和訳:言わんこっちゃない
2年経った。
またシマに還ろうとしてます。
前回のニライから帰って,大阪大正の沖縄タウンに入り浸ってた足で訪れた京都に,12か月連続で通いました。
福岡に行く度に,天神の沖縄ショップに入り浸って郷愁を紛らわせてました。
1年目のGW,台湾。夏,イタリア。冬,韓国。
2年目のGW,香港。夏,かつて沖縄を統治し,現在も使用し続ける軍の所属国,アメリカ。
そして前回と同じ正月の沖縄に,本日20時過ぎ,あと2時間で発ちます。
2年前の,重たい絶望感での終わり方に,どうにも収まりの悪い感覚を持ち続けてました。けれど,劇的に変貌する東アジアの中での沖縄。あの土地に,半減後の劇的な生活感覚の変貌を経た自分は,そろそろ別の出会い方が出来るフェーズに至ったんじゃないか?
ただそうした予感だけで渡る今次ニライ行きなわけです。
行く場所も,何も決めてません。
福岡空港の荷物チェックは,かつてない厳しさでした。
ライター1個限定の掟は知ってたけど,ハサミまで長さを測られたのは初めて。有り得ないと思ったのは,新たにマッチ1個の掟が厳格適用されてたこと。
バックバックの底の底まで掻き回したメガネの係員,机に3つマッチ箱を並べる。
「どれにしますか?」
選ぶのか!?
いずれも京都の老舗喫茶店の来訪記念マッチだぞ!?選ばんきゃならんのか?
たっぷし30秒は悩んだ末,眼鏡クンのイライラオーラがビンビンにキターッてとこで,河原町三条六曜舎地下店のマッチを手に取る。
残酷なことさせるなあ…。
まあ空の安全のためと,少なし本人たちは信じてやってるから仕方ない。怒る気にはもうならなんだが…ただただ呆れた。やられるならアメリカ型の実戦的チェックの方が納得できるんだけどなあ。
だって,ライターはプラスチック爆弾になりえなくはないけど,マッチじゃ…ハイジャックは無理だろ!?それより,ベルトや靴底の方をチェックしないと…。
20時定刻,那覇空港着。https://youtu.be/csQpTz172J0
構内に響くはBEGIN「オジー自慢のオリオンビール」。もうこんなとこで流れるほどウチナーソングになったのね。
「三ツ星かざして高々と
ビールに託したウチナーの
夢と飲むから美味しいさあ
ワッター(私の)自慢のオリオンビール」
あの酒は正直,内地で飲んでも大したビールじゃない。水みたいに薄いし,コクも淡い。
けれど――「だからマズい」と言い捨てられるナイチャーは2つの点で,貧しい。
サンミゲルやコロナと同じだ。あの酒は,風土の酒。現地の熱の中で飲むから美味い。気候の暑さと,文化の熱さだ。その風土の重さを感覚しえない,いかにも現代ニッポン人らしい無機質さは――貧しい。
そして。一企業のCMソングが,なぜ空港で流れてるのか?あの酒は,戦後の沖縄復興の象徴であり,誇りだ。その浅くない歴史上でも,最も苦しい矛盾と怒りと絶望に満ちた時間の。あの酒をマズいと言い捨てるナイチャーは,貧しい。終戦後の混乱で破滅して酒びたりのおじさんを歌った「ハイサイおじさん」をギャグとしてしか消化できなかった内地のテレビ番組と同レベルの貧しさ。
20時12分,ゆいレール発車。
一駅ごとにテーマソングがオルゴール風に流れる。わらべ歌,古典から夏川りみの歌謡曲まで,ランダムな配列。ものの数分で,脳がシマの空気にドップリ浸かっていきます。
開通後数年の都市交通システム,既にこのシマの歴史空間を象徴しつつある。他の,例えば内地の町で同じシステムを作ったとき,ここまで風土色に染めてしまえるだろか?広島市のアストラムってゆいレールとほぼ同じ類いだけど,10年以上経っても当初と同じ無機的な車内です。北九州や神戸のだってそう。
これは個人レベルの創意工夫だけには帰し難い差違だろう。「沖縄だから沖縄らしく」位のことを言った上司はいたかも知れんが,その時に使えるソウルソングが多彩にあるという文化的資源,それで音楽空間を作りたいと合意できる風土への愛着。
今更ながら驚くのは――これだけの数,土地を表象するメロディーがある!この豊穣さはどうだろう!!
※沖縄都市モノレール株式会社「ゆいレール」HP>オンライン美術館 ※2020現在なくなってました・・・。
夜着くんで,宿をネット予約しといた。
流石は安宿王国・沖縄!楽天で安い順を検索したら,個室でも3千円代がゴロゴロ。中には2千円代もあるぞ!?モノは試し,1泊2650円ってとこを予約してみた。
問題は,何でそんなに安かったかだ。那覇市内ならどうでもいいや,でチョイスしたから場所を確認してなかった…。
ゆいレールを旭橋下車。ネットの地図を見ながら夜町を歩く。沖縄は一歩入ると闇の町が多い。まあ,闇の深さは感性の正常な証なんだが。
それが,宿が近づくと急に明るくなった。いや明るいってどころじゃなく,ネオンでギラギラ?何だここ?
住所は辻。那覇の風俗街真っ只中のホテルでした。
部屋は2ベッドで,広々。テレビも冷蔵庫もあるし,設備はいい。ただしアメニティはゼロ,タオルもない。借しタオル100円也だけをもらう。
安いから結構たくさん旅行者はいるし,夫婦連れもかなり見かけたからソレ目的じゃないっぽい。
場所以外は素晴らしい条件。開き直ればいい宿なんだが――果たして吉か凶か?
宿に荷を置くや,道中見かけた三笠食堂に引き返す。
松山交差点近くの本店には何度もお邪魔してる。この久米支店は,通りかかって知ってはいたが,入るのは初めて。でもここならハズレはない。本店でも,コテコテのウチナー飯しか食った記憶なし!
店内に入ったのは既に11時近かった。流石に客はまばら。松山店ほど古びた味わいのある店内じゃないが,居酒屋めいた庶民臭タップシ。
久方ぶりのウチナー飯なんで気弱に
とーふチャンプルー 550円
ってとこをチョイスしとく。
…改めて食うて,思想の違いに目を見張る。
まずは味噌汁。味噌をただ水溶きしましたって感じ。それに,和食では有り得ないことだが,どうもフの味が澄んだ形で全体に染みてる。それらが相まって,アジクーターとしか言いようのない強さを形作る。
つまり,和食で言う意味でのダシがまるで効いてない!
カツオ節の味はもちろん内地よりはるかに濃いんだけれど,ダシとして使われてない。
味噌をまとった出汁スープが和食の味噌汁とすれば。カツオ味の大豆スープが沖縄の味噌汁らしい。
で,美味いかどうかって?――美味い!
和食のキチンとした出汁スープの尺度では,最低だ。ドメスティックな感覚からは明らかに物足りん。けども,だからこそその穴をアジクーターが補って余りある…。
沖縄に初めて来た時,初めて食ったのが味噌汁だった。はっきり覚えてるのは,それを「クソ不味い!!」と感じたからです。
内地の飯とは,「違う」のだ。その違いが理解できて,違いを楽しめて,それはそれで美味いと感じられるまでこんなに時間がかかってしまった。――そういうことなんだと,こんな当たり前の一椀に愕然としたわけです。
味噌汁一杯でこれだけ書いてると,とても終わりそうにないが…まあ続けよう。
トーフチャンプルー本体は,島豆腐,ほうれん草,牛肉。牛肉はいろんな部位が混ざってるみたいで,モツみたいな味のもある。内地なら肉豆腐って味覚。島豆腐の骨太な歯応えとほうれん草の瑞々しい口どけにも驚く。農業劣国のはずの沖縄の野菜がなぜこんなに美味いんだ?
沢庵だけは,まさにプラスチック的な化学製品。漬け物ではやっぱり期待しちゃいけんのだろな――といった諦めに,自ら違和感を覚える。これも,違う!発酵の妙は確かにあんまりなんだけど,ウコンが元気なんです。プラスチック沢庵の添加物と着色料のヤバい端正味じゃなく,ターメリックスープの苦くてザラザラした野卑な舌触りが残る。そう言えば,ここはウコン茶の島だ。「ウコン色の大根漬」より「ウコン味の染みた大根」を好む舌がメジャーなのは,むしろ当然。
残るご飯は,まあ普通だろ――と安心して食ったのに,これもびっくりした。値段から言ってただの米のはずだし,沖縄が米所なんて聞いたこともないし,オコゲの味わいもないから炊き方もただの炊飯器でのはず。でも,チャンプルーと一緒に食うと全く違う穀物になってる。最初は気のせいか,腹が減ってるせいかのどっちかだろ…と思いこもうとしたけど,食べれば食べるほどにその違和感が強くなる!!アジクーターなおかずに慣れてきた舌が,米を違う味わい方で認知してるってこともあると思うけど…この時は何が何故違うのか,分からんまんまで引き上げた。
「つまり取り合わせの違いが,同じ食い物を別の味わいに変えてしまう。こんな体験も初めてです。」とかメモってますが…食感の微妙な差でよく分かりませんでした。食糧庁が独自みたいで北海道とか福島の米が人気らしいし,八重山では少量ながら「ちゅらひかり」など独自種が作られてるようで,違いは確かにあるっぽいんだが…。
三笠食堂への行き来,コインランドリーみたいなスペースを見つけました。
表示を見ると,どーも24時間営業の弁当屋らしい。覗くと,深夜なのに相当の客足。
つっても弁当屋じゃなあ…とやり過ごして,帰りにまた覗くと,まだ客だらけ?もう12時近いぞ!?
三笠で地元コテコテ味にどうにも惹かれてしまった勢いで,とうとう入ってしまった。
店の名前はヘルシー亭。
入るとバイキングコーナー。左手に,沖縄で多い食券の自販機がある。バイキングで食券?どのボタン選ぶんだ?
奥のおばちゃんに聞くと,プラスチックのプレートの大きさで値段が決まってるらしい。小さめのプレートが「中弁当」の食券。350円…って!?
350円でバイキング?安!ってかコレ,味はヒドいけどってパターンじゃないの?
サンプル調査感覚で,ほとんど並んでる全種類を少量ずつ取る。レジに持ってくと,スープまで付けてきた。プレートとスープカップをポリ袋でうま~く結んでくれる。宿までかなり揺らしたけど,全く崩れも漏れもしない完璧なパッケージング!
宿で開く。プレート内には7種類。
ジューシー
コーンと卵のカップスープ
キングフィッシュ唐揚
トマト卵
黒豆煮
もやしの炒め物
鶏肉カレー煮
ええ~!?
美味いんだ。しかも,べったり美味いんだ。
白米とジューシーが選べたけど,ジューシーで大正解!
普通,「炊き込み御飯」と和訳される。今まで食った記憶も「中途半端な混ぜ飯」だったのに…中華ちまきの飯みたいな肉汁まみれでも何でもないのに,味わいがずっしりと染みる。肉とも魚とも判別できない独特の汁味が,米の旨味を最大化する絶妙な濃さでキマッてる。これ,どう炊いたらできるんだ?
卵のスープも…何とも言い難い味わい。洋風のコーンスープても中華の卵スープでもない。どっちもを上手くジョイントさせてあるみたいで,うっとりする甘味。
もやしは酢の物になってた。炒めて酢に浸けた感じだが…何だこの調理法は?
鶏肉カレー煮とトマト卵は当たり前の味。カレーも既製品っぽい普通さし,トマトはそこらのケチャップっぽい。なのにちょうどいい。何か,この辺のコントロールがスゴいみたい。
黒豆煮は,日本のおせち料理のアレ。これは味自体はホントにまさにアレなんだが…この弁当メニューの中に平然と現れるとこが沖縄チック。「ハレ」の食い物じゃなく日常食で,しかも普通にみんなが食ってる,沖縄ではそうした食い物らしい。
キングフィッシュ。これカレイみたいな魚味なんだが,カレイより身が固くてプリプリしてる。干物みたいな味わいもする,奇妙な美味み。
全体として,ここまで違う。今までは感じられなかったほど微妙に,食感のズレが随所で常にある。共通項を無数に持ちながら,思想が根本的に違うって感じ。こんなに日本じゃない味だったんだな…と思い知らされた初日なんでした。
2軒のあった道は,西消防署通りと言うらしい。
深夜なのに,こうこうと灯りを灯す店があちこちに見える。託児所,花屋,薬屋,スーパー。
花屋はよく分からんが,託児所は間違いなく,風俗街のお姉さんたちの専用だろう。沖縄の涙のような光景と言っていい。おそらくスーパーや薬屋も風俗関係者をメインの客にしてる。沖縄風物詩の一つとして何かで紹介されてた深夜営業の辻スーパーも,少し入った辺りだが下世話に元気に開店中でした。
日が代わる時間まで,託児所でお母さんの仕事上がりを待ってる子どもたち。最貧県,深夜徘徊率全国一,そして水商売や風俗労働を内地ほど賤しめて見ない沖縄の,これも間違いなく一つの顔なんである。
つくづく闇の濃い土地だ。
でもって,今回もさらに黒陶々たる見聞に洗われる予感――。