレビショッピング
7音楽
ビックリしてたらCCTV(恐らく中央広[テヘン+番]電視台)は13あった。四川にも,別に6チャンネルのCDTV(成都電視台)があるから足すと,地元省チャンネルは中央と同じ数!
チャンネル順だと他は貴州,雲南,浙江,吉林,安徽,重慶,北京,江西,山東,江蘇,東南,広東,陝西,天津,河北,西藏,深[土川],安寧,青海と延々地方局が続く。
少しの間に物凄い乱立情勢です。
では番組内容は?
天津テレビの「楽[ロ巴]莫属」という番組,10の大企業の社長が,求職中の出場者を公開で給料と役職を決めて採用していく。
この上なくえげつない。日本ならリョーシキあるオバサマ視聴者様から抗議の嵐だろ!?公開ヒト買いマーケットです。番組のトーンもバラエティ色はほとんどなくて売り買い双方ともクソマジ。――だから抗議はともかく視聴率は高いだろう。
チャンネルが多いだけじゃない。まさに競争市場の熾烈さが生まれてるし,そういう場所では漢民族は恐ろしくパワフルになる。