外伝01-2मुंबई【20年後のバーラト】末日:インドで焦ったこと

[繰 越]/負債 320

「エーク・チャイ!」
 朝ぼらけ。雑然たる駅前広場に寒風が吹き抜けるニューデリー駅裏。
 地下鉄入口脇で名残惜しくてデリー最後の一服を口に含む。――ちなみに「エーク」は「1」だから「ミルクティー一杯」の意です。
 ついに腹が下り出してる。明らかに細菌性だけど,熱や脱水症状はまだない。いずれにせよ,ボンベイまでは飛行機だから,特に支障ってほどじゃない。

 Airport Expressはプラットホームが別になってた。そして衝撃的な事実…乗車賃150Rs.はスマートカードが使ない!チャージは無駄かよ?
 しかも一度アクセスに失敗したトークンは,もう一度窓口で再設定?つくづく使いにくい地下鉄やなあ。
 あれほど溢れてたイエローラインのインド人が,エアポートリンク側では嘘のように閑散としてる。まだこのラインは金持ち用らしい。
 7時28分,発車。地下から離れるニューデリー。うーん,激烈な違和感!
 ニューデリー駅から先は→Shivaji Stadium→Dhaula Kuan→Delhi Aerocity→Air portと4駅,その後Dowarka Sector 21,昨日のブルーラインの最終駅まで走る。
 車内放送で「ポーターには50Rs.払いましょう」と定価設定のお知らせ。こういうのに定価がある事に加えて…高過ぎだろ?百円だけど…うーん?益々金銭感覚が混乱を増すよなあ。
 地上に出る。窓外は霧。昨日よりもっと濃い。この時期のデリーの朝は霧が付き物らしい。
 ニューデリー地下では立たなかったケータイアンテナが,デリーエアロシティの地下では立ってました。wifiに留意し始めた建設年代の差でしょう。デリーメトロ10周年の表示が出始めてるから,この10年の時代差が反映されてるらしい。そういえばニューデリー辺りはニューヨーク地下鉄風の無骨な風情だけど,このエアポートリンク側は中国や韓国の最近の地下鉄風の目に柔らかな内装です。
▲Vaango IGI AirportのMasala Dosa combo

 チェックイン後,軽く腹に入れようとVaango IGI Airportという店へ。
Masala Dosa combo 250Rs.500
Dosa+idly+Vadas+Sambal+Dahi+漬け物
 機内食はもちろん,ファーストフードになっても確実に美味いのがインド料理。
 中でもドサはやはり美味い!カレーパンが形態を変えただけだけど,あの外皮のパリパリと中味のカレー芋が他に代え難い取り合わせ。
 これと同じ土地・南インドで生まれたとは信じ難いのが,イドゥリの淡白さ。蒸しパンをイメージしてしまうけど,もっと似てるのは「かるかん」(あんなし)です。カレーよりダヒと合わせると,インドとは思えない繊細さ。
 あとこのヴァダスというのが…初めてだったんだけど…何て言うか,一見ドーナツに見えます。だけど,口にすると冷めたかき揚げというか…意外にサクサクはせずボヨボヨした口当たり。サンバルには合うかも?

 13時10分,ボンベイ着。荷物を空港に預けようと足を向けたinternational Transfer Coach。国内線空港への連絡バスが出てるはず。
 とにかくタバコが吸えんのは勘弁してくれ。インド人の官僚主義,中華圏とはまた別種の頑迷さがある。これがいい方向に転がることなんて…あるんだろうか?
 今の乗換も,待ち初めて30分経ってる。時間ロスの理由はハッキリしてる。最前線の係官が一切応用を利かせることを知らないのである。少し形式が異なると責任者まで上げないと判断不能。
 日本が40年代に特徴的だったのは,現場の自発的な創意工夫だし,現在あらゆるサイドで復活への障壁になりつつあるのも,現場の能動性不足です。
 デリーで見たのは,結局インドはインドだったって事だと思う。平成日本以上に…病魔を克服しようと巨体をのた打たせている姿だったと思う。
 さて,おそらくムンバイはさらに10年先のデリーだと思う。そこに何が現れているのか…!?
 13時半を過ぎた。国内線から国際線へのトランスファーに1時間なんて聞いたことがないぞ?

機内食500(1000)

 14時30分,CST(中央駅,後述)までタクる。600Rs.。
 結局,空港にレフトバゲッジできず。――帰りのチケットを見せても空港の中に入れない。正解に言えば,門番の軍人が「ちょっと待て,航空会社に確認してみる」と言ったきり,放っておかれる。何度か督促するが「今呼んでる」の繰り返しで全く埒があかない。
 仕方ないから荷を抱えてCSTへ。完全に1時間半無駄にした形。何だこのカフカ的な世界は?
 しかし…ここからさらに1時間かかるのか?

 15時40分,やっとクロークに預ける。
 ここまでしてたどり着いたクロークでやたら横柄なじいさん曰く「荷物検査を受けてない荷物は受け取れない」の一言。信じらんないことに,駅にX線検査機があってそれを通せと言う。どうやらこれは…爆弾テロ対策で街中がピリピリしてる状況らしい。
 ホントにもうどうでもいい。着陸から4時間かかってようやく街歩きを始めることができました。めでたしめでたし。

▲Jimmy boy CafeのVeg.Dansak

 16時20分。タクを降りて1時間でココならまあかなり調子いいのでは?…と自分を慰めてみる。
 CSTから少し歩いた有名どころ,Jimmy boy Cafeへ。
Veg.Dansak 200Rs.500(1500)
 一応,ボンベイ名物パールスィー(拝火教)料理の一種らしいが,今朝のメニュー構成に似てる気が…?
 味は確かに少しスパイシーさからズレてて面白くはあった。
 店内は,店名ほどじゃないんだが…少しだけオシャレな感じも漂ってます。ケーキとかもあって,さながらカレーも食えるスタバって感じか?
 ちなみにボンベイには何軒か本物のスタバも営業してました。ただその全ての入口には空港そのままのX線検査機のゲートといかつい警備員が塞いでまして…写真撮るのも怖いような有り様でした。まあ,まさにアメリカの象徴だからな,この店。

▲Le Pain QuotidienのTiramis CakeとEsspresso

 定番なんだけど…ボンベイ門まで歩いてみました。
 途中の道々で見るインドは,記憶の中のと通じる猥雑さと打ち捨て感を留めてます。ただ,本当に崩れそうな建物や本当に崩れてしまった廃墟はなくなってます。要は行政が機能する街になってる。
 これが海沿いが近づくとより鮮明になりました。以前とはっきり全く違うのはネオンの数。日本の商店街並にはギラギラしてきてる。気のせいか,男たちはこれらギラギラから隠れるように妙に暗がりに溜まってる。
 海岸線に出る。ここの海岸道路はやはり変わらず美しい。それはマドラスとかでも同じだけど,ボンベイでは祈りを捧げて沐浴しようとする者は少ないみたいです。夕涼みという優雅な雰囲気の方々が,ビル群の織り成す道を彩ります。
 ラッシュまみれのインド門に至る。
Le Pain Quotidien
Tiramis Cake
Esspresso 250(1750)
 店名も雰囲気も本格的なカフェです。空席待ちの客までいるんだけど…エスプレッソはスタバ並みか?
 そんでケーキはドトール以下と見た。やはりインドでは少し無理があるか…!?これで500Rs.札が吹っ飛ぶのは,日本ででも高過ぎるぞ?
 確かにインドにはない高級感ではあるけども…。
 タージマハルホテルでビジクソを借りてから帰路につく。…っていうか,やってることが20年前と同じだよなあ…。なので今回は,長袖への着替えにも使いました。もっとヒドいよなあ…。
 なお,タージマハルホテルのトイレはwifiです!今ケータイアンテナが3本立ってますのを確認しました。でも大理石造りだからか,接続悪いっス。っていうかなあ…。
 あと,このタージもX線ゲート付き。暴動以降,街全体が武装してる感じですか?
▲Sahakar RestaurantのMysore Masala Dosa

 行きも帰りも客足が絶えないSahakar Restaurantというメシ屋で一息つく。住所はOpp.Reagal Cinema,Colaba,Mumbaiとのこと。
Mysore Masala Dosa 45Rs.250(2000)
 これだけ?という見栄えですが,中にはドッカリとカレーが入ってます。
 いつも思うけど…食べにくいぞ!そとの皮はクレープみたいなもんだけど,薄くてパリパリだから,食事系クレープや沖縄の「くんぺん」みたいに手でつかんで食うと崩れる。だから手で千切るんだが,これもパリパリだからキレイに輪切り状態にはならんので,結局パリパリのナンでカレーを食べるのと同じになる。
 それなら巻いてある意味は!?とか考えてるうちに食い終わる。いや,ジャガイモカレーとしては美味いんだけどね。
 ところで…どの辺りがマイソールだったんだ?という更なる謎も残しつつ,店を後にしたんでした。

 20時20分,CTSから怪しいタクに乗る。21時20分,1時間で空港帰着。
 …と書いて終わりにしたくもなるけども,ある意味,まさにインド的な体験なんで記録しとこか。
 CST,正式名でチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス。世界遺産に登録されてるコロニアル建築。
 この街を象徴する建物の名を,旧名ヴィクトリアから現在の地元発のインド世界征服者「シヴァージー」に変える発想がコワい。――同じ理由から,本稿では改名運動後の名称は原則用いてません。
 荘厳なこの建物は,日が沈むと何とも言えない無気味さを醸し出します。周辺はもちろん,構内にも列車を使うのかどうか定かならぬ老若男女が床を通路を埋め尽くす。この日帰り付いた駅クロークで荷物をピックアップし,空港へのタクシーを拾おうと駅を出ようとしましたが――。
 ピリピリ来た。空気が険悪。
 ヤバい。
 昔は当たり前だったけど,駅待ちタクシーのヤバさは…こりゃ,今も健在みたいね。
 駅付属のタクシーカウンターが見当たったので,当面の自衛策としてチケットを買う。半券に手を伸ばす運ちゃんの群れが,こんなもんは儚い抵抗でしかないと雄弁に語ってたけど。
 タクシーに乗り込むと早速始まった。「混んでる時間だ。この値段じゃ行けない」「この車は遅い。俺の車なら早いがもう少し払え」…といった考えつく限りの話を混乱させるレトリックに,怒鳴ったり車から降りかけたりしながら抵抗する。とにかく車を出させれば…勝ちではないけど,少なくとも1対1になる。30分ほど荷物に気をつけながら対決した挙げ句,発車させることに成功。
 …した時にはクタクタになってたけど,気を許せばどこかへ連れてかれて「道を間違えたから運賃を上乗せしろ」攻撃か,最悪だと仲間の待ち伏せ場所へ連れ込まれて身ぐるみ剥がしちゃうぞ攻撃まで多彩なバリエーションが揃ってます。――信用してないぞ,道順をチェックしてるぞというフリをしながら,「ボンベイは何度目だ?」「飯食って行かないか」とか執拗に聴いてくるのを「年に5回位かな」「フライト時間がギリギリだ」とか,とにかく観光客たる印象の払拭に務めつつ――結果的に空港にきちんと着けました。
 ね?やはりインドはこうじゃなきゃ!…とか無事だったから言えるんだけど,ボンベイはトランジット時間にちょっと街まで出てみよう…てな行動にはまだ向いてはいないみたいですね。

 21時50分,昼間にあれだけ阻止されたBゲートを通過。空港内へ。けどこの時も,門番の軍人が「チャイニーズレターは読めない」とeチケを突き返すから「330便で0135発なのはAIだけだろ?」と主張すると,モニターで5分ほどもチェックした後「チョロ!」(行け)と一言。
 22時20分,チェックイン終了。23時,イミグレ通過。
 ここの軍人も書面にケチを付けてくる。――「行き先はここじゃなくここに書け」
 思い出した。何かこいつら,見たことあると思ったら,ハリーポッターです!何とか銀行のカウンターに並ぶコビトの爺さん。つまり「書類処理マシン」――カーストって心理的にはこういうことなんだなあ。
 ただ,そう思って余裕を示せば,同時にきちんと人間なのもこのタイプ。イミグレの兄ちゃんはついに最後笑わすことに成功した。

▲The Coffee bean&Tea Leaf
Mumbai Masala S/W 240Rs.
Cafelatte 210Rs.150(2150)

 という夕食でインドを締めました。
 美味い。それ以上に不思議な味覚。
 レシピは簡単で,インドの大味胡瓜とトマトの輪切り,それとスライスチーズ。ホットサンド的にきっちり焼き味を付けて来る丁寧さは中味にも通ずる。
 問題はマサラです。カレー粉の黄色がない。それにターメリック抜きでまぶしただけなら粉っぽいはず。
 欠片で分析すると,胡瓜じゃなくてトマトにマサラ味がキッチリ転移させてある。おそらく,スライストマトをターメリック抜きのマサラスープ,きっとサンバルに近いのに漬けてあると思う。つまりこれは,マサラ漬けトマトのサンドイッチ。京都人と同じ漬け物サンドの発想なんである。

 ついに買ってしまった…。
Spic’s First Flush Darjeeling Tea C 950Rs.(Des.2013product)
 最近の海外で一番高い買い物は常にお茶になりつつある。
 紅茶党じゃない…というかまだよく分からないわしでも,このファーストフラッシュは聞いたことがある。
 バンコクの予約済の宿にはボイルドウォーターのサービスを確認済。タイの伝統スイーツを肴に,この最高峰の紅茶を味わいたい。
 既に次の滞在に心は飛んでた20年後のインドです。

[今期計]
消費1800/収益2150
負債 320/
利益 30/
[繰 越]
利益 30/