外伝05O‥SEC_Range(“福州入”).Activate Category:サウスイーストコート編 Phaze:三日目

[前日日計]
支出1500/収入1750
負債 250/
[前日累計]
     /負債 651
§
→9月18日(日)
0908新四方大食堂
高菜まみれ炒飯(レシート表記:梅干菜炒飯)
涼伴豆干(同:馬蘭香干)
緑色のキクラゲと人参の漬物250×1.5=370
1730安徳魯森
布丁面包100
法式[女乃]昔100
1738宜洋中式簡餐
白飯
はんぺんの中華炒め
赤い鶏むね肉のジヤガイモ和え
椎茸とセロリのピリ辛炒め 18元 550
1830[土云]焼八味東大店
爽口海帯糸
時令スー菜
香米飯
[サ/站]痩肉湯套餐18元 550×.9=495
[前日日計]
支出1500/収入1615
負債 115/
[前日累計]
     /負債 536
§
→9月19日(月)

夢破る疼く左腕や枯蟷螂
 昨夜というか今朝というか,件の左の肩と腕がひしひしと傷んだ。
 いいのか悪いのか分からんが,歩けば,歩む歩数だけ腕は振られる。背骨の付け根の痺れるような痛みは感じなくなったから,震源地ではおさまって,被害地で浅震度の余震が続いてるというところ…なんだろうか?痛みを止めて眠りやすい腕の位置も日々変わってるみたいで,一昨日と違い胸の上に掌を,腕の間接を右脇に垂らした格好が一番眠りやすかった。

 そんな体調のことがあって,朝の行動開始時間は朝一番というわけにはいかなかった。
 出発前の宿の周辺で食っとくか,と散歩に出る。馬園路の宿周辺にもあるバイキングの店に何軒か目星がついてたからですが──
 覗きこんでみれば,料理があんまり並んでないんですね。早い時間の大食堂って早飯仕様になってるらしい。これは誤算でした。
 その中ではやや品数の多そうな店に入る。宿の脇道挟んで向かい側,実は今朝の歩きまで見過ごしてた店でした。

▲新四方大食堂の梅干菜炒飯,馬蘭香干,緑色のキクラゲと人参の漬物

 その店,新四方大食堂の席についたのは9時を回ったところでした。
高菜まみれ炒飯(レシート表記:梅干菜炒飯)
涼伴豆干(同:馬蘭香干)
緑色のキクラゲと人参の漬物250×1.5=370
 おとつい最初に入った店は違いましたが,寧波のバイキング屋はなぜかログハウス風の佇まいです。台北の丸林がちょうど同じ感じです。
 客は数えるほどですが,いないわけじゃない。けどこの人数はかえって静寂を際立たせる。まあ朝飯には相応の落ち着きということにして…いただきます。
 炒飯は,ここだけの話,何かのお料理と勘違いして頼んで,近くでよく見たらご飯でした,という経緯のもの。そのくらい黒々として白米が存在感を持たない品でした。
 その意味でも驚愕だったんですが,食べてさらにびっくり。
 高菜炒飯?にしては高菜が多過ぎないか?それに味わいからして,玉子とキノコがこれまたたっぷり絡んでまっせ?
 でそれが実に旨い!高菜と思ったのは,実は中華でよく出る梅菜※で,この野菜漬物の香りが素晴らしく効いてる。さらに玉子の甘みとキノコの香り。
 見た目以上に複雑かつ繊細な出来でした。
 豆干も良かったな。コリコリというのでも木綿豆腐の柔らかさというのでもない,カツンと個性的な歯応えで,大豆の香りがくっきりと際立つ。
 それにこの付け汁は…これ何だろう?白ネギのような香気を蓄えた野菜があっさりした醤に浮いてる汁で,豆干に絶妙な絡まり方をしてます。この野菜の,ミントほど強くもないけれど控え目に個性を主張する香りが陰で明瞭に効いてます。──これ,知らなかったんですが,馬蘭香干というものに使われる馬蘭頭※%というのは,上海料理の珍味とされるハーブなんですと。
 漬物の2種は,塩辛さと唐辛子という辛さを複雑に宿す面白い味わい。一昨日の人参に似た甘みからの落差で設計されてますが,あれほど唐辛子が強くもなく,塩辛さが重厚に受け止めているという滋味です。
 という訳で,期待した寧波料理からは全然なかったんですが,これまた全く予期せざる上海料理圏を垣間見せて頂けた貴重な一食となったんでした。
 上海料理圏,と今軽々しく書きましたが,SECから連なった一連の「湯」を巡る旅行を経て思うのは,この文化圏は考えられてる以上に重大なものです。それは,東アジアにおける日本を位置づける上で,という意味です。それに対して,自分が広東以上に曖昧なイメージしか持っていないことを再認識させられた初寧波行であったわけです。
 
※ 梅菜
§yahoo知恵袋:日本の高菜のような漬物ですが、高菜より味が複雑で、豆豉のように調味料として料理に使うことがよくあります。特に肉との相性がよく、料理の味に深みとコクを与えます。
名前は広東省梅県から来ているようです。梅県は台湾や東南アジアにもいる客家の故郷で知られています。

※※ 馬蘭頭拌香干
§吃尽天下@上海/おうちで中華24 – 上海料理界の清涼剤!馬蘭頭拌香干で紹興酒を舐める。:馬蘭頭はキク科の多年草
上海周辺でよく食べられている青菜の若葉で、春の今が旬だ。
和名は、コヨメナ(小嫁菜)というらしい。
僕は日本で見かけたことがないけれど、流通している地域もあるのだろうか。
馬蘭頭と言えば、馬蘭頭拌香干。馬蘭頭と香干(干し豆腐)の和え物だ。
上海料理店で出てくる馬蘭頭料理は、ほぼ100%これだと言っても過言ではない。

 ちょいと時間軸を外してこの翌日,ネットで天気の情報を検索してみると,こんな記事がヒットしました。
『超強台風“莫蘭[サ/帯]”重創福建18人死亡11人失踪
2016年09月18日
来源:中國新聞網
今年第14号超強台風“莫蘭[サ/帯]”以15級強度在福建省廈門市翔安区沿海登陸,造成極為厳重的損失。』
(和訳:今年の14号台風「モランタイ」は15級の強度で福建省厦門市翔安区の沿岸に上陸し,重大な損失をもたらした。)
『第14號超強台風“莫蘭[サ/帯]”已経消失,第16号台風“馬勒[上/ト]”正逐歩告近福建,影響即将顕現。福建要求全省上下密切開注台風動態,厳格管控漁船和漁排人員出海作業,確保海上安全。』
(和訳:14号「モランタイ」は既に消失したが,16号「マラッカ」がまさに福建に接近しつつある。影響はなかなか微妙。福建は全省に台風の動静への注意と,漁船や関係者に海へ出るのを厳に控え,海上の安全を確保するよう要請している。)
 中国でも台風を愛称で呼ぶんですね──とかいうことよりも!
 これから向かおうとしております福建,長年の懸案でした。台風が通過したこと自体は知ってたんですが,あまりに期待が強すぎて全然現状に考慮してませんでした。どうもわしは,台風マラッカ直撃中の福建に飛び込んだ格好になったらしい。
 そしてまた,そこでの体験もまた,わしにとっては台風級のものだったわけです。

 その期待ゆえでしょうか,少し早すぎました。駅のコスタで時間調整して,今新幹線の待合所に降りてきたとこです。11時を回った。
 雨がパラついてます。
 11時25分発D3125は深[土川]北を終点とするらしい。つまり,福州からも深[土川]行き直行があるということで,それはおそらく汕頭も通るということで。調べてもどうにも見えにくい汕頭回りが,やや明るみになってきたかもです。あとは台風の影響だが(と,既に通りすぎた台風モランタイのことしか念頭にありません)。
 11時9分。検票開始の準備アナウンス。一応予定通りには出発はしてくれそうです。
 11時15分。改札開始。
 11時22分現在,所定のシートを見つけて着席。本当に最後部の車両の最後部の席。右側席,ということは山側です。この路線はほとんど海は見えなくて,地図上は山側に自然公園やらが沢山あったけど…折角なので福州からは右側席を頼もう,服務員には五月蝿がられるだろけど。
 11時26分。ほぼ定刻,列車が動き始める。空は雨雲なれど雨は目下小雨,風も猛烈というほどじゃない。

 11時40分。左手に低い山列,右手に平地。ただ少しずつ右にも独立峯が,ついで山塊が現れはじめ,ついに11時42分,最初のトンネルに入った。
 その後は,一気に山中の谷を登る格好になる。
 隣の,バケツに食い物,農夫山泉,ゼリー,物干しなどなどを入れた古い荷姿のオバハンがスマホで呵責なく喋りたくる。いい加減煩いんだけどとっても中国的なので,この道行きには似つかわしいかと。
 物売り。ダンボールを乗せた台車を押す。お茶らしいが,そんなん誰が買うんだ?
 とか見てる間に,車外はトンネルだらけになってきた。11時48分。
 トンネルから出ると崖や蛇行し荒波を立てる川筋。
 11時50分。左手に一瞬の海を見る。Googleマップを見る──今回はこれがあるのが大層心強い。鉄港という深い入江の付け根を通ってるらしい。
 そこからトンネルを繰返した後,やや街っぽい川沿いの街を見る。川は西にずっと伸びてる模様。そこを過ぎるとまたトンネル。今度は,これまた長いぞ。
 ただこのトンネルの中でもスマホのアンテナはきちんと3本立ち。
 11時57分。トンネルの合間に小さな村。建物は文革時のような集合住宅。人の姿は見えないし,見えてもおじいちゃんがトボトボという風情。
 11時58分。トンネルを境に今度はビル群?デカいぞ!工場団地だろうか?労働者にして数千人は擁してると思う。
 山麓の斜角が30度を越えたものが増えてきた。山裾に霧がまといつく。山肌は広葉樹,植林跡少なし。果樹や段々畑は僅かに散見される。
 総じてこのエリアは,最近まで打ち棄てられてきた土地と思われる。中国政府がここに新幹線を通したのも,もちろん住民福利のためではないが,観光開発も副次的要素,この未開発地に人口を誘導しようとしてるのだろう。

 正午を回った。
 12時7分。次の町「臨海」近しのアナウンス。一気に視界は開けたが,どうも村という印象は拭えない土地です。一時は中継地の候補に入れた街ですが…でも泊まってたら得難い経験だったかもです。
 12時10分に臨海着。右手に崖面を晒す波打つ山裾の山塊。戸数はやはり数千ほどか。乗車客稀少。
 しかし…マップ上の位置を見る。どうも距離を稼ぎ過ぎてる気がする。これで福州15時はないだろう?ということは──ここから先で時間のかかるエリア,つまりスピードを出せない,おそらく起伏の激しい土地があるんだろう。
 12時18分。ハイウェイが見えた。
 え?港が右手に?でトンネル?どういう地形だ?大きな川?
 山肌には採石場が目立つ。トンネル。つまり大きな川が硬い山塊を縫って,ぐるりと蛇行して海に至ってる…という地勢らしい。
「馬上台州」(もうすぐ台州です)のアナウンスがあってからしばらくトンネル内を走る。12時24分,平地に出る。台州もまた,新路線沿いの新興の都市として根っこから立ち上げられた街らしい。東西方向に奥行きのある街のようだが,人口は…ネットで見ると150万人?そんなに広がりがあるんだろうか?
 12時半,走り去る台州を横目にしばし小倉銘菓祗園太鼓をお一つ頂きます。なお,今回は各宿に,鶴の折紙を置いていくイタズラを考えてます。今朝も置いてきた鶴は,もちろんアパに置いてあるアレ。
 12時43分。右手から左手に連なる湾を一面埋め立てようとしてる場所を横切る。こうして街を作ろうとしてるらしいが,そこまでしてこの土地に人口を吸収させなければならんのか?と必然性にはやや疑問を感じるけど,とにかくスゴい実行力です。
 12時48分。ぼこぼこと突き上がった山の間に古風な寺や穴居が連なる村が,一瞬視界を掠めて消えた。雁[サ/湯]山景区というのがここだった模様。
 12時52分。左手,一瞬の滝を見る。しかし既に温州が近いはず。惑わぬよう先に調べとこう。191万人。札幌市レベル,神戸市の155万より多い。
 12時58分,温州着。左手の街の背景には崩落した岩肌を持つ桂林めいた山容が数峯見える。 とてもそんな大人口を抱えれるようには見えないが…。
 Googleマップで確認。今見たのは温州の北の端らしい。この,中国の政策的に街のものすごい辺境に新幹線駅を作る作戦は,これ地勢にによると思うぞ?こんな山を幾つも越えたとこに作って,将来の副都心たりうるのか?
 と,さっきたまたま出した神戸のことを思い出した。あの現金な街は,もしかして今の中国と同じ戦略を持ったのではないか?つまり,新幹線新神戸駅の場所選定時に,北の傾斜地への開発誘導を政策の裏に持ってたのか?

 13時11分。トンネルの向こうに正真正銘の都市が出現した。
 川を渡る。山の見える美しい街,に見える。降車準備をする人が増えた。
 あ?なるほど,こっちの温州南站が,実際には温州のメイン駅として使われてるのか?
 13時17分。もう温州南のかなり郊外。 車内の客は1/3が入れ替わったと思う。この先は…福州まで3百キロ,そして泉州・厦門。
 と考えてゾッとした。あの方面へも,これだけの人間が動くのか?

 お?ええ?日が指してきた?
 台風「マラッカ」はどこへ行った?(今だから書ける答:次のモランタイとの間の晴れ間)
 13時25分。トンネル連続す。ただこれは…抜けていってる山は結構低そうです。と思ったとおり,トンネルを抜けると平地が続く。
 あ?またさっきと同じだ。左手の東ではなく右手に水地。トンネル。川,今度はかなり大きいぞ。
 瑞安市という街。人口120万人。広島市と同レベル。
 13時33分発。福州まで250キロというところまで来た。

 街が,一気に面白味を帯びてきた。
 山は相変わらず林立するが,崖下や奇形地を中心に寺院,しかも寺だけでなくキリスト教の教会もある。
 北へ寧波,南へ福州と記したハイウェイ表示を見る。
 13時47分。[サ/厄]南着。ただここは…駅の回りにはほとんど人家も見当たらない。
 天は完全に晴れてきた。 地図上の距離感でいうと,この辺りで丁度上海-香港間の1/3地点。
 14時18分。左手に潟を見る。
 Googleマップの好いところは,この海が見える一瞬を逃すことがないこと。ここも漁港ではなく埋め立てられて新しい街になろうとしている。
 福建の江や谷は,山野の巨大さという猛禽に狙われた雛鳥のように儚く広がる。
 霞浦着,14時23分。この街もまた…今から作りますので先に新幹線駅を誘致しときましたよ,という街みたいです。けれどまだまど元の村の風景がまだ残ってる。いい漁村です,ごく短い間は。
 あら?天には再び黒雲が集まってきてる。荒天らしい。(後日談:モランタイ来てるからね。)
 トンネル。
 車窓が真っ黒けなんで車内を見やると──コンセントがあるからとわざわざ隣のバケツのオバチャンと席替えしたお兄ちゃんが,スマホで英語の映画を延々大音声でご覧になってます。イヤホンねーのかよ?てゆーか,そんなにしてまで見たい映画なのかよ,それ?
 とか書いてたら音声が止まりました。お?反省か?あ,充電が終ったのね?…いや違った,第二部が上映開始です。
 あと,一番後方だからか,壁と席の間の背もたれを枕にして売り子のねーちゃんが思いっきり船を漕いでおられます。ここをお昼寝スペースに決めちゃってるのね?何か猫みたいな決め方ですが,まあそこで寝れるのもスゴいとは思う。

 トンネルを出ると,ぱんぱかぱーんっと青空が広がる。
 寧徳市,人口40万人。この位置関係にしては以外に開発圧力が少ないのはなぜ?
 14時46分通過。え?停車しないの?あ,これは──違うのだ,ハイウェイの桁の建設中の羅列,乾くのを待つ埋立て地,ここは今から作られようとしてる都市の蛹だったんでした。
 沖縄そっくりの亀甲墓が並ぶ 山裾を過ぎる。作りが本当に見間違うほどです。この土地こそ沖縄のプロトタイプだったことを思い知らされます。14時58分。
 青島ビールの大工場と建設中の大マンション群。15時2分。
 連江着。かなりの乗降あり。え?ここの人口が120万人,広島市より多いの?山影が幾重にも連なる西方へビル群が伸びてます。山裾の段々畑も山頂まで続く。人域の密度が既に相当密になってる。15時9分発。
  一旦トンネル。
 前席の赤子が窓枠を開け閉めしながら「う~う~」と唸ってる。明らかに列車酔い,噴火間近と思われる。ホントに止めてほしいんだけど──もうすぐ福州到着ですから,も少しだけ頑張ってね。

 福州南の駅を出ると,ここのバス停は結構システム化されてました。
 15時38分,ネット情報通りにk2路バスに乗車。すぐに動き出しました。最後部ながら席も確保,きちんと座ってスマホ打ててます。
 片側3車線の広い車道を物凄い揺れとともに爆進中。料金は一律一元。

 福州はミン河の河口の街。
 この「ミン」という字が,門がまえの中に「虫」という漢字で,福建全体の古名。これが概ね東西に流れる。
 河口と言っても東シナ海への出口を塞ぐ壷江島という中州から50km上流。ここに南台島なる中州があって,ここに福州南[火占]はある。
 福州の中心街はミン河の北岸。支流の普安河を北へ遡った立地。支流とは言えカクカクしてるから用水路として整備されたんでしょう。南[火占]から20km北西。
 普安河の西に沿って六一路が南北に通る。この道が北は福州[火占]まで伸びてて,市街中心部の東側を縁取る。鼓楼がこの道から2ブロック西の鼓屏路にあるから,旧城は普安河の西沿いに築かれたんでしょう。
 街の成立はBC2世紀とされる海のシルクロードの始点。東方見聞録にも名が出る。明清には琉球王国との交易指定港とだった場所。

 予約してた七天は,特にランドマークのない市内の中途半端な場所でしたが,そこはそれGoogleマップのお導きできちんと下車できました。え~と?六一を西に渡って,福新路という東西の道に入ってと。
 16時45分。とりあえずは荷を下ろす。
※七天連鎖酒店,7 Days Inn:中国ローカルホテルチェーン

 福新路から,ワンブロック北に東大路。これが級城の東西メインストリートでしょう。つまり一息ついてる七天の位置は旧城南東。
 17時を過ぎた。まずは福新路を西へ 進んでみる。
 17時14分。西突き当たりから五一北路を北へ曲がる。曇天が暗さを帯びてきてますが,まだまだ蒸します。
 90炭焼珈琲という店で福州初カフェ。
青檸柚茶10元
 さすがに省都,店舗の充実度は寧波とは比較になりません。外資も国内チェーンもずらり…なので逆に福建らしい店を探しあぐねながら,五一路に到達。
 ちょっと福州の大きさを読み違えてました。賑やかなんで旧城の南北中心道と勘違いして,この初日は五一を北へ向かってしまいました。もっともそのまま鼓楼まで歩いてたら死に体になってたでしょうが。
 この五一で安徳魯森を見つけました。明らかに雰囲気が最高,かつ明瞭にこのパン屋へまっしぐらに走ってきたチャリやバイクがひっきりなしに出入りしてく。その場で検索すると…おおっ!福州発のパン屋チェーンだぞ!思わず買い求めて荷物を増やし,さらにひいひい言いつつ歩いた夕暮れです。

▲宜洋中式簡餐のはんぺんの中華炒め,赤い鶏むね肉のジヤガイモ和え,椎茸とセロリのピリ辛炒め

 ふとバイキング店を見つける。寧波での慣れもあったし腹も減ってたしで,勢いで入ってしまいました。場所はよく分かりません。17時38分。宜洋中式簡餐。
白飯
はんぺんの中華炒め
赤い鶏むね肉のジヤガイモ和え
椎茸とセロリのピリ辛炒め 18元
 面白くない味です。その面白くなさが,いや実に興味深い味なのでした。
 はんぺんの中華炒め。
 まんま日本の,まさに長崎辺りのはんぺんです。けれど中華白湯で炒めなければこの味にはならない。
 赤い鶏むね肉のジヤガイモ和え。
 肉じゃがの変な味,というところ。でも中華の赤肉を使わなければこの完成されたへんてこさにはなりえません。
※ 後日談:台湾でしか食べたことのなかった福建由来のこの赤肉,2年後の福建旅行ではついに見つからなかった福建伝統食です!それをこの時はポロッと見つけてる!
 椎茸とセロリのピリ辛炒め。
 まさに日本の,和食と言われてもいいような味もします。でもよく味わった時の,椎茸の旨みを引き出してる中華スパイスは,和食ではありえない作用。
 妙な感覚でした。和食を思わせる取り合わせなのに,どこかで和食を踏み外してる。沖縄とも違うんですが,近いと言えば沖縄。踏み外し方が,です。
 おそらく出汁の味わい方で味わい切れるギリギリの射程内,そんな位置でしょうか。沖縄の味噌汁とダブルイメージになります。何かの捉え方が違う。
 とすれば──歴史的に考えてこの福建というのは,出汁文化の源流のような場所なんでしょうか?
 そんな戸惑いと,味覚の上での消化不良を抱えつつ,はやトップリと暮れた福州のイルミネーションの中を歩いたんでした。
 東大路に出たらしい。だいぶヘバッてきた。東へ転進,折り返す。

▲[土云]焼八味東大店の[サ/站]痩肉湯套餐(爽口時令[サ/疎]菜,香米飯,海帯糸,[サ/站]痩肉湯套餐)

 そして東大路でこの店に出くわすことになったんでした。18時半,[土云]焼八味東大店。
爽口時令[サ/疎]菜
香米飯
海帯糸
[サ/站]痩肉湯套餐18元 550
 爽口時令[サ/疎]菜はまあ旨いには旨いけど,香港なら食べれる旨さ。
 海帯糸は昆布の千切りに甘辛く煮た人参を絡めてあって,やっぱり美味は美味だけど台湾ならあるかなという美味。
 問題はスープでした。
 もちろんこの店の売りはスープなんだから旨いには違いないとは思いましたが──予想をはるかに上回る,凄まじい深みでした。
 こんな汁があるのか,とただただ驚くばかり。間違いなくこれまで飲んだスープで一番の旨さです。
 痩肉と椎茸と,底に沈んでたから判った棗?これだけだろうと思う。でも,これだけでこのスープが作れてしまうというはずがない!
 漢方臭い,でも嫌味には全く感じない図太さで,その味覚は始まります。そしてそれがずーと,最後までずーと続くだけ。
 先味のてらいも後味の仕掛けもない。堂々たる,逃げも隠れもしない湯の旨み。
 スープの中の痩肉は,台湾のだと骨だらけで食べれないことが多かったけど,ここのは肉まで旨い!全然骨が残ってない。その肉にも漢方の程よい香りが絡まって,明らかに出汁ガラになってる肉にもなのにそれだけでご飯が何杯でも…ってもう食えないから食べなかったけど,斜め前のスレンダーな娘さんがどんどんお代わりする(ここはご飯お代わり自由)のにも納得の旨さ。
 熊本太平燕,長崎ちゃんぽんの唐アク,沖縄の魚汁,あれらは福建の影響とはいいながら,おそらくそのほんの一種,あるいは一部に過ぎないんだと思う。各地のちゃんぽんの味がてんでバラバラなのも納得。元祖がこれだけ多彩なのなら,そこで海賊やって帰って来た人達に伝わった(であろう)大陸の味が,多種多様なのはむしろ当たり前です。
 しかし…何が福建人に,ここまで旨いスープへの情動を与えるのか?
 こんなメモを残してます。「香港人にとっての茶が,福州人にとっては湯なのではないか? 」

 へろへろになりながら福新路に帰って来たんですが,すんなり宿には帰してくれませんでした。
 宿の向かいに安徳魯森と…Sunmile向陽坊がある!
 ついでに宿の並びには[土云]焼八味まであるじゃないか!
 つまりこの夜は,ワンブロック回って,宿のすぐそばでも食えるものを食べ歩いたということに…と考えると頭をかきむしりたくなるんで,場所の確認と偵察だけして宿に落ち着いたんでした。

▲安徳魯森のパン

 安徳魯森は,つまりアンデルセンと読みます。
 が,もちろん広島のあの店が海外雄飛したわけではありません。さっきもさらっと触れた通り,なぜか福州にだけ大繁殖してるパン屋さん(公式ホームページに曰く福州,厦門,成都,武漢に3百店舗)。
 味は向陽坊と方向を概ね一にする。
 つまり香港のほどべとつかない。韓国のほど甘すぎない。日本のほど御菓子ではない。西欧のほど焼きたて香に特化してない。
 あくまでほくほくと,中華蒸しパンのような粉もんの変調したような素朴な香りで売ってる。広州の現[火考]のようなカステラの旨さが際立ってます。香港パンと並ぶ大陸パンというカテゴリーを,そろそろ考えてもいーのかもです。
 ──これは明日,向陽坊で久方ぶりのを食べて確認してみにゃならんですな。
 ちなみに向陽坊の方は,エリアをほぼ福建省に限定して展開してるようです(公式ホームページ)。 レア度としてはこっちの方が深いのかも?

▲ 安徳魯森の店頭風景
 こちらは翌日の鼓楼近くの店舗だったか?