外伝04━━〓━如月之講━━〓━
京漬け物のサンドイッチ

Ψ 立春~雨水
δ 塩鰯
θ 紅梅

 月の替わるのが待ちきれんがよ!
 1月末日の土曜日,東へ向かう新幹線車内で再び広げる2冊の本。もちろん,京都の地図とグルメ情報誌ね。
 近頃この作業も,かなりシステム化されてきましたばい。――まずは,グルメ誌のコレ!って店の頁に付箋を貼りまくる。次にその中から,どしても外せん第一グループのお店を厳選。それらの場所と開店時間,休みの日をマップの該当頁に書き込んで付箋。その後,第二グループのお店からルートに組めるのを選んで同様に書込。補欠も含めて数が揃ったら時系列順に付箋を貼替え。
 結果,マップの上から順に行き先が並ぶから,これを攻略してくわけね。
 この作業は,現地に向かう臨場感の中でやるのがベスト。日によって食いたいもんは違うんだから。何よりスリルがあるじゃん!?

 さて,二回目の京都塾での第一グループの筆頭は,何つっても――先月涙を飲んだ豆生庵!!
 店名から予想はつくかもしれんけど,京豆腐専門店ですね。
 京都駅から烏丸線で今出川下車。西南西へ適当に歩く。
 カクカクと不規則に伸びる小路がよろしーなー…とか街並みにホロ酔い気分で歩くと,気がつけば武者小路の表示。
 おおッこんなところで実篤が!?ファンなんだよな,あのゴツゴツした身も蓋もない文体!…とかさらに嬉しげに行って堀川を越える。


▲心ある貼り紙。しかし達筆ばい…

 ちょっと迷ったけど――京都の住居表示は独特過ぎるよな!とにかく大宮通り沿いってのを手掛かりに何とか発見,豆生庵!
 まずは小手調べ。安い竹御膳を注文。1,050円。
 膳が来る。――湯豆腐,生湯葉のサラダ,刺身2種,絹揚げ,お吸物,漬け物。
 大~正~解!!豆腐の味はもちろん最高で,醤油なんか勿体無くてかけれない。けど――とにかく冒険心に富んでる!
 湯葉のサラダって初めてだった。どーしよーかって位サッパリと夢心地に誘う。
 刺身っても子持ちこんにゃくとヤマウニ。これらも初体験。こんにゃくに子供がいるの!?どーも数の子が入ってる歯応え?
 てな感じで…まだまだわしの初心者の舌にはレベルが違い過ぎるけど。とにかく感動体験でした!!
 ちなみに松御膳1,580円だと,プラス天ぷらと豆乳ムース。夜メニューの桜御膳2,100円だと,さらにプラス豆腐4楽。菊御膳3,150円だとプラス勝手豆腐,豆腐よう,ごま豆腐。そんでどーも,この勝手豆腐ってのが最上位の名物らしいんだけど…3,150円かよ…ムッチャ食いたいけど…悩むなあ。

めんるい
▲あちこちに見かけた「めんるい」の看板。微妙だけど変!

 そのまま南東へ歩く。何とか見つけた堅大恩寺町の表示。
 目当てはハレトケって町屋カフェだったんだけど…満席で撃沈。でも丁重に断る店の人の姿勢がスゴく好印象。――ちなみにこの日の「今日のおひる」850円は,五目きんちゃく煮,春菊のポテトサラダ,玄米又は杯芽米プラスみそ汁。…えー感じやんけ!!モロ今のわし好み臭いぞ!
 まあここまで来たんだから…と覗いた瓦之町のカフェ「ココカラ」がまた穴馬でした!!
 おばんざいセット。ご飯,みそ汁,おばんざい5種類(筍,牛蒡とエノキ茸,カリフラワー,コウヤドウフ,玉ねぎアメ煮)とこれだけなんだけど,おばんざいがどれも懐かしいのにちょっと捻った抜群のバランス感覚。
 前回のグリグラと言い…京都のカフェの食卓センスって何か凄くね!?
 さらに。こーゆー店なのに,昼ランチはこのおばんざいセットとレンズ豆のキーマカレーセットをチョイス可能。後者を選んでも…ひょっとするとドッヒャーなんじゃない!?
 こりゃあ…たまらんばい!ヤッパリこの町すげーよ!!


▲長竹玄関

 あんまり使った経験のない東西線に乗る。烏丸御池から三条京阪へ。地上に出て鴨川を渡り,先斗町通に入る。
 マンガや映画じゃともかく,現実に舞妓Haaaan!!!とすれ違ったのは,この日が初めてだったな~。
 さらに横道に入ったとこに「長竹」の看板。京都のこてこてのおばんざいを食いに来たわけさあ。
 定食はどーも当たり前っぽかったんで,あえて単品を連打してみる。――小芋の炊いたん600円,茶飯の漬け物付き300円,吸物200円の計1,100円ってとこで注文してみました。
 吹いたんの単品メニューは小芋の他に――大根とおあげ,竹の子と人参,おナス,小松菜とおあげ。何か…物凄く期待できるんですけど。
 しばらくして並んだ皿はたった4つ。ご飯と汁に小芋の鉢,それに漬け物の小皿。それだけ!
 けど…十分でした。十分過ぎるぞ100%ピュア京都メシ!豪勢な懐石よりこのシンプルさが迫力でした!!
 漬け物はちょびっとずつ4種類。沢庵と胡瓜の古漬け,菜漬け…までは分かった。けどもう1種類は不明。どれもとんでもなく淡くて美味い!特に胡瓜は――博多山笠の影響か,今まで胡瓜だけは美味いと感じたことがなかったのよ。そのわしが…生まれて初めて唸ってしまった,底無し沼のよな奥深さの酸味!
 汁と小芋の微妙な味覚のバランス感にも目を見張ったけど…ヤッパリ茶飯だよ茶飯!
 ほうじ茶なんだろと思うけど,何なんだッ?この空前絶後のご飯とのマッチングは!?第三の何がしかが入ってるのかもしれんけど…恐らく,ここのスタンスからして,単に飯と茶をベストチョイスしてるだけの公算が高い。
 しかしだよ…それだけでこんなに白米が美味くなるのか!!
 それはこうも言い換えられる。一工夫でこれほど美味くなる米って食材を,わしら現代ニッポン人は何でまた,常にそのまんま食べちゃってんだ?

 その後,例によって錦市場で買い食い。
平野:タコ大根,エノキと貝柱の煮物,えんどう豆の煮物
ますご([木舛][イ互]と書く):辛口山牛蒡
三木鶏卵:青葉だし巻き
干渡:山椒佃煮
 しかしこの平野って店の惣菜は凄い。何食っても当たり。襟を正したくなる潔い透明感ある味わい。タコ大根とえんどう豆は前回からの連続買いだけど…何でこんなシンプルに美味いの!?
 今回初のエノキと貝柱も,え?ええ~!?って爆裂振りでした。キノコに貝なんて栄養価の低いもんの代表格じゃん?それが取り合わせ次第でここまでヤルのか?
 山牛蒡にもハマった。単なるだし巻きにはピンと来なかった三木鶏卵(田中鶏卵と隣合わせで,甲乙つけがたい)も野菜入りは凄まじいハーモニーだって理解できた。
 でも今回のビックリは山椒佃煮。山椒の粒だけなんだけど,一捻りの調理でこんな立派なおかずになんのかア!メシ何杯でも食えるぞ!――事実,これ2パックで1週間メシが食えました。
 他の食材と合わせるのも美味いって言われたけど,味が強いからチョット多く入れたら味が勝ち過ぎてしまう。厄介だけど使い方次第で未知数な食材です。

 まだまだ冬の京都の底冷えは,体脂肪欠乏の今のわしには応えます。
 夕方,鼻炎がぶり返してしまった状態のまま,御倉町の素夢子苦茶屋へ。烏丸御池の駅からすぐです。
 玄関を入るとL字状の広い土間。韓国の民家チックに見せてコリアン伝統音楽が流れてるけど,京都のかなり大きな商屋臭い。
 韓国薬膳を謳うこのお店。感染症予防って効能書きに心奪われて,かぼちゃ粥の定食を頼んでみました。
 真っ黄色。お粥と言うよりほとんどスープです。メシとは思えない重厚でナチュラルな甘味。ほとんどスイーツです。
 ここには素夢子膳1,500円ってのが定番である。韓国宮廷料理9品が並ぶこのメニューも試してみたいけど。
 とにかく今はカボチャ粥。家でやってみたら,ヤッパ簡単に作れる。カボチャをトロトロに煮てお粥と混ぜればいい。
 米食の工夫が,こんなに簡単に出来るもんなんだ!
 個人のレベルでできるほどちょっとした工夫,それをわし自身これまでして来なかったんとちゃう?…って自分の問題として気づかされたのは初めてだったのね。
 焙じ茶で炊く。あるいはチョット黒豆入れて炊く。キノコ類とか,韮や生姜など香味野菜,あるいは大根や牛蒡を入れて味を染ませる。芋やカボチャを煮崩して混ぜる。山椒やコチュジャンをまぶす。――ありきたりの米食の食卓に変化を効かせるのは,個人レベルでいくらも手はある。
 食文化は,今も昔も完全無欠の民主主義!米を食うなら工夫しよう!

 2日目の朝,烏丸線で北大路へ。上賀茂神社まで賀茂川沿いに歩く。
 断続して,しつこく続く朝の小雨。川上の神社をまたぎ,大きな虹が何度もかかった。
 吉兆だ。わしは数える程しか虹に会ってない。前に見た記憶は――初海外のインド行き前,広島を発つ日。故郷が「さあ死ね」と言うのを聞いた…と手記には記した。
 サバ煮込みで有名な今井食堂は見つからず,空振りに終わる。神馬堂焼き餅も飛び抜けた味じゃなかった。虹を見せるために呼ばれたような,不思議な道行きでした。
 再び転換の時が来たのか?


▲豆ふ屋のおぼろ豆腐膳
 バスと歩きで修学院へ。洛北の寒々とした風景の中を行く。
 鞍馬鉄道修学院駅に近い豆腐専門店「豆ふ屋」で,おぼろ豆腐膳1,570円を頂く。
 おぼろ豆腐の鍋に湯葉の小皿,6種類ののし餅やしんこ,玉子焼き,菜っ葉などのカワユイ皿,それに刺身とご飯と漬け物。
 割烹っぽい高級店の風情でこの料金はお得感がある。でも正直,味はまあまあ。豆腐もぼちぼちでんな。
 湯葉はうまかった。


▲行政も京野菜を応援。でもDoYouKyoto?って?

 さてメインイベント!!池政です。
 2月のお膳はカブラ蒸し。今月はおでんもチョイスできるそうだけど,断絶カブラ蒸し!!カブラの酢のもの,ほんのり柚味が香る。焚き合わせ各種。それにご飯と漬け物。
 昼時はやはり満席。午前中か1時過ぎが狙い目らしい。「カブラ蒸しは家で作るの手間だしねえ」と隣のオバチャンが言ってるけど――関西人ってこんなん家で作れるの!?
 微妙にサクサク感のある茶碗蒸しってゆーか…でも魚も少し混ざってる。ハモか?あっさりしてるのに腹に染み渡る。食材的にはカブラが被ってるのに(注:駄洒落ではない),全く別物の味覚。例えようがない!これでしかない美味!最高でした。
 炊き合わせってこの時期なのか?修学院でも各種出たけど,スイーツのよなおかずのよな妙な食材。でも食卓が一気に華やぐ。
 またしても敗北感。1,800円はとてつもなく安い授業料!3月がまた待てないぞ!

 もう1食,遅い昼を食って帰りました。
 新京極からチョット入って喜一。魚料理専門店。1,000円のお昼のおまかせ。
 たらの焼き魚,はもの汁,漬け物(菜っ葉,沢庵),ひじき煮付け,煮付け(大根,人参,椎茸,おあげ,コウヤドウフ)にご飯。
 本音のとこ――京都なんて所詮内陸の山里!魚は広島と博多に勝てねーよな!!ガハハッて勝利感に浸る展開を予想してましたけど。――失礼致しました!!
 「ホントはこのタラ,刺身で出すよな品なんやけど…今日は焼いてみた」剃り込み入れてイカつそうな強面なのに口を開くと料理への繊細な愛情に満ちた亭主の創り出すメシは…
 プルップルに口内で溶けてしまう食感の魅惑のタラに,ズッシリと低音域から染み渡るハモの汁。煮付けも非常に繊細で,しかも各種個性的な主張の味。漬け物まで…沢庵の香りに芳しい違和感があったから集中して味わうと…これオリーブ油じゃないか!?
 前章で書いた技×食材×バランス×遊び心。そのどれもが心地良くコスモスを織りなす…価値あるお膳。
 最後は,昼の営業時間ギリギリだったらしいのに,女将さんが軒先まで出て見送って頂ける丁寧さ。…清々しいスタンスに泣けてまうわ~!

 帰りがけの錦市場でさらに買い食い。
 竹長:安那芋煮
 田中鶏卵:青巻き
 西利:胡瓜生姜漬,梅干し紫蘇漬け
 安那芋は鹿児島産だそうだけど,加工は京都だって。四国の干芋を東山って呼ぶからには京都に源流があるはずと見てんだけど,これなのか?味は正に東山でした。
 漬け物屋・西利の二階では,何と漬け物のサンドイッチを出す!
 レジで「漬け物にパン?」ってやや挑戦的に聞いてみると。
「え?せやかてピクルスはパンに挟むやないですか?」
「あ…なるほど」
「何でもいい訳じゃなくて,やっぱ酸っぱい漬け物しか駄目やけど」
 京都人の遊び心!恐れ入りました!!

 最後にですが…言っておきたい事がある。
 本編Step42:BJ級グルメ旅行へ!とかに,こんな愚かな記載がありますが,きっとこれは私ではありません。外部からの悪質なデータ改ざんと推定されます。
 ――関東・関西の味には実はどうもピンと来ない。日本全体のメジャーになってるからか,土着性はかえってなくなってるように思う。怒られそうだけど京都でさえそれはないように感じる。