外伝03-FASE31@ハンジてた!

[和訳]はみ出した!

 コザ。
 かつての日本唯一のカタカナ市町村名でした。
 統合でその名が「沖縄市」という無色透明な名称に変わる前のこの地は,実は初めて沖縄に向かった時の目的地でした。
 沖縄初日に必ず本島中部を目指す理由はこの頃からの,いわば儀式です。ネーネーズの「アメリカ通り」が出た時代にはまだ残ってた活況は今は昔,ゴーストタウンじみてきたコザ,とシャッター街の感を強めつつある胡屋を後にします。
 一応行ってみるとグランド食堂もまだクローズ。
 9時半,覚えてしまった山中の道を縫ってブラウマンズ・ランチ・ベーカリーへ。住所は北中城村安谷屋。

▲ブラウマンズ・ランチ・ベーカリーの黒オリーブとバジルチキンのサンド,ごぼうのポタージュ,カフェアメリカーノ
 バジルとチキンと黒オリーブ。オーソドックスと言えばオーソドックスな取り合わせです。
 ただ,オリーブはカンパーニュのパンの中に隠れてる。これとバジルが堪らないハモリ方を致します。チキンはごく少量,ほとんどスパイス扱いなんだけど,これも微妙に効いてて…上手い!と思わせる味です。
 人参しりしりーとオリーブのサラダが付いてます。「しりしりー」の板,今度こそ買わなきゃな。
 ごぼうポタージュも意外なほど渋い甘味を含む絶品だけど,それにも増してアメリカーノは…どうなってるんだこの味?苦味も濃くもまさにアメリカン,珈琲の苦味としては申し訳程度の薄さなのに,香りだけがグンと立ち上がる。アメリカ本土のより旨いんじゃないか?
 お土産に
ハニー&ブルーチーズ
グランベリー&ホワイトチョコ(引当500/)
を購入。
 ここは,いい。
 今回は一番奥の窓際ソファ席で頂くことが出来ました。山中の木漏れ日と風のそよぎが夢に出そうな心地よさ。
「大自然の懐」と単にいうより,決して豊かな植生とは言えない沖縄のこの中部の山中の空気は,何というか,心地良く打ち捨てられた感覚になる。
 さて,那覇への道に戻ろう…という気になれなくなった。ちょっと寄り道しますかね。
 東行。東海岸へとバイクは下ります。

▲ブラウマンズ・ランチ・ベーカリーの入口のお庭。行く度に少しずつ進化してます。

 魚汁。
 この言葉は日本全国に色んな読みがあります。
 西日本一円では「とじる」。フグを用いた河豚魚汁(ふくとじる)が有名です。
 能登半島では「いしる」。いわゆる「しょっつる」。
 さらに北海道のアイヌには「チェプオハウ」と呼ぶ,主食の汁(オハウ)に鮭など魚介類を用いたものがあります。
 さて,沖縄の魚汁はまた別の郷土料理です。
 漁師が獲れたての魚介類で作る汁を特に沖魚汁(おきなじる)というようですが,魚汁そのものをうちなーぐちで何と呼ぶのかは分かりません。少なくとも今は「さかなじる」と発音するようです。
 ウンチクが長くなりましたんですが11時15分,パヤオ直売店へ着く。
 東海岸,泡瀬一丁目。典型的な埋立地の風情,この殺風景さはブラウマンズの山中とはまた別の面でのウチナーです。古き良き,とはまた別の世界,「空漠たる壊れた場」みたいなパワーを持ってるのがこの島の凄さ…というか怖さです。
魚汁天ぷら定食 600(970)
 中国人(おそらく香港)ツアー客だらけ!ここもすっかり観光地です。隣の席には,やたら横柄な4人連れ,会話から伺うと,こちらは日本のテレビ屋さんらしい。
 あ,テレビが去った後には白人の家族連れが。ガタイの良さから言って日曜日の軍人さんか?
 とか観察しつつ,魚汁に天ぷらが付いたセットを頂きました。

▲パヤオ直売店の魚汁天ぷら定食

 アチコーコーの天ぷらがバカ旨!イカと白身と鶏肉です。天ぷらといっても,もちろん沖縄天ぷら,分厚い衣がほとんどパン状態です。
 魚汁は…フーチバーと沖縄味噌と白身魚の脂ってこんなにピッタシ合うんだったっけ?――感動的な美味です。
 香りと苦味のバランスが尋常じゃあ御座いません。
 そう,香りだと思う。系統としては,台湾で粥とかにするサバヒー(虱目魚,英語名:ミルクフィッシュ)の湯を連想します。出汁ではなく白身を湯がいた香りを楽しむ魚食スタイル。
 そこにハーブとしてのフーチバーを添えるという発想も,その辺りから生まれてると思えるのです。

▲グランド食堂の骨汁(パート…何回目かもう記憶にない)

 骨汁。
 やはりどうしても腹に入れときたくなった。12時25分,グランド食堂(グランド通り)。
骨汁 600(1570)
 またコレを頼んでしまった。ここの髄液染み出す牛骨をしゃぶる体験は,わしにとって沖縄を喰らうことそのものになりつつあります。
 味をどうこうはもう言っても詮ないが──この髄液染みた滋養溢れる味噌汁に浸かった島豆腐がまた…いい味を出してるんである。
 大豆の味覚が荒々しくダイレクトに髄液に絡まっていく。この味わいは,やはり,食文化の位置関係で言えば,ここが大陸や朝鮮に繋がる肉の文化圏であることを感じさせます。
 このレシピの主役になってる牛の背骨って,どの程度の原価なんだろう?グランド食堂の骨汁は500円。西洋料理でもフォン・ド・ボーなどでは使う部位らしいけど,少なし日本では大部分を捨ててる部位なんじゃないか?
 そういえば,中国の食プログに,牛の脊椎を調理したものにストローを突っ込んで髄液を啜る大棒骨(ダーバング DaBangGu)なる東北由来の料理(飲み物?)があるとありました。今は結構中国全土に広がってるらしい。
 随液の旨味まで知ってる文化が,真の肉食文化の証明ってとこなんだろか?

 甘味。
 前回認識した沖縄のもう一面の突出した味覚です。西洋現地の味に忠実と言えるかどうかはまだ自信がないけど,内地みたいな日本ナイズが加えられてないことは確かだと思う。代わりにもしかすると,沖縄に陰を落としたアメリカにナイズされてるかもしれないけど。
 14時丁度,マキシム オキナワへ。浦添市伊祖4丁目。──場所は説明しにくいけど,ブラウマンズ→まんぷく→パヤオ→マキシム→さらに次のレーゲンスと動けば,沖縄中部に時計回りでほぼ円周した形になります。
ガトーウラソエ 300(1870)
 デカいのを買ってみた。大体チョコレートのロールだけど,チョコがかなり深い。強い味ではなくむしろ上品なんですが,ドス苦いというか,よくあるチョコレート色のシロップ味じゃなくてガッチリとしたカカオ味。
 パン生地も美しい。スカスカした歯ごたえ,ホットケーキみたいな豊かな小麦香。全体として,ニューヨークのグリーンマーケットにあった,古き美味きアメリカンテイストにまとまってます。
 そういう意味で,ここのケーキはやっぱまさに沖縄スイーツというお味。他の店だとジョーギやオハコルテがこの系統です。対して次なるレーゲンスは,本場の味とスタイルに忠実なタイプで,沖縄スイーツのメインストリームは前者タイプ。

 独国。
「ブロートの国」ドイツとその中途のスロバキアで,意外にも感激を得たドイツケーキ(例:WohnzimmerのTages TarteとMilchkaffee←外伝11 獨 Took scenic route,got in late.
→ベルリン(3日目午前))

 イタリアの華やかさやアメリカの押し出し感とは異なる,繊細かつ重厚なあの味は,「意外」というよりブロートラントならではのパン生地の味わい方から来ていると思われるのです。
 それは沖縄の食モードとシンクロしないように見えるんですが,この日の中部円周の最終点になったこちらレーゲンスのスイーツ感覚は,これこそ意外なほどシンクロしております。この違和感の謎は,未だ謎のままなのですが──。

▲ドイツ菓子レーゲンスのザッハトルテとコーヒー

 14時20分,ドイツ菓子レーゲンス。宜野湾市宇地泊。
トゥルフェルトルテ 200
ザッハトルテ250(2320)
 店内をよく見るとイートインが可能だった。ザッハのみを頂いていきましょうかね。
 ケーキ屋の軒先でつまみ食いするこの風情。これまた,意図してるのかどうか本国に通じるスタイルです。

 那覇。
 ようやくたどり着きました。こんなはずじゃなかったけど,こういう思いつきでヨレヨレ動くのもまた宜しい旅かと。
 常宿サンキョウに入って,近くに出来た温泉(と書いてはある)「りっかりっか湯」にゆるりと浸かってと。
 国際通りのフローズンヨーグルトの店に行ってみたけど,潰れてドトールになってた。この界隈はどんどん「日本」になってくなあ。
 まあ…いつものコーヒーをウチナーであえて飲む。というのもと思い立ち,定番のブレンドで一服。
「大雪の影響で資材が揃いません」と悲鳴のような貼り紙。入店して見ると,ケーキセットのケーキとパンが完全にない。スティックケーキと飲み物は揃ってる。
「内地から来るんですね」と聴くと,申し訳ないというより引きつった笑みが返る。長距離輸送に頼る体制の歪さが露呈してる。
 調べてみたら,ドトールのケーキは2000年からケーキの製造・販売子会社「株式会社マドレーヌコンフェクショナリー」に特化されている。現在は東京と北海道に工場を持つ「D&Nコンフェクショナリー株式会社」が製造。
 と沖縄に来ていながら全く関係ない内地情報を調べてしまいましたが…ドトールのケーキは割と認めてて,新作出る度に割と手を出してるもんで…でも,内地に繋がらない他の店は全然元気。今まで気づかなかったほどです。内地から切り離され気味の形勢に置かれた今の沖縄に,むしろ清々しさを感じつつ。