外伝05O・紹興其之一ヰ 安微浙江遠討編・星期天 ヰ
紹興老城水郷に更に遊ぶ

▲宿の朝飯(バイキング)

 朝7時。追い山出走22時間前。
 これも普段まずやらないんだけど,宿の朝ごはんを食ってみた。中華粥があるらしいし,粥+バイキングの朝飯は以前高雄で感動したことがあって,もしやと賭けてみたわけですが──。
ホテルの朝食 400kcal
白粥
黒い木の芽煮
白菜水煮
酸っぱい漬け物
白菜らしきさっぱり漬け物
茶蛋
中華ハム
 大当たり!
 広東粥はともかく,中華の白粥って,特に何を入れたとも思えないのに何でこんなに美味いんだろう?これが米の旨味を引き出した甘さと芳しさだったら,まさに京都メシ並みのストイックさです。
 煮物もイケたけど,ほとんど感動的だったのは漬け物。ウメ~!軽く唐辛子味を加えただけなのに,それと酸味のバランスがすさまじいまでに整ってる!
 最近,徐々に目覚め始めてる茶蛋。ここのも卵味の背後からチラチラ見え隠れする苦味というか滋味というか…見てくれの薄汚さからは考えられない美味。ウマいというより美しい味です。ブルーハーツ的に,ドブネズミみたいに美しい味というか…。
 そうか。この表現は,結構,大陸中華全般に共通するかもです。

 広寧橋まで歩く。
 腹ごなし,のつもりだったけど,結局午前中の空き時間のほとんどを歩き通してしまいました。
 本当にこの街ときたら…「汎ニッポン」めいた当たり前のビル街から一歩入った路地に,忽然として石畳の長屋街が現れ出で,上半身裸のオヤジが賭けトランプやってたりする「ド中国」が顔を覗かせるんである。老街を守る意識が芽生える時代になってから経済発展の時期を迎えた,そのタイミングの良さが幸いしてるんでしょうか?──中国の多くの老城に共通してる,このタイミングの悪さ。つまり,歴史的景観が二度と回復できない価値を持つと気付く前に,経済成長による開発の波が町並みを「ニッポン化」しつくしてたという悲惨な成り行き。それをなぜかこの街は避け得たように見えます。
 単に古いとか風情があるとかじゃない。こんなに自然な老街が残ってる街って,中国ではちょっとないんじゃないだろか?
「自然」と書いた意味は,老街にちゃんと普通の生活があるということ。飯屋や服屋──時々老街のただなかにマネキンの笑顔がぬるりと出現してビックリする──のほか,足浴と銘打つ明らかにお水な謎の店もちらほら。
 昨日歩いた観光地側には,風情を生かしたオサレな喫茶店や小物屋も出来てます。
 中興中路に至る。
 ここにも地下に,昨日立ち寄ったローカルスーパー「浙江供[金肖]」がありました。…と思ってたら,何かこのエリアには大通りごとにある頻度です。
 inm一鳴真鮮[女乃][口巴]という店に,入るかどうか迷った。牛乳屋の出した軽食店舗らしい。つまり,こういうローカルなビジネスが竹の子のように出て来てるのが浙江の産業界らしい。

 少し北側に進路を取って戻り始めると,粛山街という北にまっすぐ延びる道に出る。道は[サ/加/取]山(何て読むのか想像もつかん)へまっすぐ伸びてて,参道を推測させる。広めの石畳の道,往事には市だったらしき空気も窺えました。
 昨日の魯迅西路の南が夢門[田反],南北の道が厄橋直街,新河弄の西が呂府という場所らしい。──呂府?これって三国志の人物名じゃなくて地名だよな?

▲中青坊の油[火乍]臭豆腐

 昨日一応聞いておいたんですが,昨夜のお店「中青坊」は朝10時から開店とのこと。
 開店間際にここで食ってからタクシーで紹興北[立占],新幹線で上海へ動いて帰国。これがこの日の行程イメージでした。
 予定通りの10時に中青坊に入る。さすがに誰もおられません。客はもちろん…従業員もか?
 と思ったけど,中国には珍しく一応,一人が注文を取りに来てくれました。来てはくれたので,露骨に嫌そうな態度にも感謝したくなります。
偏干茶樹[サ/姑]22元
油[火乍]臭豆腐15元
白米飯40元 600kcal(1000)
 狙ってた紹興名菜・干菜[火門>心]肉が無かったもんで,文字ヅラの似た感じのを頼んだのが茶樹だけど…しかも頼んでから,茶樹が一昨日失敗したあの素材と気付いたんだけど,結果的にはかなりウマかった。
 野菜炒めと言えばそうなんだけど,薄く黒酢めいた調味料,それに加え,茶樹の山菜みたいな食感の歯応えがスゴくマッチしてます。
 噛み締め続けると,しんしんと味覚に彫り込まれていく深みと,ハーブっぱい苦味に気づかされます。でも食べたことのない複雑味で…何て言えばいいんだか。
 臭豆腐,これは料理そのものは全然浙江じゃないんだけど,もう流石の一言。
 酸味と臭みは昨日のよりはやや淡いのに,噛み締めるうちに鼻孔を突くふくよかな香りときたら…アルコールは頼んでませんが,ホロ酔いしてしまいそうです。
 あと,これ意外にも…ご飯に合う!何で?こんなに臭いのに?──朝から納豆食う日本人みたいなもんか?もしくはクサヤを食す関東人みたいな?
 会計で,昨日最初に出てきた感じいいオバチャンが「ヨンジュウ!」とたどたどしく勘定してくれた。もしかして昨夜覚えたてか?

▲中青坊の偏干茶樹[サ/姑]

 宿で荷物をピックアップしてタクシーに飛び乗る。50元で紹興北[立占]までの交渉を成立させて発車。市内移動というより,ちょっとしたショートトリップです。
 紹興の街を後にしたのが10時49分。明朝4時59分の一番山笠出走まで,残り18時間10分。
 鈍行の線路をくぐると,湖に囲まれた高層ビルだらけのエリア。この辺りは昨日バスターミナルから来るとき通ったが,本当に夢のような風景です。ただ例の花園,つまり周囲を壁で囲まれたガードマン付きの施設城塞都市が続きます。
 この偽りの花園エリアを過ぎると,次には一面の開発エリア。完成してる建物はほとんどないけど,巨大な建築現場が無数に見えてます。「街が出来る 新しい街が」の札幌じゃないけど,日本の経済成長期もこんなだったんでしょうか?
 何とか村という看板をいくつか過ぎる。体育館など公共施設のデカい姿が目立つ。道路は片側4車線とかなりいい(銭陶路という道らしい)から,行政が明らかに市街地の展開方向に定めてるわけです。
 [立占]前大道という片側2車線道路に左折。周りは何もない。
 右手に新幹線類似の高架が見えた。前方に突如ビル街。新築の学校,アパート。文字通りの人造都市です。
 タクシーがブッ飛ばしたからでしょうか?20分で着いてしまった。宿のオバサンの40~50分という言葉に怯えて急いだんだけど。
「太快!」(むっちゃ速かった)と降り際に讃辞を送ると,「如我也初次」(俺も初めて来たからね)とのこと。ええっ…!?それでよく引き受けたなオヤジ!
 つまりこの辺り,まだ誰も知らんような新天地らしい。
 タクを降りて駅までの滑走路みたいな無人の道を歩きながら感慨に浸る。
 何でこんなとこに駅を作るんだ?──というのが10年先に戯言になってるかどうか楽しみです。日本なら間違いなく「税金の無駄使い」とワイドショーとかが叩きまくるでしょう。目に浮かぶようです。
 台湾新幹線駅も想起した。多少は現在の生活エリアから無駄に思えてでも,10年先への投資としては元をとる構想。
 秦の始皇帝や隋の煬帝が行った長城や運河の大工事は,国を滅ぼすほどの反感を巻き起こした。けれどその遺産は,その後千年以上,経済・軍事の効果をもたらしたのみならず,大げさに言えば一つの構造体としての中国の枠組みを支え続けた。
 今の日本に絶対にない,一見無謀な,いや横暴と言ってもいい長期戦略眼が,次の千年紀の中国を作り上げつつある。
 現代の京杭大運河に乗って,帰国の途に着こう。

 G7510上海虹橋行きは,開点(発車時刻)がどんどん遅れて12時24分になってます。
 着いてから1時間経過。…てゆーか,全然急ぐ必要無かったやんけ!
 やっとプラットホームへ上がる。──隣に客運高鉄[立占]というでかいビルが出来てた。ただしバスの姿は3台ほど。とてもまともに運行してる気配なし。
 12時30分ジャスト発…の直前に無人の16両列車が入ってきて,全然停車位置が違うから皆さん走りまくって3号車にたどり着いたら,ドアが開くことなく走り去る。こういうドッキリみたいなことは,頼むから止めてほしい。
 どうやら目当ての列車は8両編成だったらしい。その辺まで日本の新幹線と同じにするんなら,もう少しだけ運用をまともにしてくれよん。
 追い山出走16時間半前。
 杭州前でこの新幹線高架の左右に同じような高架が5本併走する風景になった。え!?何をするつもりだ中国高鉄。
 12時55分,杭州東[立占]。やはり西回りらしい。寧波の橋を渡るにはどのルートを使えばよかったんだろう?
 次の駅で「邪神なんじゃあ!」だとアナウンス。運転手が電波にやられたんか?と身構えたけど,13時20分に着いたのは「嘉興南[立占]」(ジャシンナンジャン)。この駅も周りが寂し過ぎの共産政策駅。
 14時ジャスト,上海虹橋(ピンインはホン2シャオ2でいいらしい)着。追い山出走まで残り15時間。

▲[竹/快]将軍の香[サ/姑]滑鶏客套

 龍陽路駅でリニアに乗り換えがてら,[竹/快]将軍に入る。
 上海での列車から飛行機への僅かな時間に,南京東路のラッフルズシティ6階の50元フードコートを狙えないか──という野望もあったけど,やや時間が危ないので止むなく夢と散る。その代替…にしては弱いが,通りすがった中華系ファミレスをもう一軒という飛び込み企画。
香[サ/姑]滑鶏客套20元
650-飯半分125=525kcal(1525)
「香[サ/姑]」はトマトだったか?「滑」が不明だが…トマトで滑ったニワトリ!?
 出たとこ勝負な割には,なかなかのお味ではありました。骨付きの鶏肉はほろほろだし,椎茸とシナチクにはよく味が染みてる。トーンは,中華スパイスを感じさせない上海系か。
 ただやはり,先入観からか…どうしても工場製品っぽい。丁寧さとか手作り感とかを言えば,機内食よりは少しましというとこ。中華ファーストフードには店内でちゃんと調理してるとこと,そうじゃない「工場直送パックを電子でチン」方式があるみたい。日本でもそれはそうだけど,中国のは後者が極端化してるように感じた。当然その味には限界がある。

 15時45分発の磁浮(リニア)で龍陽路を後に。
 磁浮…ピンインは「ci2 fu2」か。救急車のサイレンみたい。やっぱMaglevマグレヴという英語表示の方が頭に残るけど…未来のアジアではこの漢字二文字の方が流通してんだろな。
 しかし,今回もやはりギリギリになってしまったなあ…。追い山出走まで13時間とちょっと。
 今回のタックスヘブンのタバコは「雲煙」と「峰」。

▲見本市会場みたいな構造の上海国際空港

 ボーディングゲート214番に並んでたら,お急ぎメンバーとしてアナウンスされてしまった。
 初めてだからちょっと嬉しいけど…何でだ?あ!どうやらゲートが213番に変更になってたらしい。
 でも未だに214番にはわしの乗る機名表示が出てますけど…何で?
 何だかなあ。中国人のシステム管理,とにかく全然危なっかし過ぎ!わざと走らせるように仕組んでるとしか思えへん。
機内食500kcal
日計2025kcal
累計▲109kcal
 安微,浙江。なかなかの駆け足になってしまったけど,雰囲気だけは掴めたってとこかな?何年か置いて再訪しなきゃな。特に紹興は掘り出し物だったし…。
 さあ追い山出走まで10時間を切った!!!4時にアラームをセットしてと。今回はどこで見ようかな?