外伝03-FASE26@ Hey,ya,Okinawa,come togher now!!

 イーサン・ハントは将校に扮しクレムリンに潜入した。
 さて,私か半減後3度目となる沖縄潜入(堂々たる観光客だけど)を果たした某吉日。潜入方法と日時を明らかにすることは,ある組織の指示により禁じられている。

「ラッソホテルって沖縄に幾つかありますよね」
 一泊目と最終泊をこのラッソにしてたので,一泊目のチェックイン時に聞いてみた。一泊目は沖映通り,最終日は空港二駅前。
「はい。ここと松山と石垣,あと空港近くに」とにこやかにカウンターのお姉さん。
「じゃあ4店舗?」
「ええ…」とお姉さん,にわかに声を潜める。「でも空港店は今月一杯で閉店です」
 わしは空港店の最後から何人目の宿泊客になるんだろう?
 なかなかもって幸先良いスタートである。

▲まきし食堂のなす味噌煮

 この店の使い勝手の良さを活かす時が来た。
 夜の国際通り中心部,ビルの3階。ちなみにその上にあったいかがわしそうなカフェは潰れてる模様。
 こちらは清く猥雑なるまきし食堂。――右手からテレビ,左手からラジオがえらい音量でガンガン響く。セパレートの広い座席に丸い照明光が落ちる。右隣の席にはハッピーな液体で出来上がったおじいが管を巻いてます。
 厨房に一人,給仕一人,どっちもオヤジ。この体制で深夜勤務とすれば最強食堂よりはましなシフトです。
 さて注文は
なす味噌煮(ちゃんぷる,ご飯・みそ汁付)530円
 ほどなく来たなす味噌煮は…やっぱり面白いよコレ!
 しかもこの料理って…店によってバラバラな解釈なのだな!!沖縄料理としては無名なだけに,ステレオタイプがなくてバリエーションが多彩なんだと思う。
 ここのは記憶してる前回のなす味噌より,はるかに薄くまろやか。薄い白味噌に,草はなすのほかに豆腐,牛肉(中味?),ポーク,ネギ…。
 えっ…?味噌にポークかあ?
 でもこれが超意外!――合う!
 味噌の深み中心の味わいに,この僅かな量のポークのコクが異種格闘技的にすごい絶妙のマッチング。これが中味と島豆腐の重厚さと,味噌となすの繊細で末広がりなアジクーターの間で心地よく軽快に跳ね踊る。
 やはり全くダシの力はない。近いのはポークや中味の肉汁だけど,ダシと言うにはあまりに朴訥で素直な素材そのもの。味噌は記憶通りの調味料的な背景味。このバランスは…一体何?
 アジクーターと書いたけど――わしはまだ沖縄のアジクーターの真の深淵を理解してなかったんだな。
 博多豚骨とかの「こってり」でも中国地方の「ダシの濃さ」とも全く違う。日本の食文化より既に広東の深さの味わいと重層感を帯びた味覚のあり方に思えてきた。
 最後には味噌のアンをご飯にぶっかけて食ってました。あ~初日だし4食目だしご飯残そうかと思ってたのに!
 ホントにこの沖縄って土地は困ったもんだ。第一食の衝撃は来る度に大きくなる。記憶以上の差違に――それは本当に微妙なんだけど,実は決定的な違いに――気付かされてしまうのです。
 隣のおじい,また定員に絡み始めてます。何とかしてほしいよなあ。でもこの真っ暗な不可解さがウチナーなんだよなあ。

▲自販機買いのA&Wルートビア

 くう~来るぜよ,この薬臭さ!
 ハマるなあ!!ってゆーか――こーゆー不気味な飲みモンを売ってないわが健全なる内地に中指立てたくなるなあ。
A&Wルートビア 100円
 ひといきりしみじみしてから気付く。さっきエアコンのスイッチを入れたのに…全然暖っかくならんやんけ?。安ホテル故か?
 いや…!?むしろ寒くなってきたんですけど!?
 リモコンをよく見たら――なるほど。冷房になってます。あら失敗,暖房に切り替えましょう…っていうか,暖房のセレクトができんがな!
 沖縄仕様のエアコンは冷房専用。機械的に部屋を暖っためる感覚が,そもそもない島に来てるわけやね。

 翌朝。
 牧志へ。いつものレンタルバイク屋さん,サキシマで原付を借りる。48時間。
 壷屋のグチャグチャに入り組んだ道を勘だけで抜けて,いの一番に向かうは謝花きっぱん店。これも完全に定番コース。
冬瓜漬(しょうが+シナモン) 各袋600円
きっぱん1つ
 おもろまちで時間調整がてら,TSUTAYAに立ち寄る。
 沖縄本2冊購入。
 T”コーヒーでエスプレッソをワンショットあおりまして向かうは――。

▲「えんがん」のミーバイ汁

 新港の漁業施設の中…というか一部と言ったほうが近いか?。漁協※直営店「えんがん」。
※正式名:那覇市沿岸漁業協同組合
ミーバイ汁 1800円
 と暴走してしまった。東京なら驚くほどじゃなくても沖縄では殿様級の価格です。
 ずずっと啜れば。
 ああ~染みる!生姜のほのかに効いた白味噌の中から,プリプリの魚ダシがふわりと浮き出て来る感じ?しかも,脂っこい纏わりつくんじゃなくて極めてピュアな白身味。
 ミーバイって,ちゃんと調理すればこんなに尖る魚なのか?何か内地の普通の魚と別の次元の味覚がある。
 付いてきた刺身も旨いが,こちらは感動的ってほどじゃない。そりゃ美味いけど,長崎の魚に比べると…?です。ですが,刺身という汎・日本的な料理法で,沖縄の舌が選んだ魚を食うのに,にわかに違和感を覚える。これもやはり,内地の物差しの外にある。外にあるものを物差しで測ること自体が,踏み外してるんだと思う。
 もう一つ感動的だったのはモズク。新鮮な海味。こちらはこうしか言いようがない。

 いつものようにコザへバイクを飛ばす。ただ今回は,伊佐の三叉路辺りで少しうろついた。
 まずメキシコへ。伊佐ISAはUSA米国に通じるから南隣にすぐである。んなこたあなくて,タコス専門店の名前です。
 広間のあちこちにダイナーもどきの席がまばらに散らばる…と書いても伝わらないような,何だか微妙な造りのお店。
 メニューは迷うまでもなく,ほぼこれしかない。──アメリカンにファーストフード化される前には,南米でどう食われてたんだろう?
タコスとコーラ 650円
 いい!!…あんまりタコスで感激したことはないんですが,これはいい!
 皮がむちむちなんである。本場がどうかは知らんけど,こうじゃなきゃいかん。餃子もタコスもサモサもハンバーガーも,主食たる皮がまず食わせなきゃ!
 その発想の延長か,中の挽き肉は僅かな量。でもこれがむせかえるような肉味のインパクトを放つ。──後味がしつこく尾を引く…というと普通は不味い表現だけど,これが素晴らしく好ましい。おそらく量とインパクトが絶妙に計算されてるからだ。
 米軍基地のまっただ中のエリアです。どこまでが南米で,どこまでがアメリカで,そして沖縄なのかは判断できる経験値はないけれど,この老舗ぶりは地勢に磨かれた結果なんでしょう。つまり,歴史に磨かれたたくましい味として。

▲レーゲンスのケーキ

 少し迷ったけどたどり着けました。宜野湾市宇地泊。ドイツ菓子レーゲンス。
Kastaneshnte
ドイツ風モンブラン
TruffelTorte
トルーフェルタルト
LinzerTorte
リンツ風タルト
 量販店の郊外チェーン店が並ぶ界隈にしれっと立つ小店です。
 にしてもなぜにドイツスイーツなのか?タコスなら分からんでもないけど…。
 と考えて,思い直した。そうだ,タコスだって同じ大陸発でこそあれアメリカのものじゃない。
 日本のアメリカナイズとかマクドナルド化とはわけが違う。生身のアメリカ人からウチナンチュが受け継いだものとは──それは自身の多くを剥奪されつつではあるけれど──アメリカ人の世界性だったはず。
 何でもない郊外地に忽然と現れるドイツ菓子店が,この土地ではむしろ必然ですらあるわけで。
 ネーミングから想像される以上に,内容は本格的。特にリンツァートルテの完成度には震えが来るほど。猿真似なんかじゃない,完全に咀嚼して作ってる供給側と需要側が併せて有る土地にしか存在しえないケーキです。

 2時を回ってしまった。小雨の中を濡れそぼってうつむいたまま原チャを駆るうち,普天間交差点を通り過ぎちゃってたんである。
 とりあえず宿入りを急ぐことにした。けど,これがまた諸見の微妙な場所にある初宿で…5回位往復した末に窪んだ路地奥にやっと発見…したのに管理人が不在で──とか散々に時間を食った。
 だけど塞翁が馬,雨はほぼ上がってきた。ランチの時間ギリギリだけど──今回はあの店に寄るならこのタイミングしかない。
 一度引き返して北中城村山中へ。安谷屋…これも微妙な位置なんだが今度は迷わず着けました。Webには次のような宝の地図的な記載があります。
「国道330号線石平交差点より81号線へ。安谷屋交差点を右折,沖縄自動車道を越えた先に案内板あり」──しかもこの案内板が手書きで小さくて…着いただけラッキーと思うしかない。
 ブラウマンズ・ランチ・ベーカリー再訪。ランチの時間おわりかけのギリチョン。
ランチプレート 1200円

▲ブラウマンズ・ランチ・ベーカリーのランチプレート

 前に食ったのはモーニングだったっけ!?
 記憶よりはるかに豪勢なのが出てきた。しかもスープが選べて,自慢のパンがおかわりし放題の大満足な内容。
 味も…記憶通りのハイレベル。
 センスはプチ・イタリアンか?プレートにドンと生ハムサラダ,周囲を7つの盛り付けが巡ってる。──人参シリシリ,枝豆の煮物,グレープフルーツのクリームチーズ添え,ツナ入りハッシュドポテト,豆のチリソース煮,カルフラワーのオイル和え,ナスと玉ねぎの煮込。
 どの品も一捻りが加えてあっておざなりなものがない。調理のジャンルも欧風からウチナー風まで多彩…という設計の問題じゃなく,作り手の引き出しが途方もなく多彩みたいです,このあばら屋みたいな沖縄ナンバーワン・カフェ。
 パンは当然手作り。どれもトスカーナパンの路線というか,ナンめいた素朴な味わいが魅せるタイプ。こういう朴訥なパンって,野菜に合うんだよなあ。
 スープはカボチャのポタージュ。技巧的に言えばこれが圧巻でした。カボチャ味の後ろを心地良く追いかけてくるもう一つの甘味,おそらく芋の甘さが,後味で螺旋状に融合してく素晴らしいマリアージュ。
 けれど,このカフェ小屋で味わうべきは,技巧よりもセンスだと思う。さらに言えば,センスよりも──小雨の窓外からの陰っては差す陽光,波打つような木枯らし,山肌の木々の葉音,それらが漏れいずる部屋の風光。──そのせいか,この時のメモには感激の割に不思議なほど味に言及してません。
 程良く打ち捨てられた,程良く人の臭いがある,ウチナーとしか言いようのない沖縄の空気。
 腰を上げたくなくなるカフェです。

 この日はなぜか疲れがドッと出た。この後は,胡屋一丁目のゴヤケーキに行ったのみで爆睡してます。
カップケーキ
シュークリーム
ロールケーキ
計460円
 味についても全く記録してない。ただ,記憶する限り,アメリカンないい意味で大味なケーキ。単に美味いとか本場の味とかは内地にもいくらもあるんだけど,この辺りの適度な不味さ…と言って語弊があるなら大胆さってなかなかないと思う。→写真

 あと,ほとんど聖地巡礼感覚で立ち寄ってる照屋楽器店で高良結香というシンガーのCDを見つけてます。3rd.Albam。
 中で「Stand up,Okinawa!!」という歌に酔いしれて繰り返し聴いてた記憶がある。
 評価の分かれるムチャクチャ変わった歌詞で,日本語と英語(しかもウチナー英語混じり)の単語の羅列なんだけど,一つ一つの単語の沖縄における含意を考えると,旋律に乗ってそういう含意同士が波紋のように重なっていくように出来てる…んだと思う。──第4回の標題は全部この歌からで行きます。
 滞在中にファーストとセカンドも購入してしまった。ニューヨークのブロードウェイ帰りのウチナンチュ。

 翌朝は,グランド食堂で骨汁かモンブランでモーニング食おうと思ってたんですが,どちらも開店しとらんかった。
 それで界隈で見つけたストアで買い食いしてます。グランド通り降り口。
みそ(おにぎり)100円
軟骨ソーキ200g 300円
うるま 250円→写真
 雑貨屋みたいなとこだったんですが,こいつらもなかなか結構でした。決して上等な味わいじゃないけども,ベタに美味しい。こういう名もない小店,また入る機会がほしいなあ。