…と,この写真にビビッと違和感を感じたアナタ!!お見事!なかなかやりますネー!!
これは上海タワー。先日,久しぶりに訪れた上海で,20年前には閑散としてた対岸にこんなんが出来てました。
そこで今回は,舌が中国標準を覚えてるうちに,中華なんであります!前回,和食以外の飯こそ意外に京都チックって感じたこともあってなんですわ。
にしてもさあ…京都でわざわざ中華あ!?――馬ッ鹿じゃないの!?
って言っても,我が食い意地紀行は舌の命じるままに動いてるもんで…仕方ないのよん。
それにじゃ!結果的には,京都の中華は素晴らしかった。っても全然その一端を垣間見ただけやけど…新しい中華の舌が確実に産声をあげたわけであります。
お話は京都着の時点に戻りましてスミマセンです。
京都駅からJRで正福寺へ,京阪に乗り換えて終点出町柳へ。百万遍交差点まで歩く。
交差点から徒歩1分,予定通り11時にたどり着きましたのは――中華料理店:華[ネ羊]。限定20食だって言われる昼定食が目当て。
小さな店です。カウンター席が7つ,2人掛けのテーブルが2つ。これが正午を待たず,開店後30分で満席になりました。
ほとんどの客があんかけ焼きそばかあんかけ炒飯をオーダー。中には一品料理プラスご飯を頼む常連っぽい方も。
一見のわしは既定の目的通り昼の日替わり定食を注文。この日は定番のあんかけ焼きそばのセットだったんで,ハズレは考えにくかった。
皿が来る。
焼きそば,唐揚げ,スープとご飯の4皿。気取らない,ごく当たり前の構成。
なのに!なのになのになのに菜のに菜の花畑に入り日薄れ~!(?)
絶妙!!
も~絶妙なのよ!
まずは,何と言っても焼きそば。あっさり汁っぽいあんに程よくカリカリの麺。くどくないのにパンチがある。海鮮だけでも野菜だけでもない。上品でもないけど下品に油や唐辛子にまみれてもいない。何だこの味はア?
もう一口。舌に意を集中して記憶を総検索。…あッ,あの味だ!あれは…五香粉!あんなにお手軽な味じゃないけど,一番近いのは五香粉だわ。それに,和食にはないこのダシのよなベースは上質な上湯(シャンタン)。
つまり,中華スパイスと上湯でオーソドックスに攻める正統派の中華の味。新大陸から唐辛子が入る前の,そして現代のギンギンの油で揚げたり炒めたりするファーストフード感覚の日本の中華以前の,あの大陸の人海に長く磨かれてきた本来の中華の味覚。
その感想は,他の皿に手をつけてさらに確信に変わりました。
唐揚げ。減量でしばらく遠ざかりがちだったけど,カリカリで油っこくなく,中身でがっしりと食わせる。揚げ物とゆーより肉料理。日本の中華料理屋や弁当屋の唐揚げとは完全に別の食いもんなんだわ!
スープ。やはりこの上湯がスゴいのよ。ごく薄いのにしっかり胃に染みてくる。これだ!焼きそばのあんに溶けてるベースと同じ。中華スパイスと上湯がスゴいんです!途方もなく濃厚でピュア,そんでもって真ッ正直な正攻法の中華の味わい。
単品にも,肉料理牛ロースのブラックビーンズ炒め(1000円)とか魅力的なのが並ぶ。
夜の日替わり定食も5時~11時にあるらしい。これは再来必至!
考えてみりゃ…中華って言えば唐揚げ,麻婆豆腐,焼き飯ばっか食ってきた!
一応わしは,中国,しかも地域的にはディープな西安で1年生活した経験がある。私費の語学留学で,毎食学生食堂で5毛程度,当時5円ほどの庶民的中華で生活してきました。
日本の中華料理にも元々不満たらたら。饅頭(マントウ)とヒエ粥がなくて,何が中華料理だっつーの!
本場の中華を知らないわけじゃない。わけじゃないけど…
半減減量で尖った舌を携えて臨んだこの4回目の京都で,その自信は地に堕ちました。
いや,実はこの京都行き直前に,広島県内の福山にある好又来という中華料理屋で違和感を感じてました。重慶料理を名乗り,中華薬膳火鍋を看板メニューにするこの店で食った火鍋定食。
今や流行の通常の火鍋だけど,韓国のチゲもどきが大半。けどここのは違う!辣椒(唐辛子粉)や辣油でただ辛いだけじゃない。辛さに負けないほど濃厚な,ほとんど漢方薬臭いほどの強い中華スパイスが利いてる。チゲも二重奏やカルテットの名品だとは認めるけど,ホントの火鍋はもう一万人の第九。唐辛子は歌い手の一人なのよ。
なぜそれがホントの火鍋だって分かるのかって?わしの住んでた西安は,成都や重慶の四川料理文化圏ではないけどその外輪だったから,火鍋の店は幾つかあった。「豆腐脳」って言って,おぼろ豆腐に麻婆よりもっと辛いあんをかけた料理もあった。その時は理解できてなかったわけだけど…
好又来の火鍋で記憶から検索されたのは,しばらく忘れてたそれらの味!
火鍋や麻婆って,ただの唐辛子味じゃないんだ!
そんで今回の京都です。も~い知ったわけさあ。わしはホントの中華の美味さを理解できてない!
わしがこれまで中華だって思い込んでたもの。それって,現代中国の,少なくとも唐辛子伝来以降のファーストフード的な中華だけだったんじゃねーの?
中華って。わしが理解してるそれの何倍も深い,いや実は全然異質な何物かだったんだわ!
百万篇から,取り憑かれたよに四条烏丸へ。以前から中華な京都の本命と目してた,膳處漢ぽっちりのドアを叩く。
建物は古い洋館。玄関入ると,蘇州で何軒か見た中国の老舗そっくり!1階が椅子席,2階は座敷らしい。
マダムが多い。かなり流行ってる。
昼の弁当1600円。平日飯が1300円くらいであるんだけど,土日はなしでした。重箱に6種類の菜(ツァイ≒おかず)が詰めてある。それぞれ独創的ではあったけど。
味はボツボツ。雰囲気からしてデートにゃいいかな?京都のオシャレなお店の典型?
この店がこれほど流行るってことからしてみると――このA級グルメの都・京都にして,中華の本物志向って確固たるもんにはなってない臭い。それはそれでいいし,四十を過ぎてこんなことに初めて気付いたわしに批判する立場じゃない。
けど今わしの舌が求めるのは,「中華風和食」じゃない。大航海時代以前の伝統中華の味なんです!
夜。宿で,手持ちの京都グルメ本の中華のページを全部めくり直し。中華風和食の臭いのないお店は…お店はと…
そんで目をつけた2店に,日曜日は突撃しました!
烏丸線今出川駅から西へ。武者小路を抜けて以前行った豆生庵の近く…あれ?ないぞ?
何度か行きつ戻りつした挙げ句,見つけた黒門通は車の通れないほどの細い路地。京都の住居表示にどうにか慣れてきたから見つけられたけど…ここに出されてた看板も,すぐ近くまで行かないと分からん!こりゃ見つからんはずだわ!
▲ものすごく目立たない美齢の看板
中華料理の美齢。
有名ホテルの中華のシェフが独立して開いてるお店。外観は小さな町屋風,ってゆーより町屋そのもの!カウンター席が5席と4人掛けテーブルが2つの小さな店。これが1時を過ぎてて,しかもこの分かりにくいロケーションで満席近い。
カウンター席に運良く席が取れた。腰掛けた横には,瓶詰めが二十以上積み上がってる。初心者のわしにはよく分からん木の皮や実なんだけど…どうも全部中華スパイスらしい。
料理人のご主人と給仕役の奥方の二人で運営されてるらしい。
注文した1000円のランチが来る。えっ千円だぞ!?その上質さと多彩さにまずビックリ――
前菜の皿に,まず3品。
トマトとサツマイモを香油和えした冷菜。この2つの取り合わせが斬新なだけじゃなく,恐らく数滴加えただけの油がこれらを鮮やかに中華料理に仕立ててしまう。
ナスのラー油和え。これも素材重視で見た目はただのナスの煮物。ラー油の作りが違うのか,何か追加してるのか,麻婆並みの深みある辛さを纏ってる。
ツナと青梗菜のごま油和え。微かに唐辛子は,ナスと違ってシンプルな辣椒だろう。けどこっちはゴマの香りがツナの油気と絡み合って実に軽やかな味わい。
2皿目,スープ。中華スパイスのシッカリ染み出したスープに,山椒がピリリと,しかし軽く舌を刺す程度にキマってる。もちろん最上質の上湯のベースの上にです。
3皿目,メインの海老のチリソース炒。前の2皿が斬新過ぎて安心したくらいだったけど,これも当然のよに深遠。味そのものは普通の海老チリです。でも上質でクリア。冷菜で分かった通り,唐辛子の使い方が並みの中華風和食の比じゃない!当然エビの身もプリプリのホロホロ…
4皿目は蒸しものだったんだけど,奥方が物腰低く「スミマセン…蒸しもの切れたんで揚げ物でよろしですか?」――直前の夫婦客まで食ってたセイロに湯気を立ててた包子らしきものは素晴らしく美味そーだったし,事実彼らは歓声挙げてたんだけど…無念!
ってことで,揚げ春巻が来る。外側はカリカリにクリスピーナで,中は程良く味が染みてるあん。肉汁はほとんどない。餃子の出来損ないみたいな普通の春巻と全く異質な,おかずになる味わい。煮物に近い食感でした。
これらに御飯とデザートが付く。デザートは,タピオカ入りのココナッツミルク。ここでやっと一息つけた。台湾やタイで馴染んだあの味そのもの。それが安心感になるくらい――全ての菜が独創的で巧みでバランス良いわけですわ…
食い終えて,しばらく放心。その放心の中で,骨の随まで理解できた。わしのまだ知らない,こーゆー本物の中華が存在するんだってことが。
そして,その事実を突きつけてきた京都って町に感謝。京都の何が異国の料理までこんなに魅力を引き出していくのか――それは今後の宿題として,とりあえず感謝デス。
この後行った新今宮商店街の中華のサカイは,美齢とは比較にならない超名物店舗。
中でも冷麺が有名ってんで,焼豚冷めん定食970円にプラス50円で半チャーハンを頼んだけども。
ここは柳馬場亭と同じで町食堂の雰囲気を楽しむ店だね。新喜劇の舞台設定そのもの。近眼丸眼鏡の亭主,頑固そうな料理人,給仕のお姉さん,週刊誌片手に麺を啜るブルーワーカー,帰ってきて騒ぐ子ども…。
新しい味覚が生まれちゃうと,全く違うお店のグループが見つかってくる。
これまでもそうだったけど,中華そのものは以前から経験値はあっただけに,ベクトルの同じ店が次々に見つかりました。
まず地元・広島。横川の楠木通りの虹来(南観音に本店有)。台湾系。以前一回入った時は「大したもんじゃないな…」って感じたのに,美齢以後は微妙な味覚がたまらない。
白島通りの本州一。同じく台湾系で,同じく以前はピンと来ず,先週からハマってしまった店。上湯の妙味が最高。
逆に広島一だと思ってきた楠木通近く(お好み村一階に支店有)の老四川は,以前のよな感激はなくなった。唐辛子ガツンに感動しないのね。でも唐辛子プラスアルファの複雑な味覚に惚れ直してもいる。
中華を巡る味覚の再編劇。この劇的な変化と再評価の作業が,今楽しくてたまらんわけさあ。
県外でも同じく,美齢後のこの2週間,中華に集中して回ってしまいました。
まずはホームグラウンドの博多(またかい!)。天神の上海餐室(上海系),港地区の福楼園(広東系)の薄い中華に酔いしれました。
でもやはり博多一だったのは,警固交差点近くの吉興。ここの料理は,洗練度こそ美齢には及ばないけどスープは比肩すると思いました。あんかけがスゴい!それ以上に,ランチに付いてくる野菜スープは最高!中華スパイスじゃなくて,上湯に野菜が素朴に溶け出してる。
この店は北京・東北系。つまり,どうも今の舌が感じとれるようになったのは,四川系の唐辛子ガツン以外の薄味中華らしい。要は,そんなにも大きな中華の領域をわしは味覚できてなかったらしいの!
恐らく――今回の京都の2週間前の上海での食体験が素地になったんだろ。今の大陸中国の食卓は油にまみれてリスキー(:外伝05O蘇州ヰ 星期天下午 ヰ
澳門莉達蛋撻餅消滅之怪)なのが現状。だから変化は,より洗練された京都の中華でもたらされたらしい。
松山。衣山から北へ少し行ったとこに,「みつばち」って奇妙な店名の中華料理屋を見つけました。
ここはスープは普通。つまり上湯で食わす店じゃない。
なのにここのラージョーチーの美味さには驚かされた。中華スパイスの絶妙さで食わせんのよ!春巻きも椎茸中心のヘルシーな具がそそる。デザートのミカンの甘煮をまぶした餅も他にない。技術と独創性が,日本の中華風和食の域をはるかに越えてる。
松山での中華発掘を終えたつもりで,馴染みのの料亭・松山はまさくのランチに溺れる。西日本最高の和食屋と信じる店。技術だけじゃなく,ここの御夫婦の挑戦心には脱帽する。和食以外からもどんどん新たな味を取り入れ,常に斬新なメニューで驚かしてくる。
…と,この日のランチにも初体験の味があった。白身魚の唐揚げにつける胡椒が,何か妙味なのよ。確かに胡椒なのにガッチリと抹香じみたこのアクセント…数回味わってやっと記憶の引き出しが開いた。
五香粉!?…のどれかの漢方スパイスが,微かに混ぜてある!
中華料理はこんなに可能性を秘めた食文化なんだ…我が食道楽は未だヨチヨチ歩きデス。