油煳干青∈外伝12∈辣∋壱月参号 成都最終日∋糟酸麻蒜

▲茶荘(販売のみ版)の外観

 早朝から麻雀やってる!
 朝7時過ぎ,宿の隣の茶庄の明かりがついてる。まさかと思って覗きこんだら…ジャラジャラジャラ!徹マン臭い?
 日本でも思うけど,あのジャラジャラ音はシャブ並みの覚醒効果を持っており,違法性の有無が年内に結論を出すとしている(誰が?)。

 8時前の文殊坊を通り抜ける。朝通るのは初めてだったけど,空気はまだやっとお目覚め段階。生活臭は感じられない。
 文殊院前に「四川省民族工作委員会」という看板が掲げてある。塀に囲まれたいかにも官舎的施設。少数民族問題が絶えないこのエリアで何を工作するのか…と考えると非常に不気味。
 しかし――何にせよ,こんな観光地の真ん中に堂々と看板掲げてて,工作は成功するのか?その辺もまた非常に怪しい。

 地下鉄「[イ睨-目]家橋」駅へ。…っていうか,この「[イ睨-目]」字は何だ?――駅名表示ではピンインは「ni」,アナウンスでは第三声みたいだが,意味も用例も想像できないこんな漢字が簡体字の国でも残ってる。成都らしいのか,どうか?
 駅名と言えば…途中の「[馬累]馬市」ってローマシと発音するらしい。オードリーがジェラート食べた階段が有名である。
 現地語ネタはかくも尽きないけれども,目指したのは王林総合市場。
 行ってみると,王林市場の賑わいはなぜか全くなく,朝の寂しい普通の住宅地でした。どうなってる?
 [イ睨-目]家橋から天府広場へ引き返す。ただ,この繁華街も朝は期待薄いかなあ。
 本日の帰国フライトは13時半。2時間前の11時半の空港到着を目指すとして,10時半には[山民]山飯店前のリムジンバスの発着地にいた方がいい。だから,まあそれまで3時間程度の朝の散歩だが…出来れば何か食いたいなあ。

▲洞子口張老二涼粉の煮涼粉

 春熙路はやっぱりまだ眠りの中。文殊院へ引き上げ。
洞子口張老二涼粉
煮涼粉 5.5元
 冷えた涼粉に辣子をどばっとかけただけ。なんだかなあ…と思ったが人が集まるだけはあって,粉の緩いプニュプニュは素晴らしい!
 麻が効いてると言っても「どばっ」だからそんな技巧的じゃないんだが,どうも粉の中から何とも爽やかな甘味が湧いてくる気がした。何がどう作ってあるのか全く分からん。ひょっとしたらずん太い四角い麺の中部分の新鮮さが生きて来る仕組みかもしれんが…確かに魅力的な粉です。

▲龍[テヘン+少]手食府の龍[テヘン+少]手(小)

 その向かいの店へハシゴする。
龍[テヘン+少]手食府
龍[テヘン+少]手(小)6元
 あ,ここも開いてる,とふらっと入っただけなのに…細やかな技術を持ってそうな老舗でした。入ってまっすぐがカウンターになってて,マック的に注文させる違和感も面白い。
 新南門での印象と全くちがい,麻婆の全くない味でした。しかもスープは…豚骨か?これは…小麦の麺入れたら博多ラーメンになるぞ?
 ワンタンのぷよぷよは食べ慣れた食感だけど,中の肉のアッサリさは何だ?
 どうも…豚肉らしいんだけど,中華スパイスで限りなく肉じみた荒さの角を取ってある,形象的に言えばそんな味になってるらしい。
 そう味わっていくと,この白濁した湯も,博多ラーメンを入れてもパンチに欠けることが想像出来てきた。香油はほんのわずかだし,薬味もないから,麺と食うにはインパクトが足るまい。
 しかし,和食より柔らかい味覚をこの四川で最後に味わうとは…。
 広東の薄さとは違う。中華スパイス自体はかなり濃いんである。出汁のさらに下の層というわけでもなく,むしろ浅い層の味です。
 四川の味覚は分かりやすい。分かりやすいのに,じゃあ何なんだと考えたら全然分からない。この浅い複雑味みたいなものが,この蜀国の味覚らしいんである。
 そのことは,例えばこの時みたいに博多の味覚に比べたら本当によく分かる。

 ホテルを退房(チェックアウト)したのは10時半近くなってた。まあ騒ぐほどの遅れじゃない…とビビる心を落ち着けつつ。
 10時40分,地鉄文殊院駅ホーム。
 乗り込んだ地下鉄車内に「松橋生活電器」(英語商標:MATUBA)なるメーカーの広告あり。蘇寧電器SUNINGという紛れもない中国メーカーの…愛称か?www.suning.com
 地下鉄を降りて[山民]山飯店へ。
 飯店北脇の道から,まさに発車しようとしてたリムジンバスに飛び乗る。10時55分,成都を後に。
 路線番号は303,会社名は金旅客車。人民路の反対側から乗れる300路のバス――来た時に乗った路線とは全く違って日本の長距離バスクラスの車体。走ってて危なげがない。しかもアナウンスによるとノンストップみたい。こっちのもんやがな!
 人民路を延々南下したらしいが,安心したんでしばしまどろむ。
 11時20分,空港着…って早過ぎやがな!

 国内線に該当フライトが見つからない。
 案内できくと,チェックインは国際線用カウンターらしい。探すとちゃんと「広島」表示のカウンターがあった。
 あったけど没人(誰もいない)。さっきのカウンターのお姉さんが可愛いかったんで(…は関係ないけど)再度お伺いしてきいてみる。12時15分,つまり1時間20分前から手続き開始するとのこと。体制だけは国内線な,国際線カウンターらしい。

▲林[屯頁]利珈琲
特級雪芽机場茶

 かくして。
 朝あんなに急いでたのがバカバカしくなるほど,突如として暇になりました。
 茶店でもないか…とロビーをうろつくと。
 あります。しかも中国茶メニュー有!
林[屯頁]利珈琲
特級雪芽机場茶 45元
 時間潰しにしては高くついてますが…こりゃまた変わった茶です。
 緑茶には間違いないんだが,渋みは薄く,香りが重~くたゆたう。決して不味いわけじゃなく,しっとりした渋甘さが静かに染み渡って,すごく落ち着く味です。
 この国の茶は,一体のべ何人のお茶飲みに磨かれた味なんだろう?そう思えば,もう無限に分化して当たり前なんですが。
 例によって,湯はなんぼでも継ぎ足しに来てくれる。今回最後の一杯,時間ギリギリまで味わいました。

 12時20分,チェックイン…しようとカウンターに行ったら,まだ係員がいない。
 キョロキョロしてたらようやくキビキビしたお姉様が近づいてきた。急ぐ気もないようだし,まあ他に利用者もいないみたいだし。しばらく雑談してました。
 四川人――悪ぶった荒さはない。かと言って京都や広東みたいなかしこまった上品さもない。どこまでも俗っぽく分かりやすく平然としたスタンスを,ひょっとして世界一古いかもしれないこの蜀国が取ってる――このことの物凄さ。
 この腐らない古いエリアは,まだまだ変わり続けるのでしょうか。
 とか感慨に浸ってると,時計をチラチラ見てたお姉さん,唐突に1時にその辺に来いと宣告。勝手にボーディングするなということか?他に来るはずの誰かが来ないのか?その辺が分からんので,この集合時間の逐次繰り下げが何とも理解し辛い。
 振り返ったらカウンターの広島表示は消えてしまった。成都発広島行きはわししかおらんのか,ひょっとして?じゃあお姉さんと二人きり?おおっ旅の最後の運命の出会いみたいな?
 ――と思ったら,1時にまた来たら3人男が集まってて,さっきの広島表示は何だったんだろうとか二人じゃなくてがっくりというか,様々な感慨を胸に,成都空港を後にしたのでありました。
 ちなみにこの後,乗換地・上海でもお姉さんに覚えきれんような通路をあっちやこっちやと連れまわされて,何か色々無理の多い…まあある意味中国らしいトランジットでした。

 北京,上海,広東。四川人の手応えがそのいずれの中国人とも違ってたことに,今更ながら驚いてます。
 昨日のごく短い滞在の印象だと,重慶はむしろ上海的なチャキチャキ感覚がある。
 変わってなければだけど…すぐ北の西安とも,近いようで違う。武漢に似てる手応えがあります。
 腰が座ってるというか…軽薄でありながらチョロチョロしない。単に利に聡いとか金銭欲の塊とかって気配がない。
 情は濃く落ち着いてる印象ながら,日本人ほどそれが湿っぽくもない。歴史がもたらすあらゆる矛盾にも感情的になることなく,乾いた合理で一歩ずつ進んでる,腰の座った眼ざし――?
 これと同じイメージを,わしはかつて持ったことがある。中国留学帰路,大同を回った時の印象だった。
 おそらく,共産革命以前にこの大陸にいた中国人。
 歴史の古さと中央からの距離ゆえに,比較的漢民族の「生きた化石」たりえているのが,四川人なんじゃないか?※――広東もそうかもしれないが,かの土地はまた別の影響を受けて歴史に洗われてきたところがある。
 四川の地名の由来には諸説あるけれど,盆地に流れこむ長江の四つの支流,岷江,沱江,嘉陵江,烏江(烏江の代わりに長江を入れる説,大渡河を入れる説ももある)を言ったものだと言う。
 いくつもの流れに磨かれてきた玉のような土地。10年くらい経ってまた訪れるのを楽しみにしたい土地です。

▲エンドロール:「茶」

[後日談]残念ながら・・・本当に四川人が三星堆の太古から生き継がれてきた人々なら好いとどれだけ思うか知れませんが,本文に書いた10年後の四川再訪時には,到着前からこれとは全く逆の事実を念頭に置いていました。四川は,この初訪時には思いもよらなかったほど,つまり感傷的に締められないような,もっと爆発的は風土だったのでした。
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 /填四川:[主旨]四川では清初に大虐殺があった。一説では9割が死滅し,現在の四川人は大半が他地からの植民者である。
 /唐辛子ヌーベルの発生環境:[主旨]四川料理の破滅的麻辣は,上記の文化的壊滅とリンクされたものではないか?