外伝04〓━━━葉月之講〓━━━
(中の句)間之町通ジォカトーリのスパゲティトマトソース

 毎年行っちゃう夏の海外。10日はキープするよにしてますけど…
 今のテーマはやはり食!今一番食いたい料理は…?
 てことで何も考えずにイタリア行きを決めちゃったとこ。アマルフィ上映直後で混むとかも一切考えてまへん。そもそもあの映画見てないし。イタリア語も全く。ウィーンより西のヨーロッパは初めて。
 だから国内で行く必要はないんだが…足が向かっちゃうんだよなコレが!!
 けど。やっぱ京都の底はまだまだ深い。今月はまた一味違うヨーロッピアンを見せてくれはりましたわ。

 烏丸御池の交差点の南東角。新風館って新造のロの字型のショッピングコンプレックス。京都大学の学生が,携帯端末で誘導する社会実験をしてました。そんな先端的施設。
 その3階の広い空間の店が,まず目指したカジュアルフレンチのTAWAWAでした。座席は100席近くあるか?
 ファミレスやん!!
 大量販売店に旨い店なし!2号店出しただけでその時点からいかなる名店の味も官僚化する!
 …と信じ切ってたわし,マジで帰ろかと思ったけど,京都に着いてすぐで腹ペコの朝11時。周辺にツブシのきく店もなく,ダメ元モードで座ってみることに。
 ランチは1000円。
 まずは,かぼちゃのスープ。冷製。この季節よく出るけど…まあボツボツはいける。しっかりザラついてるし後味も深い。超ファミレスの水準ではある。


▲TAWAWA かぼちゃのスープ


▲TAWAWA 京茄子とひき肉の挟み焼き~西京みそソース~万願寺とうがらしのスパニッシュオムレツと京の三度豆マリネを添えて (な…長い)

 ふーん。1000円でここまで凝るか?食材も京都地場のを工夫してあるし,ソースがまた独創的。サブもスバニッシュと三度豆?しかもスバニッシュのオムレツには万願寺とうがらし?
 楽しめる皿やんけ。──正直,技術的に最高ってわけじゃない。お子様ランチにも見える。ただ各種とも独創のベクトルが洗練されてて,しかも併せて食うのに意外だけど割と合う,アンマッチと惰性の中間距離が保たれてる。
 「あの…」店員のお姉さんが気の毒そーに囁く。「バイキング,行けますけど」
 あ~!?そー言えばみんなサラダのバイキングに行ってるな。この千円セットにまさか付くとは思わなんだ!メニューを確認すると…「京野菜のサラダとおばんざいのバイキング」ってちゃんと書いてあるがな。
 メインを置いて慌てて立つ。ええっと?──え!?ええ~!!こんなに選べんのお?
 京豆腐もある。九条ネギも,すぐきも賀茂ナスも,とにかく15種類位ある。錦市場の店と提携してんのか,京の夏野菜が勢揃いって風情やんかあ!しかも名前倒しじゃない,席で食うとちゃんと京豆腐だし,ちゃんと賀茂ナス。そりゃそーだ,徒歩10分の錦で買ってくんのが一番早いんだから!
 これに自家製天然酵母パンかご飯が付く。パンもイケました。
 さらにデザート。メロン,びわゼリー,抹茶パウンドケーキ。そして有機栽培コーヒーでしたけど,この辺は普通だったかな?
 Aがこれで,
B パスタ
C 京野菜カレー
 ここまでが1000円。
D ポアレ
E ステーキ
 この2つは1500円。
 ファミレスなのに──良い!
 京都初心者が,その季節の食材をざっと見たけりゃ,下手に錦をうろつくよりこの店に来るのが一番早くね?
 おそらく,この店は技術はそこそこだと思う。ただし,食材は最高。生産者と消費者との結び方が独特なだけ。
 つまり,コーディネート力で成立してる店。
 技術以外はシステム化しうるのか?
 考えてみりゃ,わしの最近の食の指標,技術(1)+食材(2)+調和(3)+遊び心(4)の10点の中で,システム化できないのは最後の遊び心だけだろう。けどTAWAWAは十分に遊んでもいる。
 この京都の翌週,松山のアルフォーレってイタリアンの店へ行ってみた。やはり100席以上ある完全なファミレス。でも生パスタが売りの本気モード。店員は投げやりだったけど飯はウマかった。
 大規模店の味は堕落しやすい。だから美味い店は珍しいんだろけど,大規模店が不味いとは限らない。この自然界の法則に逆らった立ち位置が,可能ではあるのです。
 そこに見事立ってみせるとこが京都なのか?現時点では,やっぱ完全には理解できない。見かけただのファミレスながら(しつこい?),TAWAWAはわしにとってはそーゆー謎の店として,脳裏に残った京都の店なんでした。

 前回満席で入れなかった二条城前のクチーナ・イル・ヴィアーレ。本日はさらに酷い仕打ち!
 シャッターが完全にシャットダウン。も~へなへな。
 冷酷なシャッターをよくよく見る。貼り紙1枚。──イタリア研修で8日までお休みです…。
 へなへなへな。
 京都でこーゆーパターンの店が必ず美味いとは限らんが…何か意地になってきました!来月再トライじゃあ!

 ジォカトーリはイタリア語で「おもちゃ」って意味だって。
 間之町通二条下ル。縦に長い定員10名ちょい,しかもほとんどカウンターのみの小店。奥の席からはお帰り用の別の扉がある。わしもそこから帰ったけど,外から開かない自動ロックの扉。その位の長家な店内。
 皆さんのおもちゃのよーに可愛がってね…っちゅう意味なんだって。
 状況的に当然ではあるけど,1組以外は全員1人客。つまりピュアなリピーターがそれだけいる。Aランチは1500円,気取りのない店内装飾から,デート使いの雰囲気や記念日使いのステイタスでもなく,純粋に美味を求めるリピーターって感じ。
 さて。期待の前菜がやって来た!まずは盛り合わせです。


▲ジォオカトーリ 前菜

 4種。
 小さい玉ねぎとカルフラワー。これは酢漬けらしい。ピクルスってほどどぼどぼに漬かっちゃいないから,浅漬けピクルスとでも言う類いなのか,それとも単にわしが初めて本物のピクルスを食べるのか?以前からザウアークラウトは好きだけど,そんな風味の旨味でした。しかもかなり上質。イタリアンにもこーゆーのあるんだろか!?
 あと2種は白身魚の叩きっぽいのと焼き豚的な肉。どちらも白いソースが掛かってる。ホワイトソースに見えたけど全く違う何か。とにかく,日本風イタリアンの濃厚なイメージとはほど遠い端正な味わいに仕上がってます。
 付いてきたサラダと自家製パンもちょい捻り有。パンはカボチャを練り込んであるのか!?正直,何を工夫してあるのかよく分からんかった…。
 次にメインが来る。スパゲティ 海老とジャンボズッキーニのトマトソース。──自家製パスタのゴルゴンゾーラソースってのが魅力的で,プラス200円でチョイスできたんだけど,初回なんで見送ったのが残念でならない。

▲ジォカトーリ メインのパスタ

 シンプルだ。
 トマトの味の線はくっきりと細い。凶暴さはまるでない。
 でもそこに海老と,まだよく味を知らないズッキーニがおそらく絡みついて,こんな力強い味覚が生まれてんだろな。
 それに,まだよく分かってへんけど,パスタ自体も妙にシコシコで酔わせてくれた。
 この店,カウンターのすぐ向こうで調理してるから調理過程は丸見えなのね。大したことしてるよーには見えん。普通に麺を茹でて,ありきたりのフライパンでソース作ってるみたいなのに?
 要は気取りが全くない。気負いもない。普通の料理の過程に見えて,おおッて一皿が出てきてしまうのがこのジォカトーリみたい。まさにおもちゃ箱をグチャグチャに混ぜて取り出すよな…。
 最後にデザート。この皿には溜め息が出ました。


▲ジォカトーリ ドルチェ

 美しい。
 漆黒の宇宙に天の川が流れる。その直中に,二つの構造物が浮かび上がる。アムロよ…あれがサイド7だよ…。
 真っ黒い皿にワンカットのタルトと丸いゆずアイス。鋭角と円形の対象も印象的。その上にきめ細かい粉砂糖を帯状に散りばめる。
 さらに松の茎を置いて,香りをシメるとともにキャンパスを分割してる。等間隔に並ぶ節がまさに管制画像のよう。
 もちろんドルチェ自体も美味かった。美味かったけど…少し太めでゴッツい眼鏡,いかにもオタクっぽいマスターの風貌から,わしは勝手に決めつける。──アンタ,絶対アニメ好きだろ!?
 マスターの嗜好はともかく,この店の品はイタリアンを骨まで咀嚼しつくしてる。その上に自分のイタリアンを構築しちまってる。
 それが京都的なのか,このマスター個人の傾向なのかはまだ分からんけど…とにかく美味かったがや。

 四条富小路通にそんなとこあったっけ?
 フクムラって店のはずだけど…やっぱないぞお?
 ウロウロすると…ああッ!


▲フクムラの入口

 ろ…路地裏のドン詰まり?
 分からんわい!頼むから通りに看板出してくれえッ!
 ボヤキつつ入ると。げえ!やたら高級じゃん!つーか,実際高いじゃん!
ミートクリームソースのスパゲティ
エスプレッソ
 これがサラダと前菜付きのセットで2100円した。2000円以下でって我がテーゼじゃあるけど…まあ一度は食うといたろかい。


▲フクムラ 前菜

 前菜。何かグシャッとしてるなあ。でも味はなかなか。ドレッシングもちゃんとしてる。京都標準はキープしてる。
 さあメインのパスタ。ここに来た目的はコレ。「フクムラのカルボナーラが忘れられない…」みたいな評価を目にしてたもんで。


▲フクムラのメイン クリームパスタ

 え!?カルボナーラちゃうやん!…って?
 ふッ…2100円のセットの中では一番近い感じのにしたのさ。だって…高かったから…今日はコレ位にしといたるわ!
 でお味は──確かに美味い。最高じゃあ!…って3桁時代なら手放しで誉めてたと思う。
 トコトン濃厚,生クリームとチーズがべっちょりでスープとゆーよりゲル状で麺にしっかりまとわりつく。黒胡椒もバッチリ利かせてある。
 要は,日本的な意味でのステレオタイプ的なイタリアン…なんだと思う。決してけなしてはいない。老舗としてもいい味出してるここのイタリアンは,恐らくは往時の味を今に伝える「生きた化石」なんだ。
 中華と同じ経過です。和食と異なる面を差別化しようとして,濃い味のパーツのみが展開される。結果,中華粥や広東海鮮じゃなく麻婆豆腐や酢豚が,リゾットやバジリコじゃなくカルボナーラやピザが,中華やイタリアンの定番に居座っちゃう。中国人やイタリア人が,千年もそんなんばっか食ってるはずがないのに。
 薄味の中華やイタリアンへの復帰は,現地での食体験を経た人が増えたこともあって,その偏りを是正する回帰現象なんでしょね。
 路地奥の老舗は,そんな色んなことを考えさせてくれる名店でした。

 創造性。
 京風って何?っちゅー問いに対する答えは,今の段階のわしにはこんなありきたりの言葉しかない。
 ただその創造性が!!京都での食体験を萌芽として,徐々に感動の核心になりつつある。
 今回はテイクアウトものもたくさん口に入れた。以下オムニバス風に列挙して,次回以降の宿題に回しときます。


▲二條若狭屋 湯菓子。とにかく京都的パッケージ。中は溶かして飲むあめ湯。


▲出町ふたば 豆餅と水無月。8時半の開店直後に行ったのに,既に10人程客が群れてる。でもとにかく初ゲット!賀茂河畔で貪る。


▲出町ふたば 豆餅アップ。塩味にすら感じられる極淡白な豆の素の甘味に陶酔!これに行列作る京都人の舌を讃えたいぞ!


▲今出川の鶴屋吉信 ブルーベリー餅。知ってる人は知ってる定番土産。「ともだち」的絵柄がサイケ。お味も斬新で,まさに京の老舗パワー!土産としても絶対ウケます。


▲三条の直正 わらび餅。わらび餅なんて旨いと思ったことがなかった。ここのはぷるぷるの皮が微かに香る中に薄い小豆あんが入った逸品。


▲二条のキートス ライ麦パン。見かけ当たり前のパン屋さんなのに,このパンは食ったことのないガッチリし味わいの食事パン。いわゆるハード系ほどゴツゴツしてなくて程良く柔らか。

 ホント次から次へって感じ。この京都って街,一体何枚の切り札を持ってやがるんだあ?