外伝03-FASE22@ Miss Little Voice

▲公設市場から桜坂を登る

 22時12分発,空港発首里行きゆいレールの車内に軽やかに鳴るオルゴールメロディ。
 音の島に還ってきてます。
 プログ3度目の沖縄は霜月。11月下旬の5日間。
 ヤマトでは肌寒かった長袖姿,ゆいレール駅まで歩くと既に汗ばんできました。
 わずか2両の車両が動き出し,駅毎に流れるウチナーソングのシャワーを浴び,牧志で下車するまでには既に心身とも沖縄病に冒されてしまっとります。

 初泊から国際市場の奥へ潜る。桜劇場の坂の下,言っちゃ悪いがいかがわしさ満点のエリア。前から気になってた変な安宿ステラリゾート。
 階段を上がってくと――さらに変。3階に上がり切ったとこで突然ジャングルが広がるんである!そのスペースに面して大小様々な部屋が出来てる。トイレ,シャワー,洗濯,そして交流スペースは共用。
 ネット予約したら,一番デカい部屋になってしまってました。液晶テレビとソファとパソコンまで付いてる10畳位のトンデモスペース。バカ安いんだけど…これ普通は家族部屋なんちゃう?…と思うと少し恥ずくなってきたんで,既に11時近いですけど夜の那覇へ。
 ぬったりと魔を宿すウチナーの闇。太平通りの裏手へと沈む。

▲そばやの店構えと怒涛のメニュー群

 発見しました。つぼやのそばや,何と言うか,仮設のプレハブみたいな小屋。
「24時間営業」とドドーンと掲げてあるけど,店内壁には「しばらく深夜営業を中止いたします。ご迷惑をおかけします。」え?現に,夜11時現在に開いてるのに?「今後の営業は午前10:00~深夜2:00までです」なるほど…那覇では2時に閉めてちゃ深夜営業を名乗れないらしい。そんで言わんでいいのに書き足してあるのが「本年度もよろしくお願いします。」
 カウンター4席,座敷4テーブル。形式は由緒正しい沖縄定食屋だけど結構造りは新しい。この夜間に客は6人,三笠並みに流行ってます。三笠並みと言えばメニューの数も半端じゃなくてしばらく迷ったけど
ふチャンプル 550円
に決める。
 5分も置かずに盆が来る。ふチャンプルとモズク酢,ご飯と味噌汁。
 この,ふチャンプルっ!美味い!
 初日だからか?ものすごい絶妙なポークのダシと卵のトロミが,沖縄麩の中にしっかり染み込んでる。
 具材は麩の他にはキャベツ,もやし,ニラ,ポーク,卵。それだけだと思う。
 それだけで,これだけ深い味が出てるのが沖縄メシ!もやしもキャベツも,ムチャクチャ美味い!広東メシくらいの深み,和風よりもう一つ深いとこにどうもカツオダシが効いてる。これが最終的に凄みに繋がってる気がする。
 ご飯も,これやっぱりヤマトと違うわ。最初はホクホク感がなくて,最後は粘りと甘味がない。つまりパサパサしてるわけだけど,タイ米みたいな香りや臭みはない。これが気に入ったらなかなか忘れがたい味に思えてきてしまう。ひょっとして単に安価なブレンド米かもしれんけど,ウチナーの舌にマッチする限りこの島は受容し続けるでしょう。
 汁は――味噌汁…と呼ぶべきじゃない。味噌汁としては,ハッキリ言って,超マズい。和風ならダシが効いてる味覚の場所が,無味なんである。つまりは何度か書いたけど…大豆スープと呼ぶべきもの。でも,その大豆の醤油漬けの香りを楽しむスープとしては,これが抜群に美味い!
 つまり,ウチナーの味噌汁ってのは,舌のスイッチの切り替えを強要してくる。一見ヤマトの当たり前の定食のふりをして,実は大したカルチャーショックの刃なわけで――まさにウチナーを象徴するスタンスです。

 初日朝。小雨。
 せっかくスタートをこのエリアにしたんだから…と朝飯は金壷食堂にしました。やはり桜坂の下,三和荘の裏道。
精進定食 500円
というか,ここ,これ以外のメニューあるのか?ただここは,まあバイキング方式。今回朝イチじゃなかったから,初めて選択肢がある状態で定食を食えた。
干しぶどうサラダ
海藻ねっとり煮付け
ピーマンの炒め物
魚の漬け物
野菜汁
ご飯
 どれもたおやかに,滷味がしっかりと効いてる。けれど,どれも何をどうしてこの味になってるのか全くわからない。沖縄メシっぽくはなくてはっきりと中華スパイスなんだけど,よくあるシナモンだけの味付けじゃなくて非常に複雑で微妙な彩りの味覚。
 圧巻は汁。味噌はもちろんダシの痕跡はなく,広東的な深い層でもない。なのに野菜の優しい自然な味わいとゆるい滷味の絡まった…何とも言えない薄味中華な美味!
 垂れ流されるテレビの音の下に,腹の突き出た黄金の仏様がニッコリしてる。

▲写真で見るとヒドくグロいけど嶺吉食堂のあしてびち

 宿を移してバイクを借り,すぐ港へ向かいました。
 テレビのビックリ情報にいちいち「あきさみよー」とか露骨な驚きを止めないおばあのウチナーグチが,店内に響き渡るのを聞いてる小さな座敷席。久々の嶺吉食堂。
 もう10回は来てる気がするけど,結局ここではコレしか頼んだことがない。
あしてびち 700円
 外見も内装も相変わらずズタボロなんだが,お味の方も相変わらず濃厚,相変わらず絶品!
 てびちも汁もトロットロ。けれど――いつもと同じ具材のニンジン,大根,蒔きコンプに染み出したコラーゲンは,実はそう濃い味覚じゃなく…野菜のコクみたいな,他の具材を生かす働きをしてることに気付く。今まで感じなかったけどこの味って,かなり繊細な味覚だぞ?
 典型的な沖縄メシの味わい,アジクーターを再確認した後,お茶を飲んで仕上げます。
 辻側へ少し入った場所。平井堅のバラードの音色が狭い店内をたゆたう「あぐろ焙煎」。小さなコーヒー屋さんです。
ふわふわレアチーズ(本日のコーヒー付き) 500円
 甘味は深く,濃厚なのに後味が軽い。何よりこの絹豆腐のような滑らかな食感がたまらない。
 そしてコーヒー。飲んだことのないタイプです。紅茶のようなコーヒーと言うのか…苦味はほとんどなくて,渋みがほんの少し舌に残る程度。その淡白さの中,香りだけが静かに,けれど印象的に口内を満たす。甘ささえ感じさせるふくよかな香り。モカ主体のブレンドだろうか。
 店内の雰囲気も,静かに,ゆっくりくつろげるしっとり感。この沖縄独自の,打ち捨てられ感ってゆーか――いいよなあ。

 腹がくちたらお買い物である。北へしぱし爆走したバイクを
新都心まで移動して,いつもの2件のパン屋をチェック。
 安謝,「秀のばん工房 窯」。
生ハムとブリーチーズのサンドイッチ
カレーパン
塩豆あんぱん
クロワッサン
計755円
 前回と同様に隣のコーヒー屋で受け取った紙コップを手にテラス席に居座り,クロワッサンだけ戴く。――美味い。シンプルでハイセンス,牛乳や砂糖やの余計な雑味が感じられない。
 前回もだったけど,圧巻はサンドイッチでした。
 見逃しそうな脇道の店です。今も,すれ違えない客が押し合いへし合いしてる。この客足を見逃せば,ここにこんな上質なパンが息づいてるとはとても予期できない。
 沖縄的なものは感じられない。新都心はウチナーとは隔絶した世界に浮かんでる。
 そういう意味では,続けて立ち寄ったこの店も同じ。本店は恩納村だというが,やはりそういう店が新都心には集まってると思われる。
 銘苅,「パリのパン屋さん ボンジュール」。
パケット
ライ麦パンとハム
チーズベーグル
計590円
 今回は早めの時間だったんでパケットが確保できた。
 ここの上質さも「秀」に比肩するのは間違いないんだけど――全く異なる上質さ。ドイツとフランスと言う技術の系統だけじゃない。
 この銘苅の裏道にひっそりと軒を構える佇まいと言い,「パリ」の方には媚びとか遊びとかがなく,「分かる人に分かればいい」みたいなストイックなスタンスを感じる。味もまた然り,よくよく噛みしめて初めて浮き上がってくる小麦の味わいに驚かされる。別に「秀」の味が下品というわけじゃなく,敷居の高さの問題です。
「秀」は食堂で言えば「嶺吉」の一見歓迎タイプか?あれはあれでいかにもウチナー。とすれば「パリ」は,民謡酒場に例えられる。この「さり気ない」敷居の高さも,けれどもまた…まさにウチナーなんである。
 この両義性,「結局どっちやねん!?」的な得体の知れなさに,またグイグイと病の重度が増していく。あえて言えばこの得体の知れなされこそが――まさしくウチナーなんだわな,これが。

▲あやぐそばのそば定

 この後,さらに首里へ向かってますが,一体…何食目だ?
あやぐそば
そば定食(さしみ・チキンカツ付き)500円
 ここはいい。
 もう何度目になるんだろう?A定食のバカバカしいほどの量に仰天してから,10回は来てるはず。通ううちに,大衆食堂の味としても大したもんだと,ジワジワと実感させられてきたお店。
 本来売りだったはずのそばを,初めてメインに頼んだことになる。
 美味い!
 沖縄そばには正直あんまり感動したこともないし,久しぶりだったせいもあろうが…平たい麺の歯応え,小麦の香り高さ,絡まる汁の軽やかさ,どれもさりげなく本物なんである。
 さて,そば定食にはそば以外に何が付いてるかと思ったら――ご飯はまあ分かる。さらに2皿,刺身とチキンカツ。
 いかに沖縄の物価が安いからとはいえ,ワンコインでこのボリュームだから…さすがに刺身は「まあ刺身ではあるけれど」というところです。
 ただしチキンカツ。このむせるような凶暴な香りは何だろう?肉肉しいと言うか,赤身が突っ走ってる味と言うか…沖縄のカツに共通するこの凶悪さは早い時期から感じてたが…肉質がそんなに違うとも思えないし,油が悪いだけというのとは違うし――何なんでしょう?
 いずれにせよ食い過ぎです。ですが――マンモス校の七夕の短冊みたいに壁を埋め尽くすメニューをチェックしてるうち,どーにも心残りが。
 これも初めてだけど,お持ち帰りを頼む。
ふーチャンプル(ご飯無△50円)450円
 ここが麩をどう使うのか,どうしても気になった。宿で食すと――やっぱりここいいわ!卵が染み入った麩は,最早,麩でも卵でもない新しい食品に生まれ変わってます。

 初日はここまででガス欠になりました。お腹的にはスピードオーバーといいますか…要はダウンしちゃいました。

▲おまけ 南山のヤギ刺。翌日2日目の購入です。これがまた…。