外伝03-FASE17@deflag.utina
先へ急げ無敵ッ!ローラーガール ヒカリの先へ行くの

 3日目は,ウチナーの見知らぬ顔を幾つか窺えた日になりました。

 早朝,コザを発つ。
 那覇へ。
 米軍基地周辺のドドーンと広くて真っすぐで,特に朝はガラガラに空いててビュンビュンで,おまけに原チャで走るにゃあ路肩もバカみたいに広い道路は――政治的に気分悪いんだが,生理的にはやっぱ…悪いけど爽快じゃ!
 爆走しながら想像する。もしある日,米軍基地が撤去されてウチナンチュの街が作られたなら――この道路は素晴らしいインフラとして,その真価を発揮するだろう。基地内の広々した区画整理のまんま住宅や店舗が入ったアメリカンテイストのウチナータウン。恐らく中国人や韓国人も多量に入居して…どこにもない街が出来るだろな。
 アメリカにとってもアジア人の印象改善にこんなに有効打になる一手はないんとちゃうか?
 米軍が永遠に居座ることは考えにくい。その時代には,作られる新しい街のプロトタイプが――今の那覇・天久の新都心でしたってことになるんかな?
 復帰したCoccoが呪わしく唄う捏造椰子のおもろ町。新時代の沖縄を占う上で,重要な位置をなすよな予感がするこの新都心の街。荷も下ろさずに,まず天久の街に乗り込んだんでした。

 早く着き過ぎた。
 前回閉まってた港町の魚料理屋「えんがん」,開店時間11時までにまだ大分間があったんで,食べログで旨そうな天久のパン屋3軒を回ってみる。どうも…那覇で人気のパン屋って,この新都心に集中してるみたいでした。
 1軒目,安謝1丁目の「秀のぱん工房 窯」。
ペッパーシンケン 315円
ちびくろ 36円
岩っころ 115円
 好い!
 創意が売りのお店。お隣の美ら豆珈琲のホットコーヒー(200円)と一緒に軒先で頂く。
 最高の朝飯じゃあ!
 そー言えば!前回までの沖縄でパン屋に入った記憶って,皆無だ!!こんだけ沖縄来といて…ひょっとして?宮里に続いて2軒目?
 こりゃあ…。
 とんでもないトンネルをしてたんじゃね?

 2軒目。メインプレイスの北辺り,古島。正月休みに入っちゃってて,ここは空振り三振。
 3軒目のすぐ近くの店へ。店名,パリのパン屋さん ボンジュール。イートインのカウンターがあったんで,腰を下ろす。
 焼きたてのオレンジのブリオッシュとクロワッサンを,コーヒー付きで。
 すごく好い!
 どっちのパンもえらく独特。フランス本場的じゃないと思う。独自の芳醇さがある!
 聞いたこともなかった…何かスゴいでや,沖縄パン!
→3軒とそのパンの写真

▲えんがん外観

 11時,港町。
 「海産物えんがん」,開いてました!常連の会話聞いとると,やっぱり明日から休みみたいなこと言ってますが,やっと開いてるココへ来れたがや!
 ヘンな店名だけど,那覇市沿岸漁業共同組合の直営店だから「えんがん」。ウーン,渋いネーミングセンス!
 港の見えるガラス張りの広い座敷が屏風で仕切られた,緩いコンパートメント型なんで,ほぼ同時に来店された家族連れとかもいる。すぐ隣の席になったけど,ガキンチョが多少騒いでも大丈夫。…とか思ってたらガキンチョ娘が屏風から顔を覗かせたり引っ込めたりした挙げ句「何食うとん?」とか聞いてきたり…そんな店。
 壁には沖縄の魚のポスター。全く知らん魚ばっかだけど,どれも極彩色かギンギラギン。米軍の影響か?
 メニューはもちろん魚だらけだけど,こっちもポスターに負けない意味不明なのが並ぶ。
「エー小マース煮定食ね」1050円也。全く分からんのに知ったげに頼んでみたら,
「小マースがないんですよお」
 そーですか,それは残念だなあ…って風情でメニューをまた探す。――後で調べると,小マースは魚の名前じゃなくて,白身魚の塩スープ煮って調理法を指すみたい。そうか,マースはウチナーグチの塩だよね。だけど塩スープって…どんなんだろ?
「じゃあ,チヌマン定食で」と注文。1000円也。もちろん,チヌマンが誰なのかは分かっちゃいない。すると
「煮付けにします?塩焼き?」と第二問。
 大体魚は煮付けが好きなんで「煮付けで」と答えといたが,この辺りでどーも一見だってバレバレになった雰囲気。そりゃあそーだ。
「相席になると思いますけどいーですか?」見ると,テーブルの半分ほどに予約席の表示。結局ならなかったけど,正午が近づくとどやどやと団体客が押し寄せてきました。人気店なのね。
 なお,他のメニューも魅力的だ。つまり,何が何だか…。
タカセ貝刺身(定食) 800円
うつぼ煮付定食 1000円
伊勢エビウニ焼定食 2000円
伊勢エビ汁 1800円
ウニ丼 1400円
シイラバター焼定食 1000円

▲えんがん チヌマン定食

 チヌマンが来る。
 ぬうっ…何だこりゃあ!?
 白身魚としても最高なホクホク感!なのに,ヒレに近い部位はウナギみたいな脂っこさでプリプリ。これは,食ったことのない魚味じゃど!?
 汁を啜ると,またもの凄い軽やかな脂っこさに魅了される。
 これも後で知ったんだが――チヌマンは別名ツノマン。テングハギのこと。草食。
 鮮度が落ちると一気に臭くなって食えなくなる魚らしい。流通に向かないから,スーパーに並ぶことのない部類の魚。こーゆーとこでトレトレ状態じゃないと料理に適さない難しい食材だってことで――単に市場だから新鮮で~す,というだけじゃなく,漁獲者の他には出せない魚を出すって戦略は,ちゃんとクレバーなわけだ。
 てか…ワケ分からずに偶然コレを引き当てたわしは,ホントにラッキーだったみたいやね。しかも,まさに冬が旬で,この時期のチヌマンは食通垂涎の脂ノリノリ状態なんだって。
 レア物ワインとは知らずにサイダーで割って飲んじゃった!的なバツの悪さ。――そりゃあそーだよな,魚食い慣れたウチナンチュが,いつもの弁当とか定食の数倍の値段払って食いたい魚っつったら,旨いに決まっとる!

▲チヌマンのアップ

 常宿,沖映通りのサンキョウビジネスホテルに入ったのは正午を回ってた。
 バスタブ付き3400円/泊。これでもバスタブ無よりワングレード高い部屋。少し簡素だけど不自由ないし(→部屋写真),結局4泊しました。今回は6泊全部3500円以下。
 少し休んで,再度原チャで与那原方面へ向かう。
 小雨がパラついてきたのを無理に走ってると,大里に着いた頃には本格的な雨になってきた。
 まんぷく食堂で服を乾かしながら。
牛汁 800円
 やはりスゴい。
 肉自体はカスカス。けれど韓国のソルロンタンみたいな赤身肉そのものだけを摘出した味覚じゃなく,あくまで肉汁は生かしてる。それが,ここの特徴のシナモンのスパイスに彩られ,澄んだ響きを醸す。
 美しい肉味だ。
 ここは,本当に肉を知ってる。それとも――知ってる主は,沖縄の肉食文化なんだろか?

▲まんぷく食堂の牛汁

 大里を出た時はすっかり上がったよに見えた雨が,走り出したら再び降って来る。
 雨ってゆーより,こりゃスコール。数次に渡ってザワッと降って,気まぐれに止んではまたドシャ降り。
 雨宿りを繰り返しながらダルマさんが転んだ的に那覇方向へ進むも,やはり頭から靴までビッショリ。もうゆいレールも近い場所だったけど,屋内に落ち着いて服を乾かしたくなってきた。
 古波藏。一応調べてみてたコーヒー屋が近かったんでビバーグ。住宅街に入り込んだ場所にある「珈琲専家にーちぇ」ってお店。
 一歩入って…本格的な匂いに驚く。素晴らしく落ち着いた,オレンジ色のランプの照らす木製の,一見ランダムに並ぶ調度。品揃えもかなり豊富だけど,
にーちぇブレンド 500円
でとりあえず味見。
 朧気な灯りの中に,カップが差し出された。
 嗅ぐ。――香りと言うには,あまりにしんしんと鼻孔に染み渡る実体感あるアロマ。
 含む。これがコーヒーのコクってものか?酸味がごく薄いから一際際立つ深々とした重い,しかしあくまで強過ぎない苦味。渋みも単純な苦さも淡いのに,まったりと舌にまとわりつく澄んだ深み。コクの深みがスープのように魅了する一杯だ。
 酸味はある。極めて太い酸味だ。これ自体が美味な酸味。しかしすぐに霧散して,その名残を惜しんでると,しばらく時を置いてふいに淡く花咲くような甘味になって帰って来る。メインの旋律になってるコクを背景に繰り広げられるこの変化。
 あと,コクの後味に残る,よく焼けたパケットの外皮みたいな焦げの香り。これもすばらしく鼻の粘膜を愛撫する。
 飲んだことのない感性のコーヒーだ。
 舌は文化の最たるもの。つまりアジクーターなんだ,コーヒーの味まで。
 何とか見当がついてきた。おそらく,沖縄のコーヒーの独特な感性は,コーヒー版のアジクーター,つまりコクだ。それが,コーヒーテイスターの言ういわゆるコクと同質のものかどうかは,まだ知らない。わしはこの味覚の扉を,まだ開けたばかりなんだと思う。
 ひょっとしたら,コーヒーだけじゃないかも?アジクーター味覚の本当の理解は,わしには今回が初めての体験なのかも知れないからだ。
 実に美しいコーヒーでした。
 支払いを済まして去ろうとすると,背に声がかかる。
「よいお年を」
 はたと振り返ると,カウンターの3人が3人とも笑顔で送ってます。オーナーらしいお婆ちゃんなんか,手まで振ってる,しかも両手…これ,この店では普通なの?馴染み客との会話を見ても,ムチャクチャ温かい雰囲気の店みたいです。
 それとも目立ってたんか,わし?一見の寂しげな客として…。

▲にーちぇ外観

 そんなこんなで――パリのパン屋さん「ボンジュール」に戻るのが遅くなり過ぎた。
 4時過ぎ,パケット売り切れ。
 チュドーン!!!ピララララ…GANE OVER。まあ今日はこの位にしといたるわ…って今回は今日が最後の開店日。
 肩を落としてバイクを返して国際通りをぶらついて。物足りなさ充填120%で,通りがかった「黒糖屋」って店にふらり入ってみる。
与那国島産 320円
を衝動買い。
 名前通り,まさに黒糖だらけの店で,特に入って左側の棚には沖縄各島の黒糖が並ぶ。黒糖だろ!?そんな違うのか?
「そちらは純黒糖になります」と背後にオバチャンの声。
「純黒糖?」興味を惹かれて「そうじゃないのと言うと?」
「加工糖は奥の棚になります」あ,そゆことね。「でも体にいいのはやっぱり純黒糖。これも産地によって色々あって…」と味見させてくれた。宮古や波照間のは甘いタイプで,これが食べ慣れた黒糖。でも,与那国のは「これは塩辛さがあるんです」
 確かに!宮古みたいな甘さはない。塩辛さと言っても化学製品の塩じゃなくミネラルの芳醇さ。甘さを宿した苦味みたいな奇妙な味わいです。
 ふと気付く。こりゃあ!!パンの最上のアテだぞ,きっと。

 年の瀬の賑わいにざわめく国際市場。
 よく説明できない奥の路地,店頭パック売りが溢れてる場所を発見。開南近くにも似たよな狭い商店街があったが,こりゃまたさらにマイナーっぽい。煮しめとか餅の正月料理の他に,牛汁とか汁ものまで並ぶ。さりげなく見えて,よく見りゃ内地には有り得ない品ばかり。
 こりゃとりあえず味見だろ。中味を購入。
 ふーん。なかなか面白いがな,国際市場。
 観光地としてもアジアン・バサールとしても中途半端じゃね?と遠い日に敬遠してから久しぶりの徘徊だったんだが…高知日曜市に通った後だからか!?わし,これまでアジア各地で市場は通り過ぎてきたけど,市場のホントの面白みって全然分かってなかったのかもよ?
 あー勿体ね!!

 国際通り,インシャラー。
 ここって有名なの?
 内地のガイドブック的にはよく知らんが,沖縄口コミ的にはハイグレードみたい。
 地下一階。何か淫靡な雰囲気のふかふかソファ。貫禄に満ちた落ち着かねえ喫茶店。…まあいい,とにかくコーヒーが旨けりゃいい。
インシャラーブレンド 420円
 コーヒーは苦味が鋭い。でもやはりコクが深い。酸味はわずかでちょうどいい。ただ,強いコーヒーかと言うと,なぜかしゅんと収束する感じの味覚で…コクすらスルリと滑り落ちて消えてく。この儚さがいい。
 後味にはこの淡い苦味が,大阪コーヒー的な渋みとなっていつまでも舌に残る。
 何度か口に含んでたら,奇妙にもこの後味の渋みが,味わったことのないある種の甘味に変化してく。焦げパンのような甘苦い味覚。――これ,さっきの「にーちぇ」でも感じた味覚だぞ?
「にーちぇ」と同じと言えば,このスープのような感覚もだ。コーヒー豆を,雑穀の一種みたいな扱いで「粥」にしてしまってるよな感覚。心無しか粉っぽさまで感じるほど。
 面白い!
 宿に帰るつもりが,もう一店,宿のすぐ隣にあった喫茶店に入ってしまう。普通の,当たり前の沖縄コーヒーの実験。しかも,入って気づいたが…2年前試して,正直あんま感動しなかった店ですけど?
 店名COZY。ブレンド。
 この場所にしては,以前も今回も客席は閑散。場所で持ってる店臭い。麻雀や花札のゲーム機のテーブル。ただ一応,戸口には「ハンドドリップ」を謳う貼り紙。
 注文から時間がかかったから,看板通り一杯ドリップだと思う。
 一口。
 うーん…やっぱり普通かも?先の2軒の名店のスープ感は…薄い。
 けど?確かにやはり,粉っぽさと尾をひくコクの片鱗は…ある!確かにあのタイプ!
 職場のコーヒーメーカーがエスプレッソ式だ。管理業者に聞くと,ペーパーを取り替える必要がないという技術的なメリットがあるらしいが,一度固めて金属の上で淹れる仕組み。だからどうしても幾らか粉が入るんだが…あれに似てる。けど,やはり方向が違う。繊細さがない代わり,濃厚なアロマが尾を引くんよ。それと,最後に一躍甘味に代わるよな絶妙さはないけど,酸味が舌に残る感じもある。
 やはり,これが,沖縄のコーヒー感覚なんやね。
 明日は大晦日,今日の名店はどっちももう3日までは開店しない。が,この微妙に独特な感覚を記憶して帰りたい。
 沖縄でコーヒーに血迷うとは予想してなかった。とにかく,開いてる喫茶店には入るよにしてみよう。