本伝02章Step15.もう体重なんてどうでもいいや!


 past87days
 Weight:113.5kg
 (△22.5kg)

と思えてきとります。
 減量放棄の宣言じゃないのよ。体重の下降以上に嬉しいことが起こってきたからなのです。
 たいてい旅行の終盤では体が活動的になる。時間までに駅につかないと列車は発車するし,足早に通り過ぎないと強盗さんに狙われたりするし,何より「この角をどっちに曲がる方が面白いか?」という瞬間的な直感を絶えず尖んがらせてるわけで,心身ともに軽い戦闘モードに入る。
 まして,今は体の支える重量が3ヶ月足らずで1/6減っている。重力の違う別の惑星にいるよな(行ったことないけど)大変な「浮遊感」なんです。
 台湾の最後の3日は,台北の街を死ぬほど歩いた。減量前は30分も歩くと頭痛や発汗による脱水症状,足裏のひび割れなどで倒れそうになってた。それが全くない!久しく味わってなかったウォーキング・ハイの感覚までやってくる。元々好きだった街歩きを満喫できるもんだから,もう足が止まらない!
 2日目にはさすがに目眩がきたが,一晩寝たらまた歩きたくなってうろついちゃった。
 前にも書いたけど,歩く楽しみを陳腐化する気がするから万歩計はつけてない。だから5~6時間ぶっ続けに歩くと何歩になるのか知らない。けど,とにかく爽快!
 けど今んとこ,1500kcal制限が体にかけてる重い負担を考えて,これ以上の運動は厳禁するつもり。
 わしはまだ体重3桁台の体。人間,現状に慣れてしまうもんだろうから,そのうちこの浮遊感も感じなくなるだろう。だから,浮遊感の続いてる間に歩く楽しみをたっぷり脳に叩きこんで,習慣として取り戻したい――って計算は漠然とあるけどね。
 今はただ歩けることを心から喜んでたいんであります。

 1/6(22.5kg)減ということはだ。体重半減の旅の1/3地点を通過したということになる。
 月平均▲7kgペース,週平均2kg弱というのは,やはり少し暴走野郎だよね。もうちょっと減速する目処で,1年目くらいをゴール目標にしたい。
 そろそろ洋服がダボダボになってきたので,買い替えを始めた。どうせすぐサイズが合わなくなるから,出来るだけ少量ですませたい。しかし1/6まで着るに耐えるということは,買い替えはあと2/6地点と3/6地点(ゴール)の計3回で済ませられるのかな?
 痩せてる人は経験しないことだけど,デブの着衣で最も痛みやすいのがズボンの股下の部分。両股の間でこすれて生地がボロボロになるのです。
 歩く時間が長くなると当然この痛みも加速する。年内に手持ちのズボンを全部潰してしまった。こいつは危機一発じゃ!デブに入る既製スーツはないから,イージーオーダーするしかない。注文から出来上がりまで1ヶ月弱かかるのです。ヒーン,会社に着て行くもんがないよ~!
 なもんで,新年早々スーツの下だけ注文に出かける羽目になりました。
 スーツ屋さん曰く,オーダーメイドでキングサイズのズボンを作るときは,股下の摩耗が予想されるため,そこの生地だけ厚く補強するのだとさ。それでも破っちまうんだからデブはやはり超人であります。
 ちなみに,応急に継ぎ当ても頼んでみたけど,このデブ股下破れは繊維がボロボロになってるから継ぎ当てに新注文と同程度の金額がかかるらしい。
 しかしこの1ヶ月どうしよ?最後の頼みで週末に出向いたのが,岩国のショッピングセンター。米軍基地のあるこの街はデブ服の品揃えがよく,時々利用してた。探すと…既製品でかろうじて入るものを発見!こいつで1月しのごう。
 それにしてもだ。ギリギリだけど既製品が着れるお体になったことに感動したのよ。
 何より出費が抑えられる。イージーオーダーすると安くてもズボン1本が2万円弱はする。既製品だと1/3から1/4で済んでしまうのじゃ!これは助かる…

 歩くよになって嬉しいこと,さらに一つ。
 130kg代に超人化してから,足裏マッサージに足しげく通った。2週に1回くらいの頻度。行かないでいると下半身がかなりつらくなるためだ。
 足裏マッサージでも痛みは全く感じない。ひたすら気持ちよい。──おそらく,これ自体が異常なことなのだろう。
 日本の足裏では,なぜかマッサージ師が「どこそこがお疲れですね」とご託宣して,客が「なんで分かるの」と驚くというのがパターンになってるけど(本場の台湾では黙って施術してくれまっせ),彼ら曰く──
 足裏の皮膚が角質化して靴底並みになってる。削っておくけど,新陳代謝そのものが悪いからまたすぐ溜まるはずだ。
 自分で見ても,特にかかとと指の付け根の関節辺りはプラスチックの板みたいになってた。「ロード・オブ・ザ・リング」でホビットの足裏は厚くて靴なしで歩けるとされる。実はわしはホビットだったらしい。
 今回の台湾では,歩き過ぎの足のケアという意識もあって,毎日欠かさず足裏マッサージ(現地では脚底アン(手偏に「安」)摩)に通った。角質削りもやってもらったが,その後街を歩くと何か違和感がある。
 しばらくして気づいた。…足裏に感覚が戻ってきているのだ!靴底を通して地面の土の柔らかさや舗装路の硬さ,歩道の段差や坂道の傾斜なんかが確かめられる。
 これも含め,人間界と超人界の境界は120kg辺りに存在するらしい。

 左手の甲の真ん中に黒ずんだ点がある。
 中学生の頃だったと思う。授業中の暇にやかせて,何の脈落もなく妙なことを思いついた。「人間の体は意志で変形できるのか?」
 試しだのは,手の甲にペン立てを作ることだった。来る日も来る日も甲に鉛筆を突き刺した記憶がある。傷になってカサブタができ,また新しく皮膚が出来ても突き刺し続けるうち…
 何と鉛筆が立てられるだけの穴がそこに出来たのであります!
 何ちゅうアホなことを…と今はわしも思う。意味は全くない。それに1年もすると穴は無くなり平らになってしまった。
 ただ,今回の減量プロジェクトで思うのは,あの時と基本的には同じ動機でやってるなということです。
 体調の不良解消という意味でも,歩く楽しみの復活という意味でも,もうちょっと下…100kg代なら別に問題はないと思う。ウェイトのトップで体のあちこちに出てた不調は,現時点でほぼ解決してしまったからからです。
 ただ,ここまできたら完璧なウェイト管理術とそれを取り巻く現代の状況認識を自分のものにしてしまいたい。
 それはひとえに,自信のためです。ソウルというものの確認作業。時代にいつでも噛み付ける訓練。そんな感じのもんですわ。
 日本の食文化が命ずるままにただ漫然と太らされる。そいつから,いざとなったら独立できるよ,システムを泳ぎきれるよ…と自信を得ておくことは,いつ潰れるか分からないこの国に生きるにあたって必要な姿勢だと思うんですけど。
 古いけど…谷村由実にこんな歌があった。「大切なのは変わらないこと,変わって行けること」──変わってしまうこと,変われないことは,誰かの飼い犬だってことですね。
 いざとなれば「変わって行ける」という自信。それだけのための体重半減プロジェクトです。暇な話だけど,うっかり1/3まで来てしまったからついでに歩き切ってみたいわけ。

おまけ長崎のバレンタインデー童子?