目録
〔出典∶菊澤研宗 2017「組織の不条理─日本軍の失敗に学ぶ」中央公論社,初版,三晃印刷〕※原本 同2000「組織の不条理 なぜ企業は日本陸軍の轍を踏みつづけるのか」ダイヤモンド社
〔前掲p277〕
このような非効率や不正を見出し、排除するような流れを作る散逸構造としての批判的合理的構造を持たない組織は、あたかも各メンバーが完全合理的であるかのように振る舞う組織である。各メンバーは
自分があたかも完全合理的であるかのように思っている
ので、このような組織では誤りは積極的に認識されず、批判的議論も展開されない。逆に、既存の戦略・状態・制度は正しいものとしてドグマ的に正当化されていくので、非効率と不正は排除されずに、時間とともに増加していくことになる。
既存の戦略
↑ → 正当化議論
↑ → 問題
↑ → 新戦略
←←←←←(コスト>メリット)
〔前掲p277-278〕
このように、
完全合理性の妄想にとりつかれた硬直的な組織
では、図9-4のように非効率と不正は絶えず増加し、増加し続ける不正や非効率は無視できない問題となる。しかし、そのときには、不正や非効率を排除する新戦略を構築し、
新戦略へと移行するにはあまりにもコストが高くなってしまっている
。この巨大なコストのために、たとえ既存の戦略のもとに不正や非効率が発生していたとしても、既存の戦略を維持し続ける方が合理的となるといった不条理に組織は導かれることになる。
〔前掲p280〕
このような状況を回避し、組織が淘汰されないために、限定合理的なわれわれ人間がなしうるのは、K・R・ポパー※が主張するように、きわめてシンプルなことである。すなわち、われわれ人間は限定合理的であり、常に
誤りうることを自覚し、絶えず批判的であること
、そして誤りから学ぶという態度をとることである。したがって、組織内部に絶えず非効率と不正が発生する可能性を認め、それを排除する制度をめぐって絶えず批判的議論ができる「開かれた組織」を形成することである。
※原注1 ポパーの批判的合理主義については、Popper(1959,1965,and 1972)に詳しい。
