外伝04〓━━━葉月之講〓━━━
(下の句)北山紅茶館のスコーン&紅茶

 アッとうとう3部制にまでしやがった!
 いやスミマセン…今回ホント凄かったんで。
 3部目は。洛北の上質についてのご報告。

 烏丸線松ヶ崎駅から地上に出ると,そこはレタス畑だった。
 て中途半端にバロりつつ,東へ徒歩3分。道路工事の仮歩道を通って…店ないがな!
 よく探すと,さっきの工事箇所の脇に隠れてました。木目の扉に小さく,茶色の達筆な表示で「北山紅茶館」。見落とすように意図してるとしか思えんど。
 場所も周りに目印がないし…難易度高いぞ。京都繊維工芸大学とその東側のグランドの間の道が北山通りを北へ渡ったとこ…程度の危うい位置関係。
 しかしホント。この北山ってのは独特なオーラの土地です。それともこれ,本来の京都のオーラなんでしょか?まるで田舎の,場所によっては農村かと思うほどの街並み。言い難い上質感があり,食い物もまだ外したこと無し。
 さて。ドアを入るとログハウス風の店内。30席程と小さめだけど空間はゆったり。
 客層はおばはん…もといセレブの皆様ばかりで大声で世間話が満開花盛りで恐縮の至りですけど…オッサンも注文させて頂きますです。
北山紅茶館(650円)
スコーン(230円)
 「北山紅茶館」ってゆー紅茶のブレンド。メニューの位置もネーミング的にも自信あり気なんで頼んでみた。あと,「北山紅茶館のスコーンはッ」て記事も見たし。
 先に白状する。インドが初海外のわし,紅茶っつうたらチャイ。ミルクティーにスパイス入れなきゃ飲む気にならんかったヒト。ましてスコーンなんて!昔のコイケヤの「カリッとサクッとおいしいスコーン」ってCMしか思い浮かばんヒトでした…。


▲北山紅茶館 スコーンと紅茶

 え!?
 えええ~!!
 これ…紅茶かあ!?
 一口含んでビックリ仰天。半減過程でお茶は緑茶から穀物茶まで飲みまくって来たつもりだけど…こんなの有りか?
 口中にパアッと飛び散る,とてつもなく繊細で芳醇なフレーバー。一つ何かが強けりゃ嫌味になるよな,絶妙の香りのバランス。鼻腔をくすぐるだけで決して刺激的じゃないナイーブなフレグランス。そして琥珀の液体が喉に流れ落ちた後に静かに砕けていくふくよかで気高い甘味の残像。
 こりゃ…いかに良質でも単独の茶葉じゃないだろ。
 何かのハーブがブレンドしてあるはず。カモミールも混ぜてあると思うけど,複数のもっと複雑なブレンド。(レジで軽く聞いたが流石に漏らしちゃくれなかった)
 これ,ミルクをわずかに足して飲むとまたとんでもなく素晴らしい。普通のミティーってミルクに紅茶の香りが残った感じの「紅茶入りミルク」だけど,この北山紅茶館はどこまでも紅茶主体。香りの豊かさがミルク味の重みに負けてない!
 それでね。スコーンがまた感動モノ!って初体験だから訳分かっちゃねえけどさ…
 しかしま…ただの軟らかいクッキーなのに,この粉々しさと奥深い穀物味は何やねん?端正でかつ華やかな風味に霊魂が浮遊しそ!
 生クリームとバターとブルーベリージャムが添えてある。どれ付けてもイケるけど,やはり素で味わうのが最高。
 後方のおばはん軍団…もとい。セレブな奥様方がレジへ向かう。「いやあ~充実の午後やったわあ!」──広島のオッサンも激しく同意!
 帰りに紅茶のパックを持ち帰る。書いてあるとーり淹れると,家で飲んでもあの香味が出るからたまらんわ!

 前回のじん六の時も雨上がりだったけど,北山紅茶館の翌日訪れた北山も雨。まあ雨の似合う街だし…
 とか思ってたら…本格的などしゃ降りになっちゃった。道路が川になって,殆ど記録的豪雨状態。靴もべちゃべちゃ。いや…誰がそこまで降れ言うた?
 ひい~!!雨宿りに入った軒からふと横手を見ると目的のCommf Toujours。
 小さな普通のケーキ屋だけど…何て読むの?
 ショーケースの中は,けどやや趣が違う。果物そのものの菓子が多いの。
夕張メロンのショートケーキ
バナナのシブースト
ネクタリンの焼きタルト
の3点を購入。
 後刻宿で開けると…やっぱり雨で溶け気味になってるし!


▲Comme toujours ネクタリンの焼きパイ

 溶けたけど…味には驚いた。
 素材をそのまま活かしたスイーツとは分かってたけど…それってこーゆー味なのね!!メロンもバナナも果実自体の味が中核。それにクリームやパイ生地が,出過ぎない範囲で飾ってる。影響が薄いんじゃない。果実味を変質させるのでもない。卵焼きに塩で甘味を強調するよに,果実味を際立たせる。
 この絶妙さ!!未体験ゾーンやな~!

 ようやく小雨になった頃,MOCKが開店。
 これも10席ちょいの小店やねんけど,気取らない落ち着いた空間。
 マロンクリームクレープにエスプレッソ30ccを付けてメロウセット…1350円!?
 高ッ!!
 メニューのどれもそんなもんで,クレープ1つで千円以上のもある。
 高ッ!


▲モック マロンクリームクレープとエスプレッソ

 高いだけあって(しつこい?)真っ白な大きめの皿にナイフとフォーク付きで出てきました。
 あんたクレープやろ?何威張ってんねん!?
 …とか舐めてウッカリぱくっ。
 あ…貴方様は…クレープちゃいますのん!?
 店内黒板の記載ではそば粉を基調にしてるらしいが,それだけなのか?ふらふわの歯応えなのにパンチがきいた重厚感。町の安クレープなら具の味わいに皮がアクセントって感じだけど,モックのこれは濃厚なマロンクリームですら脇役。クレープ生地そのものが十分過ぎる大物主役なの!
 いわば「食事クレープ」って感じ。メニューには「お菓子のクレープ」ってカテゴリーがあり,その他は例えば「アスパラとハムのクレープ」(本日のお勧め)とかほぼサンドイッチの感覚の品。
 へえ~!クレープって菓子じゃないんだ!

 調べてみると──クレープ(フランス語:crepe)。
 フランスのブルターニュ地方でパンケーキから分化して発祥。元の形態は,そば粉で作った薄いパンケーキのガレット(galette)。ガレは石の意味で,元々石焼きだった事にちなむって通説。南インドのドーサの類だね。
 ブルターニュ地方はやせた土壌と冷涼な気候の土地。だから小麦よりそばが常食とされてて,それまではそば粥やそばがきにして食べてたのがガレット,クレープと発展した。
 じゃあ現在のヨーロッパ一般でクレープはどう食卓に並ぶの?
 ブルターニュ地方の伝統的な食事。これらとリンゴで作ったシードル(発泡酒)をセットで食す。
 ポーランドでは──ベジタリアン用の野菜が詰まったもの,魚や肉詰めのものがある。ただし家庭料理の場合,ジャムやチーズ入りのシンプルなものが主流。
 レストランのクレープは,例えばサーモン包みや鶏肉包み。完全に餃子感覚だよね。
 さらにギリシャの例,クレープのオーブン焼き。
 クレープを焼き,ハムやチーズを巻いて耐熱皿に並べ,上にホワイトソースとチーズをかけてオーブンで焼く。
 総合すると。ヨーロッパのクレープは2類に大別される。生クリーム,フルーツ,アイスクリームを包んで食べる菓子タイプ。それとハム,鶏肉,チーズ,野菜を包んで食べる軽食タイプ。前者をクレープ・シュクレ(crepe sucree,「砂糖味のクレープ」)と,後者をクレープ・サレ(crepe salee,「塩味のクレープ」)と総称する。
 要するにクレープって。菓子でもあるけど立派に主食になる食い物なわけだ。ちなみにインドのドーサも朝食の定番。
 「雨止みませんね~」さっきご来店の着物姿の娘さん。やっぱ客層違うね。しばし話し込んでたら,正午近くに。ようやく小降りになってきた初夏の洛北。

 少し北側,サロンってカフェへ。
 広々の空間配置。前面がガラス貼りで開放感たっぷり。
 限定30食だという本日のプレートランチ(1400円)にありつけた。
 夏野菜たっぷりのミートローフと本日のデリ2種。これとパン。デザートにはシフォンケーキが付いた。
 ちなみに通常のランチはパスタプレート1200円。ベーコンと茄子のトマトソース ジェノバソース添え,豚とほうれん草のゆずこしょうクリームから選択可。


▲北山のサロン プレートランチ

 北山初のハズレ…って書くとあんまりにもだけど,要は北山標準がこのクラスなんだろな。普通の町なら絶賛級だし,職場近くなら定番確定だが…相手が北山紅茶館にモックだからな。
 上質なレシピ。味もレシピ負けしない。ミートローフも凝ってるし野菜も高品質。量も控え目で程良く,シフォンケーキも上品。
 とにかくくつろげる。さっきの着物娘の話し振りからも,この洛北って相当に上質な感性のエリアらしい。京都の芦屋って程は金が唸ってる感じしないのに,雰囲気も内容もハイレベルなの。


▲北山の畑

 北山を歩いてるうち,この町の上質の根っこを感じる風景に会いました。
 畑が多い。
 前後の写真も烏丸線北山駅から10分程度の場所なんよ。
 米や小麦は無理だけど,京野菜と銘打った畝やビニールハウスがあちこちにある。
 食材の生産地を近郊に抱えた舌の肥えた消費地。保存料でごまかされない舌を持つ市民とそのニーズに応えうる品質を提供できる生産者。
 この情勢はまさにグルメタウン。当初京都で見たかったシステムが,やっと見える高度にたどり着いたのかもしれない。


▲北山の市民農園

 6時に起きて気がついた。
 そー言や…茶碗ねえよな!
 前日購入の錦のとやのお茶漬け鰻。同じく錦の中央米穀のお握りに載せ,煎茶をかけて朝飯。結局は湯沸かしのサーバーで食ったんやけど…それでも最高!
 6時45分。四条河原町の北行きバス停から16番大原行き乗車。寝ぼけたまんま乗ったから不確かだけど…このバスが野村別れ行きのはず?
 交通量のない京都はバスもスイスイ速い速い。ウトウトしてたらもう修学院駅前通過,道路は蛇行し…え?蛇行?京都に蛇行する道あんの?
 四条河原町からたった15分程だぞ!?さらにアップダウンまで!?条理制の整然とした計画都市とは全く異質な剥き出しの渓谷。
 「平八前」ってバス停を通過。確かに,平八茶屋って店が見えるけど…そんなバス停あり?
 Sakura Hotel MOSAICってラブホ発見。何がモザイク?
 花園橋を過ぎる。
 八瀬駅前。ここだけYase staionと英語表記有。
 大原7kmの表示。
 九頭龍弁天前のバス停通過。あ…そーだ,古代の出雲族が近畿入りの際に通った道だ。
 落ち着いて見ると中国山地並みの山里。四国の祖谷山ほどは険しくない。
 7時半。「大原の里朝市」ってノボリを右手に確認。専用駐車場まである?
 野村別れのコンビニ前で無事下車。


▲大原の町は霧の中

 小さい市だ。
 10件ちょい。田舎の普通の市場より少し賑やかな程度。高知とは比ぶべくもない。
 けどもけども!!


▲大原日曜市の風景

 ほとんどの店が試食できるんで,片っ端から口に入れてくと──レベルはどれも確実に高知並かそれ以上!
 試食で唸ったのだけだけど,以下列挙です!


▲ゆずみそ(200円)。高知のより弱いがまろやかにとろける芳醇さ


▲だいこんのキムチ(300円)。味覚の底で辛味が野菜の複雑な甘味に溶ける。


▲赤だいこんの沢庵(200円)。端正ながら後味に鋭く刺さる酸味。ただし高知の倍は臭い!帰りの満席の新幹線で隣の客が席を移ったほど!(陳謝)


▲梅干し(200円)。これ…まさに赤い宝石。単に酸っぱ苦いだけじゃなく,甘く高貴な果実味さえ匂わせる。

 北山とは桁の違う完璧な農村。
 良質な食材を求める料理人らしき夫婦姿もちらほら。
 良質な消費地があって初めて良質な農村が成立する。その事実が突き付けられた思い。
 逆に言えば。日本の農村を滅ぼしたのは,都市に住むわしらの舌だったって現実感…。


▲大原遠景

 河原町通り近辺に幾つか見つけたFarmersってスーパー。ここで奈良県のこのジャムを買うのはもう習慣です。
 こういう消費機構が成立しうる!
 舌さえ確かなら。


▲Farmers 陽光会苺ジャム