油煳干青∈外伝12∈辣辣辣∋Dim 長沙編.Title:翌日  .Color=夫れ万の不同を吹きて其れをして己よりせしむ。みな其れ自ら取れるなり 長沙再訪∋糟酸麻蒜

 7天のある交差点は賑わいと便利さを備えてるように見えた。
 十字に交わる車道は太い。北側にはブランド系の大きなモールが入ってる。南側には新華書店。
 けれど人波は,少なくはないけど微妙。夜になっても増える気配はない。コンビニは一軒,必需品はまあ揃わないではないか。──つまり共産中国のハリボテ都市景観と実質の賑わいの中間形態みたいなビミョーな状態。
 昨日歩いて,昼間はかなり入ってた店で朝飯にしてみました。店名,正[号海鮮養生粥100
水餃150
 まずまずか?
 粥は大陸正統派。米の味わいが滋養満点に寄せてくる。ただ,これを外周からチクチク刺してくる生姜その他香菜の味は何だろう?大した量ではないのに,非常に効果的なアクセントになってます。
 餃子はラー油というより唐辛子のみじん切り本体で食わせるタイプ。食べるラー油感覚でやはり具が大蒜でピリリと辛い。
 しかしまあ,あんまり長沙的ではないかもしれんなあ…。
 てことで,ややどんよりと始まってしまった長沙2日目。「蒸菜」との遭遇までには,しかしさらにあと数時間を要したんでした。

▲「蒸菜」店頭風景。これがあるので,通りかかりさえすればその店だとはすぐに知れるんですが,最初はその場所のあたりをちょいつけにくかった。

 歩行街まで南西方向へ市街を縦断してみよう。
 そんなやや無謀な試みを思いついたのも,ややこの街の歩き方に途方に暮れてきてたからでした。
 この方面は,単に距離だけでなく,道の方向がムチャクチャに湾曲してました。のみならず,というかそれが原因なんでしょう,行けば行くほどはっきりと地面が隆起していきます。湘江の形作る河岸段丘の名残でしょう。あるいは氾濫原の岸か?
 ただ,長江の支流だから水量の桁が違うんで,東京やローマみたいな「丘の街」のちまちました変化はありません。歩行街直前,湘江の2kmほど手前に河と平行した高みのラインがあって,そこを越えたら一気に坂を下ってそれっきりという分かりやすさ…歩くぶんにはややつまらない地勢でした。
 おおまかにはこの平行ラインの高みより河側がいわゆる旧市街らしい。室町時代の河原みたいな河沿いの市が常設化した街なのかもしれません。
 この高みのライン上には,かつて城塞になってたらしい旧跡がありました。今は城壁上に博物館が出来てます。河原側が街だったってことは,防御の際にはこの高みが天然の最終防衛線だったのでしょう。旧日本軍もここを越えて進撃したんでしょうか?

 この時は何のタイミングだったんだろう?11時半,歩行街からさらに裏道にぶらりと入ると──。
 写真のような店が何店か点在してます。店頭のワゴン型の蒸し器にひしめくように小皿が重ね積みされてます。
 どうやら,これが長沙独特の蒸し物屋らしい…というのは一見して分かります。土地のものを食えるという意味では,外し難い店だってことも。
 問題は…ここでどう注文すりゃいいのか?種類は半端じゃないから「〇〇一個!」と頼めそうにもないし。
 入るかどうか迷ってるふりして他の注文客を観察すると,「おばちゃん,これとこれね!」と指差しするだけらしい。でもおかず以外はどうするんだ?
 という心配は無用で,席につくと指定のおかずに加え,すりきり一杯の白米飯が自動的に付いて来ました。面白いのはおかず2品には白飯2碗が付いて来る。沖縄的ですが,再び他の客を観察すれば,一碗を辞退したり,あるいは「もう一碗」と要求するのもありみたい。つまり白飯は金額積算上フリー。
 店名・淵陽蒸菜館。住所は「下 黎家[土皮]巷」と記録してます。──蒸菜店の店名のほとんどが冠する「淵陽」の2字は,この形式の発祥地らしい。
 システムは分かった。さてさて肝要のお味は如何?

 狭い店だけどかなり客は多い。かつ地元度も高い雰囲気で,システムの不安も手伝って,この初回にはカメラを構える勇気は持てませんでした。
 白身魚は丸一匹。これはやや大皿で,皿の中では10元と高い,らしいことにしばらくして気付いた。白身と言いながらほとんど見えない。赤と青の唐辛子みじん切りがこれでもかと身を覆う。
 恐る恐る口に。
 意外です。辛さはやはりそれなりに強いけれど,それでも後ろに隠れてる。酸っぱさと…何というのか魚香か魚醤みたいな不思議なダシの「臭み」みたいなものの方が強い,というかその強烈な味の中に吸収されてしまってる。
 見事なのは──渾然一体となったそれらが,爽やかな香りに転じて,白身魚の淡い地味を全然殺してないこと。いや,殺すどころか魚肉の旨味を全く新しく生まれ変わらせてしまってる。中華スパイスの妙技,ここにありという味わいです。
 もう一皿は7元。ジャムにさえなる甘い「ずんだ」が,ここでは赤唐辛子の輪切りに揉まれてる。よく見るともう一材,鶏そぼろみたいなのが絡まってる。これがまた,どうやってるのか…恐らく強い青唐辛子を吸わせてあるらしく馬鹿みたいに激辛。
 結果,枝豆の甘さをこの2材の激辛がコントラスト的に浮き立たせてる。そうして豆の甘さが際立ちつつ,一方ではやはり激辛,どちらも負けず隠れず歌い比べをしてるような,何とも凄まじい一品。
 いや誉めてるんだけど,とにかく辛くて甘くて気が狂いそうになりました。しかし総体としてまたこれが美味い!
 と,なかなかいい味出してくれたこの店の場所は…ええと?歩行街の何本か東なんですが,もう一度行けと言われても当面よく分かりまへんのです。

▲「蒸菜」第2食目, 淵陽隆生蒸菜館のやっぱりすずきみたいな白身魚の酸っぱ煮,青梗菜と痩肉の辛味炒め

 なかなかいーじゃん蒸菜!
 ということで12時半,そんなに遠くはない店だった記憶ですがもう一軒ハシゴしました。店名:淵陽隆生蒸菜館。こんどは住所もメモりました。「上 黎家[土皮]巷」──ってそれはどこなんだ?二度とたどり着けないのは同じじゃないか?
 まあ細かい話はともかく…。
やっぱりスズキみたいな白身魚の酸っぱ煮
青梗菜と痩肉の辛味炒500
 前者は,これはまた宜しかった。今回は割と控え目な皿だったんだけど,頭の部分でゼラチン質が多かったのか,いい感じの生臭さと複雑な唐辛子が絡まってる絶妙なコントロールの味覚。
 なお,この「唐辛子まみれ魚」は正式名「椒魚頭」(由来)。
 湖南菜の代表格。本来は巨大な川魚の頭を真っ二つにかち割った上を椒発(酵唐辛子のみじん切り)で覆い尽くして蒸し上げるという豪快な料理。椒は,赤唐辛子100%のもの,赤と青の併用(「双色」と呼ばれる)のパターンあり。地域的には特に湘潭市の料理とされる。──この日食べた2皿はいずれも双色椒魚頭に当たるらしい。「魚カマのピリ辛蒸し 」と和訳されるように,素材は典型的には川魚のカマを使うが,この日のものはいずれも全身。つまり大衆バージョンか,あるいは「もどき」だったらしいのですが。
 後者は,やっと落ち着ける味に出会えたという安心感というか失望感というか…とにかく痩肉が辛いだけで「今日はこの位で済ませたろか」みたいな…でももちろん日本的なレベルで捉えれば,十分に激辛でランクインする品です。唐辛子使いはやはり双色。青梗菜の生々しさが逆に辛さをカモフラージュしてる辺りは,相変わらず要注意人物。
 いずれの唐辛子も発酵味を伴う。貴州料理と同じく苗族の味覚の影響を留める料理体系の気配を感じました。

▲淵陽蒸菜老店(喜利餅の筋)の,やっぱりスズキみたいな白身魚の激辛酸っぱ煮と,ベーコンと豆のラー油和え

 夕方,車[立占]南路を歩く。ここの服飾市場はデカい。デカいけれどやはり庶民の足はあまり向かないらしい。
 でやっぱり,五一広場側まで来てしまう。──長沙では結果的に,この旧市街しか面白味が感じられなかった。ここが十分面白いから楽しめたけど,他のエリアはホントに新興共産住宅地めいてます。もう少し時間が経てば味が出てくるんだろか?
 再び賑わってそうな一角へ足の向くまま歩く。で,再び蒸菜店に入る。喜利餅の筋,店名:淵陽蒸菜老店。ただ──これは我が旅眼力の不足というより不幸で,入店直後に団体様が食い散らかしたまま退出,店内はガラガラになってしまった。うーん…やはり蒸菜は,地場なんだからも少し路地裏で食うべきだな。
 この筋の抹茶屋は客過少なるも本格的っぽかったんだけどなあ。
やっぱりスズキみたいな白身魚の激辛酸っぱ煮
ベーコンと豆のラー油和え 500
 3店続けて食べてしまった椒魚頭は,今日の3店中では一番辛さがガツンときます。ダイレクトでわかりやすいというか,あんまり凝ってないのはこの土地らしいのかコナれてないのか?
 豆の方は…ベーコンを合わせるとは!雑な味つけなのか大胆なアレンジと見るのか,また評価が難しい。
 何か椒魚頭ばっかり食べてるようで,実はどの魚も「もどき」だったという相変わらず半端なグルメぶりです。が,蒸菜のシステム教練初日と考えれば…と言っても,あとは実質最終日を残すだけになっちゃってます。初日に蒸菜を発見できなかった不徳の致すところ。

▲桂林滷粉

 18時,桂林滷粉に入ってみる。
桂林滷粉 250
 実は桂林は今回の長沙行程に入れかけてた。そのお目当てがこの滷粉だったんで,つい寄ってしまったんですが…。
 うーん?何かよく分からん。
 曰く「水」というタレをかけた米粉(ビーフン)に,薄切り肉と揚げピーナッツが少々。極めてシンプルな内容で,スープは全く入ってない。──その通りなんだけど,こう…「これが桂林滷粉かあ~!?」みたいな衝撃は特にないかなあ。
 本場は違うのか,はてまたトッピングで色を付けないと面白くないのか…ちょっと何とも言いかねるしろものでした。
 そこをあえて言えば…普通?

[前期繰越]
    /負債1142

0930正[号海鮮養生粥100
水餃150 
1130 淵陽蒸菜館(下 黎家[土皮]巷)
すずきみたいな白身魚
枝豆激辛和え 500
1230 淵陽隆生蒸菜館(上 黎家[土皮]巷)やっぱりスズキみたいな白身魚の酸っぱ煮
青梗菜と痩肉の辛味炒500
1700 淵陽蒸菜老店()
やっぱりスズキみたいな白身魚の激辛酸っぱ煮
ベーコンと豆のラー油和え 500
1800 桂林滷粉 250
[今期累計]
消費1800/収入2000
負債 200/
[今期累計]
    /負債 942

▲「〇師〇」臭豆腐。これは3日目の駅前通り歩きで見つけた店ですが,他でもぼつぼつ複数を見かけました。味は正直,まずまずだと思うけど…。