外伝04━〓〓━水無月之講━〓〓━
神宮丸太町ボン・ボロンテのもち麦パン

Ψ 芒種~夏至
δ 若鮎の塩焼き,青梅,らっきょ,赤紫蘇
θ 水無月

 ふらふらで新幹線に乗りました…
 金曜日の夜に完徹しちゃって,でも飲みすぎたカフェイン錠剤のお陰で仮眠も取れない状態のまま,一睡もせずに京都へ向かうボクは…ひょっとしてアホ?ねえねえアホ?
 でもいーもんね。今回は!月曜日に年休をゲットしての3連休京都!だもんね。
 だもんねって…そこまでして京都するかあ?
 その通り!そこまで京都するんであらしゃりますわオホホホ…やっぱりボクってアホ?

 今月の京都も,いけまさ亭直行便です。
 朝8時まで職場だったんで,錦入りが12時をちょい回ってしまった。ヤバい,席あるかいなと思いきや…ここってなぜか空いてる時には空いてんだよね。結構余裕でした。
 「あらいらっしゃーい」既に常連状態で昼定食を待つ。
 えっと今月は――
炊合せ
生順才ワサビ醤油漬け
加茂ナス田楽
赤ずいきの胡麻酢和え
エンドウ豆の和風冷製スープ
炒め生姜ご飯
お漬物


▲いけまさ亭 6月昼定

 何か…ムチャクチャ涼しげなメニュー!
 池政の面目ここにあり!!夏を先取りの味覚群です。
 先月ちょい恥ずかしく講義を受けた生順才は,ワサビの素晴らしくきいた醤油味のダシの中にプヨプヨで浮かんでまして,摘むと喉をスルスルッと駆け下った後に,爽やかで華やかな味の軌跡を残していきます。美味いなんてもんじゃない。タピオカも真っ青の清涼感!
 赤ずいきも,少なし意識して食うのは初めてだな。冬に漬け物が出る白ずいきとはまた違う充実感ある味覚。けれど胡麻酢で和えることで迫力のある冷涼な食いごたえを醸してます。
 エンドウ豆の和風冷製スープ!これはもう,完全にスイーツの域です。がっしりとハードを掴む豆の甘さなのに,キレイに裏漉しされてスルスルと口中に踊る。
 そこに生姜ご飯ですよ!!ただの生姜飯なら「ふーん」ってもんだけど,そこは池政!ジンジャーって単純な味付けだからこそのシンプルなパンチの鮮やかな破壊力。他の爽やかな品々に見事にマッチングして…そりゃあもー絶妙。
 さあ。普通ならここまでで十分です。十分なのにですよ――
 ぬおおお~!!加茂なす田楽君のまさかの再登場!!?これまた夏の風情ギンギンじゃあ!!
 旬を過ぎて落ち着いた旨味のナスに,変わらぬ芳しい柚子味噌に酔いしれる京の昼時でした。
 7月の予習。
 焚合せ
 新蓮根のミンチ挟み揚げ
 湯葉豆腐のお吸い物
 ハモ御飯
 お漬物


▲錦いけまさ亭 6月昼定 加茂なす田楽アップ

 どーしても再訪したくなって喜一の昼のおまかせ(千円)。
 今月のご飯は,半分食べてやっと気付くほどのうっすらタコ飯。
 すまし汁。魚の汁だけど魚肉はない。ただ丁度良い香ばしい生臭さだけが余韻を残す丁寧な逸品。
 漬け物は3種,沢庵,菜っぱ漬,昆布。少量ずつながらどれもハイレベル。特に菜っぱは,京都には珍しい塩辛さ。いや塩分そのものは他のニッポン一般水準。ただ,同じ塩辛さでもシブいの。どう作ってんだろ?
 さて料理です。まず蕨と蕗の煮物。軽く佃煮だけど,よくよく味わうとごく少量,ホントに微妙に実山椒の粒が入ってる。これが陰で物凄く有効なアクセントになって,蕗や蕨の地味な味わいに一気に華やぎを纏わせてる。
 この日は喜一でも焚合せが出た。小芋,水菜,人参,椎茸と…やっぱり後は身近な野菜ながらわしの知らない味。
 最後にきたメインは…へえ?サーモンの焼きもの!?お弁当的なイメージで油断して食うと…これまた脂の乗り切った旨味の宝石でした。
 しかし…ここのおまかせの写真はこれからもわしには撮れんやろな…だって亭主が…コワいんだもん!
 二度とも山吹色の作務衣を着込んだ,寡黙でちょっとも笑わない亭主のアタマは剃り込み入り。亭主をやはり寡黙に見守る奥様は,にこやかに出口まで見送っていただけるんだけど…ケータイでパシャッとかやってあの亭主にギロリと睨まれたらと想像すると…とってもそげな勇気はありまへんわえ…

 初心に返って錦市場で絨毯爆撃。
三木鶏卵 だし巻き
千丸屋 しるくゆば
鳥清 鳥ハム
フ嘉 フーズふ
のとよ うなきも
大黒屋 ぶぶうなぎ
馬場商店 子持ち鯉
福栄堂 水無月
 さらに,寺町通りで見かけた[シ奥]門安徳魯餅店でエッグタルト。
 それらを酒の量販店で買った泡盛とチーズで頂きました。(食いきれんから半分以上は広島持ち帰りでしたが)
 既に味は保証済みのものばかり!写真だけ四連発っすけど…一言だけね。

 鳥清の鳥ハムってスピリッツ系の酒の肴としても絶品!!あの軽妙で余韻ある味わいは何だろ…


▲鳥清の鳥ハム アップ


▲フ嘉のふーずフ


▲のとよ うなきも


▲馬場商店 子持ち鯉

 あれ?
 いつもはなかったはずだけど?
 通りすがりの和菓子屋に,同じ菓子がやたら並んでる。果ては軽食屋にまである。


▲錦柳馬場洛心館「みな月」


▲錦たなかのみな月(黒糖とエンドウ)

 夕日も沈まんとしてんのに,京阪の神宮丸太町に来てしまう。
 河原町通りを北へ歩いて10分,夜が落ち,店並も灯を落とした中にポッと明かりが点る青い軒…へえやっぱ開けてるんだ「bonne volonte」。
 こーゆー形じゃないと見逃したかも知れんほど控え目な店名表示。看板無し。自転車屋みたいな風情を醸す群青の鉄骨造。店名を小さく記した手動のドアを横にがらりとスライドさせる


▲ボン・ボロンテの軒先(これは…も少し早めの時間に再訪した際の)

 内部も…飾り気なぞ皆無!
 縦横1m程のガラスのショーケース。ケース付属のほの暗い蛍光灯に照らされたパンの群。その向こうにオカミサンと娘さんっぽい2人がニコニコ。
 それ以外は――完全にパン工房むき出し!何ちゅーレット・イット・ビーなお店!?
 流石に残りも少ないし,今日は味見なので2点だけ購入。
カンパーニュ1/2(350円)
もち麦パン(400円)
 勘定の後,娘さんがガラガラガッシャーン!!と派手に小銭をひっくり返して…一瞬3人で顔見合わせて大笑い。そんな適度な緊張感の良さも印象的。


▲bonne volonte カンパーニュともち麦パン

 宿にて。
 カンパーニュは,他の名店ほど小麦が香る重厚感はない。硬さもほどほど,ムチャクチャ突っ張ったハードパンじゃない。でもその感じが,スゴくちょーどいい。まさに京都人が毎日食べるパンです。
 けどもけども!驚いたのは,もち麦パン!パンそのものはカンパーニュと同タイプのバランス感だけど…こっちはプラス香草入り。これも「…えっ?何か匂うぞ?」ってくらいの仄かなキキ方。…おそらくミント系の何かだと思う。少なしアジア系にないフレーバー。実のところ鼻腔と味蕾では自信が持てないけど,喉頭に残る爽やかな感覚は…ミントののど飴に似てました。
 実はこの店のネタ元は,今回購入したJTBのMOOK「京都クチコミランキング」(よく見るとあくまで東京人向けガイドだけど)の「これが京都代表パン!」ベスト2の店。ベスト3に以前立ち寄った松原通りのまるき製パン所が入ってたからまずまずの精度とは思ったけど――なかなかじゃのう。
後日談:次回再訪した時買ったライ麦パン。これはわし的に最高金賞受賞でした!

 そんで調子乗りのわしが翌早朝さらに向かいましたのは――同第一位の「Boulangerie Rauk」。京都駅から徒歩15分,七条。
 店自体は普通のパン屋顔だけど,ボロンテと同じく民家に埋もれた場所。
宇治カリフォルニア(380円)
イイジクの赤ワイン漬けカンパーニュ(200円)


▲Boulangerie Rauk 宇治カリフォルニアとカンパーニュ

 宇治カリフォルニアってのは,クルミと小豆と抹茶のジョイントパン。要は宇治金時のイメージで,国際パンコンテストに入賞したパンとしてちょっと有名。
 結局パンの味ではボロンテに軍配でしたが…このルークは遊び心が素晴らしい!フランス料理に通ずるスタンス!

 近鉄四条駅改札脇のCourt ROSARIANにエスプレッソがあったんで入ってみる。
 Mサイズがドトールと同じ250円で,ドトールにないLサイズ有(350円)。
 ドトールもチェーン店最安値の割にほどほどのエスプレッソを出すけど,ここのはスタバに肉薄する味。いや,スタバの西欧の味の忠実なコピーと違い,ややマイルドですっきりした,でも苦味と深みのしっかりした独特の味を作ってる。
 Webで検索すると,大阪の南久宝寺町を本店に,ここ数年で京阪神に店舗を拡大してるコーヒーチェーン。ランチとともにこのエスプレッソが看板メニュー。
 お見事,関西!これからの成長を応援したいチェーン店です!

 関西賛美のついでに。寺町通でつまみ食いした[シ奥]門安徳魯餅店のエッグタルト。
 こんなところで上海でハマったあのエッグタルト!!しかも…味も上海並だがや!!!
 エッグタルトはマカオの英国人アンドリュー・W・ストウ氏の開発。ここはその元祖らしいのよ。
 日本店は現在,道頓堀本店とJR鶴橋店(鶴橋駅外回りホーム中!),それとこの寺町通らしい。…ええ味の配店やね!


▲アンドリューのエッグタルト

 ほぼ初めての東山。「Cafe Channelle」ってカフェを訪ねる。
 …閉店の貼り紙。近くの「まにまに」に来てねってある。ついでに…と路地裏のその店へ。
 5席程のカウンターのみ?天然酵母の全粒粉入りパン?でも売ってんのは「にんじんパン」とか「バジルパン」?
 「モーニングとか?」「すみません…しばらくないんです」
 足裏按摩とかもしてる?何だここ?
 あ…ひょっとして…
 「Channelle」って何か宗教的なネーミング?「まにまに」って「マニ教」の「まに」?
 バジルパンとコーヒーだけ腹に入れる。技術的には素人。良心的に焼いてあるのか結構食えたけど…こんな京都もあんのね…

 鞍馬口駅から西へ15分余り歩く。
 紫明通りの南,妙覚寺その他寺院だらけの中を抜ける。寺之内通とか上御霊前通とか,妙にスピリチュアルな地名多数。教化モデル地区やらキリスト教の店や教会やらも見かけるし,地歴的に信心深いエリア?
 大宮通り,前之町に到着。西陣ほんやら堂。
 昼ごはんと夜ごはんもあるけど,来るのが早すぎたみたい。
 モーニングAは,自家製パンとフルーツヨーグルト。Bはパンにサラダとスクランブルエッグ。それぞれ飲み物付。
 モーニングのBを注文。すぐ来たのは――大皿いっぱいのボリューム・サラダとちょっぴりスクランブルエッグ,焼いたパン2切れ。それにコーヒー。
 …マズくはない。ないけど別に,飛び上がるほどウマくもないな…
 「噛めば噛むほど味の出る魔法のパン」ってフレコミに釣られてはるばる来てみたけど…特に洒落てる店でもなし…何で?客もほどほどに来てる。何で?
 噛みまくっても…特段何てことない。とにかく食い終えて席を立つ。
 異変は,鞍馬口への道を半分ほど帰った頃。
 何だあ?
 何か…妙な満足感?腹の底の方に,気味の悪いなめらかな感覚?内臓が勝手に,エラい喜んじゃってる!?
 まだまだだな…京都の食の底はまだず~っと深いとこにあるみたい。