外伝04〓━━〓長月之講〓━━〓
(下の句)二条城前 イル・ヴィアーレのトマトソースのスパゲティ バジリコ風味


▲升形商店街 イタリア国旗のある風景。イタリア旅行直前の最近,この旗を見るといてもたってもおれません…ちなみにこの店はただのスーパーでした。

 古き良きイタ飯ブーム時代にナ~ンにも反応しなかったわしが,ここへ来て独りブーム状態ってことなんですが…。
 時は今,イタリア旅行直前!マイブーム状態はさらに加速中でして,居ても立ってもイタリアなわけで。
 そーゆー状態での京都なんで──先に白状するとこの章あんまコンセプトまとまってません。まあとにかく,イタリア前哨戦みたいな京都食紀行ってことで。

 高辻烏丸から西へ徒歩3分。TRATTORIA LEONE。
 カウンター数席とテーブル席4つ,喫茶店みたいな落ち着いたたたずまい。昼前だったが半分以上席は埋まってる。
 900円のセットをオーダー。サラダとパン付きの鶏もも肉のラグー 手打ちパッパルデッレ。麺はスパゲティも選べた。これにエスプレッソ(200円)を追加。
 まずサラダが来る。調理の形跡の見えない緑の葉っぱだけ。何かの勘違いかと思った位。追加で何か出るのか?あるいはこれに何かかけるのか?…卓上を探すが特にそんなものはない。
 僕,ウサギじゃなくて一応人間なんですけど?ま──仕方ないから食ってみる。
 見てみい,やっぱ菜っぱじゃん…あれ!?いや!?しかし!?
 見かけ通り,緑一色の葉野菜だけ。通常のドレッシングの味はしない。ビネガーのみで胡椒や塩の味も薄い。それが──何でこんなに食えるんだ?ってより,初めてのタイプのサラダだけど,美味いじゃん!!何で?
 まず葉野菜だ。レタスとほうれん草だと思ったが,苦菜も少し入ってるっぽい?わしみたいな素人の目にはただの「緑一色」が,どーもかなり複合的な構成になってるらしい。分からんけど,その取り合わせと配合比が絶妙みたいなのよ。しかもシンプルなビネガーとビシッとマッチングする。
 しかもよく味わうと──分かった!このビネガーが普通じゃないんだ!!酸味は極くうっすらなのに,軽やかで芳醇に香る知らない味覚…!?
 ──と,こんなレベルだったんで当然その場では分からんかったんだけど,次の週に調べた結果,それがブドウ酢,いわゆるパルサミコ酢との初遭遇の瞬間だったみたい。
 もちろんこちとら四十路のオッサンである。口にしたことがないはずはないんだけど,しっかり味わえる舌がなかっただけだろね。ちゃんと味わって旨いと感じたのが初めてだったって事っしょ。
 ビネガーのみじゃなく,ライムかレモンか柑橘系の酸味が加えてあったと思う。次の週,小瓶のパルサミコを買い込んで葉野菜ばっかドカ食いしてた。
 こりゃ…いくらでも食べれるど!しかもウマウマ!
 表示を確認する限り,このパルサミコ酢は極めて低カロリー。大さじ1杯が数kcal程度!今は1日2100kcalで食ってるわけだけど,カロリー余って仕方がない。
 全く!──こんなん食える舌さえ持ってたら,半減過程の1日1500kcalのカロリー管理なんてド楽勝だったじゃん!!
 つくづく思う。舌を喜ばせないから肥満リスクが生まれる。それだけなんだね。味覚が尖ってれば,そもそも減量なんて必要ないのよ。
 そしてそれは,自分史的にだけじゃなく歴史的にも言えるのかもしれない。ルネッサンス当時,ヨーロッパの他の国から「イタリアに行ったら野菜ばっか食わされた」みたいに揶揄されたイタリア食文化。
 白人社会で初めての食を楽しむ思想。
 野菜を美味く食う食文化。
 機動的な科学思考。
 これらが全て,同時に生まれたっていう,これ以上ないってほど明確な歴史的事実──。

 実は,ラグーは初めてだった。
 減量時の癖で,野菜系のパスタばっかチョイスしてきた。「イタリアンは高カロリー」ってゆー先入観から過剰な警戒心もあったし。
 ただ,この日も肉系を選んだわけじゃない。麺にパッパルデッレを選べるのがコレだけだったってだけでした。


▲レオーネの鶏胸肉のラグー パッパルデッレ

 これ,肉なのか?
 うっかり食えばスパムと間違いそうな,安っぽい感じすらする軽い食感。けどスパムの後を引くネットリ脂っこいエグみは皆無。中華で時々出る,鶏肉のそぼろをサラサラに煮たスープの味わいに似てる。肉肉しい後味の重みが全くないのに,腹にフワリと応える初めての味覚。
 何よりこの…パッパルデッレがまたすごい!もちもちのプルプル!!
 確かさっき,メニューに手打ちって書いてあったけど?まあ,考えてみりゃウドンと同じなんだから手作業で作れるだろけど…
 ちなみに。パッパルデッレって,きしめんよりもっと平たい妖怪・一反木綿みたいな麺ね。わしも最近覚えたとこですが…。
 西洋食の食器使いがまだスムーズでないわしは,恥ずかしながらフォークで巻くのにどーも手間取っておりました。だって巻いてる途中でフォークから落ちるんだ…。

 二条城前のIl Viale(イル・ヴィアーレ)。
 満席の先々月,イタリア研修で休みだった先月に続き,三度目の正直でようやくありつけました!
 カウンター席の他,奥に3つ程テーブル席もあったかな?白を基調にまとめられた小綺麗な小店。
 プランA 1680円也。
 サラダ,本日のパスタ,「ちょこっとデザート」,エスプレッソって構成になってました。
 1皿目,アンティパスト(前菜)。レオーネと対照的なサラダのカラフルさにまず驚かされます。


▲イル・ヴィアーレ Aセット前菜

 一口目はカラフルなだけかと思えた。
 二口目…何かちょっと野菜の味が違う?痛んでるの?何か…酸っぱくね?
 三口目でやっと分かってきた。これは…どれも見た目は見慣れた野菜。レタス,トマト,ナス,魚のスリ身。でもコイツら,どーも知らない加工がしてある臭い?
 おそらく。パルサミコ酢かオリーブオイルに漬けてあるんだと思う。野菜の新鮮さからして,絶対に瓶詰めの既成品じゃない。店で,日本の漬け物で言うと浅漬けにしてあるんだろう。
 考えたら当たり前だ。西洋漬け物がピクルスとザウアークラウトだけのはずはない。あの類型の源泉は,やっぱイタリアなのか?

 質素な感じの若奥様が,パケット入りのバスケットと白の小皿を持ってきた。
 しばらくして,さらにストロー口の付いた濃い緑色の大瓶から,小皿に丸く液体を垂らす。ややくすんだ黄金色の液体から,微かに華やかな芳香が立つ。「オリーブオイルのミカン風味です」大瓶はカウンターに置き去られた。好きなだけ使えってことらしい。
 み…ミカン?
 千切ったパケットをつけて口にすると,確かにミカン。しかもオリーブの香りと絡まった複合味がたまらなくかぐわしく鼻孔に広がる。
 バージンオイルの瓶はイタリア語のみだから,まぎれもなく現地の既製品。Mandarineと印字がある。
 じゃあイタリアでミカン作ってんの?
 ここ1か月必死で詰め込んでるイタリア語の会話帳をよく見ると,やはりマンダリーネとしてミカンが載ってた。ってことはミカンが採れるんだと思う。
 芸南のミカン産地の出身者としては,奇妙な親近感を覚えてしまいました。

 ここの厨房はカウンターから丸見え。
 若奥様,今度は左手にパンを抱えとられます。右手にはそれ専用っぽいカンナみたいなのを持って,パンをガシガシしごいてる。見たことのない調理風景だけど…どうもパン粉を振り掛ける作業らしい。
 そうして,パスタがパン粉を雪状にまとった皿がカウンターに置かれる。「トマトソースのスパゲティ バジリコ風味でございます」


▲イル・ヴィアーレ メイン トマトソースのスパゲティ バジリコ風味

 ウーン。料理名自体は何て当たり前の聞き古した響き!安い洋食屋にもありそなメニューでしょ?パスタもスパゲティだし,パン粉の雪と葉っぱの緑色が鮮やかではあるけど,基本的には平凡に見える。
 食す。
 パスタそのものも,それほど変わった味じゃない。噛みしめると通常の乾燥パスタとは一線を画すコシと滑らかさがある。恐らく素材的には上質ではあるけど,ヒネリはあまりキカせてない。
 しかし!?
 徐々に気づかされる。味覚の重奏の厚みがスゴい!
 最初に香るのが,パスタの上のパン粉に混ざってかかってたパルメザンチーズ。
 次に,トマトのピュアな果実味。
 その後に,ソースに絡めてあるからし菜の苦味が来る。
 さらに最後に。バジルの苦く甘い香の余韻がしたたかに口中に漂い,その存在を初めてあらわにする。

 これには唸った。味覚の思想性がはるかに深いんです。日常の食感覚との絶妙な距離感。これはどの皿にも共通する。
「うちのはさ…アンタみたいな日本の凡人が知らない料理だよ!まあ味も分からんだろけど,せいぜい有り難く食べたらいいさッ」的な(何だそりゃ?)フランス料理から逆輸入の外見の高級感は,あえて抑えてあるの。むしろ日本の凡人が日常感覚で「普通じゃん!!」と思える見かけで,けどその俗世感覚的に美しい形で,まずは安心させてくる。
 けど,安心して一口食った舌は違和感に震える。微かに,けれど根本的に日本の日常食と違う。本質的にイタリアンな食材と調味料と調理法!
 ドルチェも同じでした。
 今度は若奥様,缶詰めの中を何か知らない金物でまたまたガシガシ引っ掻いてる。缶の底をこそいでる訳じゃなく,下の皿に黒い粉を落とすためらしい。その作業を終えて供された皿が「パンナコッタでございます」
 これも見た目は,完全にただのプッチンプリン。でも食べると──さっきの黒い粉の正体が分かる。
 カラメルなのか!?
 どーゆー原理なのか,粉はパンナコッタの上で液化してる。それ自体も捻ってないけどシンプルに上質なパンナコッタに適度な軽さで苦い芳香をを加える。
 プッチンプリンのカラメルとは異次元,同じカラメルとは思えまへん。あの缶詰めは一体何なんだ?現地で探すものがまた一つ増えてしまいました。
 何か凄いドルチェのお皿もあったけど,プランBやCのセットメニューらしい。Aは「ちょこっと」だもんね…。アンティパストも凄そうだったし,金のある時か同伴者のいる時には一度トライしたい。是非是非!

 清水五条のosteria vento(オステリア ヴェント)。京都市下京区寺町通松原下ル植松町…っつう住所が分かりにくくて迷った挙げ句,土日だったんで予約で入れませんでした。平日にまた。
 ってことで,以前から興味のあった二条通りの麺の名店を2つ回ることにしました。
 まず二条高倉。この腹の座ったネーミングが気に入ってた。だって京都的に言えば「北緯35度 東経185度」とか「東村山3丁目交差点」とか,要は住所そのものって語感じゃん?
チャーシュー煮玉子入りラーメン(900円)
って…いきなりラーメンかいっ!


▲高倉二条 入り口提灯「豚骨魚介」

 3桁時代はあんだけ狂ってたラーメンだけど,減量後は長らく美味いと感じたことがありませんでした。
 けど…この高倉二条の麺は──


▲高倉二条 ラーメン(ちょいピンボケ)

 こ…こんなんラーメンじゃねーだろ!
 京都のラーメンでこう思ったんは,今や全国区の天下一品以来。
 魚介ダシは瀬戸内近辺じゃいくらもある。おそらく豚骨と魚介の比率なんだと思う。そしてそれにマッチした麺。
 この麺は…半分日本そばだ!そば粉が入ってるかどうか自信がないけど,中華麺とは違う雑穀的な深みと軽さがある。それが豚骨魚介のこってりしてあっさりした…とにかく複雑な味わいとスンゴくピッタシ合うんだよね!

 高倉二条から十字路を挟んで対角に「月と6ペンス」。そして1本西に先月行ったジオカトーリ。この界隈は名店だらけ。
 そのすぐ近くにある「のぼるそば」。亭主が「のぼるさ~ん」と呼ばれてたから,ここも極めてシンプルなネーミングの店。
おろしそば(中)900円


▲のぼるそば おろしそば(中)

 そばって…こんな爽やかな香りだったっけ?
 後味に実に爽快な香を残す。あたかもミントのようなそばの芳香に酔わされる。
 ホント…麺ってのは凄い広がりの食文化だよなあ!
 一度食ってみたいそばがきもあった。その場で「熱い鍋に入れて力まかせに打つんです」って説明するTシャツの大将,なるほど湯気のたつよな汗まみれ。

 これらの道行きで何度か通ってたら,つい魔が差して開けてしまった二度目のジオカトーリ。
Aランチ1500円
前菜の盛り合わせ
スパゲティ 白身魚のトマトソース
デザート2種盛り
コーヒー
自家製パン
 やはりここは,とにかくひねくれてる。変化球しか投げない。少しイタリアンを巡ってみてその感をさらに強くしました。
 前菜も変わった酢漬けが多いし,メインでトマトソースに白身魚を合わせるのも普通するか?タルトも何か分からん果実入り。しかもどれも思いっ切り美味いんだわ!
 捻り過ぎか,客足はそこまでじゃない。今後もお世話になります。


▲ジオカトーリ 前菜


▲ジオカトーリ メイン 白身魚のトマトソース


▲ジオカトーリ ドルチェ タルトとジェラート