Range(上水).Activate Category:香港十次(33) Phaze:上水围&遊行

入るなと睨むが如し臙脂門

▲北側のゲート

くして迷走の末,上水圍に着きました。
 1324,北側の門。
 それほど巨大ではないけれどこれまで見たことのない重厚さです。建築だけで「入るな」と言ってるようなものものしさ。
 でも入らない訳にはいかんだろ,ここまで来たら!

▲围内の路地

この围は,生活に立派に供されてる。
 北側以外を堀で囲まれているけれど城壁は痕跡もない。少し古めの集合住宅が並んでる,だけと言えばだけなんである。
 ただ確かに配置は古い。雰囲気の重さはもっと厚い。

▲所々に金柵がある

廖氏祖西晋子璋公……かもしれぬ赤鬼

側は家並みと金網で頑強に覆われている。
 上の写真が小さく掲げるところによると,ここは少なくとも俗に「圍内村」と呼ばれてるらしい。
※(前章)Phaze:上水寥万石堂/■小レポ:上水廖氏のこと/④ 上水廖氏の現況 参照 

▲家門。この二人は誰だろう?

所家門に矛を手にした赤面の武将らしき画がある。
──上水廖氏の祖とされる西晋子璋公(南京を鎮守した武将)かもしれません。
 圍の南側にも門があり,というかそこからしか出れなかった。振り返ると対聯を掲げる,パッと見では抜けれるとは思えない小さな,しかしがっしりした門。上部には城壁だった名残らしき遺構も窺えます。

▲南側のゲートと走り出た自転車

白昼に警の造りし圍 黒し

らば城壁があるのでは?と東縁をたどってみる。
 壁跡はありませんけど,堤状に高くなったラインがある。この外を水路が半円に巡ってる格好です。北側の梧桐河の成す半円と合わせ,半端ながら内堀・外堀があるとも見えます。
 1333,上水東慶路を駅方向へ。東への路地。この道は見事に駅まで続いてました。開発されてますけど古道でしょう。

▲围の東縁

鉄上水駅から南への列車が動きだした時間を1357と記録してる。「東鉄線紅磡行き。いや日差しがキツい!これはやはり九龍塘乗換か?」とか呑気にメモを綴ってますけど,構内にエラい数の警官が出てたのを覚えてます。
 本文を少し離れます。1431,九竜塘乗換で太子,さらに荃湾線で一駅,深水埗…を少し歩いてたら日射病が出て来た。宿で少し休息,今度は香港島へ向かい銅鑼湾でカレーを食う。
 15時に上水で始まったデモが叩かれたというテレビ報道を見たのは,このカレー屋の店内でした。
 その画面を,さっきまでドタバタ走り回ってた給仕のオバハンが口に手を当てて呆然と見てる。
 15時に何かやるってのは昨日の付箋でも見た。お祭りか何かかと思ってたら──遊行でした。
「遊行」と日本語でいうとお遊びっぽいし,この日までは中国語の意味は知らなかった。
 それはそうと……もう一時間滞在してたら渦に呑まれてた,ということになります。

上水の数多の傘の柔壁に

下は次の独立系サイトからの引用を時系列で並べます。
※香港CI/【光復上水‧直播】示威者搬水馬設防線 警揮棍噴椒多人受傷 ※以下[CI]と略

於下午3時半出發,主辦單位指有三萬人参加,市民高呼「嚴正執法」、「香港人,加油」等口號,於北區運動場出發。遊行完結後,上水廣場附近發生警民衝突,警方揮警棍,最少兩遊行人士中胡椒噴霧。[CI]

──概要:デモには3万人が参加。デモ終了後,上水広場付近で警官と民間人の衝突が発生。

【15:00】人群開始聚集北區運動場,部分人手持針對水貨客的簡體字標語。此外,在金鐘海富中心外絕食已十天的傳道人陳凱興亦到起點發言,多名泛民立法會議員身穿黑衣出席遊行,集合時手持保礦力合照。[CI]

──15時:北区運動場に群衆終結。絕食10日目に入った陳凱興が発言し,黒衣をまとった立法会議員とともにデモが始まる。

【16:40】隊頭已到達終點上水花園,主辦單位宣布有三萬人出席遊行。[CI]

──16時40分:デモ隊,終点の上水花園に達し,主催者から3万人が集まったと発表。

~(m–)m 上水遊行の行程 m(–m)~
GM.(経路)
※北区運動場→上水花園→北区大会堂

【17:30】警員將部分示威者押進北區大會堂,其他示威者則將長傘投擲進內洩憤。[CI]

──17時半:警官が示威者(デモ参加後の者?)を北区大会堂へ押し戻し,示威者は長傘を投げて怒りを露にした。

▲傘の壁で警官隊を押す遊行団

【18:00】多名示威者及記者中椒受傷,需由旁人急救,有消防車接報到場,武裝警員則後退及陸續登上警車離開,氣氛回復平靜。[CI]

──18時:多数の示威者と記者が負傷,救急で運ばれた。消防車が到着。武裝警官は後退し警察車両もその場を離れ,平静を回復した。

▲「陸橋」を中心に騒然となった駅前

のにらみ合いは,驚いたことに深夜まで続いてます。
 どうやら,デモそのものよりもその後の「騒乱」が目的にされつつある感があります。
 そしてその夜──

▲機動隊の実力排除

水駅を半ば占拠した格好の群衆は「機動隊によって排除」された,という画像ですけど,偏りなく見ると治安当局側としては,挑発に耐えて極めて我慢強く対応していると見える。
 そして翌日,付箋での予告通り──

香港に終わりを告ぐや沙田の火

▲沙田遊行

港エクスプレスで空港に向かいつつググると。
 Youtube情報では午後からの沙田のデモに備え,朝から交通規制が始まってる。
 11万人が集結,約50人の検挙者を出したこの遊行の模様は維基に詳しくまとめてあります(中国語)。
※ 維基百科/7·14沙田区大游行

746,福岡空港喫煙所でまず「沙田 遊行」をググった。
 この日,この時点までは衝突は起こらなかった。普通の新聞報道が並んでる。──夜になって衝突はやはり起きているけれど,この規模と前日の上水のデモ隊の勢いからすると奇跡的な静けさで終わってるように見えました。
 けれどそれでも,20時半前後には映画上映会を予定していた沙田大会堂が警官隊に包囲され,催涙弾を用い強制解散させられる事態が発生してます。また,深夜2時過ぎに警官10人が負傷する鎮圧があったらしい。こちらはそもそも何がどういう規模で起きたのかが明らかになっていません。

■記録用:「7.14沙田区大游行」と「商場事件」

 ワシ自身は香港を離れたこの日の夜に起こった出来事を,時系列で並べてみます。

7.14-20~22°

晚上8时半,警方宣布即将清场[19],并称此是围堵行动[29][30][31][32]。半小时后,沙田乡事会路、大会堂等地先后举起红旗和黑旗(即警告会施放催泪弹),要求余下示威者离开,而当时示威者则组成人链保护后方[27][33]。而当时沙田乡事会路有示威者先向警察警告再推进就会投掷砖头,结果后有示威者向防暴警察投掷砖头及杂物。使得警察后退,并举起红旗。此时投掷砖头的示威者后退至人群较后方[19][27][28]。后来警方声称有示威者投掷砖头和石头,并就此作出警告,但示威者否认当时现场有此一事情发生[34]。[前掲維基7.14]

21:00 軍裝警攻入商場 示威者被圍困
曾大致平靜的新城市廣場,變成警民衝突的戰場,轉捩點大約在晚上8時55分。

※ 香港01/【沙田遊行】重組新城市浴血戰始末 包抄式清場變狹路相逢爆衝突
──武装した警官隊かショッピングエリアに入り,示威者たちは静かな新城市広場で囲まれ,警-民の衝突する戦場と化した。転回点となったのは概ね20:55頃。

22:00 軍裝警推進 港鐵一度停服務 恐慌情緒蔓延
不過大約晚上10點,在巴士總站外場駐守的便衣警突然撤退,全副裝備的綠色軍裝警員不斷向示威者方向推進,要示威者從新城市廣場離開。[前掲香港01]

──22:00 武装警官が進出,鉄道は一時運行を停止。恐慌のムードが高まった。
──22時前頃,バスターミナル外に駐留していた(非武装の)制服警官が突然に撤退,完全武装の綠色(迷彩?)服の警官が示威者たちの方に直進し,示威者たちに新城市広場を離れるよう求めた。

但由於滯留在商場的示威者眾多,無法短時間內從港鐵站散去,警方又不斷推進,終於發生衝突。
其中,有在沙田港鐵站連城廣場的扶手電梯底,有人攙扶倒地的示威者時,被噴胡椒噴霧。[前掲香港01]

──しかし示威者の多くはショッピングエリアに留まり,短時間に鉄道駅から去るのも無理だったので,警察側は再び進出しついに衝突が発生した。
──そうした中,沙田鉄道駅の連城広場のエスカレーターの底に,示威者の一部が倒れこんでしまい,「胡椒噴霧」を吹き付けられた。

▲警方於商場連接港鐵站出口位置清場(鄭子峰攝)

7.14-22°~7.15-03°

 この22時の一次鎮圧から5時間足らずのまとまった記録は見当たらない。警察側の不退転の姿勢からして,包囲網の外部とは完全に遮断され,内部は大混乱で客観的な情報把握が出来る者がいない状況だったと推測できます。
 なので,次の深夜3時前の事態も,警察側の公式発表と記者の断片的記録に基づいているらしい。

02:40 盧偉聰:有示威者向下投擲物件,所以警察才會入商場
警務處處長盧偉聰,凌晨兩點多見記者時表示,因為有示威者在商場的平台,向下投擲物件,所以警察入商場,才會發生「商場事件」。他說有十名警員受傷,其中一名警員被咬斷無名指手指。[前掲香港01]

──以下警務所所長の盧偉聰による:02:40 示威者の中に物を投げ落とす者がいたので,警察がショッピングエリアに突入した。
──(多くの記者も深夜2時頃と記す)示威者の中にショッピングエリアの平台の上から物を投げ落とす者がいたため,警察がショッピングエリアに入り,「商場事件」が発生した。10名以上の警官が負傷し,そのうち1名は指を噛みちぎられた。
 ここには「示威者」側の表示は語られていません。けれど完全武装警官が10人負傷する鎮圧という状況から,その激しさと騒乱の暴力性の度合いは察せられます。

かし……こんなにカメラの砲列に晒された市民運動というのも歴史上初めてじゃないだろうか。しかもその映像が,即ネット上に,ほとんど咀嚼されずに放出されていく。
 ここまでのところ,香港人の健全さは「成功」してる,ように見えます。ギリギリの線で「暴徒化」の手前に踏みとどまり,頑なにドライでクレバーな闘い方を維持してる。
 その意味では──

政府发言人于14日晩上10时发表新闻稿,(略)并重申法治是香港的基石,社会绝不容忍这些暴力行为[前掲維基7.14]

──重ねて言うが,法治こそが香港の基石です。(香港)社会は絶対にこのような暴力行為を受容しません。
とする政府側の評価と,スタンスとしては「暴徒」又は「示威者」側も同じパースペクティヴで動いています。──この事態を既に暴力行為の域と見るか否か,それはどちらサイドなのか,という点を除いては。
 ただ,彼らのネットへの過剰とも言える情報放出と,世界が欲求するホットさへの飢餓が,感覚として,従来の民主主義にはない直栽さを帯びているのが衝撃的でした。
 香港当局だけでなく,それに,大陸の情報統制を標準とするネット支配の力が本格的に対抗し始めたら何が起こるのか。──興味深くも恐ろしいイメージです。

中共中央机关报旗下《环球时报》谴责称“那些对警察施暴的示威者,他们被小场景里以及暂时的气氛所迷惑,他们的那份嚣张只能是瞬间和短暂的,历史给他们准备了足够的惩罚。”[前掲維基7.14]

──中共中央の機関紙「环球时报」(環球時報)はこう非難する。「このように警察に対し暴力をふるう示威者は,随所で,一時の気分で迷惑を及ぼしており,その傲慢さは瞬間的で短期的(≒短絡的?)である。歴史は,彼らに存分な懲罰を準備するだろう。

逃犯条例に関する遊行活動の特記点

 この内容をまとめているのは,2020年7月時点。香港の立法会を迂回し,全人代(第13期第3回会議)上程による香港国家安全維持法案が,6月30日の全人代常務委員会(第13期第20回会議)により成立された後です。
 つまり,逃犯条例は,香港の自治立法内で成立させられないものとして実績を積んでしまった。その実績に基づき,この問題の決定権が香港現地から北京に移動してしまった。
 行政側にとっては失敗した──大陸中央が,本来不可侵の香港地方自治をタッチャブルに転換した,という政略面では「成功」だったのかもしれないけれど……逃犯条例反対運動の特徴を2019.7時点の Wiki/2019年逃犯条例改正案(日本語)から以下,保存用に転載列挙してみます。

反対運動の特徴
 デモ参加者はハイテクを駆使する当局による監視を恐れて位置情報を無効化したスマートフォンで秘匿性の高いSNS(Telegram)で連絡し、地下鉄でICカードを使用せず、顔認証システムも避けるためにマスクやゴーグルなどを装備した。

 デモのレベルの「反社会活動」でも,既に電子戦が意識されている。おそらくそれは過剰反応ではなくて,本当にそのレベルの──もしかするとそれ以上の──監視がなされているでしょう。
 だとすれば,情報発信のレベルでも相応の「戦闘」は既に現実化しているのではないでしょうか。例えば,独立系の報道サイトのサーバにバックドアを仕掛けるとか。
 次に「外国」の反応。──この件は,多くの香港人がそれを懸念した通り,国際的には米中の代理戦争化しており(米国旗を振るデモ隊の光景もありました),その意味ではこの両国は真の当事者とも言えますけど──

中華人民共和国
中央政府駐香港連絡弁公室と国務院香港マカオ事務弁公室は改正案への支持を表明、中でも前者は5月17日に香港特別行政区全国人民代表大会代表と全国政治協商会議香港地区委員を呼び出し、改正案を支持する世論を作ることを要求した[23]。
中華人民共和国外交部のスポークスマン耿爽は5月8日に香港の事務が「中国の内政」であるとし、米中経済安全保障調査委員会(英語版)など外国からの報告書は論駁に値しないとした[132]。また、6月10日には逃亡犯条例の改正を引き続き支持すると述べた[133]。

[24] “中聯辦明晤人代政協挺修例 建制:將聽重要指示 胡志偉:變政治硬任務” (中国語). 明報. (2019年5月16日)
[93] “2019年5月8日外交部发言人耿爽主持例行记者会 — 中华人民共和国外交部”. www.fmprc.gov.cn. 2019年5月11日閲覧。
[94] “反對修訂逃犯條例 港百萬人上街” (中国語). 正報. (2019年6月10日)
[95] “Russia, China to Discuss ‘U.S. Meddling’ in Moscow and Hong Kong Protests”. Moscow Times. (2019年8月13日) 2019年8月25日閲覧。
[96] “Spokesperson slashes foreign meddling in Russia, Hong Kong affairs”. 新華社. (2019年8月21日) 2019年8月25日閲覧。

 対する,というか以下を読んで頂くと一目瞭然ですけど,アメリカの反応は,実は2019年夏のこの段階では比較的ヒトゴトでした。トランプ様すらそうでした。

アメリカ(略)
5月22日、中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(英語版)の議員8名が連名で林鄭月娥行政長官に公開書簡を発し(書簡の内容は5月24日発表)、逃亡犯条例改正案の撤回を求め、外国人が中国大陸に引き渡される危険に冒されると、アメリカなどの多国籍会社は本社を香港からアジア太平洋諸国に移転する可能性があると述べた[141][142]。

[141→現112] “【逃犯條例】美國8名參眾議員聯署信予林鄭月娥 促撤《逃犯條例》修訂 (08:21) – 20190525 – 港聞” (中国語). 明報新聞網 – 即時新聞 instant news. 2019年5月25日閲覧。
[142→現113] “CECC致函林鄭月娥要求撤回逃犯條例修訂” (中国語). 美國之音. 2019年5月25日閲覧。

7月22日、アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプは中国当局のデモへの対応を「習近平国家主席(総書記)は非常に責任をもって対応してる」と称賛し、前日に起きた元朗駅でのデモ参加者への暴力団による暴行を意図的に放置したとする香港警察の疑惑については「比較的、非暴力だったと思う」と述べた[現114]。

[現114] “トランプ氏、中国当局の香港デモ対応を称賛”. AFPBB. (2019年7月23日) 2019年7月24日閲覧。
 トランプ様がアメリカ人の中でもある意味最もアメリカンなパソナリティだとすれば,習近平さんも最も中国的に冷徹な指導者です。この時のアメリカの反応に加え,対コロナ戦での両国の実績差からGoの判断を下したはずです。
 ただそれでも分からないのは──香港というバッファゾーンの機能低下又は消滅は中国経済にとっても明らかにマイナスになるはずなのに,なぜ中国は強行したいのか?という点。その損点を補うほどの,政治軍事的な得点があるとは思えないのですけど?

▲確かに香港市民の1/3が参加したとも言われるこの運動下で,そんなプラカードもあったかもしれない。でも,アメリカ経由の香港・中国情報は大抵こんな感じの偏向がかけられてます。
※ THE NEWS LENS/Hong Kong’s Last Stand: A Timeline of the Anti-Extradition Movement(英語による19.6.9デモの記録)

 今回,そして2020年6月末,ワシらは香港に何を見たのでしょうか。
 ここ何年かの香港の町の色彩は,明らかに変化している。単なるノスタルジックな感傷ならいいけれど,何とも戦慄を感じさせる,それは変貌なんである。
 香港の終わりを見ているんだろうか?

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