▲ 仏山にて発見した「八戒食堂」。もちろん入らなかった。
孫悟空でも玄奘三蔵でもなく,八戒を選んだマスターの気概は認めないでもないけれど。
禅城帰着は17時頃になりました。何か…物凄い距離を動いたような気になってます。
祖廟の一つ前の同済路口という駅を車窓に見つけられたので,そこでふらりと下車。地鉄(FMetroと表示有。仏山のFらしい)に乗り込みました。
ラッシュアワーですが,ここからだと余裕で座れました。西郎まで。ちなみに「西郎[立占]」とアナウンスされると「知らんじゃん!」との広島弁に聞こえます。
市内には何とか17時代に帰りつけました。ならば下町をちょっと歩いとくかな。上下九路より龍津中路がいいな。
そんな軽いお散歩モードで陳家祠に降りたのですが。
今日は,神の日だったようです。これは旅に付き物。というより,こういう日に出くわすために旅に出てると言ってもいいわけで。
陳家祠の東の道を南に入った辺りから,天空に雷鳴が轟き始めました。
お?朝と同じだな。
これは…来る。
空模様からか割と残ってたいつものカステラを購入。
1800現[火考]蛋ガオ 8.75元,250
「今焼いたばかりのカステラ」という見もふたもない店名ですが…購入はもう3回目になる。前回はこの辺りの別の菓子屋でも買ってみたけど,やはり特別なんである。
実直に旨い。カステラ以外のもんじゃないんだけど,日本のがどうしてもストイックなとこに陥っちゃうのに対し,店名そのままに,焼いて持ってきてそのまま売ってます…という風情。なんせ台の上にコンクリートの塊みたいなカステラがドンと乗ってて,それを量り売りしてるだけの店ですから。→次回八次では調子に乗って新作・ブルーベリーが並んでました!
今回は,公園前のスーパーで買ったヘーゼルナッツバターと併せてみました。──最高。ケーキの生地にしたら素晴らしい味なのに,おそらくこれを皆さんそのまま食べる。
確かに,広東人の味覚ならそのままでしょう。
歯ごたえはスカスカのアメリカンタイプに近い。日本のしっとりタイプ的には得点は高くない。中欧のガッシリさにも欠ける。
かと言って甘さの面でもアメリカン,日本ともにこれよりは強い。中欧のほど複雑味ではなく,非常にシンプルで端正。
このカステラは,卵と小麦の香がごく素直な甘味として,真顔でそこにある。そんなまさに広東の巷のど真ん中にあるスイーツなんである。
広東人でないわしにもヘーゼルナッツをなすって食ってみてよく分かりました。あるいはマーマレイドでも良かったでしょう。上質なバターを香らせてもイケるかもしれない。ジャムの強めの甘味の背景として実に美しく働く。いわば和音のような働きをする,小麦と卵のほのかな香と甘さ。
そう,だからこれをそのまま食する志向こそ──粥や腸と同じく──広東人の味覚そのものなんである。
▲「改衣」と一言,看板表示。
旅行者には何か啓示的な語にも見える。生活者にはどう見える看板でしょうか。
さて,雨足の早まりから逃げるように,二度目の[イ五][シ甚]記でとにかく炭水化物を注文。席につくのを待ってたように空からドドドッと水塊が落ちてきました。
1815 [イ五][シ甚]記粥品分店
浄鮮[虫下]水餃13元,250
染みる水餃を啜りながら,稲光と轟きが耐えることなく続く龍津中路を眺めております。
朝に劣らぬ土砂降り。閃光と轟音の間隔がほとんどなくなると一時雨は引いたかに見えましたが,これは台風の目と同じ。すぐにまた天の水桶がひっくり返されます。
異国で雨に打たれてもうどうでもいいや,って風に全部棄て切っちゃった気分になってる時というのは,本当に…安直に言えばこれ以上ないほどキモチイイもんでして。
そういえば前回の香港も台風直撃下だったな。
ドロドロの川みたいになってる通り。ひととき漆黒と化した風景。アスファルトを打つ雨粒が水しぶきの花を一面に咲かせてます。軒先にひしめく雨宿りの男女,裸足になって走り抜けてく危険な人たちも中国ですからかなりいます。[イ五][シ甚]記の野暮な店内からは,これらを目にし耳にしする度に歓声と批評が思い思いに上がって。
旅先で,と限る必要はない。日常が壊れて,何物にも属さぬ名のない者が顔を覗かせる時があります。
今日は神の日です。
▲スーパーハードボイルド刑事ドラマ(適当)「赤道」絶賛上映中!
「熱い!」って意味なのか?冷静に見ると何か変じゃね?
さて,お味の話を忘れてました。
売り物になってる及弟粥ではなくて,あえてメニューに2つだけ挙がってる水餃にしてみました。
皮は何かが飛び出してるものではありません。小麦の味わいをナチュラルに醸し,かつ過度な歯ごたえやもっちりさもない。程よい噛みごたえと自然な小麦香。これはやはり老舗のものです。
具はと言えば,こちらも豚肉主体の味わいをてらいなく醸してます。肉汁で押すことなく,かと言ってつなぎや混ぜ物で引くこともない,真っ直ぐな豚挽き肉が生姜,ニンニク,シェンツァイとキレイにハモってます。
汁も素直。味精もわずかに感じられますが,茹で汁と肉汁を主体にシェンツァイでアクセントを付けただけのユルい,しかし美しく宇宙を形成してる。
向かい席の老夫婦が,残ったバン面をナイロン袋にかき込んでます。爺さんの方の咳が止まらないらしく,豪雨の通りに駆け出して咳き込んではまた戻ってきて,残った油菜を必死に口に入れ,噛もうとしては咳き込んで…広東人のパワーというか食欲というか可笑しさというか…この人たち──何かやっぱり好いですね。
▲善王蛇。
「蛇」と公衆の面前にドでかい看板を掲げるのは,日本だとそれなりに苦情が出そうですけどね。
宿に入る前に,やはり名残惜しくて入っちゃいました。広東最後の炭水化物はここでしょう。20持前,金城拉麺。
羊肉拉麺650*0.75=488
6卓15席ほどの店に,満席ではないけれど常に客が入ってる。広東飯ではなく,マスターは衣装からも明らかにイスラム教徒(おそらく回族)。深水ポのカシミールカレー屋を彷彿とさせるロケーション。
しかし味は…全く異国の料理なのにまさに広東。
麺の素直な噛みごたえ。アルデンテとか麺のコシが違う!とかでなく,かと言って博多うどんのコシなし饂飩とも少しズレてる。妙な例えですけれど…にゅうめんを思わせる麺です。
台湾で発展した牛肉麺とかからすると,とても清教の料理と思えないユルさは──独自に広東化した結果なんでしょうか?
汁も全く辛みはない。これまた茹で汁主体,肉汁はほんのわずかでシェンツァイがかすかなアクセントという,さほど統御されていないバランスの賜物です。
広東食じゃないのにどこかしら広東。このラーメンとの付き合いは長くなりそうです。
※ 七次では龍津路にも出来てました。結構なチェーン店なのかも?
▲「出前一丁31元」セットのお品書き。物凄いチョイスの数ですけど…これを喜ぶ香港人の気が知れない。
けどまあ,香港で出前一丁は,ほとんど「台湾ラーメン」的な別カテゴリーを形成しつつあるらしい。確かに世界麺文化の源・漢人圏にも,味噌で麺を喰う文化はないみたいですから。