外伝04━━〓〓弥生之講━━〓〓
三条会商店街のエスプレッソ

Ψ 啓蟄~春分
δ 鉄砲和え,五目寿司,笹かれい,身蜆のしぐれ煮
θ ひちぎり(引千切)

 京都3回目のお務めにも,月初め早々に来てしまいました。
 本日土曜日は2月28日,明日3月1日には池政の3月の献立にありつけるはず――って今年実は閏年で29日があったなんちゅーオチは…今一瞬焦ったけどないよな,OK!
 昨日はまた風邪で伏せってました。んで睡眠薬が抜けない病み上がり全開の意識飛びまくりモードですけど…まッ空元気一杯で張り切って参りまひょ!フヒャヒャヒャヒャ…

 先月の講習では,この町の創造力にたまげた。その延長線で,1日目はあえて和食を離れてみました。
 え!?京都なのに?って勿体なさは自分でもチクチクしながらも…行ってみました四条烏丸のビストロ山形。
 11時。軒先にメニュー書きの紙。――20周年記念で5千円!?そ…そりゃちょっと…勘弁してクレヨン!こちとら2千円以下でグルメする教義の公務員だし…今回は所詮半信半疑の和食外しだし…とか立ちすくんだまま,いきなり泣きべそモード。
 と,店から出てきた店員さんがおもむろにメニュー書きをビリビリに剥がしてく?思わず声をかける。「あの…昼のランチみたいなのあります?」「あッ1400円からですよ」いや安心安心,ドーンと行ってみよやないけッ!と浮き沈み激しく押せ押せモード。
 ちょい時間余ったんで,すぐ近くの前から目を付けてた中華のお店「ぜぜかんぽっちり」を確認。ここも重厚な建物,シブそう。でも次回回しだな。
 烏丸通り沿いの前田コーヒーで時間調整。エスプレッソはまあまあのレベル。
 さて…11時半,ビストロ山形です。ランチは1365円円ってエラい半端な数字。まさにそんな感じのイラチっぽい亭主が細々と動く厨房。やや雑然としてる。厨房から低いカウンターを隔てた掘り炬燵に座って待つ。
 メインは三択。この日は宮崎豚の照り焼き,ひらめのアーモンド揚げ,カニクリームコロッケから。新奇さからひらめをチョイス。
 サラダ,次いでスープが出る。この後にメインディッシュとライスに食後のコーヒーが付くだけのシンプルなコース。
 たったそれなんだ。しかもメインは最近ご無沙汰の油物。でも…一品一品がスゴい上質さなんだわ!
 サラダ。タコとサーモン入りのちょっとカルパッチョ風で,野菜はレタスに加え水菜や玉ねぎほか多彩なブレンド。
 スープ。ベーコンとオニオンのベースなんだけど,微かなカレー粉が程良いアクセント。
 ヒラメは見たとこただの白身魚のフライ。アーモンドの味もあまりしない。かと言って油ももたれない。サクッと歯応え良くひらめの身が純粋に腹に染みる。フレンチってより極上の和風洋食の味わい。
 何なんだ?京都でしか食えない鮮やかな洋食。不思議な感動に戸惑ったまま店を出たんであります。


▲ビストロ山形の佇まい。フレンチとは思えぬ純和風。

 烏丸線で北山へ,駅を出てすぐ東,目当てのチャーン・ノイを発見。
 1時を過ぎてるのにほぼ満席。やや郊外のこの立地でこの状況!?
 席を取ったカウンターの向かいに広めの厨房。「クイッティアオ,ヌンコン!バッタイ,サンコン!」「チャーイチャーイ」とかオーダーもタイ語で統一…う~ん期待出来そう?
 ランチセットはAからEまで各900円。バッタイ(この店ではパッタイと表記),グリーンカレー,レッドカレー,日替り(この日はパッポン(炒め飯みたいなの)),日替り汁麺。評判のバッタイを注文。
 「各セットには,ちょっとしたおかず,サラダ,肉だんごのあっさりスープが付きます」そのおかずはどうちょっとしてるんだ!?
 木製の角盆が来る。サラダとバッタイの大皿各1つに,「ちょっとしたおかず」の小皿2つプラス,スープの椀。計5品に,感動的なことに現地風に調味料セットが付いてる。塩,粉唐辛子,ヌクマムに辛い酢みたいなアレ。量はごく少なめ,これもバンコクそっくり。
 ただ――実はこの店に惹かれたのは,上賀茂の京野菜をたっぷり使ってるって売り出し文句。博多のガムランディの美味を彷彿とさせるし,わし的にバンコクナンバーワンのスクンビット・ソイ33入口の屋台の生野菜たっぷりバッタイのイメージに重なったのね。だけど,野菜はそれほど入ってない。
 ちょっとガッカリしながら運んだ一口目。
 …!?
 スゴい!何じゃこの麺は!?クイッティアオ(太目の米麺)なんだけど,むっちりとした歯応えがたまらない。量はともかく野菜もしっかりしっとり土臭い。これをタイ風にヌクマムをぶっかけて味を自分好みにしてかき混ぜたら――おおッ!すげえよ!!
 バンコクの味じゃないのじゃ。和風なのか何なんだか分からない微妙な味わいなんだけど…とにかく何ちゅう完成度じゃい!
 サラダもかっちりソムタムしてて,でも刺激的な酸っぱ辛さのない初めて食うタイ料理。
 スープも!日本人に媚びることなくしっかりバクチーむんむん。だけどタイのギトギトした下品さはない,やっぱ初体験の味覚。
 そんで噂の「ちょっとしたおかず」は…1つは卵焼きだったけどタイ風のソースが面白い。も1つがビックリ!牛肉の煮物のとんでもなく唐辛子辛い奴。どっかで食った味だけど,ついに思い出せなかった。思い出せなかったけど…最高なんであります!!
 ガムランディとどっちが上!?ってそりゃ比べにくいな~。山形と同じで!ここにしかない味。思わぬ相手にぶん殴られたよな茫然とした感激に,食い終えてもしばらく動けなかったさあ…。

 京都駅からJR福知山線で2駅,二条駅へ。
 随分前に一度通ったことがあったけど…こんなに町だったっけ?駅ビルはシネコンまで入った巨大なハコモノだし。
 どうも再開発されてる臭いこのエリアから東へ,古い京都の街並みが残る今出川界隈まで貫く長い商店街,三条会商店街がここへ来た目当てだったのよ。
 しかしこりゃあ…濃ゆい商店街だっちゃ!嬉しくなるね!!


▲京都一長いって…そこを売りにするか!?


▲玉屋,屋号は〇玉〇玉?ちょっと電波には乗せにくいかも…

 好いぞ!経験上,こーゆー街じゃ…高知帯屋町,博多警固町…間違いなく,喫茶店が美味いだろ!?
 で。入ってみましたカフェ・コロラド。軒先のメニューでエスプレッソを確認済。さらに捨て台詞的に注釈付き。「エスプレッソのイメージが変わります」
 ほほ~面白い。ほないゆーなら変えてもらおやないけッ!!…とか意味もなく喧嘩ごしで入ってみる。客層は爺婆だらけ。これはひょっとして?
 カップが来る。一口啜る。
 …瞬殺。何だッこのまろやかな深みは!?全然苦くない,むしろ深々と甘いんだ。マイベストの博多キャナルシティ4階の店を,これは凌駕してる。
 それにしても…何でうらぶれた商店街(失礼!)のこんな場末の店が!?(もっと失礼!)
 京都って奴は,どーもこれまで食い歩いたどの町より意地汚いみたい。こっちで言うイケズなのホントに旨い店はどーやらガイド本なんかにゃ明かしてない臭い!あーゆーのに載してんのは坂井みたいな勿体ぶったボッタクリ!!――手強いぞ京都!


▲コクヨ紙製品。ホントに紙しか置いてない…なぜ潰れない!?


▲一回しか言わん。あっくんを連れて来い!!

 京都一長いアーケードの東側出口がやっと見えてきた。
 漬け物屋おぐち。自家製漬け物をたくさん作ってるお店。
 最近漬け物専門店によくハマる。次の土日まで食いまくる位買っちゃう。ここでも聖護院大根と胡瓜の古漬けを買ったけど…これが家に着くまで臭うんだよな~。確かに臭いんで,周りの人が気の毒になんだよな~。
 「胡瓜,どっちにしまひょ?」躊躇いから覚めて見ると,どす黒い古漬けとまだ緑の残る普通のがある。
 「じゃ…1本ずつください」2本で300円,漬け物ほど安いグルメはない!
 「はい。ちょっと酢にかかります」「?」一瞬の沈黙で,おばちゃんにわかに京都人モードオン。オノボリサンに対するイケズぎらぎらの標準語で「…酸っぱいですけどよろしか?」ダメだ!負けるなオノボリサン!でも…わし無言でコクコク。よ…よろしよろし…デス,ハイ…

 整然と町屋並ぶ路地の静寂。気だるい午後の宮本町。
 町屋の軒先に無造作に乗り付けた大型バイク。その横から簾のかかる玄関を入る。
 蓮の鉢植え。木漏れ日が木地の床に揺れる。
 ラトナ・カフェ。ヴェジダブル・カレーセット1000円に,少し欲張ってラッシー(プレイン)550円を付ける。
 ヴェジカレーは日替わりで,この日はかぼちゃの辛いカレー。鉄の丸盆にライスとカリー3種と漬け物。味も含めて当たり前に南インドのカリー。でもって十分繊細なスパイス使い。
 簾越しの西日。蓮の鉢植え。重厚な木の床にゆるやかな影を落として揺れている。その中で,この本格インド味にして見事に京都アレンジなこのカレー。堪能!


▲ハレトケ夜のごはん

 17時。繊維商の多い北東へだらだら歩いて堅大恩寺通り。前回フラレたハレトケへ。
 周囲の町屋に溶け込んでる家屋の横戸を開ける。土間から上がりこんだ座敷に7つの卓。暗いランプに映える。
 夜のごはん1000円。揚出豆腐,小芋と蓮根と菜っぱの煮物,ひじきと大豆の煮付け,大根と手羽先のおひたし,味噌汁,玄米ご飯。
 …とシチュエーションもメニューも完璧なんだけど。味はまあまあ?京都の有名店に多い,オシャレではあるけど…って類い。デートでしっぽりってならいい店か?

 さて。京都で外国籍料理ばっか食うなんて罰当たりをやったら,フラッシュバックで――2日目は錦市場オンリーに!
 北尾。丹波黒豆の専門店の2階で黒豆御膳を頂く。1200円。メニューは――
 黒豆茶
 黒豆ごはん
 黒豆納豆の天ぷら
 黒豆よせ豆腐
 黒豆の煮豆
 黒豆みそ汁
 ちりめん山椒
 面白いお膳です。黒豆の甘くて苦くて香ばしい,その複雑で微妙な味覚をあらゆる角度から味わえる。しかもそれぞれ妥協のない繊細さ。意外にもシンプルなみそ汁とご飯が特にイケた。
 でもって基本に返って煮豆を頂くと,この素材の様々な角度を学習した舌が,その深みを改めて噛みしめて実感してしまう。…ウーン,これじゃ作者の手のひらで踊ってる感じだがや。
 実に戦略的!美味い以上にクレバーさに脱帽。あっぱれ北尾!!


▲北尾(黒豆茶庵)の黒豆御膳

 さ~あ月初日の11時半が,本日もやって参りましたぜ!真打ち登場!
 時間かっきりに行ったのに,既に5人も座ってる。かなりのリピーターがいる臭い「割烹いけまさ」の3月のお膳は~ッ!?
 タケノコご飯木の芽のせ
 春野菜の天ぷら(堀川牛蒡,筍,タラの芽,うどほか計8品)
 焚合せ(筍,ニンジン,蝶々型の長芋,ふき,小芋ほか)
 ワカメのみそ汁
 香り物(柴漬け)


▲いけまさ亭・3月のお膳

 天ぷらッ!!減量で遠ざかった挙げ句,舌が油モノを受け付けなくなったはずが…コレはイケた。軽やかなの!春野菜の晴れやかな旨味が思いっ切り引き出され,サクサク感の後を風のように吹き抜ける。おお~ッ春が来たんだがや~春が~!!
 定番の焚合せにも,蝶々でかたどった長芋がそっととまってます。か…完璧だ…。完璧にして変幻自在!
 京都の情報誌にこんなフレーズがあった。「小さい頃から錦が近くにある。それが最高の贅沢」…当たり前じゃ!こんなんが近くにあったら人生変わりまっせ!
 ちなみにこの池政,翌月メニューが壁に告知されるみたい。早くも4月の予習――
 エンドウ豆ご飯
 焚合せ
 加茂ナス田楽又は鯛のカマ煮
 木の芽和え
 お吸物
 ウ~ム…茄子か鯛か!?ひと月迷い抜きそう…見なきゃ良かったかも?

 柳馬場錦亭は,当然柳馬場通りにあるんですね。
 前回まで別の場所探してたみたいで,京都の住居表示に慣れてきてやっと発見できました…
 「こんちは~」と店に踏み入ったらオバチャンの第一声は「あら~今日かれいが無くなったから,さわらでもいい?」
 「さわらだと?んなもん食えるかッ」って帰る客もいねえよな。「…ハイ…」と返事しとくと「ゴメンな,今日誕生日やさかい,さっきまでお祝いしててん」…何じゃそりゃ!?「惜しいな~。もちょっと早かったらハッピー・バースデー一緒に歌えたのにな~」
 ハハハッとか一瞬に笑いつつ…心中大声で「なんで歌うねん!!」
 780円で魚メインの定食が出た。野菜の焚合せと大根の煮物,だし巻きにみそ汁だけど,まあ…どーもこの店,あんま料理にこだわっても仕方ないみたい。おばちゃんがエエ味出してる雰囲気の店。
 バースデーやってたのは,北海道男と京都女の遠距離カップル。朗らかな奴らで,思わず話混んじゃう。

 ヤバい…携帯フレームから溢れるほど書いて,なお紙面が足りない!今のわしにはこの京都って町,感動が激し過ぎるばい。
 ちょい次章に溢れます。赤こんにゃくを書かないわけにいかんのだ!