早かったあ~!もー帰国日です。
早朝から,ゆいレールに乗り込みました。乗り放題チケット,まだ今日も生きてる。
再開発の進む旭橋駅周辺を過ぎ,国場川を併走した後,渡河した先の奥武山公園で下車。
西へ歩く。
駅側南側に牛角―ファミマ―天下一品―うるくそば…と並んだ先に,目的の店の看板を見つける。黄色地に黒字で「最強食堂」。24時間営業の典型的なウチナワン食堂です。
フーチキナー 530円
…何のこっちゃ?って好奇心だけで自販機のボタンを押してしまってました。
店側はおばちゃんが一人,ジャンジャン作ってはドンドン自分で運んでます。しかも終始,厨房ではフル稼働モード,客席では笑顔モード。これは…キビシい労働環境!確かに客数はまだ数人だけど…人件費の節約つっても1人じゃやっとやれんだろ?
てことは――ここで味なんか期待しちゃあいかんのちゃう?とか思ってましたら…失礼しました!
意外に美味かった…初めてのフーチキナー。
第一印象には,なぜか卵丼みたいな味覚が記憶に残った。
見かけホーレンソウみたいな野菜がメインのバター炒めに三枚肉,スパムが少しと,後はフがこれでもかッてほど入ってる。
内地のフと違う…と思う。汁を一杯に吸って,それでもガッシリした歯応えとザラザラした舌触りを保ってる。これが奇妙に美味い食材を作り出してる。何にも似てない軟体物ってゆーか…。
ここに,沖縄共通のアジクーターな肉と鰹の味に,例のホーレンソウみたいな野菜の強い香気と独特の辛みが合わさって…何か,コレすげー味覚やど?
にしても何だチキナーって?
曰く――からし菜を塩漬けしたもので,ピリッとした辛さが後を引く。さっと油で炒めてご飯にそのままのせたり,おにぎりの具,チャンプルーなどにする。からし菜はシマナーとも呼ばれ,古くから沖縄で親しまれている。
曰く――沖縄では特に漬物としてではなく,軽く塩でアク抜きした後に炒めてチャンプルーにすることが多いです。ここで車麩を入れると塩気を吸収してくれるので,からし菜と車麩はベストフードです(^^♪」
なるほど!ホーレンソウみたいなあの野菜が沖縄のからし菜で,しかも塩漬けだから,麩がこの香り高い塩気を吸ってあの味が出てるわけね!納得納得…ってますます想像つかんぞ?
にしても…最初に感じた卵味はどこから来たものやら?卵らしき食材は視認できんのだが…姿なき調味料的に使われとるのか,チキナーと麩の核融合が似た味を出しとんのか…全く分からん。
とか「???」な料理に,最終日になってまで出会ってる沖縄旅行なんでした。
あっ!食い忘れてた!沖縄そば!
ニューサンライズ通りの大山そばへ駆けつけてみた。
中 500円
超有名店なんだが…噛んでも噛んでも…分からん。率直なとこ…ここのそばって何が美味いんだ?
見渡すと観光客ばかり,地元客は皆無。観光地沖縄,こーゆー店もあるから怖いさあ~。
特に,沖縄→○○と内地的に連想される食い物にはこーゆー豪快な空振りが多い。サータアンダギーなんかも,揚げたてはともかく,土産物屋の店先に何日も並んでるよなのが何で売れるの?もしかしてウチナンチュ,知っててわざと「ナイチャー用クズ飯」を用意してないか?
ウチナンチュが酒盛りの時に,ナイチャー観光客を一体何と語っているものか,一度聞いてみたいような,聞かないほーがいいような。
▲むつみのフーチキナー
牧志三越西。
ここにも行きそびれてた。何度となく足を運んできた「むつみ」。こんな国際通りのど真ん中に未だ営業を続けてるコテコテの沖縄大衆食堂。
けど,今まで何のこっちゃ分からず頼まずにいたメニューがあった。今日2回目になっちゃうけど
フーチキナー 600円
最強食堂のようなさりげなさはない。麩とチキナーの地味のジョイントよりも,ベーコンとスパムを効かせた肉味が軸になってる。普通のチャンプルーに麩とチキナーが入ってるって感覚。
どっちが沖縄で本来的なフーチキナーなのかは分からない。ただ,こっちはこっちで美味い。シンプルな素材の二重奏と肉汁を加えた三重奏ってだけの違い。
内地に帰ってもしばらく麩を探してた。チキナーには内地のからし菜を使ったけど,なかなかあの味にはなってくれない。
沖縄の麩は車麩。内地で麩をもてはやすのは京都だけど,京都のは生麩が主体。車麩は新潟にあるのが有名だが,それでも沖縄ほど多様しはしない。大豆味の変形食材ってスタンスで使用するわけだ。
調べてると,ナイチャーのプログの傾向に気付く。「フーチャンプルーなんて普通の野菜炒めと変わらない」「沖縄ではグルテンの豊富な麩を味もしないのにチャンプルーに入れる」
そんなはずがある訳ない!おそらくウチナンチュの舌は,車麩を豆味の食材として愛でてるはずです。それをナイチャーの舌は,味がしないとしか感じ取れない。これはナイチャーの味覚センスの低さもあるかもしれんが,根本的には食センスのパラダイムの違い。
わしが今回,謎の奇妙な卵味としてのみ辛うじて味覚しえたのは,そんな間隙の味だったのかもしれん。
正月休みを終えた店が開店し始めた牧志市場を歩くと,なんかイタリアンマフィアみたいな表示が目についた。
「にんじんシリシリー器」――何だ?えらくあちこちで売られてるんですけど?
と,この時は通り過ぎてしまったが,帰国後に調べて歯軋りすることしきり。
ニンジンシリシリーの「シリシリー」はニンジンを細く突き出す擬音,あるいはその道具の意。さらにこれで下拵えした料理を指す。
レシピ詳細。1人前でニンジン1本,卵1個,鰹だし汁50~60cc,あとサラダ油・醤油・塩を各適量。「シリシリー」したニンジンを,サラダ油しいたフライパンで炒める。だし汁入れて塩・醤油で味付け,それからニンジンを煮る。ここでニラを投入する人もいる。水気がなくなる直前に溶き卵を入れて混ぜたら完成。ネギを添えることもある。
要はニンジンと卵のイリチー(沖縄風炒めもの)なんだが,ニンジンの場合に限り「シリシリー」で通じる。
Yahooのトップになったこともあるそうで,一時期なぜか流行りものだった結果こんだけ蔓延してるみたい。
作りたいぞ!…でも「シリシリー」って手作業で出来るんだろか?単に細切りでいーの?
金壺食堂再訪。
どーしても気になってた
ちまき 200円
を購入。
その夜,内地に帰ってから食った…台湾や大陸中国の朝の路傍で売ってたあの味そのもの!!滷味を奥に秘めた肉汁が,黒粳米のおこわの蒸し香と絡み合って味蕾にしっとりと降り立つ。その奥には椎茸,ピーナッツからも味が出てる!!変な高級感はなく,あくまでナチュラルな日常味でありながら奥深く染みるこの味。
沖縄っぽさはもちろん皆無だが…漢人並みに肉汁の旨味を知るウチナンチュを顧客にしてるからこそ守られてきた味と,あるいは言えるのかもしれん。
今回は,カウンターにおかずが10種類位並んでた。開店からしばらく経ってから来たほーが利口だったらしい。
シメは首里のあやぐ食堂にした。
フーチキナーはない。一瞬悩んだ後,とっさに選んでしまってたのは
Cランチ 570円
やってしまった…周りも観光客だらけになって「どーしよーもう食べらんないい~」とか言ってるのを聞いてるうちに対抗心が起こり,さらに初回の衝撃をもう一度…って気になっちゃって自爆ボタンを押してしまった。
どうしよ?もー腹パンパンだあ!
にしても改めて食ってみて――沖縄アルファベットランチの凄さに閉口した。大皿に,サウザンドレッシングの山盛りサラダにデミグラスどろどろのハンバーグ,ケチャップどっぷりのウインナー2本,卵味こてこてのマカロニサラダ,スクランブルエッグ一盛に,チキンカツと唐揚げが各2塊。この大皿に,さらにご飯とミニそばが付くんである!
しかし量の話はもうええがな。
そば,確かにウマかった。麺の素直なスルッと来る感じがいい。汁のコッテリ感といい,それが去っていく潔さといい,かなりいい。やはりここ,観光客の選択「そば」が大正解なんじゃないか?
「お薦めは?」みたいなガイドブック通りの客の問いに,店はそば定食とゆし豆腐定食を勧めてた。そー言えばどっちも食ったことないな…我ながら何ちゅーへそ曲がりな。
横目で見てると,どっちにもチキンカツが付く。合うわけないから…自慢なんだろう。こいつは以前から印象に残ってるし,確かに今回Cで食ってもペッパーの効いたアッサリ肉の食感は素晴らしい。
ただ,ウインナーとハンバーグは既製品だ。卵焼きはほとんど卵味だけ。マカロニはひたすら濃い。これらはアメリカの味覚の影響をモロに受けた味覚だと,今は理解できる。復帰前からの生きた化石状態の味覚なわけだ。
満席のこの場で見ると,アルファベットランチを頼んでるのは学生客だけで,ほとんどの客はウチナー定食。前に食った中味系もかなり出てる。ウチナンチュの舌は,何だかんだでまだまだ健全に見えるんだが…。前より残す客が増えたように見えるのは気のせい?
次の県別栄養統計が楽しみだ。
I don’t know how your life goes on――
空港へ。
帰り際のゲート内でまでこんなもん購入してます。
やぎみるく150ml 350円
チーズは何と2000円!出国者に向けてるとは言えこの値段は…よっぽどナメとるか,よっぽど自信があるか,どっちかだが…と安いミルクを選択。
19時,博多着。
雨の空港。明るい!闇が薄い!…という得体の知れない不安感を感じる。
福岡市営地下鉄。テーマ曲のオルゴールが鳴らない車内に違和感。
かつてない危険域まで,シマの空間に馴染んでしまった自分を感じます。
20時頃,博多発。――しかし,新幹線の発車したのを全く認知しなかった。
那覇空港で購入した「やぎみるく」の小瓶に口をつけてしまったからである。
完璧だ!完全に山羊のミルクです。
まさにイランのイスファハンで1週間食べ続けたあの味!そしてイタリアンを支えてるあの味なんである!!
牛乳の乳臭さより香り高く,けれども尾を引かずにスッと清涼感を残す後味の爽やかさ。そして胃からこみ上げるふくよかな香りの幸福感。――世界の山羊ミルクの中で最高とは言わない。
調べた中では,沖縄で初めての試みみたい。
裏表示を見る。
種類別名称:殺菌山羊乳
原材料名:生山羊乳100%
製造者:㈱はごろも牧場(住所:中頭郡中城村)
生産地はごろも牧場もここにあり,山羊の頭数は150余。小規模な家族経営らしい。
メイン商品は山羊チーズ,いわゆるシェーブル。その他,やぎみるく,のむヨーグルト,石けん。この空港出発ゲート内の他に,イオングループ各店でも販売。通販で全国発送もしてる。
日本国内の山羊2万頭余中,半数の1万が沖縄にいる。山羊肉食の文化が沖縄にしかないからで,現在も1万中ほとんどが食肉用。その乳製品生産・販売への転換を試みたのがこの牧場で,牧場曰く現在県内で「唯一」の成功例。
既存種ザーネン種及びアルパイン種に,ニュージーランドからヌビアン種とトッケンブルグ種を移入。乳脂肪分改善を目的として琉球大学と提携した品種改良を進めてる。ウコンやヨモギの飼料化とか沖縄チックも試みている――なるほどね!全く分からん…が,小規模ながら地元産学官挙げての国際的な視野のプロジェクト。
官の側面ではこの試み,内閣府沖縄総合事務局の地域資源活用プログラムに認定されてる。第2号,認定日平成19年12月14日,事業名:山羊チーズと山羊ミルク石鹸の製造・販売事業。「地域資源名 ヤギ」となってるのが役者的で笑える。公式HPのURLはhttp://www.hagoromo-bokujo.co.jp。
一般に山羊乳は「母乳に近く安心んして飲める」との評がある。ただし,日本はもちろん東アジアでは認知度が低い。――沖縄の山羊肉食は,アジアでも古い,一般的な食文化としてあるものの名残だが(平川宗隆:沖縄でなぜヤギが愛されるのか,ボーダー新書,2009年),乳の飲用は南インドの一部でしかなされない。
今や日本のチーズはアジアでも有数のクオリティを持つ。この流れで岡山の吉田牧場など山羊乳製品を作るところは出て来てる。ただ――山羊肉を喰うウチナンチュの国には,山羊ははるか昔から飼育されてる。山羊との付き合いの年期が違うわけで。
もしこれが長期的に売れ続けたら――例えば,沖縄のチーズやヨーグルトが,さらにひょっとしたら沖縄イタリアンが,日本はおろかアジアを席巻する時代が来る?
but I can see your smile is true
沖縄の車輪は回り続ける。
今回図らずもすれ違うことになった沖縄のニューウェイブは,どれもワクワクさせる独創がある。けどそれだけじゃなく,巧みな戦略性,露骨に言えば生き汚さを持ってるように感じました。
戦略性のパターンは共通してる。沖縄の文化資源の今日的展開。
それが現代的な食文化の面にも通じてます。シンケンサンド,黒酢スープ,雪塩スイーツ,コクのあるコーヒー,そして最後に出会った山羊乳と――。
沖縄ブランドを掲げることによる主に内地へのアピールを小狡く計算しながら,どこまでもウチナーであり続けようとする自負にとことん頑固に。
沖縄はかつても今もこれからも,暴虐と言っていい外圧に晒され続けるでしょう。内地からの政治的,経済的同化のプレッシャーと,アメリカからの地政的レスポンス,アジアからの経済投機はいずれもむしろ激しさを増す。
それでも沖縄はウチナーとして存在し続けてきたし,これからもウチナーだと信じられる。
どんな風雨の中でも根をはり芽吹く生き汚さを,彼らが失うことはありそうにないからです。
それが,これまで以上に楽しみでたまらなくなった今回の沖縄だったんでした。
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さびら |