外伝09♪~θ(^1^ )HK-File01:パン

 マカオ市街から橋を渡ってコロアネ地区へ。
 バスを降りたロータリーからすぐの安徳魯餅店へ。
 まさに町のパン屋さん。小さな店です。ショーケースに並んだパンをトレイに取ってくお馴染みの形式。朝なんで焼きあがったパンが続々出てきてる。
牛角餅
自家製牛[女乃]
ってとこしかないか?とキョロキョロしてたら,焼きあがったばかりの見慣れた物体がケースに並んで,今まさに商品棚へ並ぼうとしてるとこ。
「これも買える?」
「あ,いいッスよ」
って感じでゲットできました。
蛋餅2つ
 つまりエッグタルト!この安徳魯(アンドリューの漢字訳)のエッグタルトを買いに,わざわざここまで来たんである!京都寺町通りの支店の味が忘れられず…。
 店から少し歩くとうらぶれた波止場に出た。静かなベンチで一人パクつく。

▲安徳魯餅店のパンとヨーグルト

 美味い!
 エッグタルト,流石に激しく美味い!
 甘さはビックリするほど薄いのに,明石焼きをパイにしたよなふんわかした食感の中から,微妙な卵甘さがほのかに立ち上って脳髄を痺れさせる。しばし呆然としちゃう満足感です。
 牛角餅ってのはクロワッサン。あれ,由来はオスマントルコとウィーン防衛戦を戦った欧州勢が,勝利の証にイスラム側の象徴の三日月をかたどって食っちまったってもんらしいけど,漢民族は牛の角を連想したんだな。
 あと,漢民族にとっては米でも小麦でも粉ものの塊は「餅」らしい。
 味はまあまあ。べたべた甘甘タイプで,明らかに卵が入ってる。少なし好みのタイプじゃないな。
 意外だったのは「自家製」表示があった牛[女乃]!
 この漢字2文字でヨーグルトって意味なんだけど――凄かった!
 インド的な粗い酸味が滅法キク。東アジアでこんなヨーグルト…存在しうるんか?
 喉ごしの最後,固まったミルクが底に残る。漉しを粗くすればこの味が出るってことなんか?しかし…マカオでヨーグルトってどー繋がってんだ?聞いたこともないど,ただ――。
 そー言えば!
 昨日歩いた新馬路には,夜中にも関わらずえらく流行ってる牛[女乃]専門店とかあったぞ?これは…要チェックやな。
【→File08その他参照】

 香港島湾[イ子]の快楽餅店。英語名Happy Cake Shop。
 三畳一間のホントに小さなパン屋さんです。2.5HK$から0.5HK$刻みで4HK$まで30種程のパンがガラスケースに並んでる。
 行列ってほどじゃないけど…客の流れが止まらない。
 2つから6つくらいの単位でがんがん売れてく。客層もサラリーマンから主婦,学生までバラバラ。
 ただし──今日歩いた感じでは,こーゆー客ひっきりなし的な店は繁華街にはあちこちに見受けられそう。ガイドブックなしでも,こーゆー店はかなり簡単に判別できそうな感じでした。
 国内の要領で3つピックアップ。食事パン系,惣菜パン系,デニッシュ系から1つずつ。ってもデニッシュ系はもちろんエッグタルト。
 初回購入は
腸[イ子]飽4HK$
小堤子飽2.5HK$
蛋[テヘン+達]2.5HK$
でした。
 さて味ですが──これほどまでとは…!
 先に言うと,香港滞在7日間中に計3回,この店には足を運んでしまいました。
 腸[イ子]飽と小堤子飽。どちらも凄まじく密度が濃い。味覚そのものは日本のパンに似てるのに,何とゆーか密度のある,やっぱり重いとしか言いよーのない味なんですわ。
 前者はロールパンにハムが挟んであるだけ。後者はただのコッペパン。なのに,小麦がどっしり濃ゆくてムッチリしてる。
 小倉駅前のパン屋さん,シロヤのハードパンが一番似てるけど…饅頭と日本パンの間みたいなまったりさ。
 メロンパンに似た香港パンは[サ/波][古古/維]飽として歩き方には紹介されてる。わしが表示を勘違いしてるのかもしれない。
 蛋[テヘン+達]がまた──クリーム部分もさることながら,デニッシュ部分が小麦で食わせるタイプのムッチリしたパサパサ感…って表現は普通は矛盾してるんだけど,台湾の焼餅がこんな感じです。
 パン部分だけならマカオをはるかに越えてました!
 デニッシュ系もいくつかあったけど,英国植民地下の名残か,スコーンがあったのを記憶してる。これなら…スコーンもかなりイケると思う。

 [木容]樹頭珈琲館。英語名Banyan Cafe。
エスプレッソ(ダブル)15HK$
 生活感覚では飲めるエスプレッソ。丁度いいマイルドさが嬉しい一杯です。
 縦に長く続く間取り。落ち着いた調度,座り心地いいソファ。適度にざわついて居心地最高。
 だもんでカップル多し。ちょっとしたファーストフード系も食えるみたい。
 街歩きの休憩には有り難い空間でした。
 ちなみにこのバンヤン・カフェの朝食メニューは──
多士餐 19HK$
(トーストの漢字書きらしい)
牛[女乃]麦皮餐 20HK$
(ヨーグルト,食パン(麦包),ハム)
牛[女乃]栗米片餐22HK$
(ヨーグルト,ケロッグ(栗米?),食パン)
[長三/松]餅餐 20
(全く分からん。写真ではお好み焼きみたいなものに見えた)
飛[石世/木]餐
(写真で見る限りホットサンドらしい)

 トイレを尋ねたら「ロビーへ行け」と鍵を渡される。…どーゆー意味?とにかくロビーに行ってキョロキョロしてると,受付っぽいお姉様が「トイレ?」と案内してくれる。エレベーターの脇の表示のないドアらしい。鍵を開けると確かにトイレでした。
 つまり,ここ香港ではトイレは当たり前に公共の施設じゃないらしい。このアンチ・パブリックな感覚,ヨーロッパは愚か,コンビニトイレを自由に使える日本とも隔絶したセンス。

▲RedCherryのパン

 尖沙[ロ且]から北へ。香港の秋葉原,深水[土歩]へ。
 えらく人が溢れてるパン屋があった。複榮街と北河街の交差点。
 紅車[ガンダレ+里]麺包西餅。英語名はRedCherry。
 クロワッサン,メロンパン,葱の惣菜パンと計10HK$を購入。
 後で外面を見たら「八折」の貼り紙が。2割引きってこと?ひょっとして…だから客が多いだけだったりして?
 そうだったかも…。
 後に宿で食ったら,クロワッサンはベタベタにバターまみれ。でもまあこれはこれで,本来のブリオッシュからはかけ離れてるけどいい味出してはいる。
 コッペパンはまさに日本のコッペパン。葱パンも日本のピザパンの平均より少し上って程度。
 この辺が,普通のパン屋さんレベルか?それでも日本の並以上には美味いみたいですが。

 九龍城の護前[口>緯-糸]道にある頂興茶餐庁。奥は喫茶スペースになってるけど,戸口辺りはパン屋として盛況ってゆー奇妙な店でした。
鶏尾飽2.5HK$
 一度食ってみたかったコレを買ってみました。見かけは何の変哲もないロールパン。食っても生地はただのロールパン。でも?それでなくてもモッチリしたパン生地の間に,何か奇妙な層が出てくる。
 古いパンをリサイクルしたあんと聞いたけど,少なし危険な味はしない。ココナッツミルクの甘さがほんのりして,生地と具が渾然一体…とゆーか元々パンなんだから当たり前か。いわばパン入りのパンなわけで,なかなかいい感じにまとまってます。
 ただ日本じゃ作らないだろな。
 「昨日のパンを潰して挟んだパンです。オイシイですよ」とか言われても,ちょっと買う奴おらんだろし…。
 この店では,さらにエッグタルトも購入してみました。店頭に売れ筋っぽく並んでたんで…。
 これもかなりのハイレベル!

▲東海堂と「伊藤屋の」のパン

 地下鉄構内によく入ってる東海堂。AROMEという英語名に「アローム」と日本語が並記されとります。
芝士漢[保/土] 6.5HK$
だけを購入してみる。こーゆーシチュエーションのパン屋使い,香港人は1個とかせいぜい2個を通りすがりに掴んで道端とか歩きながらちょっと腹に入れてるみたいで,単発買いもそんなに目立ちはしません。
 漢[保/土]は「ハンバ」,つまりハンバーガーの途中までの音訳。
 ただ実態は日本でいう惣菜パンでした。具としてはなかなか日本では使わない中華の野菜の味付けで面白くはあったけど…まあ量販店的にはこんなもんか。

 旺角の北側,旺角道のバス停近くに,常に客足の絶えないパン屋が2軒ありました。
 結果的に…どっちも変わってたな。
 1軒は「伊藤屋の」って日本語的な看板が出てる店。割と大きな店の割には「伊藤屋の」何なのか補足はない。英語名Freash Cheese Cakeも,伊藤屋との繋がりが伺い知れない。
 かように謎多き店だけど,とにかく購入。
鶏尾飽3.5HK$
紙包蛋[米ソ/王/心]4.5HK$
 うーん!?普通やん?
 なぜ押し寄せてるんだ香港人?やはり謎のベールの解ける気配のない店である。

▲包点先生の店頭風景

 別の日の夜,もう一軒に入ってみた。旺角道バス停すぐそば。
 「包点先生」とこちらも個性的なネーミング。「アンマンせんせい」って語感か?日本語にするとなんじゃそれ?って感じだけど,香港感覚ではセンスいーのか?
 にしても?真っ白のパンがあるぞ?あっ隣も?全部真っ白か?なぜ?
シエン饅頭 3.5HK$
芋頭饅頭 4.0HK$
 つまりここ,外見全く同じだけど,西洋パン屋じゃなく中華パン屋,要は饅頭(マントウ)専門店だったわけでした。
 台湾でもそんなに数はない。去年,師大前で見かけただけ。昔,90年の中国にはかなりリヤカー屋台はあったけど,店舗は国営の配給場でしか饅頭は売ってなかった。
 それが香港にあるとは!
 4つまとめ買いのサービス中だったんで,レジのお姉様にニッコリ「あと2つお買い上げですとお安くなりますが」と案内された。
 スミマセンお姉様…やっぱ4つ買えばよかったです。
 専門店だけあってかなりイケてた。90年代大陸中国の饅頭ってまだ支給品の色彩で旨いとかってより「食糧」だったけど…コレって立派な美食なんだ!今の香港人が単に貧乏臭いだけの食糧に殺到はしないはずでしょ?ムッチリした歯応えとホクホクの小麦臭がたまらん!
 もっとも,わしには2つの違いすら分からん。いくら舌に集中しても理解不能。あんな20種類もあるんだから,漢民族にとっては多彩な世界なんだろけど。
 本来,漢民族の主食はコレ。そう考えると,香港のパンの旨さが納得できてきました。――漢民族には何千年の伝統を持つ中華パン文化,饅頭ってのがあるわけで,イギリス割譲後に流れ込んできた西洋パンの文化にそれが溶けこんで,香港にしかない「饅頭的なパン」が出来てった。西洋本場のハードパンの焼き小麦臭を帯びた旨味も併せ持つ,香港むっちりパンが構成された――。
 中華パンっつっても種類は多い。西洋パンはご存知の通り,プリッツェル,パケット,クロワッサン,フォカッチャ…。インドのチャバティ,イスラムのナン,南欧のクレープ,北アフリカのクスクスまで考えると…パン文化ってホントに多様で,しかも現代の国際化の中でさらに多展開しようとしとんやね。
 古い広東・潮州料理だけでなく,新たに生み出されつつあるホットな食文化の土地。そんな香港イメージが,段々膨れ上がってきてます。

▲香港の街角パン屋