外伝10 弗 $Before 1 weeks$ Make up mind to US

 秋風に 東下りの 翼舞う
 21か国目です。
 これまでの20か国は,全部西の国。時系列順にインド,中国,タイ,パキスタン,イラン,トルコ,韓国,ベトナム,インドネシア,台湾,ラオス,ミャンマー,カンボジア,マレーシア,シンガポール,ネパール,ルーマニア,ハンガリー,オーストリア,イタリア。(バチカン市国,復帰前の香港を除く)
 日本から東へ飛んだこと,ない。――全部ユーラシア大陸。厳密にはインドネシアが経度は東でオセアニア色だけど,あれはまあ南と言うべきだし,教科書的には東南アジア。わしは基本,アジアの旅行者で,言うてもこの大陸から出たことがなかったわけで。
 英語圏も初めて。――香港は今は中国語圏だろし,インドをそうは捉えたくないし。政治的にはグルカ兵を量産したネパールは英国だが。
 アメリカ合衆国は,わしには,一番遠い国であり続けてきました。
 バンコクの楽宮ホテルの壁に残されたバックパッカーの有名な落書き――「金の北米,女の南米,耐えてアフリカ,歴史のアジア,何もないのがヨーロッパ」
 ところが,この減量で手に入れた食感覚の鏡に映すと…「何もない」はずのヨーロッパが物凄く面白かった。小麦粉系の粉モノ,広義のパンに目覚めたこともある。けれど,根本的には,ある疑念が兆してきた。
 それは最初ぼんやりと,しかし徐々にくっきり輪郭を持ち始め,量感を帯びつつあります。
 白人国に関し数多あるステレオタイプの悪逆な言説――あれって,ホントにそんな単純なもんなんか?

 ヒロシマの人間だ。
 ウチナーホリック(沖縄中毒)だ。
 加えて自虐史観に批判的だ。ちなみに軍都・呉の生まれだ。
 星条旗の国に対するあらゆる呪詛に古漬沢庵状態になってきた人間です。
 アジアのどの町でも,コロニアンスタイルを頑なに崩さない白人のリゾート客,軍人,エリートとすれ違った。タイのビアバーで昼間から傍らに娘を侍らせグラスを煽る白人。
 英語そのものすら嫌悪感がある。インド植民地圏で上流のラベルとして使用されてきたこの言葉を,優雅にミルクティーを啜りつつまくしたて虎の威を借るインド人エリート。この鼻持ちならない体質は旧植民地勢鼻に未だ色濃く残存する。
 とまあ…言いだしたら切りがないんだけど。
 こんな人間が,白人国の純度100%濃縮エキス状態のアメリカへ渡るわけで,「そんなんなら何で行くねん?」と自分でも突っ込みたい程で。
 この旅日記が何らかの意味で他と一線を画すとすれば,アジアの味覚を知る旅行者の食紀行って点になるでしょうか。

 ただ,どー考えても,欧米本国はそんな鬼が島状態じゃあなさそうです。
 イタリアからの帰国時,しばらく戸惑ったのは。店に入った時に「Chao!」を,人混みをすり抜ける時に「Permesso」を言わないでいいこと。これらを言わないとあちらではもうその後,口もきいてもらえないほど失礼にあたるみたい。無言で普通,って感覚に戻すのに苦労しました。
 世界の中の白人国って,日本で言えば名古屋みたいなイメージがしてきた。
 辺鄙じゃないのに体質は田舎。
 それがイタリアとかルーマニアとかだけの特質かどうかは知らん。ただ,アジアに現れてる鬼の相は否めないとしても,かなりイイ人たちって肌触り。
 アジアに落ちた相と言えば,タイや上海の日本人街の醜悪さは筆舌に尽くし難い。集団の不幸な相だけをもって,その社会を見るのは一面的。
 ただ,確かに「アメリカ的なるもの」が現代って時代を突き動かしてんのも確かであって。戦後の日本を根底から変えて,アメリカで今起きてることは10年後の日本で起こるってのも最早言い古されたほど。
 それが単に「悪」でも「鬼」でもないのなら,わしら日本人の身近な関心として,星条旗の国にホントは何があるか?――これは,やっぱ一度は見といたろやないか!!

 さて。日を追って姦しくなってまいりました食に関するお澄ましトークな今日この頃。
 この話題中でも「ステレオタイプの悪役アメリカ」構図は,ほとんど疑うべからざる大前提。
 そりゃもう「和食原理主義」と言ってもいい議論が,そうじゃなくても稚拙なこの議論には平気でまかり通って,わしらの頭にも繰り返し刷り込まれてます。
 中でも一番耳タコなのが「ファーストフード極悪論」。
 アメリカからマックのバーガーとカーネルサンダースが来なけりゃ世の中平和だったのよ…みたいな発展性皆無の議論。ちょっと考えりゃ「で?」とツッコミたくならない?
 イタリアのマックで驚いたのは,メインディッシュになるデカいサラダを売ってること。パルサミコとオリーブオイル付のちゃんとしたインサラータ。――アルバイトをモーレツ社員並の戦力に変えちゃうマクドナルドってのは,その位のフレキシビリティを持ってる企業。
 韓国マックにはプルコギバーガーがある。マックじゃないが,沖縄のA&Wにはクラムチャウダーとかのスープ類が充実してる。
 つまり,ファーストフード企業は社会に適応してるだけ。悪質なファーストフードを食わされてるとすれば,それは,その社会の構成員総体が求めたから。あなたがとは言わないが,あなたがたの責任です。
 現代食文化に特質があるとすれば,構成員のニーズに対し,これまでの時代よりもはるかに的確に対応できるようになったこと。発色材,保存料,低カロリー甘味料などの化学力。高速輸送,真空パック,冷凍など技術力。農薬,農業機械,遺伝子操作などが支える生産力。さらにバーコード,POS,ネット販売などのマネジメント力。
 「人々は自らの行為に恐怖した」ってのはファーストガンダムだけど,そーゆー構図。「食う」って人間の基本的行為だけに,ひとり一人の選択が過激に実現されちゃう時代なわけ。
 アメリカって集団。調べた感触では…どうもそうした構図に,日本人よりは自覚的みたい。
 食の壊れ度合は日本以上かもしれん。それも確認はしたいけど,恐らく…それは間違いない。伝統食という制御装置の乏しいとこへ,世界一過激な経営力を持つ食品産業が君臨してんだから。そりゃ,もう攻撃しても批判しても意味ナシ。政府が規制したってダメ。構成員が食いたがってんなら,どーにもならんっしょ?
 わしの興味は,その先に傾きつつあります。
 ――アメリカの市民は,自分たちの食を如何にして,どう変えようとしてるか?あるいは,守ろうとしてるか?
 「お前らには出来ない」と言われたら必ずやり遂げてしまう。アメリカ人に特徴があるとしたらそれだと言う。
 世界で最も不味くて粗悪(少なくとも過去の一時期そうだったらしい)なアメリカ飯の烙印を,そのパワーでどう書き換えるつもり?
 この国のことだ,変化を試みてること自体にほぼ疑いはない。それも,文化的な世代スパンの変化じゃなく,人為的な短期の変化――ターゲットは,これ。

 今,人為的な変化と書いた。
 アジアの国では,食は文化の一部,それもごく基底的な部位です。――北朝鮮の唐辛子料理とか,中国や韓国の犬肉とか,日本の鯨肉とかみたいに政治的に消される料理ってのもあって,それはそれで,専制や全体主義が極端な形で進み易い,ごく東アジア的な現象で面白いんだが,それでもそれぞれかなりの庶民側の草の根レジスタンスに遭ってる。
 世代を越えて根付いてきた文化のしぶとさと顕然さです。それは,何人もの先人の経験,あれを食い続けたらどこが悪くなった,あるいは良くなったってのの体験の積み重ねで養われたもの。
 けれど,アメリカにそんなものはない。
 だから人為的と言っても,それしか仕方がないだけで,それは食だけじゃなく,人為的な変化にそれなりに成功してきたとこがこの国の凄みなんだが…けどよ?こと食に関してそんなの可能なんか?
 栄養学や医学が示す「理想の食生活」の精度は今のところ大したもんじゃない。食文化として蓄積された経験値の方が余程確か。だからわしは基本,どこかの国の伝統食を嗜好してきた。
 この路線では,アメリカの深南部 Deet southと呼ばれる地域に期待してる。ケイジャンチキンやジャンバラヤを生んだケイジャン・クレオール料理。
 けど,これだってやっと,まあ文化かなあ?って程の熟成だろ,時代的には。
 ケイジャンはサブウェイのメニューでしか知らんし,ジャンバラヤはコンビニで一時期売ってて好きだったけど…ひょっとして,アジア飯の多彩な味をご存知ない英語カブレの高尚な日本人の皆様が有り難がってるだけで,大したもんじゃないんとちゃう?
 その実力次第では早めにニューヨーク入りする用意をしてる…それで,食文化なんかあるはずのないニューヨークだけど,ここも政治経済的にはともかく,食文化はボロボロ?って可能性も捨てきれん。捨てきるどころか,わしの文化観からすればロクな食いもんあるわけがないわけで。
 ひょっとして…物凄いハズレの旅行をしよとしてんちゃうか,わし。

 そんな不安から調べてみたんがBefore 7 weekから2 weekのコピー集なんですが――。
 総合して,普通に過ごせば確かにロクでもない食いもんにしかありつけそうにない。
 在住者の意見でも,少なくとも過去の一時期のアメリカ飯は,肥満食の権化だったみたい。
 でも,何か――新しい流れが起こってるって見解も相当見つかる。
 アメリカの流行語大賞 Oxford Word of the YearでLocavore(ローカヴォア)って造語が選ばれた。「地産地消人」くらいの語感らしい。――そもそも宗教上の理由からベジタリアンが一定数いた所に,マクガバン・レポートに力を得て地産地消 Local foodが今や市民運動になってるみたい。
 ヴェジタリアンと言えば「アメリカのベジタリアンはなぜ太っているのか?」って書籍が売れたらしいが,現地の状況はもう一歩先に進んでるようです。客観的に見て,食の安全なんて以前から分かってる問題に引っかかってる日本よりは,認識が深化してるし,何より姿勢が攻めだ。
 その変化の源泉は,グリーンマーケットと呼ばれる「人工市場」のシステムらしい。
 実は,アメリカの食は言われるより健全なんじゃない?ってイメージは,小松左京の「継ぐのは誰か?」で読んだのが最初です。――アメリカは世界一の農業大国で,アメリカ人はそれを作り上げてきた開拓民の集団。歴史的な本能の底で,食材のパワーを知ってる。繊細ではないが,農産物自体の旨さをシンプルに出す料理を出す。
 ニューヨークの別称「ビッグ・アップル」の由来かどうかは諸説あるみたいやけど,ニューヨーク州はリンゴの産出量では全米第二位。世界一の大都市ですら,この位の規模とクオリティの農業地帯を近郊に有する…ってこの配置,京都と京野菜を産する近郊農地ににてないか?
 つまり――現状は酷いのかも知れんけど,食感の健全さのポテンシャルと再生可能性はかなりのもんで,しかもまさに再生のギアを入れつつあるって可能性があって…今回わしは,それを目撃できるのかも?
 アメリカ旅行なんて楽勝楽勝!…って感覚が段々薄まってきました。
 これは…これまでとかなり,勝手が違いそうよ?恐らく従来の方法じゃ全く通じんだろ?移動と宿泊は何とかなっても,深掘りするには相当難物やど?
 しかも,深掘りして出てくる実態は――わしの見知ったものと全く違うはず。その某かの意味でとんでもない異相を,ちゃんと理解するのは…これは予想外の力業ちゃう?
 普通に歩けばしょーもない。全力で掘って初めて面白くなる旅行。そーゆーハードな予感が,スゴく今んとこ,挑発的で刺激的なわけです。
 
 さて,そーゆー建前の話はさて置いて(建前かい!),秘められた本音の目的だけど。
 肥満食としては世界一の定評(悪評?)のあるアメリカ食。
 アメリカで好きなもん食って,一体何kg太れるか!?特に,体脂肪率を何ポイント上げれるか!?
 メイプル・シロップ,ピッツア,ワンポンド・ステーキ,ニューヨーク・チーズケーキ!
 この国で太れないはずはない!ってゆうか,この肥満大国で太れなかったら,もう,どこの食環境下でも太れない食感になっちゃったんだと諦めるしかないわな。自分の半減維持システムに対する,最高難度の卒業試験みたいな企画でもあるわけ。
 かつてない多量セーロ丸,大瓶でバックパック内の薬袋に仕込んでます。
 本編で何度となく書いたけど――冬が寒くて仕方ない。脂肪を増やさないとホントやっとれん。肉襦袢を纏った快適なウィンターライフに向け,今年こそ万全に備えたいものですな。

 さて,ここまでは全て余談である。(長いな!)
 極秘中の極秘マターであるが,ここで我がアメリカ行きの真の理由をあなたに,そう,あなただけに勇気を持って初めての告白,ウフフッなんである。
 いやあ…なんちゅうか…円高だからね。