《第十次{12}釜山・南海岸》オレンマネ・ジャンオタンの日/麗水(夕)

~(m–)m 本編の目的地 m(–m)~
Yaogaekseonteomineol-gil:GM.(位置)


三度目の麗水だ 問題ない

수(ヨス 麗水)市外バスターミナルに到着したのは1538。夕方近くとも言うけど空はまだ昼間です。
 雛びた田舎バス乗り場,という印象だったここに……カフェとセブンが出来とるやないけ!
 脱出時のため,まず路線を調べてみる。木浦行ノンストップが16便も出てます。それで……当てにしてた晋州行は……청주?これか?日に2便か。0840,1500。「우등」と表示してあるけど……「優等」?長距離バスじゃないか?げっ,청주は「清州」,間違いじゃ!
 晋州の正しいハングル「진주」を探すと──ない。案内所で訊いて確認。直通なし!
 순천「スンチョン」行きが10~15分おきに出てるから,そこで乗り換えて行けという。なるほどなるほど。ところで……スンチョンってどこよ?
(正解:順天)
 今のところ理解できてないけどハングルは聞いた。それは宿で解読するとして……第十次釜山編にして三度目の麗水らしい順調な滑り出し。と,とりあえず市内へ!

可愛い系ハングル文字。さらに流行ってきてるらしいけれど,今のところどうも読めません……。
※ exiteプログ/文字フェチとハングル(熱く語るので注意!)

ングル文字がどうにか秒速2文字位は読めるようになり,実用に耐える速さになってきました。
 1603,バス停で待ってると,バスの横にヨス市場と読める文字を見つける。「666路」という縁起でもないバスナンバーだけど,反射的に飛び乗る。
 ターミナルからすぐの三叉路をバスは……やはり左手に入ります。片側二車線車道をひた走り……後はぐんぐん下ってく。道の名はドンムンロとある。これを右折。前方に丘。
 丘の手前でさらに右折。さらにくねりつつ下った先に見えてきたのは──あ!李将軍さんの英雄像!
 将軍ロータリーを右折。えーと?大体この辺だったはずなので,1613下車。
 バス停名は현위치……ヒョンインチ?道は증앙로……ジュンアン路?と訳分かってません。さすがは三度目の裏水です。
 と……と,とりあえずこの裏がモーテル街だったはずだ!

▲1618十字路。宿を探してます

末のモーテルはますます割高になってます!7万wしか見つからなかった。設備はなかなか良さそうなダイアモーテルへ荷物を置いて──飯じゃ飯!すぐ1631Gyondongnam 1-gilを西へ!
 そう,とりあえず麗水で何をしたいかと言えば,まさに海域アジア編らしいあのグルメなのである。というか,初訪から麗水ではほとんどこれしか食ってないんである。

▲1633売り場とは思えないがらくた金物屋

ardware Store」,漢字では「五金商店」と書いてある,店頭に金物が溢れてるお店。昼はともかく,夜はどうしてるんだ,そのガラクタ?
 いやいや,金物見てる場合じゃない。どこだっけ?──と,相変わらず記憶の底の記憶だけを辿って歩いていきます。まさしく三訪目の麗水達人です。
 いや?──いやいや,この道じゃない。一本南のGyondongjang 4-gil。29COFFEEの通り。これも違う。
 もう一本南。2-gil──あ!ここは……初訪時に入った第一食目の店じゃ!
 幸い空いてます。もう耐えられん。いざ喰らわん,ジャンオタン!

自作・麗水旧港付近町歩き地図:(黒指差)本家7 공주식당 コンジュシッタン (白指差)아라식당 アラシッタン ※식당:シッタン 食堂

本家セブンで食らえヌタウナギ

어탕 ジャンオタンって何?」ですと?ガイドブックに書いてないですと?──あなたは幸いである。本章は釜山十度目の超達人の著すところ,スッキリとご教示しよう。うわははは。
 パダチャンオ又はブンチャンオとは「穴子」である。
 ケッチャンオは「ハモ」であり,ミンムルチャンオ又はペムチャンオは「うなぎ」,コムチャンオは「ヌタウナギ」である。ただ,韓国人は最近まであまり興味なかったらしく,「ぐにょぐにょの蛇状の魚類」を総称してチャンオと呼ぶ。
 ただ,韓国料理で単に장어탕 ジャンオタンと書いてあれば,それはほぼ「穴子」の汁物である。うなぎ使用のものは민물장어탕 ミンムルチャンオタン,ハモのものは갯장어탕 ケッチャンオタンと差別化されることが多い。
※ 韓国「”장어탕”(チャンオタン)、うなぎ(穴子)スープの作り方」 – 韓国ニャンズの夢
 って他人のプログ見て今知っただろ?!と言われれば,まあそうである。何が悪いか,ワハハハハ。──実は二回目の途中位まではウナギだと思いこんでたんだけど,冷静に味わうと穴子です。ただ広島で穴子をどう調理してもこの味にはならんから,おそらく日本,少なくとも瀬戸内海の穴子とはかなり種類が違うんだと思います(韓国の庶民食の魚は,同名でも味覚に愕然とする事がままある)。でも何の種類の穴子なのかは,未だに情報を得られてません。
──知らんのかい!!
 そうである。何のサカナなのか未だによく分かりません。いや旨いんだからいーじゃないか!!うわっははははは!!
1640本家7コンジュシッタン 공주식당
ジャンオタン장어탕14千w400

▲最初の店でジャンオタン第一食

っ……おおおっ!!
 記憶を凌駕する美味!
「穴子か鰻の辛煮」と覚えてると,ついカンチジョリム(→/※5512’※/Range(ソウル).Activate Category:上海謀略編 Phaze:真っ赤な鍋と白味噌煮/禁断の味覚・カルチジョリムぶっかけ飯)みたいなややシツコい味覚を想像しちゃうんですけど──ジャンオそのものは,見かけに比べてあれ?という淡白な味わい。鰻の白焼を食べた方ならご存知の,本来彼らは淡い味の食材なのです。けれどこれが染みでた汁を吸った野菜──もやしや白菜,ネギ,こいつらが凄まじい旨味を爆発させてきます。

▲ジャンオどアップ

らに意外なのは,それにも関わらずその出汁の染み出てるはずの汁は依然として淡白。最後のクッパブはさらさらと,もちろん旨いんですけど……クドさは全くない。おそらく,だからこその旨味なんでしょうけど,あの野菜の美味さは毎回脳裏に刻まれます。
 それと……やはりカッキムチ!!このジーンと,舌に刻印を穿つような深々と苦い酸味は何なんでしょう。

▲カッキムチ

ヤオゲセントミネルギル&ヨスヘサンケイブルカ

あった。ここだ。
 1721,初食の洗礼を終えてさらに路地を歩き回るうち,ようやくあのマイナー食堂の通りを見つけることができました。
Yaogaekseonteomineol-gil。7コンジュシッタンの通りを桟橋方向へ東にまっすぐ,道路を超えた港側。桟橋からは北へ2本目。(再掲:GM.)

▲1700 とうとう発見!Yaogaekseonteomineol-gil ヤオゲセントミネル通り(?)

本語や英語はほとんどないけれど,この「장어탕」の看板の砲列!……というほどでもなくて,看板数は多いけれどやはり寂れた感じです。最初はホントに「試しに普通の食堂でも食ってみるか」程度の入店だったんですけど……今は断言できます。
 この通りのなら,どこでも,何でも旨いはず!

▲1726港から東方の山

に二食目を喰う体制に入ってます。腹ごなしに港を散歩。
 ふと見上げると,おや?──湾口の橋の手前をロープウェイが繋いでる。観光用としか考えにくいけど数十mおきにバンバン行き交ってます。
──建設経緯のまとまったHPがないけれど,どうやら2012年の麗水海洋万博跡地(現・エキスポ海洋公園)の活用として,この海上ケーブルカー 여수해상케이블카(ヨスヘサンケイブルカ)が建設されたらしい。韓国初,アジアでは4番目の海上ルートは,眼下に広がる多島美から人気を博し,高いチケットは往復2万Wとかする。へえ~って感じだけど島マニアとしては微かに頬がピクピクする。

▲1730同じく北方のおむすび山

道の港際,旧国際市場辺りみたいな雰囲気です。チャガルチほどは人混みもなく,ひなびた港町感が堪らない。
 初回から泊まってるモーテル街は,一本北の通り。今日のも,以前のTもすぐ横。新都心らしき現市庁の町にはやはり行く気にならんなあ。
 残照が美しい。

黙っておきたいアラ食堂

▲最後に入った店でジャンオタン第二食

初に食べた店から始めたので,今度は最後に入った店にする。
 前もだったと記憶するけど──不安になるほど客は少ない。今は他に一組のみ。がらがらです。にも関わらず感動した味でした。
 入口からまっすぐ奥の,一段高い椅子の座席も覚えてる。注文を取りにきた,このほのぼの笑いのお婆ちゃんも記憶にある。
1733 아라식당 アラシッタン
장어탕 ジャンオタン400

▲白濁のジャンオタンどアップ

ニューには,一人で食べれそうな他のものではアグタンがある。
 壁に여수밤바다 ヨスバンバダ というお酒らしい広告。ヨス(麗水)の名を冠してるし白酒っぽいから挑戦してみたくなるけど…バンバダ?何だろう?
 さて,韓国料理と言えば!のお膳マップです。

①②③
④⑤⑥
⑦⑧

①こんぶの柔らか煮
②固いペチュキムチ
③キノコらしき謎の固煮
④カッキムチ
⑤ニラのキムチ
⑥小魚飴煮

 ジャンオの身がブリプリ。その歯応えに加え,小柄な,ということは辛味の鋭い唐辛子がチリリと効いてる。
 この6種類のナムルも…どれも最高!中でも謎だったのはキノコ,だと思うんだけどじんわりした漢方めいた煮物。突拍子もない連想だけど……干し葡萄すら思わせるような酸味と歯触りもあるのです。誰なんだお前は?
 けれどここのジャンオのトドメは──

▲謎の茸めいた煮物

ープが……明らかに他と異なる飴色。ただ何が白濁させてるのかは分からない。これが白湯か,唐アクのような旨味を醸すのです。
 だから最後のクッパブが……最高です。白濁と唐辛子が絶妙にマッチした汁を米粒が吸い込む。
 そもそも,この米自体が抜群に旨い!やや固めで香り高く,お焦げもきちんと出来てたから,おそらくはトルソッパブのような古風な炊き方をしてあるんだろう。
 最後にお釣りを返したオヤジさんも,極めてほごらかな好い田舎面です。この美味さと居心地の好さ,黙っておきたいような店です。

▲クッパブ!

■小レポ:食べる前には読まない方が良いジャンオの正体

 2017年7月13日,アメリカのオレゴン州でトレーラーが横転。積み荷から出た液体のため,後続車4台がハンドルを取られ続々とスリップ事故を起こした。
 この積み荷こそ,強力ヌルヌル粘液を出すことでは動物界にその名も高い「ヌタウナギ」,すなわちこの日から麗水で食いまくったジャンオであったそうである[2017ハフポスト]。

後続乗用車4台横転事故を招いた強力ヌルヌル物質

食べ物を内側から食べるのはマナー違反です

 前回までは鰻と思ってたし,本文でも穴子の異種くらいにしか思わずに食いまくってますけど,どうも違うらしい。韓国在住の方々でも必ずしも常識ではないらしく──

コムジャンオは和名を「ヌタウナギ」というのですが、実はウナギやアナゴとは違った生物なのです。(略)
なんと、魚類ではないんですね。(略)
メクラウナギ目の海魚。全長約60センチメートル。体形はウナギに似るが、目の後方に六、七対の鰓孔(えらあな)がある。体表は粘液におおわれる。夜行性で目は退化し、外からは見えにくい。体色は黒褐色。食用。本州中部以南の沿岸に分布。イソメクラ。ベト。(略)
特に韓国では「精がつく」食べ物として、男性が喜んで?食べるようです。
[mixi2007]

 えっ……??鰻や穴子どころか,狭義の魚類でもないのか,あんたたち?
 この類のオサカナ(魚類じゃないけど)が嫌いな欧米人のお一人らしきコリア・ネットの記者は「お皿いっぱいのヌタウナギを振る舞われたとしてもお断りだ」とした上で

体から分泌した粘液を利用して魚の体の中に潜り込み,内臓から食べ始める。[Korea.net2016]

と紹介してます。
 それは流石にホラー過ぎるだろ?と調べを進めると……ホントらしい。

一般に腐肉食性で、クジラや他の大型魚類などの死骸に集まる姿がしばしば観察される。[wiki/ヌタウナギ]

「腐肉食性」ってあんた……初めて聞いたぞ?そんなもん食ってあんなに美味しく育つのか?
 それで,アメリカで惨事を起こしたヌルヌルはこのヒトたちの最大にして唯一の武器らしく

体側には粘液の放出孔(70-200個)が一列に並び、ヌタウナギ固有の粘液腺(ヌタ腺と呼ばれる)から白色糸状の粘液を放出する。この粘液は捕食あるいは防御に用いられ、獲物の鰓に詰まらせて窒息させる効果もある。[同wiki]

 エラに詰まらせるのは外部からじゃ難しいだろから,やっぱり内部に入る時にヌルヌルするだけじゃなく,内部からヌルヌルで攻撃するわけです。うまいことやるねえ。

非常に生命力が強い。頭部や内臓を失った状態でもしばらくの間は生存可能で、痛覚などに対する反射的な回避行動をとる。[同wiki]

 GANZの宇宙人にも出てこないようなタフさです。頭も肝もない,ということは分節化が進んでいない,生物的に原始のレベルにあるということでもある──のかと思うと,実はそうとも言い切れないということが最近では判明してきてる。
 例えば,ヌタウナギは伝統的な和名では「メクラウナギ」と呼ばれていたけれど,差別を助長する名称だというので改称したそうです。その由来通り,視覚はほぼない。ただそれは

化石種の解析から、ヌタウナギ類の祖先は比較的発達した目を持っており、進化の過程で機能を退化させたものと考えられている。[wiki/ヌタウナギ]

何らかの意味での「積極的退化」らしい。弱者故に弱点の一つを消滅させて,別の未知の感覚に視覚を代替させてるのかもしれません。

進化論的な特異点:染色体を二種持つ男(?)

 つまり,ヌタウナギは鰻や穴子のような生物学上の魚類(狭義:硬骨魚類)とははっきり別種,というより別相の生物なのですけど──

 ヌタウナギは脊椎動物として最も原始的な一群であり、硬骨魚類であるウナギとは体型が似ているに過ぎず、広義の魚類の中では硬骨魚類から最も遠縁のグループである。[wiki/ヌタウナギ]

※ 掲載出典:Nelson JS (2006). Fishes of the World (4th ed.). John Wiley & Sons INC.
岩井保『魚学入門』恒星社厚生閣、2005年。

逆に,魚類と非魚類,脊椎動物と非脊椎の中間(移行)形態として非常に重要な種で,「生きた化石」視されつつあるのです。

厳密な意味での魚類ではないが、広義の魚類(無顎魚類)として魚の分類に含められることが多い。生きている化石と呼ばれるグループの一つであり、脊椎動物の起源と進化を考えるうえで重要な動物である。
[Wiki/ヌタウナギ]

※ 掲載出典:上野輝彌、坂本一男『新版 魚の分類の図鑑』東海大学出版会、2005年
岡村収、尼岡邦夫監修『日本の海水魚』山と溪谷社、1997年

 近年特に注目されるようになったのは,「染色体放出」と呼ばれる遺伝物質の特異な持ち方であるらしい。

(ヌタウナギ8種における)染色体の数は体細胞と生殖細胞で異なり、いずれも生殖細胞でよりも体細胞で多い。これは、個体発生の段階で体細胞系列と生殖細胞系列に分化する際に始原細胞から染色体やその一部(染色質)が失われる(染色体放出)ためであり、この現象はヌタウナギ目一般の現象であると考えられている。[wiki/ヌタウナギ]

 遺伝学者でも最先端の事態なので素人のワシらに分かるわけないけど,粗雑に理解すれば──教科書で,ある生物の遺伝子はどの細胞も同じと習います。ところが,少なくともヌタウナギの遺伝子は生殖細胞と体細胞とで異なる。生殖細胞で一旦「圧縮」された遺伝子が,体を構成するときに「展開」するような仕組みらしい。
 染色体を複数パターンで持つ生物は幾つか発見されているけれど,ヌタウナギはその中では最も複雑な生物みたいです。この謎を解明するため,高頻度縦列反復配列(英: highly and tandemly repeated DNA sequence)とかデュアル・エクスプレッション・システム(英: dual expression system)とかの研究が進んでいるけれど,今のところ仮説の域らしいし,どっちにしても素人には分からん。
 ただひょっとしたら,ヌタウナギの種族は,進化から取り残された位置に立ったがゆえに,脊椎動物にはない別の進化を遂げつつある生物なのかもしれない,ということが認識されてきてる。そういうことらしいんだけど──そんなんを,コチュジャンで煮込んで食べてていいんだろうか,ワシらは?

調理前にスタンバってるジャンオさんたち

[参考資料]ヌタウナギ関係

Wiki「ヌタウナギ」
URL:https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8C%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%8A%E3%82%AE
KOREA.NET Mobile Site「世にも恐ろしい韓国料理6選」2016
URL:https://m.korea.net/japanese/NewsFocus/Column/view?articleId=141725
東邦大学 ヌタウナギ-二つのゲノムと染色体放出- | 生物学科 |
URL:https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/034932.html
ハフポスト「大量のヌタウナギで道路がヌルヌル ⇒ 後続車4台がスリップ事故【閲覧注意】」 2017
URL:https://m.huffingtonpost.jp/2017/07/14/slime-eels_n_17492828.html
mixi「韓国式のアナゴ?」2007
URL:https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=1346&id=14393543

「《第十次{12}釜山・南海岸》オレンマネ・ジャンオタンの日/麗水(夕)」への3件のフィードバック

  1. Your article made me suddenly realize that I am writing a thesis on gate.io. After reading your article, I have a different way of thinking, thank you. However, I still have some doubts, can you help me? Thanks.

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