外伝11 獨 There will be no beautiful corpse.
ドレスデン→ベルリン

▲(2020年のもので当時のじゃないですが・・・)大体こんな経路のドレスデン→ベルリン鉄道ルートです。イメージと違うのが,真北だということ。

 8時に宿をチェックアウト。
 一昨日,昨日以上に劇睡。フランクフルトからチェコ回りのベルリン強行ルート,流石に疲れが溜まってる。鼻風邪がおさまらない。今日のベルリンインでとりあえず一休みしよう。
 トラム3番でひとまず駅へ。コインロッカーにリュックを納める。3ε。
 アルトマルクト(中央市場みたいな意味か?)辺りまで歩く。完全な再開発エリアっぽい。旧市街と同じく,ど真ん中の軸を広々した歩行者用の緑地ベルトにしちゃってる。繰り返しだけどこの発想は,凄い生活主義的で,日本人的には驚きです。

▲Krentzkammのバウムクーヘンをコーヒーで頂く。

 9時半,Krentzkammへ。イートインの出来るケーキ屋さん…というかドイツのケーキ屋さんは大抵中で食べてける。
Baumkuchen mit Vanilleglasur 80g 3.50ε
Tasse kaffee 2.00ε
 純白のクロスに覆われた品のいいテーブル席。計12席ほどか。腰を下ろすと駆け寄る注文取りのオバ様。威厳たっぷし,体格でっぷり。腰を下ろしたんなら高いもん食えよお!!的オーラがギンギンギラギラ。それでいて表情は,いかにも商売なので取って作りましたが何か?って満面の笑顔。歴史やなあ…ってことにして注文。
 うむう,コーヒーは大したことないな…とバウムクーヘンに取りかかる。
 おおッこれはぁ…全然,普通のバウムクーヘンやがな。
 甘味が薄くて上品なカステラってとこか…と拍子抜けして食い進むうち,違和感に気づいてく。――口に含んだ一瞬。その一瞬だけ膨らむ,ジンジャーのような香気。でもジンジャーじゃないっぽいぞ?生地にごく少量含まれた,何か柑橘系の粒から立ち上る痺れるような酸味。と言えば柚子っぽいけど柚子でもない。そして,微妙な焼け具合の違うカステラ生地の,各層の甘味と焦げ味の僅かなズレ。それらがもたらすコーラスのような複雑味。
 この辺りまで舌を澄ませたところで,コーヒーの絶妙さにも気づく。
 渋みと苦味は極力薄めに,コクだけは端正に,しかしふくよかに。そんな,バウムクーヘンの軽やかな合唱曲を壊さない,いいところにコントロールされたコーヒーらしい。そして,そういうものとして舌が準備を整えてしまえば…これが,実に美味いんである!
 どうも,注文時に「mit Vanilleglasur」が通じなかったらしく,バニラは付いて来なかった(今でも発音が分からん)。付かなかったから舌を澄ますことも出来たわけだが,バニラ付けたらどうだったんだろ?レアなブルーベリーソースとか,トルコ系のアイスクリームでも合うかもしれないぞ。
 しかし…ドイツの味覚ってここまで端正なんだなあ。再認識させられる一皿でありました。

▲ロールキャベツ(ベルリン)
 詳細は次章,ベルリン初日編を待て!!

 ドレスデン駅へ。予定の列車は11時04分発Hamburg Altona。ベルリンへの直行便です。電光表示で17番ホーム発を確認する。
 しかし…この駅,でかっ。うろついて見て実感する。2階建てで,ホームは2階部分に2カ所,19番ホームまであります。
 10時35分,まだ時間があるんでMarcheというレストランの出店でエスプレッソを飲んでみる。シングル2.20ε,安くはないな。味はまあまあだが,酸味が強すぎるしコクはない。ドイツではタッセ・カッフェ(ブラックコーヒーらしい)の方が高質か?
 と…思いつつ飲み干した後で,それは来た。淡い,けれども?この,深く匂って拡散するようなコクは何だ?こんなの…エスプレッソで味わったことないぞ?
 おそらく。これはドイツのカッフェ特有のあの深い芳香が,エスプレッソでも嗜好されてしまってるとゆーことなんだと思う。
 コーヒー消費大国ドイツ,その嗜好は思いがけず――言うなら「お抹茶コーヒー」とでも表現すべき味覚みたい。淡白に濃ゆいと言うか…。

▲カリーヴルスト(ベルリン)
 詳細は次章,怒涛のベルリン初日編を待て!!

 10時55分を過ぎたが列車が来ない。
 うーむ。なかなかに焦ってます。
 皆さん待ってるし電光表示でもホームに間違いない。じゃあ何を焦ってるかと言えば――本日は殊更ションベンが近い。無性にソワソワする。要するに,列車とゆーより…小便器はまだか,便器は!!?
 駅にトイレはもちろんあるけど列車はいつ来てもおかしくないホームの空気だし,頻尿で乗り遅れたり独列車,とか一句読む事態は惨め過ぎる。
 何より――さっきのアルトマルクト地下でも0.30ε。こちとら緊急事態宣言なんで5εでも払うと思うけど…トイレで金取るってのは,深夜のボッタクリなタクシーみたいなもんであると強く抗議したい。
 ただ,この職って所要の人数とスキルから考えたら公共の失業対策としては有効かも。日本でもそろそろどーでしょうか?
 とか思考を紛らわして11時03分――まだじゃあ!まだ来ない!…ソワソワ。
 見下ろしたホームに数人の自転車転がしが歩いてます。ドイツを自転車で,時々列車に乗せながら走り回ったら――これはなかなか最高だろーな!
 夢のような次回の旅行プランを麻薬に,非合法的力技で尿意をねじ伏せて11時11分――まだ列車入らず。けどデレイト表示らしいのも出ない。ゾワゾワゾワ。
 11時20分,彼方に現れた列車の姿は,そりゃもう神でありました。救い主である。唯一絶対神と言ってもいい。
 乗車。しかし列車の停車中ってのは置き引きの最大の狙い目。治安の程度が計り難い海外では,荷のそばを離れるべきじゃない。べきじゃないんだが――緊急事態レッド。
 動き出したのは11時40分近く。ガタンと来るや否や,腰を浮かせてトイレにダッシュ…しかけたら車内アナウンスが始まる。英語っぽい。この類の放送は時に死活を分ける情報だったりする。ゾワッゾワッゾワッ。
 あまり頼りにならん英語ヒアリング力をゾワつきに耐えうる限り稼動させると――「さあ皆さん,食堂車がオープンしましたよ!!本日のお薦めは…」ってそんなんわざわざ英語で客寄せすんなあ!!
 今度こそダッシュ。
 ジョボジョボジョボ…あ~気分爽快!パンパカパーン!という感じで,ついにベルリンが近づいてきたんである。
 ここまで詳述しといて何ですが,ある疑念が,ふつふつと湧き上がってきた。この体験はドイツ紀行文として記述する必然性に欠けるのでは?てゆーか,外伝各章に漏れなく登場してるエピソードなんでは?
 いや!!!そんなことはない。漏れなく登場どころか今しがた漏れそうだったんだから間違いない。
 安心感の余り思考が混乱してるようだけど,まあベルリンに向かってます。

▲ブロートフェン(ベルリン)
 詳細は次章,阿鼻叫喚のベルリン初日編を待て!!

 13時半前。ベルリン駅に着いた。
 着いたと思う。駅構内の表示でも車内電光表示でも,それは間違いない。
 なのに!全く実感が湧かない!
 つい2分ほど前までの車窓は,牧場か森みたいな光景。
 統一ドイツ成立から20年。ベルリンが一国の首都になったのは最近ってわけじゃない。そろそろ着こうって段になればしばらく都会っぽい街並みが続いてからでしょ?――だからてっきり列車が遅れとんのかと思ってたのよ。
 これまで入ったどの首都より,「あ~あ~果てしないい~」感…類示が古過ぎならば「都会に着いた!」感が,薄い。ってか,全くない。あえて近いのはクアラルンプール?駅ホームも,プラハなんかより遥かにこじんまりしてます。
 ただ,駅に降りてからは逆に圧倒される。
 一昨日の大阪オヤジの言う通り,上下の階に機能が分化されてる。列車が入った地下から,2階のSバーンホームまでフロア中央の見晴らしのいいエスカレーターで移動してくと,この駅の極めてハイブリッドな構造が実感できた。▲ハイブリッドな構造のベルリン中央駅ホーム(再掲)
 床面積は小さいけど,これは慣れたらかなり使い易いぞ?――つまり,ドイツ人っぽいクソ合理主義の表出であると同時に,ベタベタに生活者視点。階毎の機能分化は台北や,首都以外では重慶北など例はあるんだが,ユーザーには分かりにくい。
 ターゲルカルテ(1日乗車券)の購入マシンを探すが,語学力的に無理でした。結局,有人窓口で説明を聞いてから3枚買った。3日有効のシティツアーカルテとゆうのもあって比較したところ,博物館とかを見ないなら3枚買いが安いと判断。1枚6.8ε。少し高いけどSバーン全域有効だから使えるエリアは広い。

 さてとりあえず宿確保です。アレキサンダープラッツという駅を目指す。
 Sバーンだけどどの列車か分からん。ウロウロした挙げ句に乗車したら,ヴァリデイトのマシーンに通すのを忘れてたりしたけど,まあ何とか移動できた。
 車道より一層上の高さのレールを動く。高層ビルがニョキニョキ,という景観は全くない。こじんまりとした,日本の感覚で類推すれば田舎街にしか見えん。これは…街作りそのものの発想が違う。
 アレキサンダープラッツ周辺の宿を2件回る。――全滅。一応料金を聞くと,価格自体は普通みたいだから見本市で特別な状況ってわけじゃないらしい。日頃から混んでて予約しとかない奴が悪い,という昨年のニューヨーク的状況みたい。
 一服しつつ考える。精神力と体力と時間はまだあると思う。
 U2でポツダマープラッツの次,Mendelssohn-Bartholdy-Parkへ。
 長い駅名を何度か暗唱してて気がついたが――ああっ?ここってメンデルスゾーンの生誕地なのか!
 ポツダマープラッツは相当開発の進んだエリア。日本その他のアジアで言う都会に近い。なのに1駅行っただけのメンデルスゾーンは,緑と水辺の豊かな,不安を覚えるほどに閑静な一帯でした。
 結果から言えば。この優雅な街がベルリンでの全3泊の我が根城になったんでした。

▲いちぢくヨーグルト(ベルリン)
 詳細は次章,人間万事塞翁が馬(だからどうゆー意味よ!?)ベルリン初日編を待て!!

 Mendelssohn-Bartholdy-Park駅のホームからは,直接川の鉄橋歩道に続いてました。
 幅20mもない川を歩いて越えると立体駐車場の3階に入る。ここから階段で地上に降り,アパートが多い生活感たっぷりなブロックに少し分け入ったLutzowstraBeという通りへ。そのさらに脇道,Bissingzeileを入った突き当たりの公園そばに,目的のフィヨルドというホテルはあった。普通のアパートとしか見えない建物だったけど,中に入るとエレガンスなフロント。物腰柔らかなお兄様が対応に立つ。

 けれども…やっぱり満室。
 歩き方でチェックしてたベルリンの宿は,これでもう持ち駒が尽きた。明日と明後日は空いてるそうだから予約を入れとく。で問題は今日だけど――1日乗車券の使えるSバーンの最遠,隣町ポツダムに移動して初日を乗り切るしかないか!?
 駅に帰ろうとLutzowstraBeに出て…一応キョロキョロと周囲をチェックしてみる。
 あれは…ホテルか?
 フィヨルドの通りの対面の少し離れた辺りに,さりげなくTiergartenという看板が出てる。ダメ元で入ってみた。
 フィヨルドとはうって変わって,えらく雑然とした宿。書類がちらばるカウンターに眠そうなオヤジが一人。へ…部屋ってありますか!?
 すると「あ?まあ,あるよ。凄く狭い部屋だけど…」と意外に気のいい雰囲気で,オッサン,30εの宿を呉れました。――普通は47(冬期37)εらしいが,十分なビジネスホテル並!テレビはないし迷路みたいな館内だけど,3泊しようかどうか迷ったくらいのCPでした。
 結果的に,かなりラッキーな巡り合わせだったと思う。今回の旅はまだまだ旅行神に祝福されてる。
 3泊分の根城はキープ!さあベルリン歩きじゃ!

§SixWord:美しい死体なんてありえない。