本伝豪遊記06《豪遊∧6》第1回豆腐王座決定戦!――川島豆腐vs佐々木豆腐

2009年02月07日(土)

 金曜日,仕事が終わると同時にダッシュ!
 広島から西へ向かいまして…でも恒例の博多じゃないのよ。さらに西へ――唐津にたどり着いたのは夜11時。
 駅前の唐津シティホテルには天然温泉があった!灯籠の灯る雰囲気もいいし,佐賀初の1泊は結構おいしかったッス。
 翌朝の目覚ましは,携帯と宿時計のアラームのダブルでセット。
 タイムは7時。

 で…何しに来たのって?
 かッ…唐津だぞ!?何を言ってやがんだテメエ!脳味噌に豆乳ぶちこんでチョングッチャン混ぜにすんぞ!――って失礼しました。痛くしないから泣かないでね。
 豆乳?そうなんです!その豆腐なんです!(やや強引な流れやな)
 荷物をまとめて,いざ出撃。アーケード街まで歩いて5分…なのにエラい迷い抜いてしまう。ヤバい!8時ギリギリじゃあ!!
 アーケード街をL字に折れたとこにやっと見つけた目的地。商店街には向こうから3人のおば様方が歩いてるだけ。辺りで開店してるのもこの店だけです。
 「すみません」とにかくお店の人にご挨拶。「予約してました中尉ですけど…」
 「はいはい」端正な感じの奥方が前掛けで手を拭きながら「ご案内して」と娘さんを追う。
 「こちらデ~ス」と案内された店舗横手の細道。さっきのおば様方と一緒に吸い込まれていくと,奥に9席のみのカウンターが。
 川島豆腐店――広島支店の撤退後,夢にまで見た(見ないけど)豆腐膳席に,ついにやって来たんだでや!

 古くはモルツCMの中山美穂で有名になったこのお店,今では旅行ガイドとかにも載ってる。
 基本的には豆腐の店頭売りの店。伝統家屋なのか,商店街に面した間口は広い割に売り場面積は四畳半程度。あとの敷地は専ら製造に使ってるみたい。
 だから,このカウンター9席の部屋も6畳程度と狭い。隣りの厨房もその程度。毎日8時と12時に各9食限定ってのも頷ける(親父曰く夜も予約できるらしい)。つまり,副業として対応可能な範囲内でやってますってことで,その位本業の豆腐に注力してますってこと。
 じゃあ,副業レベルの密度で供されるお膳なのかって言うと――もし言える奴がいれば連れてこい!って程,真剣かつ丁寧。
 器まで凄い。唐津焼だと思うけど,食膳の器と別に,カウンター前にも壁にも焼き物が並ぶ。
 仕事全てにハリで行く――もろ日本の職人だねえ。

 さて。料理であります。
 お値段は基本のお膳が1,575円。刺身や天ぷらをオンすると2千円を越す構成も可だけど…結果的には基本で十分でした。
 お茶も含めて計十品の構成。
 第一ラウンド,まず4品。①豆乳の椀。②枝豆の入ったごく小さな鉢。③ざる豆腐,④厚揚げの皿。
 「ざる豆腐と厚揚げはお代わりして下さいね」と奥方。ざる豆腐を2回お代わりしてしまったら,厚揚げのお代わりできないほど満腹してしまいました。
 全てがシンプルに上質。ざる豆腐の味は広島支店で頂いたあの味――会いたかったぞ,このメルトダウンする重低音の豆豆感!京豆腐の豆の存在感で食わせる生真面目な味とは異なる,豆が弾けて跳躍し舞踏する明るい味覚。九州や四国の豆腐です。
 第2ラウンド。⑤白和えの小鉢,⑥汁と⑦麦粥の椀,⑧漬け物の皿。
 漬け物は少量ながら5種。菜っ葉,白菜,人参,山芋,昆布。どれも浅漬けで,野菜そのものに限りなく近い。正直それだけなら地味な食材。
 でもそれらが,さらにシンプルな汁と麦粥とのコントラストで鮮やかに引き立つ。汁は,普通の八丁味噌に具は豆腐のみ。麦粥も,恐らく十割の麦飯におぼろ豆腐をわずかに溶いてる。たったこれだけのものが…食わせるんです!
 きっと4品のバランス感が最高なんだと思う。もう1品の白和えは…広島支店で実は一番惚れ込んだ奴。こんな軽やかな白和えには川島でしか出会えない!
 「お代わりはもうよろしいですか?」と確認の後,全ての皿や椀が引かれて⑨豆乳プリンと⑩焙じ茶が出る。
 やった!朝だから流石にないかと思ってたこのプリン!広島支店でもだったけど…一口ごとににやついてしまう。これは麻薬に近い。近所で1個千円で打ってたら毎日買うに違いない。
 わざわざ焙じ茶まで数えたのは,この味にも驚いたから。ここ1か月ほどでやっと焙じ茶がウマいと感じ初めた段階だけど,ベストな香ばしさ。それにしても何でお茶まで…。
 ご馳走様。堪能しました。朝から美味にラリッてしまいました!

 奥方に任せっぱなしではない。膳の合間に亭主が挨拶に来る。
 「いかがですか?」
 「も~…美味しいです」と溜め息混じりで答える。
 「どちらから?」
 「あ,広島です」
 「そうですか。広島,撤退しましたもんねえ~」
 「そうなんですよお」自然に悔しさが言葉ににじむ。
 「福屋さんの都合でああなったらしいんですけどね~」
 ――許すまじ福屋!
 「これからはこちらに寄させてもらいますう~」
 そして,新発売の豆腐の味噌漬けを3丁買いこみ,この奇跡の豆腐屋を後にしたんでした。

 唐津から博多までは,距離の槍に結構かかる。鉄道だと1時間半。しかも朝は便がないから,博多前泊で8時に唐津は無理。
 帰りはバスに乗ってみた。唐津駅から徒歩5分強のターミナル発着。これなら天神まで1時間。タイムテーブルを見ると朝6時位から頻繁に出てるから,天神前泊で唐津に8時が可能。
 やっぱり12時の予約は取りにくい臭いし。…ってもう次を考えてる自分のハマり様が怖い。
 バスに揺られながら,広島支店でのお膳を思い返してた。
 正直,唐津まで来ても食えるものは支店のと同じだと想像してた。
 でも全然違った…。別物です。別次元なんです!
 豆腐そのものは流石に同じだし,確か唐津焼の器も同じ――だけど,配膳と心遣いが全く違う。一時に最大9人ってゆーサービスの密度と落ち着き。
 対して。広島支店は福屋というざわついた百貨店の8階の複合店舗の一画。席数もカウンターとテーブルの30席はありました。
 支店を出した店は味が落ちる。それは調理がマニュアル化することで,料理の工夫と誠意が阻害されるから。一度マニュアル化されてしまえば,コピー元のサービスまで硬化させる。大げさだけどピッタリの言葉で言えば――官僚化するわけよ。
 唐津本店のサービスは,広島支店はマニュアル化しようとした。でもそれは――本店のお膳を頂いた今,ハッキリ分かった。失敗してたんだ。
 それほど,唐津本店のあの亭主と奥方のサービスとお膳の精神は,コピーし難かいレベルのもんだったんだと思う。
 広島人としては残念だけど――支店は出すべきじゃない。毎食9席だからこそ,あの奇跡のお膳は,奇跡のままであり続けると思う。

 その4日後,建国記念日で週の真ん中に1日休みがありました。
 5時に起床して広島駅へ。
 06:28発 広島
 ↓のぞみ70号東京行
 06:50着 福山
 07:19発
 ↓福塩線府中行
 08:03着 府中
 08:17発
 ↓福塩線三次行
 09:39着 三良坂
 三良坂町。平成の大合併で三次市に編入された広島県北部の小さな町です。
 三次経由で来なかったのはJRの乗り継ぎがうまくいかなかったから。開店時間の11時前にどーしても着きたかったわけ。
 件のお店の場所をチェックしてから,少し時間が余ったんで,国道沿いを少し歩いて三良坂パン工房・麦麦へ。お店の検索でついでに見つけた店です。
 ハードパンが幾つかあった。3つをチョイス。焼きたてパンの試食が回ってきたり,サービス的にも他と違う。
 外の店名には「Boulangerie Patisserie」の文字を冠す。調べたらどちらも仏語。海外修行組の店臭い。
 川原で貪る。…かなりイケる。日本的な菓子パンだけじゃなく,食事パンもちゃんと作れる店らしい。パンを噛み締めて食べたのは初めてでした。

 さて――ゆっくり味わってたら11時が来た。店に向かうと,寂しい国道沿いで既にその辺りだけ自動車の往来が始まってる。
 佐々木豆腐店。ここの付属の食堂「豆遊」の扉をくぐる。

 以前から聞いてた県内の有名な豆腐屋です。
 開店から5分も置かずに入ったのに,既に客は6人。さらに年寄りが次々に来店。「皆行きとーてたまらんのじゃが月1編ほどしか行けんのよ」とか口々に漏らしつつ。わしの座った座敷の大テーブルはほぼ老人集会所状態。
 入り口の即売所から客の声。「岡山まで持ち帰りたいんですけど氷は持ちますか?」
 ――本格的に高名が轟いてるらしい。失礼ながら…この田舎町でであります!
 そんなら早速注文。「じゃあ――トウユウゼンで」
 おばちゃん顔色一つ変えずに「はい,マメユウゼンですね」「あ」「…いいんですよ。皆さんそうおっしゃいますう。とうとも読めますもんねえ」
 初手から一見と見破られちゃいました。


▲佐々木豆腐店「豆遊」豆遊膳

 豆遊膳1,100円也。構成は豆腐,厚揚げ,油揚げ素焼き,豆乳の5品に総菜2品,雑穀ご飯,味噌汁と漬け物が付くのはかなりリーズナブルったい!
 さて肝心の豆腐は。――流石!!直球で食わせる重振動な豆の味。ジ~ンと味蕾の海底に届いて,いつまでも反響し続ける。九州や四国のじゃなく京都の豆腐に近いけど,あくまで朴訥で正直な味。
 バリエーションでも油揚げ素焼きが妙に旨い。名前に反し油っ気はほとんどない。単純に焼いてるんだけど,外側のシンプルなクリスピー感と内側の直球の豆腐がそれはそれはベストカップルなんであります。
 工夫もある。他のメニューを見ると――
 揚げ出しの膳1,250円。厚揚げあんかけ(肉味噌あんorきのこあん),豆腐,油揚げ素焼き,豆乳とある。
 豆腐ハンバーグの膳1,250円。豆腐ハンバーグ,豆腐,油揚げ素焼き,豆乳。
 生湯葉の膳1,250円。生湯葉,厚揚げ,油揚げ素焼き,豆乳。
 福福膳1,575円。豆腐,野菜サンド揚げ焼き,厚揚げ,豆乳,胡麻豆腐湯葉包み煮,一口デザート。
 月替わりの膳1,250円。今月は豆腐入りかき揚げ,豆腐,素焼き揚げ,豆乳,一口デザート。

 その他に喫茶メニューとして,豆乳ソフトクリーム300円も。
 これらはもちろん即売所で購入できる。ビニール袋入りのおからは無料で持ち帰り可!
 おっと!忘れちゃならんのがお茶!!ムチャクチャにふくよかな焙じ茶が出るんだわ!爺婆が感動してると女将がちょっと自慢気に「茶っ葉が細かいのを使ってます」だって…川島豆腐と言い,旨い豆腐と焙じ茶って比例するもんなの?

 佐々木豆腐の賑わいをよそに,三良坂の町は予想以上に寂れてた。三次や庄原に出る交通の便も非常に少ない。
 けど,麦麦も佐々木豆腐も三良坂の地場の麦と豆で成功してる。厳しい時代だからこそ本物が急浮上する!負けるな三良坂!!
 結局,駅構内に入ってる三良坂タクシーで三次に出た。2,500円足らず。


▲空白が異様に目立つJR福塩線時刻表

 さあ判定です。
 項目は技,食材,バランス,遊び心。それぞれ1,2,3,4点の配点ってことで参る(参考:京都編,睦月之巻)。
 赤コーナーあ~佐賀県唐津う~川島豆腐店!!
技食材バランス 遊 び 心
★★★★★★★★★☆
 青コーナーあ~広島県三次市三良坂あ~佐々木豆腐店!!
技食材バランス 遊 び 心
★★★★★☆★★★☆
 って訳で栄えある初代チャンピオンは川島豆腐にケッテイいたしましたッ!!チャンッチャカチャチャ~ン!!
 審査委員長・台悦人中尉より「いやあ~味覚的にはいい勝負でした。ただやはり,川島のあのホスピタリティーの高さは凄い!!豆腐オンリーなんで遊び心点は辛めにしましたけど,それでも豆腐だけであれだけの膳の工夫は素晴らしい!」
 以上,興奮覚めやらぬ会場の両国国技館からお届けしました。SeeYou!!