ユージン・スミルノフ教授の最終講義@ことばぐすい

[序]
 人々は、こんなひどいかぜはめずらしい。

早く流行がおさまって、もとの世の中がくればいい

が、と話しあった。長い長い間、千数百年にわたって、小ぢんまりとした「文明」を享受してきた日本の人々は、文明と国土に対する無条件的な信頼があった。しかし、同時に、文明というものにはある限界点のようなものがあって、崩壊作用がその限界点をこえると、高度に有機化した人間社会をささえる「文明」のあらゆる要素が、今度は逆にことごとく文明の解体の方向に作用することを知らなかった。
──そして、その解体の彼方に、「種の滅亡」という、地球の長い歴史にとっては、ごくありふれた、ささやかなドラマがひかえていることも……。

※ youtube/復活の日(予告)

[本編]
「ヘルシンキ大学の文明史担当ユージン・スミルノフ教授です……私のことを、知っておられる方が、まだのこっているとは思いません。また、どなたかが、まだ生きていて、私のこの放送をおききになっているとも思いません。──しかし、私はかたらずにおられません。

フリードリッヒ・ニーチェが、神もなく、救いも憩いもないむき出しの物質宇宙の中にただ一人、まもるものもない赤裸の姿で誕生し、素手でもってそのあらあらしい、虚無そのものであるゴツゴツした物質世界にいどまねばならない超人の姿を予見してみせて以来──すでに半世紀以上も経過したにもかかわらず、人間はただその弱さから、自己自身、つまり人間的なものにのみかかずらい、

虚無と、物自体の深淵のほとりに立つ、自己の真の姿

を──卑小にして高貴、すべてにして無、万能にして無力、物そのもののような残酷さと、精神そのもののような無限のやさしさにみちた自己のあらわな姿を、直視する勇気を、ついにもたなかったのであります。

「みなさん!──ああ、みなさん!……ここに、ひょっとしたら、災厄の真の原因があったのかも知れないのです。──これほどまでに科学を発達させ、物質生産をゆたかにした人類が……たかがウイルスに、わずか数か月の間に滅ぼされた。こんなことはあり得ない!──そうです。そのあり得べからざることが起こったのです。

われわれは、この災厄に正面から立ちむかうことをしなかった

──科学者の一部は、真剣になって警告を発しました。しかし……闘いは決して科学者だけの力によっては、なし得ないものであります。それには数多くの、社会的ファクターがあります。たとえば為政者は……大衆は……

官僚は……この闘いに団結して全面的に力をそそいだか?

インテリは? ホワイトカラーは? ジャーナリストは?──いかにも、この災厄は不意うちだった。科学者たちでさえ予測できなかった。あまりに急激すぎて、災厄に対する全人類の統一戦線をはるだけの余裕がなかった。しかし──それにしても、

われわれが、全力をあげて闘うことは原理的に不可能だったでありましょうか?

人類がもっと早く、自己の存在のおかれた立場に目ざめ、常に災厄の規模を正確に評価するだけの知性を、全人類共通のものとして保持し、

つねに全人類の共同戦線をはれるような体制を準備していたとしたら

──災厄に対する闘いもまた、ちがった形をとったのではないでしょうか?

知識人は……なかんずく哲学者は……自然科学の提示する宇宙と人間の姿を理解し得る立場にあったはずだ。彼等はそれの、人間にとって意味することを、大衆に……というのは全人類に翻訳し、つたえることができたはずだ。その認識をもって全世界に、現代を綜合的に超越せしめることが、できていれば……。
「だが事実は、われわれ人類は、そして人類の中で、知的操作の専門家であるはずの知識人は、その生存していた間において、ついに国家間の対立を、殺戮を、搾取を、不平等を、貧困と悲惨を、終結せしめることができませんでした。

ベルグソンは理解というものは時間的経過を要するものだということを、砂糖の溶けるのを待つことにたとえました。しかし、みなさん……砂糖はもっと早く、投ぜられてもよかったのであります! 早ければ早いほどよかった。──そうすれば……現在すでに人間は搾取と戦争の時代を脱しており、人間の精神的、知的、物質的生産力の総体を、より有効な、人類にとってより本質的なものに、ふりむけていたかも知れない。──この〝底知れぬ物質宇宙の、ちっぽけな孤島に偶然発生した知的生物群としての人類意識〟がもっと早く普遍化されていたならば……われわれ人類は、もっと早くその全人類的意識を獲得することによって、冥蒙たることをやめ…、相互殺戮の、侮辱や憎悪の、エネルギーを…真の人間のための闘い──貧困と飢餓と冥蒙と疫病に対する闘いに、そして認識のための闘いに…ふりむけていたかも知れない。それがまた、今度の不意打ちの終末、大災厄に対して、万に一つの、チャンスだったかも知れないのであります。──すなわち……終末戦争の時代にあって、全人類の破滅を回避する唯一の途と同じく……今度の大災厄においても究極的チャンスは……もっと早く、もっと強力に全世界のものとされるべきだった〝理性と分別〟にあったかも知れないのであります……。

※ 小松左京「復活の日」第一部第四章5八月第二週

[関連]
彼らは、自らの〝種〟の滅亡、自らの文明の終極を超える方法として、一つは他の知的生命体への呼びかけに──つまりわれわれが期待をいだいたように、彼らの達し得なかった、認識の高みに達しているかも知れない──一つは、より高次な段階にまで達している異星文明の探究に、そしてもう一つは、彼ら自身が、まだその可能性をくみつくしていないかも知れない、自らの精神的能力に賭けた……」
「なるほど……」ミックは深い溜息とともにつぶやいた。「その三番目のやつが、われわれの文明の終極相において、脱落していたわけだな」
「われわれ地球人の、精神的エネルギーがひくかったとはいえないでしょう」とリュウはいった。「むしろ──われわれの技術文明が猛烈な勢いで勃興してきた時、誰かが──だれか賢人が、それと見あうほどの巨大な、しかも宗教のように古くない精神文明の必要性を感じてそこに大きな投企をやっていれば……われわれだって、精神的能力においては、それほど、低くなかったはずだ。──だが、歴史がミスリードされて、技術文明、物質文明が、まず科学をまきこみ、さらに一切の精神をまきこんでしまった。われわれの

文明の宿命的失敗というより、完全な人為的失敗

でしたね」
※小松左京「神への長い道」『青い都市』の住民と人類の比較記述

[現実1]
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は1日、日本統治下の1919年に起きた最大の抗日独立運動「三・一運動」を記念する式典で演説した。(略)演説では新型ウイルスに徹底対応する考えを示し「国境を越えた協力の必要性を実感した」と語った。日本にも「共に危機を克服し、未来志向の協力関係に向けて努力していこう」と訴えかけた。
※ 日本経済新聞/韓国大統領、新型コロナ「日本と共に危機克服を」
「三・一運動」で演説 「歴史直視」求める 2020年3月1日


[現実2]
「現在、日中韓3か国は新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を全力で防止·抑制すると同時に、複数の措置を同時に実行して、感染状況が経済に与える負の影響を緩和すべく努力している。突如発生した新型コロナウイルスによる肺炎を前に、日中韓は『同舟相救い、互いに見守り助け合う』厚い情誼を示した。3か国にとって感染症との戦いで連携したことは、協力深化の新たな原動力となるものだ」
(略)
 グローバル化の時代において、各国は共生し、共存し、共同発展する運命共同体だ。ウイルスは人類共通の敵であり、自分だけ被害を受けないで済む者はいない。

感染症は制御可能、治療可能であり、団結·協力し、助け合いさえすれば、最終的に打ち勝つことができる

と我々は確信している。
(略)
 日中韓は当面、3っの面で協力を深めるーとができる。第1に、当面の急務は衛生·防疫協力を強化し、情報共有、合同対策、経験·技術交流を行い、水際対策と検査·検疫を強化し、連携して感染を防止·抑制し、地域の公祭衛生上の安全を守る。
※ Record China/新型コロナとの戦いで連携,日中韓連携の原動力に(日中韓三国協力事務局曹静事務次長,中国メデイ
アの合同書面インタビユーへのコメント)


[現実3]
 日本政府が新型コロナウイルス感染症対策で中国と韓国からの入国制限を9日から強化することに対し(略)韓国外交省は、日本人に認めている査証(ビザ)免除措置(90日以内)と発効済み査証の効力停止を9日から行う。(略)康京和(カンギョンファ)外相は冨田浩司駐韓大使を6日に呼んだ際、日本の措置は「非友好的で非科学的だ」と批判した。
(略) 保守系の韓国メディアや政治家らは、中国の地方政府が入国した韓国人を隔離していても韓国政府が対抗措置をとっていないことに「日本への対応は感情的で過剰だ」とも批判している。
※ 朝日新聞デジタル/対日入国制限、韓国内からも批判「防疫より政治的思惑」
ソウル発2020年3月7日


[現実4]
 全米でも最有力の世論調査機関の一つ、「ハリス世論調査会社」はコロナウイルス関連の最新の全米世論調査を同日までに発表した。同調査は全米約2000人の一般国民を対象とし、4月3日から5日の期間に実施されたという。
 その結果によると、まず注目されるのは一般アメリカ国民の圧倒的多数が新型コロナウイルスの拡散について中国政府の責任を問うている点だった。自国が世界でも最多の感染者を出したことに対して、「中国政府に責任がある」と答えた人が全体の77%、「責任があるとは思わない」と答えたのが23%だった。
 その背景としては「新型コロナウイルスに関しての中国政府の報告は信用できるか」という質問に対して「信用できない」と答えた人が全体の72%、「信用できる」というのが28%だった。
(略)
「中国ウイルス」とか「武漢ウイルス」という表現はトランプ政権では大統領はじめマイク・ポンペオ国務長官らが何度も使用して、同じアメリカ国内でも民主党系リベラル・メディアのニューヨーク・タイムズやCNNテレビからは「人種差別の用語だ」などという非難を浴びてきた。
 しかし今回の世論調査によると、全米ではこの「中国ウイルス」という言葉に対して、その使用に賛成するという答えが全体の52%、反対が48%という結果が判明した。つまり多数派のアメリカ国民は今回の新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼ぶことに賛成しており、民主党系メディアの主張がむしろ少数派だというわけだ。
※ 米国民、新型コロナ中国に責任
NEXT MEDIA “Japan In-depth” 2020年04月13日10:36

「ユージン・スミルノフ教授の最終講義@ことばぐすい」への3件のフィードバック

  1. Your article gave me a lot of inspiration, I hope you can explain your point of view in more detail, because I have some doubts, thank you.

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