飲茶は香港の宝石だと思う。
今回の10日間の滞在中,飲茶には12回行ってます。
この食習慣は美味以前に,美しい。美しい以上に,深い。暗黒とも呼べる深さだと感じます。
飲茶は,其之一,其之二,蓮香楼の巻,陸羽茶室の巻の4部構成の大河ドラマでお届け致しまする。
なお,オーダー形式の店のメニューは正確に表記したつもりですが…ワゴン形式のお店のメニューはわしの主観的ネーミングで,まあテキトーです。ホントは何て言うのか…全く知りません。
[3日目]倫敦大酒楼(佐敦)
魚の軟骨トロトロ煮
豆花
計50.2HK$
昼1時。
分かってはいたが…体育館並みの座席が軒並み満員御礼状態。幸い,一番隅っこに一席だけ空いてた席をゲットできました。
蒸篭に小皿が入ってる黒々した物質に,暗黒物珍しさを感じてワゴンからゲット。
見た目では何なのか全く想像つかんかったけど…魚の軟骨でした。軟骨がトロットロなんである!骨骨しいのにスルリと身が分離するほど,煮込むか漬け込むかしてある。皿の底にくっつけてあるヤムイモみたいなのからも味が湧き出てるみたい。これにカレーと漢方と滷味の複合したような凄まじく複雑に上等なタレがタップシ染み込んで…!
何となく,ザワッと寒気。――ワゴン形式の怖さは,値段が確実には分からんとこ。4つほどのクラスのどれかを聴くほど広東語には…自信がないのよね。
ハンコをみると――「特級」?「特」って初めて頼んだぞ?
食材,技術,製法,手間と色んな面で…これヤバくね?
特級の値段をメニューで見ると?…げっ!特級だけは個別価格か!
これは危険だ!明らかに馬鹿高い味じゃねーか!
ちなみに2品目は,これにビビって気弱に豆花。しかしこれもいい!
赤茶色の砂糖を自分で入れろってことでした。スイーツってゆーより豆腐そのもの。苦汁や大豆の重量感が,町中の以上にない。日本での豆腐らしい要素が全くないのが,これほどのスイーツになりうるとは!
香港の食が,世界中の味覚を丸くしちゃう力。その変換器に豆腐がかかると,豆花になっちゃいました,ってことなんじゃないか?
さて。食い終えたが…。
問題は値段だ。この人数だからスルッと食い逃げ…って考えも微かに頭を掠めたが――ここのおばちゃんの眼力は魔術の域である。この混雑の中でチェックを怠らない。席を立った途端,ものの10秒ほどでツカツカと押し留めに来る。席でチェックするから待て,と言ってるらしい。
ひええ…。ドキマギしながら待つ。
結果――総額500円でした。
あ…あんなの食って?さらにプーアル茶ポットで飲んで,極上スイーツ付きで…ワンコインかあ?
恐るべし香港飲茶!
[5日目]青葉海鮮酒店([サ/全]湾)
香芹鶏飽[イ子]
香煎羅葡餅
確かチェーン店だったと思う。けれど香港の場合,昨日の凱旋といい,チェーン店にはチェーン店になるだけの底力がある。
前者はセロリと鶏肉,蝦の入った包子。
後者は,蝦と何かの種の入った水餅でした。「羅葡」はラテンの意味だが,この場合どういう趣旨か不明。
正直,技術的にどうこう言うようなものとは思えなかった。
しかし…斬新に感じた。セロリがマントウ生地の中に香る味覚も初めてなら,水餅の中に蝦が香る体験もかつてなかった。この取り合わせの発案,香港的ではないように思う。おそらく創作中華的なスタンスでしょう。このリストラクションの力がスゴいと思いました。
[5日目]瑞記茶館(川龍村)
蓮とピーナッツの包子巻きみたいなの
ソーキの黒豆煮込みみたいなの
計28HK$
半日かけてやっとたどり着いた,[サ/全]湾北部の山あい,川龍村。
「包子巻」と勝手に呼んでしまってるのは,蓮とピーナッツの入った黒ずんだ餅のあんを,マントウ生地で巻き込んだもの。不思議に香る甘味が,慣れてきたら素晴らしく口にトロケます。
ソーキ(英語で言うスペアリブ)は,味の底の方に滑らかな感じがあるのに気付く。よく味わうと,沖縄のと全く違うんです。この滑らかさの核は何か野菜じみたふくよかな旨味みたいで,それが黒豆だってのは,皿の底の粒を見てやっと理解できました。
食いものの味もだが…しかし美味い茶だ!わしが適当に淹れたんだから技術ってこともあるわけないし,茶葉が特別って扱い方でもない。おそらくは水が美味いんだと思う。今までにないふくよかさ,これも軟水ゆえか?
自分で淹れたってのは,ここ茶も点心もセルフサービスだから。茶は,数種類のプラスチック瓶,ティーポット,魔法瓶が並んだコーナーがあるから,勝手に作ってテーブルに持ってく。茶葉はやはりプーアルらしきのを選んだけど,他の種類は,烏龍以外は理解不能でした。
食い物も,色んなもんを並べてある部屋があって,そこから自分で取ってく。まあバイキング形式だけど,縦に積まれた蒸篭が,出るなりどんどんなくなって行ったり,包子的な物体の脇に正体不明のジャム状のものがあったりと…日本人には戸惑うばかりの状態で,結局蒸篭2つになってしまいました。
時々,お婆ちゃんが葉野菜の炒めものを山盛りにした皿を持って通ります。壁面に貼ってある「新鮮郊外油菜 30HK$」ってのがコレなんでしょう。これだけは,奥の厨房でこのお婆ちゃんが作ってるらしい。等級は「頂」だから自慢の逸品みたいだけど,あの量はちょっとなあ…。
壁には他に「山水豆花」ってのもある。でも売り切れてました。聴くと,朝早い時間にはあるらしい。
しかし,このタイプのセルフサービス飲茶って初めてでした。バス停すぐの「彩」何とかって店も,見たところ同じ形態らしい。とすると,元々飲茶ってこんなんだったのか?それが生きた化石状態で田舎には残ってると?
とゆーより,外食と言えば,この形の飲茶だった時代があるんでは?
とにかくいい飲茶でした!
[7日目]瑞記茶楼(川龍村)
計25HK$
また来てしまった。けどやっぱり豆花は売り切れてまして…いつならあるんだ?
で,結局やっぱし蒸篭を2つ。でもこれが!
肉蒲鉾を蒸したみたいなの
――蒲鉾なんだけど後味に肉気が残る。蒸籠の下に湯葉が敷いてあったが,茶色に変色して油揚げみたくなってる。少量ながらこれもウマウマ!
焼売
――ビックリ!肉汁の染み方が,ムチャクチャにちょうどいい!大陸中国みたいな下品にドビュッじゃなく,でもちゃんと肉肉しい旨味は生きてて…高級だったり技術的に絶妙ってわけじゃないけど,普段着の旨さってゆーか?
プーアル茶
――これやっぱりウマウマ!心洗われる清さ5お茶です。水質でこんなに茶って生きるのか?後味のふくよかさとキレが,いつもの市内の飲茶と全く違う。
今回は2階のテラスで食いました。谷を見下ろす素晴らしい景観です。山間の霧の窪地の清気が満ちてきて…なんだけどねえ,環境は。
階段脇には,この朝っぱらから麻雀に興ずるオヤジの一群あり。牌の音がピンピン耳につく。片や,テラス脇には例の鳥籠が山のように並び,中の小鳥が大合唱中。さらには,ベランダの手すり脇に陣取った日本人オバサン4人組,物凄い量をムッシャムッシャと平らげつつ,蒸籠を積み重ねとる。
全然…くつろげんがな!
田舎とは言え香港だからな。それにここ,ほどほどには有名みたいで――駐車場は既に満車状態だし,タクシーがひっきりなしに来てます。
このセルフサービス飲茶は,「自助茶居」というタイプらしい。バス停脇の人気のない店にもその表示がありました。他の田舎町でも見つけたら是非入ってみたいけど…香港ってなかなか田舎町まで足を延ばすきっかけがないんだよな。
ま,そんなんも含めて,なかなかない素晴らしい飲茶屋であります。
▲頂好海鮮酒家の鼓汁蒸鳳爪,惹味金[金矛][月土]&ポーレイ茶
[8日目]頂好海鮮酒家(尖沙[ロ且])
鼓汁蒸鳳爪
惹味金[金矛][月土]
ポーレイ茶
計34.8HK$。ここは珍しくメニュー名入りのレシートが出たからチェックしてみると――食い物はいずれも「中」で各11.9HK$。茶は7.8HK$。総額に10%の「服務費」が付いてる。サービスチャージでしょう。
場所が場所だけに日本人度3割だが,尖沙[ロ且]の駅と佐敦との中間辺りのやや生活感あるエリアなんで,新聞を広げてる地元のオッサンオバハンもそれなりにいる。落ち着いた雰囲気だが,室内露店以外はオーダー形式でワゴンなし。
店内でもケータイのアンテナが立つ。茶店として使える店っぽいな。
とか,要するに味には全く期待してなかったんで,いつも以上にムチャクチャに頼んだ。
似たような肉の醤油汁的煮込みが,どっちも蒸籠で出てきてしまう。端から見たら…下手なチョイスやな~!!
こんな流れだったのに――意外に味は良かった!
爪の方はまさしく手。鶏じゃなく鴨か?プヨプヨした食感の上に,ブラックビーンズの深みと唐辛子辛さが適度に効いてる。台湾で高く売られてた爪,そのまま食って「大したもんちゃうなあ」とか思ってたが,手を加えたらこんなスゴいのね。
[月土]の方はセンマイみたいな…あ,これ,町中で売ってる牛[イ十]に近い!!
ただし!漢方のきかせ方に全くクドミがない。要するに,かなり上品な牛[イ十]。こーゆーのもあるのか?元々が街頭ファーストフードかと思ってたが,ちゃんとした家庭料理なのかもしれない。
使い勝手から言って,相当ポイント高い店だと思う。次回は初日に行くかも?
[9日目]鳳城酒家(銅鑼湾)
黄金流沙球 10.8HK$
潮式[青見]粉果 8.8HK$
ポーレイ茶
「早茶優恵点心」の中からチョイスしました。ちなみに他のメニューは――
[魚菱]魚煎西椒 9.8HK$
魚湯鳳城水餃 8.8HK$
滑鶏蒸腸粉 8.8HK$
南瓜排骨飯 6.8HK$
鳳城点心併盆(毎籠十件)38HK$
どうです!美味そうでしょう!!どんな料理か見当もつきませんが…。
さて。潮式うんたらは,これぞまさしく潮州菓子。ムチムチの粉の中にナッツ系,おそらくカシューナッツと根菜類,おそらく大根がサクサクした食感と微かな肉汁をまとって,軽やかにまとまってる。後味には唐辛子辛さがある程度残り,食い応えもあります。
このバランスのいい食感こそ,潮州独特だと最近は思う。そしてその辺りが,香港の食感の源泉。
球はフライケーキ。ただ,二層目は餅がムチムチに入ってて,中のあんはカスタードクリーム。このクリームの卵黄のきいた濃い甘味が後味に広がって,スイーツとしては最高。カロリーはムチャクチャ高そうだけど…。
ハッピーバレーの登り口,銅鑼湾の賑わいからはちょっと外れてて,常連さんのマッタリ地域店っぽい。でも十分な高級感とレベルで…この店もいーよなー。前回に続く2回目の訪問でした。