外伝04〓━━━葉月之講〓━━━
再び・錦いけまさ亭の夏野菜の天麩羅

Ψ 立秋~処暑
δ 賀茂茄子の田楽,万願寺とうがらしの焼いたん,伏見甘長とうがらし
θ 葛焼き(大和産吉野本葛)

 12か月中8か月連続で休まず京都参禅しておりますわしってアホ?
 厳密に計算すると,66.6%来たことになる。端数を四捨五入すると66.7%(だから何だ?)。厳密に計算しなくても2/3。
 それはともかく(流すんかい!!)すっかり馴染んだ京都の町に,今回は近鉄で入りました。
 いやあ…前日は人間ドックだったんで,定刻の30分前に行ったら,いつもは昼過ぎまでかかる検査がスイスイ進むわ進む。10時過ぎには終わっちゃったんで,一応1日かかることにしてるし,前の日の夜から飲食抜きでバリウム飲んでいやあ調子悪いよなあってことでさあ。
 神戸の杏杏でお粥食って,大阪福島のチョウクでミルス食って,なんばの新垣屋でどて焼き肴に一杯やってから,大阪天然温泉で汗を流した後,心斎橋の本福寿司を堪能して,翌朝中之島から近鉄で京都イン。
 いやあバリウムで絶不調なもんで仕方ないんだけどさあ。

 体の調子には逆らいがたく(もーいいって)フレンチとイタリアンとアフタヌーンティーだけをこなしてたら,いつしか夕方になってた。
 んで四条烏丸から少し南西,そば屋「味禅」へ。
 …まだ食うのか!?


▲味禅のそばとそば粥
 場所は新町通りを南へ,綾小路を通り過ぎたとこ。この辺り,いい整体を見つけたのもあって最近の京都ではよく足を運ぶよになりました。
 ざるそばは880円であったけど,ふいに福井の味を思い出して
おろしそば(1000円)
プラス味禅特製蕎麦粥(480円)
にしてみた。
 そば粥は温かいそばだとプラス530円になる。なんでだ?
 注文すると,なんか飄々としたオヤジが「鶏肉入ってますけどよろしか?」
 雑だけど客への配慮はある店っぽい。わしは別に構わんのでイエス回答。
 有名店らしく,壁に謙さんの御言葉が掲示。

渡辺謙
そばは誰にでも打てるのか?
信じるに足る「味禅」のおやじが
伝えたい蕎麦がここにある。

 「大根ですけど」オバハンがそば持ってきはった。「大ッ変,辛~くなっておりますんでちょっとずつ混ぜてお召し上がり下さい」
 ふうん…と聞き流していきなし全部混ぜて食う。辛くて涙が出た。
 でも美味い!そばの芳醇さって大根系の辛味じゃ消えないんだね。あっさりシンプルで端正な,基本に忠実な味。
 奥の座敷へオヤジ3人が酒飲みに来てた。メニューを見る限り日本酒もかなり充実のラインナップ。これでポン酒はええやろな~。
 さて。初体験で驚きだったのは,そば粥なんである。鶏肉のダシは濃いめだけど後を引かない京都ラーメン風だったけど,その具の米粒とそばの混ざり合った穀物味の何と地味で多彩な華やかさよ!幽玄の味覚とでも言うんだろか…どちらも沈んだ味覚ながら互いに個性の強い彼らがハモったらこんなスゴい味になるんやなあ~!!
 味のレベルはともかく,これも家で簡単に出来るはずの真の日本伝統食の一つ。メタボ食の席巻下に消えかかってる,こーゆー食事を大切にしたいもんやね。

 しかし…まるで舐めてたけど,何で京都なんだ?
 関東が本場のはずの,そして産地的には地方ばっかのはずのそばが,何で京都でこんな美味いんだ?
 で,京都新聞出版センター「京都蕎麦スタイル57」(同社,2006)を読んでみる。
 「京都が今ひそかに,そば文化のメッカになろうとしている──。」って新聞社らしいキャッチの利いた序文で始まる本。ちなみに帯裏面には「『いま,京都の蕎麦屋で何が起こっているのか?』──それは,あなたの目と舌で…。」
 京都のそばブームは昭和30年代以降とかなり新しい時代のもんらしい。田舎そばからすると物足りなさを感じさせる白い淡白なそばが主流。
 かなり激しく老舗とニューウェーブが拮抗してる状況。老舗ったって伝統と名前だけで高い京都の典型的な老舗じゃない,戦後の店なんだから油が乗り切ったバリバリの店が多いみたい。
 京都の洋食に通ずるこの状況下で,淡白だけどハイレベルに洗練された京都そばが生まれてるらしいのよ。

 翌日,調子に乗ってもう一軒,「にこら」に行ってみました。
 ここも有名店みたいで数人の韓国人の観光客がカウンターに並んでた。店名が不思議らしくて「にっこらー?」とかやたら連発しながら騒いでる。勘定の際に日本語ガイドの人が由来を尋ねさせられてた。壁にある絵の作者が「sobaya nicolas」ってゆーらしい。
 …だから何だ?
京鴨のつけ汁ざるそば(1500円)
をオーダー。結構高いね。
 ザルと碗が出る。ザルにはそばが,碗には鴨汁が入ってる。つけて食えってことだろう。
 うん。いい。
 そばはサラリとしてて初め歯応えよく,後に重く響く正統派。余計な味は一切ない。ただただそばです。
 鴨汁は,黒濁した醤油ダシ中に白ネギが浮き,鴨肉がゴロゴロ沈んでる。そのままならちょっと重いが,つけ汁にはぴたりとハマるベストなチューニング。


▲にこら 京鴨のつけ汁ざるそば

 実は,鴨肉をマジに味わったのは初めて。食べた記憶はあるけど,その時はあんま理解できんかったけど。
 …こんな美味いもんなのね~!!
 鶏肉よりコリコリ感が際立ち,牛肉にも羊肉にもない渋い深みが後味に控え目に顔を出す。脂身の味じゃない,赤身の肉自体が独特に脳に染みる。
 どうやら。肉の味覚も以前よりはるかに広がりつつあるみたい。

 「まだランチ行けます!?」玄関を開けるや尋ねたのは1時55分を過ぎた美齢。ランチは2時ラストだけど,奥様ニッコリOKサイン。
 ランチ1000円。3回目の来店です。


▲美齢 四神湯

 まず出て来たスープ。初回にも出た奴だけど,GWの台湾以来では初めて。
 これ…要は台北でビビった四神湯なのね。けど湯としても隻連の味に劣らない上に,山椒の実入りで独自色も加えてるぞ。
 こりゃあヤッパ凄いぜよ。


▲美齢 前菜3種

 前菜。やはり3種。
 一つ,棒々鶏。ソースに果肉が入ってる?オレンジ色の未知の味。
 二つ,ハモの甘味ソースに赤い海藻を敷いたもの。ハモの中華ですぜ!聞いたことありやすか?淡白な味わいを殺さないバランス感の妙に唸りました。
 3つ,茄子とゴーヤの甘酢煮。台湾風にダシ取りに使うゴーヤじゃなく,あくまで素材を活かした炊合せ的な瑞々しさがタマラン。
 これに続いてメインだけど,前回までと似た感じの八宝菜。ただ,具は一変しててニンジン,カリフラワー,一口玉ねぎ,車海老,しめじなどなど。
 いつものメニューだが…しかしスゴいスープ!よく味わえば明らかにルー味だけど,知らない人には気づかれない程度の微妙な使い方なんだよな。
 デザートには豆乳で作った杏仁豆腐が出た。甘味は微か,豆腐のニガリや穀物臭もしない。ただただまろやかに口中に崩れ落ちてとろける。大豆が何か違うんだろか?
 この美齢も,どーやら旬を重んじるみたい。2~3か月に1回は通ってみるべきだな。

 さあ!!旬を重んじると来ればやっぱりココ──錦いけまさ亭!
 「ああまいど!」って表にいる爺ちゃんにもとーとー顔を覚えられちまった。
 8月の昼ご飯は──コレじゃあ!!
焚合せ
牛肉のたたき
夏野菜の天麩羅
いちじくのワイン煮
白御飯
お漬物


▲いけまさ亭 8月の昼ご飯

 たたき。
 質自体もかなり良さそうだけど,脂の食感がまるでない。赤身の肉質で圧倒させるステーキ的な旨味でもなく,優しい肉感と歯応えで魅了する。タレもごくアッサリで,今まで食った肉とまるで違う味覚でした。
 付け合わせの玉ねぎのスライスと口に含むと至福!
 いつもの炊合せはガラス鉢に入ってきた。これと天ぷらの白磁の間の空間で,箸は大いに迷い箸。
 今月の炊合せ。ニンジン,水茄子,加茂茄子,山芋,そしてそれら煮汁を吸えるだけ吸い込んだ野菜の下に敷かれた白い膜状のものは──湯葉でした!
 加茂茄子の果肉が生クリームのよう。水茄子はゼリーのよう。鉢の底のフワフワの湯葉は…ミルフィーユ。脳味噌とろけて流れそう。
 時間かけてるだけとは思えん。どー煮しませたらこんなスイーツが成立すんだろ?
 毎月食ってるわけだけど,特に感激した。
 対する天ぷら軍も,しかしこの化けもんみたいなのに対抗できるスーパー級!赤ピーマン,小茄子,細いトウモロコシ,蓮根,万願寺とうがらし,あとゴボウみたいな知らない野菜でした。
 いけまさの油ものは何回目かだけど,こーゆーの食うと油ものを馬鹿にできんくなる。食材の味を保持するのみならずさらに一味加える絶妙なバランスは,衣の量と揚げの時間で取ってんだろか?それぞれの野菜の味覚を知り尽くしてこその油使い。
 それが手抜き料理の技術として使われるから不味いだけで,油ものはやはり元々味を高める技術…って事実を突き付けられる一皿。
 中で何つっても,万願寺とうがらし。今が旬の繊細な苦味と青臭さに衣が甘みを帯びて感じられる。まさしく唐辛子の形なのに,粗暴な辛味はごく微か。
 赤ピーマンも,子どもが嫌がるあの臭みが最高のアクセント。苦味のある野菜と天ぷらって調理法はこんなに合うんやなあ。
 蓮根は以前書いた通り。シコシコの歯応えと深く芳しい身の風味には変わりがない。
 こんなん二皿並べられても…ホント困るんだよな~。入門者にゃ明言できんけど,やはり夏野菜だからか?
 いちじくはデザートでした。黒い塊が樹液にひたひたって外観ですけど…何つーノーブルな味覚!あの野卑な果実がこれほど化けるの?ワインの酒臭さは全く表に出てないけど,ややくどい果実臭さの赤ワイン。やはりこのワインとのジョイント効果?ブワッと寄せる濃厚な渋い酸味から,とげとげしさを完全に取り除いてる細やかな完成度。この味覚の後から,プチプチ歯の間に潰れる種の歯応えが追っかけるから止められへん。
 しかしま,衝撃度なら天ぷらかのー。帰りがけに軒先の本業八百屋コーナーで万願寺とうがらしを購入しちまったほど。
 広島で焼いて食ってみた…ってゆーか,どーすんのか分からず網焼に載せて極弱火にかけたまま,1時間忘れてたら真っ黒け(当たり前じゃあ)。でもよ!焦げをこそいで食ったら,それでもバチ旨!焦げ味と苦味が最高…ってのはわしが変なのか?

 さ~て来週のサザエさんはあ!?じゃなくて来月の昼の定食はあ?
炊合せ
[魚秋]煮付
[糸瓜]の酢物
おばんざい三品盛と白ごはん 又はかき揚げ丼
お漬物
 かき揚げ丼は今月も選択できたけど…そんな自慢の味なの?
 そりゃそーと──[魚秋]?[糸瓜]?読めない漢字が2文字も登場!?しょーがないからWordの手書き辞書で調べたら…前者は「かじか」,後者は「へちま」でした。よしッ謎は全て解けた!わはは…
 解けたけど…カジカって何!?──アシカの兄弟みたいなもんっすか?わ…ワシントン条約は!?

 下長者町通を再訪。アラシャラモンのジャルダンです。
 前菜は「トスカーナ産小うさぎのテリーヌ マスタード添え」を呉れたまえ君イ。
 ところで君イ──テリーヌって誰よ?昔,ペリーヌ物語ってアニメがあったけど?あの娘の妹か?


▲アラシャラモン前菜(小うさぎのテリーヌ)

 具入りのハムなのね。肉・魚・野菜などのすり潰したのをそのままか豚の背脂で包み,テリーヌ型ってゆー蓋付きの型に詰めてオーブンで焼いた料理なんですと。パテとも総称されるけど,うち冷製のものがテリーヌとされる。通常スライスして盛り付ける。
 旨旨~。複雑な淡白さに顔が崩れちゃう。この旅の後,変わり種のハムにハマっちゃった位。
 メインは二見産スズキのポワレ。


▲アラシャラモン メイン(すずき)

 これもな~。すずきそのものも確かに最高。
 だけど特筆すべきは,このお皿の楽しさ!──すずきの下には蒸かしたかぼちゃ,横にはナスの煮込み。これらの周囲にポテトサラダ風のクリーム,四隅に煮崩したトマト。
 ここでも箸が迷い放題!──箸の出るフレンチはホントのカジュアルです。このアラシャラモンも箸の出る店。
 すずきを一かけにトマトを添える。かぼちゃを喉に落とした後味にポテトを口へ。ナスとトマトを絡めて。とにかく自分で色々な楽しみ方の出来る,個性豊かな美味の原色群なんよ!
 フレンチやなあ。そんで,その旋律に日本の食材をキッチリ載せてんねんな。
 パンとエスプレッソにデザート。フルーツ3種とショコラのアイス…あと「スナフキン」に似た名の焼き菓子だけど…名前覚えてへん…旨かったっす!