6時30分。駅前のSITAって会社のバスターミナルから郊外バスに乗る。poggibonsi行き。
…ってどこだそれ?っつーより読み方「ポッジボンシ」でいーの?
窓口でε4.50にて切符購入。行き先は通じたけど,やっぱりまるで会話は無理。何かまくしたてられたけど全く分からん。…後で考えたら,ボンシ経由でどこまで行くの?と聞かれてただけだと思うけど。
キオスクのカッフェでエスプレッソをあおる。おおッ「ノヴァンタ」(ε0.90)ってのがやっと聞き取れた!…なんてことで喜んでるイタリア滞在実質3日目。
昨夜は少し雨が降ったらしい。湿りを帯びた路面をバスは蹴り始めました。
▲トスカーナの眺望1
うーん…分からん。
さっきまで隣に座ってた青年が,やたら話しかけてくる。「シガレット」って単語しか分からん。タバコ吸っていいか?…ってことは車内だからないだろ?まさかいきなりタバコをよこせ!…ってことでもなかろうし?一度話を止めても再度言ってくるから余程伝えたい事だったんだろけど…そのまま降りてしまった。何だったんだ?
車内は概ね清潔で機能的。入り口には例の切符に刻印する機械がある。降車ボタンもあり,押すとアラームが点灯ってのは日本と同じ。
なるほど…「コーザ・エ・リベーロ」が「この席空いてますか?」なんだな。コーザが座席で,リベーロは発音からしてリベラルのイタリア語読みで自由って意味だろ。必ず声をかけるとこは紳士淑女のお国柄だね。
▲トスカーナの眺望2
うねる丘と果樹園らしき広がり。
道路はゆるやかにうねりアップダウンを続ける。小さな街が窓外をいくつもいくつも通り過ぎてく。
家屋は,石積の古びた3階建てくらいの大きな旧家が多い。
郊外型の店舗も多数ある。デコレーションのほとんどないシンプルなものが多い。「lavandela」とあるのはコイン・ランドリーらしい。
曙光が丘の合間から,差しては隠れる。その度に家並みが茜に染まり,くすんだ深緑の風景に朱が流れる。
土の匂い立つ土地。
ボンシって町に入った。
ロータリーみたいな場所を通り過ぎたけど,これがバスターミナル兼列車の駅だったらしい。終点はかなり離れた全く別の道路脇。え~何それ?言えよう!!って言っても分からんけど。
途方にくれてたらバスの運ちゃん,黙って座れみたいな仕草で発車。おーい今度はどこ行くんだよ~!って思ってたら,わざわざ1人だけ乗せて折り返してくれたらしい。
うう~。泣ける心遣いだね~。困った観光客とも言うけど…。
バス停にはチケットカウンターみたいな場所はある。けど人がいてへんで?仕方ないから単語帳をくって,入居してる雑貨屋のおばちゃんに聞いてみる。切符どこで買えんの?「ドーヴェ・ポッソ・コンプラーレ・イル・ビッリエット・アウトプス?」
「バール」とおばちゃん和やかに向かいの店を指差す。売り場はあるのにバールなの?──以後の経験からすると,かなり大きなバス停以外は近所のバールかタバッキが切符売り場を兼ねるのね。
早速バールのお姉様に「カッフェ・エ・ウン・ビッリエット・ペル・サンジャミニャーノ!」エスプレッソもついでに頼む…わずかに余裕が出てきたか?
バス停の裏が駅のホーム。ヨーロッパ一般と同じく改札がない検札のみの形式だから,列車の利用客もカッフェをあおってます。
トイレへ入ろうとしてまた戸惑う。イタリア語しか書いてない?どっちが男用だ?絵で書けよ絵で!ちびりそうになりながら少し後方で次の客を待つ。って見方によっては変質者やがな…。
幸いすぐにオッサンが入ってった。なるほど…unminiが男で,donneが女なのね。マドンナのドナかどーかはよく知らんけど,そう覚えてしまおう。
バスを待ちながら電光掲示板前で。
ora partenza:発車時刻
linea:ルート番号
destinazione:行き先
area:(待つ)場所
とまあ一種のイタリア語学力養成ギブス的状況の第5日目の朝です。
おはようヘルペス君…本日のミッションは,サンジャミニャーノとシエナを回ってフィレンツェに帰り着くこと。
ヘルペス君は置いといて,ポッソボンシは道路の分岐点的位置にあるらしい。ここからサン・ジミニャーノまで11km。シエナまで何kmかは知らんがサンジャミニャーノから2時間位らしい。
初日の北京で酷い目にあったからか,恐怖心がまるでない。ドンドン無理目なミッションを自分に科してしまってる。これってやっぱ無謀?
ボンシからのバスは,今度はまたえらくオンボロ。清潔だけど揺れるし落書きだらけだし。近郊バスはこんなもんなの?まあアジア並みじゃないから,途中で動かなくなることはなさそう。
傾斜がきつくなってきた。丘から見下ろす盆地に霧がたちこめてる。バスはその中へ下り入ってく。
霧の濃い街に入った。丘の纏った霧が日の光を受けて流れてく。後光が差してるみたいな天地が窓外を流れ去る!
気付き始めた。
わしの場合明らかにウッカリ来ちゃってるけど,これは――とんでもなく神々しい大地じゃ!何かそれだけで感涙にむせびそうになるほど…コレは,この美しさは想像を遥かに越えとる!!
サンジャミニャーノ着。町そのものは観光地だったけど,丘の頂上に安土城的に作られたこの城壁都市,まさにトスカーナの景観の真っ只中!
▲トンネル内から街並みを見る
▲坂道の風景
今見るとサンジャミニャーノでは意外に写真を撮ってない。
町自体は小さい。城門からの1本道のみ。だけど圧倒されて撮るの忘れて歩き回ってたみたいです。
さて城門に戻る。着いた時探しといたシエナ行きのバス停で待つ。Siena mobilitaってバス会社。10時40分に来るはずだけど?
ちなみにチケットは城内のバールで買えた。Е4.50。1時間で着くはず。
1日12便あったけど,時刻表をよく見たらFERとSABって表記がある。確か土曜日がサーバトだから,SABはそれだろ?じゃあFERが平日運行?日曜日は?
今日は平日だし,1040便はたまたまFER表示だったんで程なくバスが来た。…土日だったらとは怖くて想像も…。
やや遅れたけどバスはちゃんと来た。
本日3本目のこのバス,えらいフカフカシートの乗り心地抜群バス。
今日のお天気,曇りらしい。でも荒天のトスカーナもまた似合うよな…と見とれつつしばし寝入る。
▲シエナ 坂道の風景
シエナもサンジャミニャーノと同じく城塞都市。でもサンジャミニャーノとは規模が違う。かなりの規模の町全体が城壁内に入ってて,砦の町と意識しにくい。町造りとしてはサンジャミニャーノの方が楽しめる。
ただ,シエナは有名な半月状の巨大なピアッツァ──カンポ広場を中心に家並みが丘の上でうねるような起伏で展開してて,楽しく迷える町でした。
なおカンポ広場は,郵便局とは関係がないと思われ,新政権移行後も事業見直しの対象とはなっていない。
▲シエナ 尖塔の風景
▲シエナ バス停の1コマ
カンポ広場裏手の…セルフみたいなバールみたいな店。午後になったし,おっかなびっくり入ってみたら…。
は…初めてちゃんと注文できたっぽいぞ!
フォカッチャとニョッキを頼んだた。ガラスケース内を指差しでいけたから何とか注文は出来ました。
フォカッチャは円形。粉っぽい中におそらくバジリコが入ってて,それにブルーチーズを挟んで半月型にしたサンドイッチ風。って確か何とか言うパニーノの名前があったよな…。
ニョッキはそれ自体旨かった。初めて食ったんだけどね…。ソースは,カリフラワーだってことはレジのお姉様に教えてもろた。おそらくミキサーで砕いたのをまぶしてんだろう,鮮やかな真緑。おそらくカリフラワーだけじゃないと思うけど…全く食ったことのない爽やかな味覚でした。(後日確認:Riccioli al pestoって言うらしい)
▲シエナの昼飯 カリフラワーのペーストのニョッキ
▲シエナの昼飯 バジルを練り込んだフォカッチャ
帰りのバスの待ち時間中,ターミナルの横手のバールで,切符買ったついでにカッフェを頂いてた。
昼過ぎだったんで昼飯食ってる客もいる。
ガラスケースを見ると…なるほど。このバール,結構食事メニューも充実してるらしい。さっきの店の要領でこーゆーバールで食う手もあるんやね。
プレートにはパスタの他,野菜サラダもかなりの数ある。フルーツ系もシーザー系もあるけど…時々そこに混ざってる白いトーフみたいなのは何だろ?
ただ…デカくね?日本の感覚で前菜として食うにはちょっとムリな野菜のボリュームだぞ?ボールに満杯!日本なら4人分位だぞ!!
え?…ってことはサラダをメインに食うのか?──まさかね!
けど疑うまでもなかった。横手に目をやると,昼飯客の半分はサラダとパンだけ食ってる!サラリーマン風の男までサラダボールをガシガシやってる!?
わし自身にとっては,これはむしろ好きな食卓。てよりマイブームと言っていい食い方です。日本一般には豚しゃぶサラダとかヘルシーメニューとしてようやく出回ってきたとこだろけど──ベジタリアンが5%を超えたと聞くイタリア,こーゆー食い方がちゃんと普及しとるみたい。
いーじゃん!!
▲バールの店頭ガラスケース
「insalata」(インサラータ)ってのがサラダのメニューらしい。
フィレンツェ帰着後早速に軒をチェック。気づいて探せば,かなりの店で出してるやん!カフェやトラットリアのメニューにはサラダをメインにしたコースも。Е8位とパスタ並みに結構値は張るけど,量はやっぱりボール満杯クラスが標準みたい。
ツェントロの中華街辺りに,4種類のサラダセットがある店を見つけた。とにかく食わにゃ話にならん!
オーダーしたサラダ(ε8)のメニュー説明は幸い英訳付き。以下に掲げたから参照してくれたまえ。わしには英語すらイマイチわからんちんでした。
(伊語) (英語)
lettuga lettuce
mozzalela mozzalela
pomodoro tomatoes
tacchino turkey
pesto pestosauce
▲バールのインサラータ
パルサミコ酢の瓶つきで出てきた。
思わず笑っちゃう!
これ…職場隣のデパ地下で手に入れて旅行直前にグルってたのと同じじゃん!!
ただ…どー開けるんだ?瓶口の蓋が空かない。回したり引っ張ったり,ひとしきりガチャガチャ──。
あ…開けなくてもスプレーなのね…。ボタンを押すと霧状に噴射されるみたい。…コレ欲しいなあ。
で。インサラータである。
当然に美味かった。白い「トーフ」の正体はモッツアレラ・チーズ(当たり前じゃ!)。
しかしだよ──何でこんなに美味いのか?理解出来んまま半分ほどガッついてから…戸惑い始めました。
違うのじゃ…同じ野菜の複合体でも,思想が全く日本のサラダと異質なのじゃ!
▲スーペルメルカートのインサラータ
▲スーペルメルカートのトスカーナパン
この店の近くにミニスーパー(スーペルメルカート)があったから初めてだけどお買い物してみた。インサラーダのセットがあったんで,思わず購入!
当然,日本のドレッシングみたいのはない。奥手の総菜コーナーでジェノベーゼペーストとトスカーナパンを身振り手振りで少量頂いた。
信じられん!
やっぱり美味いんである!──スーパーのパックで十分美味いのじゃ!何で?
まず,野菜自体もかなり上質。特にトマトは…高知並みじゃないか,これは!?
さらに,サラダの構成自体がレタスやトマトの生野菜だけじゃない。オリーブ2種類,それとチーズが入って,生野菜プラスアルファの複雑な味を作ってる。
それに,もちろんバルサミコとオリーブオイルもキイテる。
思想の違いってのは──つまり,ドレッシングで食わすって発想じゃない!素材の味の複合体,その組合せ自体の美味で食わすんである!!
こいつとトスカーナパン…忘れがたい宿飯でした!
(後日談:このインサラータは,帰国後もかな~り長~く引きずりました。)