外伝02-2전라도:《第二次最終日》スンドゥブの日 その2

 さて釜山港に戻ってきました。帰国のビートルがあと1時間で出航するってとこですが…も少しお話続きます。
 

▲(再掲)全州 夜の焼芋屋台。日本で消えた光景の一つ

 土産,な~んも買ってな~い!
 出国ゲート前の土産物屋で余りのウォンを消化。高麗人参カプセル2包。これ疲れにバッチシ効くんだわ!
 おまけにお焦げ飴つけてもらった上に値引き交渉をガンガンにやった挙げ句,支払いの時に残金をうっかりポロッ。「まだお金あるんじゃないですか!」とか突っ込まれたから「次,次!」って弁解したりして。…確かにあんま間を置かずに,また来ちゃうだろな~この国。
 乗り込み間際のダックスフリーのエリアでも濃緑の牛皮財布を購入。しめて1万円位にはなっちゃった。
 乗込ゲート前に喫煙室が出来てた。ラッキー!韓国は未だに喫煙大国。これもイタリアと似てるね。口に入るものを大切にする国は喫煙習慣もそうそう捨てはしない!
 1時半定刻,ビートルで釜山発。


▲(再掲)全州家族会館のチンスビビンバブ。今回No.1の一食

 博多湾着。
 煙草吸って外に出て,すぐ王丸食堂に電話してみる。「明日から営業なんですよ」との丁重なお返事。そりゃあそーだ,正月の3日だもん…。
 最近,海外グルメ旅行の直前直後には,飛び切りの和食を食うことにしてます。和食と海外食,それぞれの距離感を開いた感覚で確認できる。
 なんだけど,正月三が日内の今日,普通やってないわな。こーゆー場合は数を当たれるエリアだろ?──ってことで天神へ。
 まず目指すは,やはり味の正福食堂。
 …結構あっさり開店してた!
 席につくなりメニューも見ずに「今日は焼き魚,何になりますか?」
 うーん!常連はこうだよねえ!!…と悦に入ってたら。
「さこしです」
「…」
 何それ?って顔したんで素人が早くもバレバレ。
「さわらの子供です」
「そ…それじゃそれ。焼き魚定食」
 新年早々,自分の実力…の無さを思い知らされて実に幸先いーです。トホホ…。
 えーと…知ってる人には読み飛ばしてもらうとして主に自習用の記述です。
 サワラ(鰆)って魚はサバ科なんだけど,寸胴型の普通のサバに比べて途中がややくびれていわゆるボッキュッポンなとこが特徴。だから元々「狭腹」と書いてサワラだとゆー説もある。
 これに対してサコシは「狭腰」。くびれの部位がやや尾っぽに近いって意味らしい。けど実際は重さが1.5~2kgより小さいサワラをサコシと呼ぶ。だから「サワラの幼魚」とゆーより「小さいサワラ」。
 漢字表記としては,「狭腹」は廃れて鰆(または馬鮫魚)と記されるようになったけれど,「狭腰」はそのまま別漢字が当てられないまま,現代は平仮名表記されることが多い。「さごし」とも読むが,「さこし」と濁音なしに表記されてきたためか,この博多の場合のよに濁音なしで呼ばれる場合も多い。
 季語としては春。1月以降春までが旬とされる。


▲博多アクロス地下一階 丸福食堂 今日の焼き魚(さこし)

 「あけましておめでとうございます」「あ~〇〇さん!本年もご贔屓に」
 年始の挨拶行き交う店内。正月3日から,それでもボツボツ客がいるとこが実力店です。
 来ました,さこし。
 早速!!腹から食い進む。
 淡白なのにシッカリした味わい…!いやそれだくじゃない。奥の方に豊かなエグみとでも言うよーな,それだけなら嫌な味になりそうなのがポッと灯る。それが何とも言えない独特のアクセントを残してく。
 堪能してるうちに背に進んでました。
 あれ…?さっきのエグみがない?その代わりに鶏肉に似た力強い肉身の味が踊ってる?
 …舌が慣れたからでも錯覚でもなさそうです。部位ごとの味の違いが味覚できるらしい。
 驚いた。
 魚に狂い始めてもう1年になるけど,部位別に別の味覚を知覚したことはなかった。──でも当たり前と言えば当たり前。バラとロースの味が違うように,小型の魚でも味が同じはずはないのです!
 少し尾に近づくと,今度はソーセージみたいな複雑な肉味に転じた。尾の先の方は脂の乗ったサラミ的な味覚が軽やかに響く。
 イタリア後と同じみたい。明らかに食感がまたまた進化してる──。


▲(再掲)麗水の海産物市場 ボンムルコリ市場に並ぶ魚売

 してみると──食の王国イタリアだからってわけじゃなかったらしいです。
 こーゆー異なる食文化の体験って,味覚野の未開拓領域をぐんと飛躍的に開発してくれるらしい。こーゆーってのが母国と異質という意味か,食文化が未だ元気なという意味かはよく分からん。おそらく後者のよな気がするけど…。そーゆー食の空間で味覚に意識を集中させる経験群が,味覚野の成長を促すんだと思われます。単に鋭くなるってレベルじゃなく,全く新しい領域が広がるってレベル。期間の短さから言っても,舌の機能ってより大脳味覚野,それも第二の後天的な側の暴走的な開拓──。
 面白い!
 どーも…無茶苦茶面白い軌道に,自分の味覚発展史が入ってきてるとゆーのが実感された,さこしの一匹でした。

 あっ!気づけばリュックの中にまだ残ってた17茶。
 博多から広島への新幹線車内。減量時代の1日2リットル水分補給からの癖で,大体この2時間で500mlペットを飲み干す。ちょーどいーからこいつを飲んでた。
 あら!?美味いじゃん…これ?
 今回,コンビニで何度か間違えて買った穀物ドロドロ茶の味,舌が覚えてしまってて,しかも割と気に入ってしまってる。だからなのか…あのドロドロ茶と日本的なブレンド茶の中間的な旨さに思えた。
 茶の爽やか味と穀物の粉々しい泥味。その中間にいくつものハーブの香が複雑に花開く。
 そうだコレ…初日の韓国新幹線で隣のオヤジが飲んでたアレだよな。
 帰国後調べると──いわゆるコピー商品としてテレビで取り上げられて結構有名らしいっすね,コレ。


▲全州コンビニ購入のGTと17茶

 エロブティ
 ミンガンエセ
 ダアンファゲ
 チョントゥンサロ
 センアントゥルエゲ
 シクウンウロ
 チャロマシミェン
 エゴアンシンイッヌン
 エロブティ
 ダンウロウリ
 キバチェ
 クチイブブリガチ
 チェベヨクサガ
 クオバン
 オエルビンシテ
 ヒョンデアンウルウアバン
 コクブ
 これはハリー・ポッターの禁断の呪文ではなく,17茶の外面に表記されてる17種の成分です。
 …訳分からんやないか!
 え!?そう?実はわしも分からん。一つも理解不能。
 仕方ないからアサヒの「十六茶」の成分──
 鳩麦,大麦,玄米,はぶ茶,黒豆,びわの葉,昆布,熊笹,胡麻,柿の葉,甘茶蔓,桑の葉,霊芝,陳皮,杜仲葉,紫蘇の葉
 韓国語読める人によると,鳩麦,大麦,玄米,桑の葉,霊芝,陳皮の6つは17茶と共通してんだと。
 十六茶の残り8つが日本的ってことになる。つまり,はぶ茶,黒豆,びわの葉,昆布,熊笹,胡麻,柿の葉,甘茶蔓,杜仲葉,紫蘇の葉。胡麻は韓国イメージだし,杜仲茶なんかは入っててもいーのに?
 逆に17茶独自成分は9つ。チコリ,緑茶紅花種,サンシュユの実,蕎麦,クコの実,玉蜀黍…あと3つは不詳。
 玉蜀黍やチコリ,クコは分かる。けど緑茶と蕎麦が韓国側だけの独自成分!?
 なお,その他の17茶オリジナル成分のうち分かってる3つはこんな感じらしい。
 サンシュユ:山茱萸。中国・朝鮮半島原産。日本にも江戸中期に薬用として渡来。強精薬,止血,解熱作用有。牛車腎気丸,八味地黄丸など漢方方剤。別名ハルコガネバナ,アキサンゴ,ヤマグミ。季語は春。
 クコの実:果実は酒に漬けこんでクコ酒に。朝鮮人参酒のブレンド成分。生食やドライフルーツにも。柔らかい若葉も食用に。果実は枸杞子(くこし),根皮は地骨皮(じこっぴ),葉は枸杞葉(くこよう)という生薬。解熱・強壮効果有。
 紅花の種:黄色,赤の花を咲かせるキク科の1年草。花弁から染料や口紅の元になる色素がとれ,南西アジア・北アフリカで古来広く栽培。山形では江戸時代に最上紅花の栽培が盛ん。紅花は山形県の県花指定。韓国では三大神薬の一つ。含有するプラチナ成分に骨を若返らせる効果有。
 つまり,3つとも日本でも入手可能。茶としてはマイナーなだけ。紅花なんか種じゃなきゃ日本でかなり歴史がある。
 …と長くなったけど,わしは著作権云々を言う気はない。むしろ,そんな事でしか攻撃材料を見つけられないのを情けなく感じる。
 口に入るものへの工夫としてどっちが優れてるか?その結果,どっちが美味いか?
 飲んだことのない方でも,以上の情報からどう判定されるだろう?
 そんでわしが一番ヤバいと感じたのは──17茶について語られた日本側の記述に,味覚としての優劣に触れたものが全くなかったこと!…十六茶は17茶に学ぶべきなんじゃないか?そーゆー観点です。
 なぜか?
 わしらの食感覚がそれほど原点であるはずの味覚そのものから離れ,つまりはそれほど,自分の舌に自信を失ってるから。


▲博多天神 おきなわ物産館での収穫(ミキほか)

 韓国にしよか沖縄にしよか?
 実は今回の年末年始,どっちに行こかと迷ってました。
 だもんで…博多を去り際,少し余った時間についつい寄ってしまった沖縄物産館。
 是枝裕和監督「大丈夫であるように Cocco終わらない旅」DVD
 en-Ray「咲きましょう」CD
 宮古島 塩ちんすこう
 (有)マルマサファミリー商事 飲む極上ライス ミキ
 以上4点購入。
 en-Rayは初めて聴いた。まあまあかな。けど,こーゆー中華ポップスと沖縄ミュージックのチャンプルなテイストが出てくるのは,やっぱりウチナーならでは!
 あと3品は懐かしさで買った。「大丈夫であるように」は新装されてた桜坂の映画館で封切り直後に見たドキュメント映画。やっぱCoccoは存在感的にガツンと来る。
 前回,毎日食ってた塩ちんすこう。今でも止まりまへん。
 さて,ミキもまた何度も飲んでる味覚でした。「御酒」とは違うからアルコールじゃなく,まあウチナーではヤクルトとか青汁感覚の健康飲料。ただ,米の味覚をやっと理解でき始めた今回思ったのは──。
 GTに似てる?
 あんな複雑な穀物ブレンドじゃなく,はるかにシンプルな味だけど…でも確かに穀物ドロドロ系。玄米のふくよかな香りを砂糖と絡ませて甘味として楽しむ飲み物なわけで。
 日本にはミロ以外に見当たらないこの「穀物粉を飲む」食感。麦茶の伝統が辛うじて当てはまるか?中華系の八宝茶や客家のテン茶まで入れるなら,松江のぼてぼて茶が日本旧来のものとしては一番近い。
 韓国と沖縄の共時性。政治的には圧迫され問題の多い小規模な文化圏ながら,おそらくはそれ故にこそ活力に満ちた土地。その両者に周辺部だからこそ残ってる,麺食以前の粉食の感覚。
 って構図なんかな?
 いつもの韓国より遥かに根っこに近いコリアン体験だったらしい。またしばらくは…本格コリア料理の欠乏症に悩みそうです。


▲麗水 道端にじか積みされたキャベツの山