外伝05O蘇州ヰ 星期四 ヰ
蘇州に至りて酒[酉良]餅を食む

§邦訳 星期(シンチー):曜日。星期一が月曜日で,金曜日の星期六まで漢数字順。日曜日は星期天(星期七と言うことも)

■上牛五点五十五分■
§邦訳 上牛(シャンウー):午前。午後は下牛(シアウー)
 朝4時起き。広島バスセンター5時55分発の始発リムジンで広島空港へ。
 年度末,相も変わらず年度主義で大わらわのお役所仕事をちゃっちゃと一通り片付けて,やや無理やりの3泊4日上海旅行に出掛けちゃってます。
 義務教育屋さんとして,来年のお仕事に手をつけるに当たって,とにかくインドと並ぶフラット化世界のもう一方の雄,中国の姿を確認しときたくなったわけ。Passion→Vission→Diccision→Action。健全なパッションは,最も確実な出走ポイントになる。
 あッ。一応まだ「ダイエット」遊記だし,今回はカロリー明細付きで参ろうかね。ただし…例によってかなりいい加減ですけど,特に海外じゃムチャクチャ酷いですけど…まあバイアスかからなきゃいいかってことでね。

■上牛七点二十分■
§邦訳 上牛(シャンウー):午前。午後は下牛(シアウー)
MARUSAN豆乳飲料小豆
         125
KAGOMEわたしの野菜
         78
UCCカフェメルカード広島空港店ブラジル・エスピリトサント(0)
 中国東方航空の窓口が開くやいなや2人目でチェックイン。離陸は9時。
 いきなり豆乳を飲みたくなった。漢民族の朝の定番・豆乳は向こうでも必ず飲むだろから,日本標準を直前確認しときたくもあったし。
 空港1階のサンクスへ。見慣れない豆乳と野菜ジュースを買った。マルサンの小豆入り?カゴメの「わたしの野菜」?…知らん。でも,特に小豆はイケた。
 UCCのコーヒーショップで時間調整。何これ?…ブラジル・エスピリトサント?
 「スミマセン…これ何ですか」と店員に聞いてみると,「少し濃くて,苦いです」??よく分からないぞい??飲むと…まあ,濃い目の普通のコーヒーでしたけど。
 出てすぐ,最近通い詰めのタリースを見つけて地団駄。
 どーも――今回は新しいものにしか出会えない旅行運らしい。
 幸先良いぞ!!

■上牛十点十五分■
機内食(サラダ等軽食) 300
 上海プートン空港の1階玄関外の喫煙所。買いだめしてきたロングピースでとりあえず一服です。
 ちなみに,煙草に加え,空港の書店で待ちに待った「センゴク天正編4」と「桶狭間戦記2」をどっちも見つけて衝動買いしちまったんで…リュックは既にパンパン。
 厳しいと噂の入国審査は意外に甘かった。てゆーか,何か的外れ。ライターの機内持込みは禁止で皆さん取り上げられてブーブーなんだけど,手袋の中に隠したらすんなり通過。金属類はベルトまで外させる割に,どーもX線のチェックをあまり見てないみたい。この辺り,まさに中国らしい官僚的な形式主義。
 今確認したら携帯も通じた。Webもアクセス可。早速グリーのクリノッペに中国一食目を食わせたとこ。
 空港隣接の長途客運[立占](長距離バスターミナル)へ向かう。空港の規模から見て意外に小さい平屋のターミナル。利用者の姿も20人いない。他の大多数はタクシーかリニアってこと?
 そんななんで迷うまでもなく,建物に2つしかない窓口を見つける。窓口に手書きコピーの時刻表。10時40分のバスで蘇州へ行くことにした。票(チケット)を買ってウロウロしてたら,「チウナーガディーファン!」と怒鳴るオヤジ登場。
 ああ…「去那個地方」(どこ行きたいんだ)ね。それにしてもその無遠慮な荒くれ言葉は相変わらずやな~。ちょっと嬉しいぞ!頭のスイッチを中国語に切り替えて「ダオ・スージョウ(蘇州)バ」と答えたらさらにいきり立つオヤジ。「ナークワイシャンチョ!」
 あ…「那快上車!」(そんなら早く乗れ)ってこのバスなのね。乗り込んだバスは日本の長距離バス並…の車体ではあるみたいだけれど,ビニールびりびりで窓ガラスどろどろ。
 いいねいいね~!!共産中国人ここに有りですね~!!その辺は20年前と全然変わらんね~!!
 申し遅れましたが,わし20年前,天安門事件の翌年の観光客激減を狙って1年留学してました。所は西安,大学に留学生11人,うち日本人は5人って恵まれた語学環境。不真面目で旅行ばっかしてたからコトバはほとんど忘れたけど,
 相変わらず時間ピッタリの発車。って6人しかいないぞお?街中を何時間も回って客をかき集めなきゃ出発しないインドバスを…見習うのもどーかと思うけど,とにかくバスは一路蘇州へ出発じゃ!

■上牛十二点正■
※邦訳 正(ジョン):ちょうど
 かなり高規格の道路です。
 片側3車線,広めの中央緑茶帯,両サイド2m近いガード付きの高速道。車の数も相当です。20年前とはやはり桁外れ。本気で発展しちょる。
 このチケットが蘇州まで3時間,84元(1元≒14円:’09年3月現在)。この国,あんま移動させたくないのか交通機関は昔から馬鹿高です。
 それで1時間かかって着いたのは…国内線の虹橋空港?まだ市内かよ!?この非効率性も中国だなあ~


▲上海-蘇州バス表示

 かなり乗客が乗り込んできた。
 トイレ行って帰るわずか3分ほどの間に,席が取られてしまう。「だからわしの席だよ!」と主張しても動きゃしねえ。後ろの席は半分もガラガラなのに…意味が分からんぞ上海人!
 仕方ないから後方へわしが移る。
 バスはやっと市内を出たみたい。
 しかしオイオイ――前の席に座ったカップルが,座席上でもつれ合い始めたぞ?もうかなり満席なんすけど…この隠す気もないラブラブを通り越したブチュブチュモードも…そーいえば昔のまんまね。台湾人はここまで明け透けにはやらん。しかし…前席の状況は,いよいよ放送禁止の領域に近づいております。おお~!!
 (しばらくお待ちください)


▲蘇州東郊外ビル群

■上牛十二点四十分■
 窓外に流れる上海-蘇州間の郊外風景。
 一軒家の家屋は昔ながらの造りだけど,10階建て以上のマンションの方が目立つ。ガンガンに建ち並んでんの!ものすごい規模の工場がものすごい数続いてく。それでも長江デルタ,まだまだ土地は有り余ってる感じ。この広がりが,コンクリートで埋め尽くされる日が来る…!?
 日本から南に来たわけだけど,それにしても妙に暑い。この季節にヒートアイランドが発生してんの?それほどのコンクリート量なのか?
 少なくとも,プートン空港を出て2時間,窓外には家並みが尽きる気配なし。
 それはともかく…前席の男の膝の上にある女の上気した顔が完全に上を向いてるぞ?それに男の顔がゆっくりと近づいて…
 (今一度,しばらくお待ちください)

■上牛十三点半■
 さっき蘇州国際博覧中心って場所を通過。
 武道館並みの巨大建築が…一体幾つ並んでるんだ?2010年の上海エキスポの施設臭いけど…
 東京オリンピックがインフラ整備のギアになったと同じことが,北京オリンピックでも言われてる。これが上海では来年のエキスポみたい。
 今,ウージャン路って発音する辺りに停車した。相当規模の町。バス客の半分が下車してく。日本語しゃべってたビジネスマンやモバイル広げてた知的な中国人も降りてったから,恐らく中流階層の住む新市街臭い。
 駅前辺りのバスターミナルに着くと思ってたら,ウージャン東路って町中が終点でした。とりあえず下車。
 この道の中央を貫いて,「軌道一号線」って大工事が進行中。ここもまた何かスゴいことになってるみたい。

 
▲中華路:交通状況の電光表示板

■上牛十五点正■
 中華路北の駅前辺りのグリーンインって宿に荷を下ろす。
 正式名称「格林豪泰蘇州凱旋門酒店」。確か台北にもあったチェーンのビジネスホテル。違うのは――160元位の安い部屋にチェックインして,ややゴチャついた登記と支払いを済ませると,お姉ちゃん,無言でキーカードとレシートを投げてよこす。
 まだ感覚が慣れてないわし,「完了[ロ馬]?」と確認してしまう。お姉ちゃん,笑ってエレベーター方向に顎をしゃくる。
 わしは嬉しいからいいけど…ヤッパ普通の日本人は怒ると思うし!
 天安門事件時代の共産中国では,宿は懇願して泊まるものでした。「房間没有!」(満室)って言われても「どこでもいいの,泊まるとこないの,お願いシマス~」って食い下がらないと部屋はゲットできんかった。まして会釈なんて…
 それに比べりゃ格段の変化なんだけど…まだまだサービス感覚は発展途上。わしとしちゃあ,残して欲しいくらいだけど。
 早速市内へ。
 現前街。まずは何を置いても,この中心街だぎゃあ。
 蘇州一の繁華街でもあるけど,まあ観光客の街ってカラーが強い。蘇杭と言えば,風光明媚が大好きな中国人が古くからお気に入りの観光スポット。朝から動いて腹ペコなんで,わしも「歩き方」掲載の2店をお決まりに回ってみることに。

■上牛十六点正■
朱[シエ鳥]興麺館:肉片麺 550
同:水餃子 270
 蘇州麺の名店。造りも黒白檀に赤漆の豪勢な造りで,日本人的な感覚だとちょっと入るのを躊躇うけど,値段も客層も非常に庶民的でした。――後になって振り返ると,どうもこの類の中国歴史物ドラマのセットみたいな店は,実は大体庶民がちょっと贅沢する程度の店が多そう。
 モノもまあまあ。汁はあっさりした上海系で日本人好みっぽい。麺は細くて汁に馴染む。そんで,ビックリするほど小麦粉本来の太い味わいがシッカリしてる。自家製なんだろけど,中国の麺館では当たり前かも?ただし,品名は実際は少なし漢字4文字以上はあったけど,記録し損なったんで次の緑楊も併せ適当です。――これ以後,店に入ると同時に注文したものを必死に記録するよになりました。だって,漢字の文字数多いし,字は簡体字っつって共産党がアルファベット並みを目指して簡素化した文字だし,日本語ATOKで記録できねーよ!
 さて,隣のお店へ。
緑楊饅飩店:三鮮饅飩
         270
 ワンタンなんだけど,漢人文化圏で食うと日本人の想像を超える量とボリュームです。十分一食になる。水餃子よりデカいかもしれん具が満タンのワンタンが,野菜たっぷりの汁に浮いてる。
 満腹はしたけど,ここも味はボツボツかな。観光地って以上に,日本以上に名が上がった店は名前だけで商売できる中国だから,老舗特有の味の劣化は激しいだろう。ポッと出の有名店にはあまり期待しないよにしよう。
 それよりはるかに素晴らしかったのは,采芝斉の酒[食]餅。行列が出来てたんで,小一時間して出直したら買えた。宿で食うと――

▲観前街:采芝斉の酒[酉良]餅売り場

 いや,見たとこ日本にもどこでも売ってそーな饅頭なのよ。歯をたてると堅いけど,長崎の「一口香」とかのいわゆる唐饅そのもの。別にどーてことないじゃんって油断して咀嚼してると!!
 餡(あん)!?
 餡(あん)だこの味は~!?
 餡(あん)まりにも美味いぞ~!!(も…もういいよ)
 主体は杏子か棗だと思うけど,とにかく複雑な味覚で原料が想像できない。ただ,餡まり甘くなくて(もういいって!)フルーティーだけど軽やかな苦味も含んだ酸味で…ってこれじゃ伝わらんと思うけど,幽玄な華やかさの未体験のスイーツ。
 いや,スイーツに分類していいのか?外皮の固い食感と重い腹持ち感はほとんど小[ロ乞]――包子やラーメンなどの香港で言う飲茶クラスだぞ!?にもかかわらずこの後味のフレグランスは,やっぱスイーツそのもの!
 台湾で味をしめちゃって以来の確信がまた新たにしましたぜ。中華スイーツ恐るべし!

■下牛五点四十分■
 さて。久々の中国行きで,なぜいきなり蘇州へ来たか?
 夕暮れの観前街を後に,西に連なる細い路地に入る。白壁の質素な,昔ながらの中国家屋が並ぶ。リアカーで構えた小さな市場,軒先を緑に彩った八百屋。夕飯の買い出しに集まったのであろうオバチャン連中が現場中国語独特の粗野な音声を響かせて値段交渉する脇を抜けて。
 ここまでは,20年前と同じ。古い水郷都市ならではの,しかも普段着の家並み。わしがこの街に惚れこんで,滞在中飽きることなく何度となく徘徊した風景です。
 そしてその核心のエリアが――まだあった!細い疎水を跨ぐ石造りの橋。左右の家屋からいそいそと水を汲み,あるいは洗濯に出る庶民の日常風景。
 平江路。そのままだ!名刹巡りなんかしたくない,これが我が蘇州!!――大分観光ズレして洒落たお店が並んできたけど…まあ許せる範囲か?
 章を改めて写真集でご紹介しますね。
 水路に沿って北へ。定番の徘徊を終えると,既に闇がとっぷり降りてしまった。宿へと急ぐ。
 旧城内北側の西北路,蘇州博物館の筋は,これがまた美しくライトアップされてた。妖しいほどの青白い夜の中を,少し街に酔った忘我の心地で歩いた中国初日でした。


▲西北路のイルミネーション