外伝11 獨 Still lost on road less traveled.
広島→博多→上海→機内泊

琉球を抱きしめにゆく夏休み
(第12回俳句甲子園最優秀歌)

ドイツパン食い漁らんとズル休み
(台悦人,ちょっとした川柳)

▲上海タウンの残照

 もとい!
 決してズル休みじゃあなくて,労働者の当然の権利であるところの有給休暇を取得しまして,公務に一層専念せんがための最小限の元気回復でありまして――といったニッポン人の能面は,勤務時間が終わりましたので,謹んでかなぐり捨てさせて頂きます。
 この時期は,甲子園――もちろん松山俳句甲子園――の興奮覚めやらぬ時期なんで,どうも昨年から俳句づいてしまいます。
 この前,本屋で「6word」なる書籍を買って,今回リュックに入れてます。英語版の俳句って気分なんだと思われますが,割と味のあるのが多くて――今回は題字をこれで行ってみます。和訳は文末に載せました。
 ホントは…何かひねくれ度の高げなドイツの格言にしかけてたんだけど――どうせ味わえねえよ,ドイツ語ダブったわしにゃあよ…と諦めた次第にござる。
 と,やっとドイツって言葉が出てきてご安心して頂いたところで何ですが――お話は,先昨年のイタリア,昨年のアメリカと同じく秋の博多から始まります。

 今気づいたが――イタリア・アメリカ・ドイツ。
 ずっと前の夏に回ったルーマニアから数えりゃあ,スラブ→ラテン(伊)→アングロサクソン(米)→ゲルマン(今回の独)――無意識ながら,民族的にうまく抽出して白人世界をつまみ食いしてるもんだな。
 てことは,一応,荒々に言えば…今回で一巡しちゃうってわけか?

 にしても今回の出発,どうも…異様に平然と腹が据わってる。
 高揚がない。
 ドイツ世界への執着(とゆーか,有り体に言えばドイツパンへの食欲)は物凄いんだけど,「まあ何とかなるんちゃう?」みたいな気分がある。客観的に見て――ちょっと危険な旅人状態かもです。
 かもですが,まあもう博多に着いてます。チケット通りに流されてけば,とりあえずフランクフルトには着いちゃう。途中トランジットする上海は,もう懐かしい街だし,空港も慣れてます。
 とゆーことで,右往左往して頑張るのはヨーロッパに着いてからってことにして,アジアじゃあ遊び呆ける往路かな(ちょっと川柳)。

 朝9時,長浜の鮮魚市場へ。
魚がし
海鮮丼 600円
 日本にいるうちに魚食っとかんと…とゆーとこで,昼時には行列が出来るこちらへ伺った。まあまあかのう?
 10時半,地下鉄で六本松へ。
 いかめしかった九大の建物が完全に撤去されてた!再開発か?と,この界隈の風情が好きなわしとしちゃヒヤリとしたが,大学だけらしい。この東側,「陸軍墓地入口」って石碑はチャンと残ってる。九州兵って強かったらしいからな。
 で,六本松にはここにしか来たことがないけど,
三共珈琲店
セレベス・カロシ 700円
 2,3年前に一度飲んだことあったと思う。けれど――何ちゅー苦味のふくよかさ。かなり強い味なんだけど,全然クドみに繋がらない。豆の力か,この店の豆選別の細やかさゆえか?
 珈琲の「コク」ってもののホントの意味を,初めて実感したような気がする。それは,甘味にすら感じられるほど,マッタリとしたコクが後味に長く尾をひき,フラットで途切れない。いや途切れないどころか,ぐいぐい複雑さを増して伸び広がってくような自己展開するコク…とゆーか,きっとこれがホントの珈琲のコクだったってことなんだと思う。
 このセレベス・カロシって豆はかなりの稀少種。ケータイで当たった他店の値を見ても,よく700円で飲ますもんだと思う。――インドネシアのセレベス島中央山岳地帯のみで,ごく少量産出されるコーヒー。マンデリンと双璧を成すインドネシアのアラビカコーヒーの代表銘柄。
「まろやかさの中にコクがひときわ際立」つといった表現が多いが,この豆,おそらく,わしら素人が淹れてもクドくなるだけだと思う。この三共の,悪豆を完全に除いてる自信ゆえの豆5割増しで点ててこそ,この味の陰影,この爽快感が浮き彫りにされるんでしょう。

 鼻炎気味につき,マツモトキヨシで風邪薬購入。機内での睡眠薬にも兼用する目算。
 12時ジャスト,地下鉄が福岡空港駅に滑り込む。
 テイクオフまで2時間を切った。チェックイン開始時間を過ぎた。少し遅れてる。
 12時11分,国際線ターミナル連絡バス乗車。小雨降り出す。
 20分,国際線ターミナル着。テイクオフまで100分やで,おいおいおい!
 手荷物チェックが長蛇の列。そうか上海経由だよ!中国人,お土産多いんだよな。チェックインは12時35分を回ってしまいました。こりゃあ真ん中席だな…と覚悟してカウンターで手続きに。
 窓際があっさり取れた。そうか,中国人,窓とか通路とかより知り合いとの並びを重視するんだろな。
 空港のトラベルグッズ売店で,WaterFrontの最小サイズの折り畳み傘を購入。日傘サイズで大の男にはカッコ悪いが,いざって時に何度も助けられた一品。直前にクラッシュしてたんで。
 13時ジャスト,55番ゲート待合スペースに入る。喫煙室にて安堵の一服。特に中国系が機内持込阻止にムキになってるライターも,ここだけの話だが無事。
 この上海便,最終目的地は武漢らしい。降り損ねたら物凄く面倒だが,まあそんなアホやるとは考えにくい。
 中国語の「白い恋人」CFが繰り返し流れてて耳につく。13時23分。そろそろボーディングタイム。ケータイの電源を落とそう。

 時差1時間。
 15時ジャストの現在,浦東空港敷地内をえらくスピード出して走ってくリムジンバスに揺られてます。
 8割が中国人ってとこ。
 イミグレ突破後,15時半発のリニアで市内へGo!
 いつもは不気味なほど静かな車内なんだが…本日は何か大騒ぎ。田舎めいた中国人のオヤジの一群が,逞しい,ほとんど雄叫びみたいな会話をされてる。リニアに乗りに来た農民の一団?日本の高度成長期にあった農協ツアーみたいな雰囲気か?
 ちなみに今わしの隣の席には,こちらも初めてのリニアらしい女の子4人組。言葉も仕草もファッションも都会人っぽいが,明らかに興奮を隠せない様子で全員がキョトキョトしながら,「降りる駅は?」とかみんなでガイドブックをチェックしてたりして,これはこれで可愛らしい。
 いずれも,現代中国っぽい人間相です。「初めてのお遣い」みたいな微笑ましさがあるが…ウルサくはある。

 15時50分,地下鉄2号線乗り換え。
 コインがなくて紙幣での支払いだったが,切符の自販機の半分以上が紙幣受入口不良で手間取る。やっぱ上海のホスピタリティは…まだまだ中国。変わってねー!と少し嬉しい。
 車内はかなりガラガラだったが,世界大道でドッと入って立ち客まで出る。外灘の東岸地域,かなり生活圏化してきた臭いがします。
 地下鉄内に乞食が回って来る。鉄道内で物乞いって…インド以来じゃないか?
 16時5分,南京東路着。福岡空港インから4時間ちょいでこの雑踏に還って来た。

▲五芳香の菜肉大饅頭

 東路駅から南へ10分ほど歩く。
五芳香
菜肉大饅頭 10元
 客よりも,だらけてる店員の数多し。でも雰囲気は典型的な大衆食堂。社員食堂みたいな粗末な長椅子とテーブルがだだっ広く連なる感じがいい。
 お味は…塩味!?それがうっすらと化学調味料ではない椎茸と蛯の香りを宿してる?どうも,ワンタンの中の僅かな肉が,イタリアンやケイジャンのソーセージみたいな中華ハムで,そこからもコクが流れ出てるみたい。香港より,遥かに日本のダシの感覚に近い。しかもそれを邪魔しないように,辣醤も中華スパイスもほとんど入らない。
 上海中華って…おそらく台湾もその類だと思うが,わし全然その底を味わえてなかったんじゃないか?
 台湾にも近々再訪してみる価値があるかも知れない。

 以前行ったグリーンマッサージに伺ってみたら,物凄い外人用リッチ仕様の店に変わってました。
 一番安いので528元とか?マジっすか!?日本より高いぞ?
 それでも外国人がウジャウジャと満員っぽい盛況ぶり。趣味じゃないんで,そーと料金表を置いて逃げ出す。
 黄[耳皮]南路駅から1号線,[ギョウニンベン+余]家[シ区-メ]駅で9号線に乗り換えて打浦橋へ。
 話題になってきたと聞く田子坊というエリアへ行ってみる。

▲q’s coffeeの[丘耳]公館自家庄園精品鉄華[上/下]と現[火考]熱巧克力

 田子坊は,偶然だが日が落ちてから訪れて大正解でした。
 映画村みたいな古い胡同の雰囲気の中に,バーとかイタ飯屋,それとなぜかタイ料理店が目立つ優雅なエリア。本気で歩くには,やっぱ少しチャチな感じは拭えんかもしれんが,デートのセッティングとしてはまあまあか?
 奥の方にあった「q’s coffee」というコーヒー屋に落ち着く。
[丘耳]公館自家庄園精品鉄華[上/下] 35元
現[火考]熱巧克力 30元
 つまりはコーヒーとケーキなんだが…コーヒーは「自家庄園精品」とあるように,雲南の方のコーヒー園で採れたのを出してるらしい。この店はその「[丘耳]公館」という農園のアンテナショップってとこなんでしょう。
 ケーキは,少数民族らしき笑顔の可愛いお姉ちゃんがオススメしてくれました。日本で過疎の村が都会に出してる産品店のような性格もありそうで…いずれにしても中国でそんな出店感覚が生まれてるって事実が意外でした。
 コーヒーはまろやかな苦味。渋みはほとんどない。生々しい,野生味とゆーより優しくたおやかなアロマで満たされる不思議な一杯でした。
 チョコケーキの方は,ケーキとしては素人チックだが,半分プディングみたいな中途半端さが妙に気に入りました。
 やっぱりここは,カップルで訪れると最高だと思う…。

 9号線で世界大道へ,2号線乗り換えで南京東路へ…と思ったが,人民公園から夜の雑踏を歩いてみたくなった。
 陸家浜路で8号線乗り換え,人民公園へ。

▲小柳生煎の生煎

 3度目になるだろうか?南京西路の本店も入れたら4度目?
 グルメストリート黄河路の小柳生煎。
4個1両 6元
 やはり暴力的!荒くて脂ギッシュで直球の「肉!」一本勝負の一品。でも…これ食わないともはや上海来た気がしないんだなこれが。
 東路駅近くのいつものマッサージ屋で足裏を30分。ここもいい。やっぱりここで揉まれんと,上海来た気がしないんだなこれが。

▲深夜の上海国際空港連絡通路

 とかやってたら夜もふけて参りまして,リニアの最終便ギリギリになってしまいました。
 上海国際空港に戻ったのは22時半。ごった返してるのしか見たことがないこの空港も,こんな時間には客も係員もコワいほどめっきり減ってます。
 大急ぎでイミグレ通ってたりしてたら,やっぱヒマなんだろか?こちらに隙があったのか?ついにライターを見つけられて,ヒステリックそうなお姉ちゃんにキイキイ言われつつ,一つ残らず巻き上げられちゃいました。
 ライターを巻き上げられて行くドイツ(ちょっと川柳)
 深夜の翼は西へ。長い夜が明けたら3度目のヨーロッパです。

§SixWord:人通りの少ない道でいまも迷ってる。