外伝08〓’Ⅰuna’Tohu!! 唐津・川島豆腐

 いきなり全然イタリアじゃないお話になってますが,まー人生そんな事もあるさってことで。
 最初にお断り──全般的にこの文章,ガイドブックで紹介されるイタリアングルメ旅行とかなり性格を異にします。
 まあ簡単に言えば…貧乏グルメ旅ね。

 昨夜。広島から唐津へ動く。
 今朝8時。唐津の川島豆腐で朝飯。
 11時。博多の王丸食堂で早い昼飯。
 15時10分。チャイナエアで北京へ――ってイタリア行く奴のルートちゃうぞ?
 ちなみに前日のお昼は,広島・中の棚の名店,瀬戸内小料理なな川で干物を食す。
 普通…そんな奴ぁイタリア行かんぞ?

 …けどなもし。そーゆー奴がイタリアに向かってんだから…困ったもんよのう。
 しかも初の西欧。
 例に如く…往復の航空券と航空会社持ちの北京の宿以外は押さえてない。まー欧州で死ぬ事はないだろ?
 とにかく川島豆腐の朝ご飯,一挙5連発!
 つ…着くのかイタリアに?


▲川島豆腐店 ざる豆腐,おつまみ豆,白和え。ざる豆腐は…何度食っても深い。インドの石窟内のよな重振動。


▲川島豆腐店 厚揚げとざる豆腐のおかわり


▲川島豆腐店 味噌汁とざる豆腐のおかわり2皿目


▲川島豆腐店 豆腐粥,漬け物


▲川島豆腐店 豆乳プリン

 一つだけイタリアに通じるかもしれん話を追記。
 塩って…凄い奴は凄いのね。
 川島豆腐のざる豆腐には,醤油も添えてあるが塩を盛った小皿が付く。初回は素のまま食ってたけど,店のおばちゃん曰く「塩を少しだけかけると大変美味しいですよ」。
 で,前々回位からほんのひとつまみ振りかけるよになった。
 この微量の塩…イイの!!
 辛味もだけど,苦味がキク。複雑に味蕾を刺激したかと思うと,スッと溶けて芳醇にザワついた後味を残す。
 わざわざ小皿で出るんだから,何かイイ塩なんだろう。おそらくミネラル分が旨味になってる。ヨーロッパの岩塩ってのもそうじゃなかったっけ?
 野菜,酢,塩。また旅行の宿題が増えた。
 けど何ですな~。今歩くと…既に地図は要らない博多の街,ノスタルジックに感じられる。自分の味覚史にとって,この街は母校のよな場。


▲ついでのついでに王丸食堂のさんまの塩焼き定食。「さんまだろ!?」ってボヤキつつ,まあ旬だしな…と注文してみたら爆発的美味!内臓がクリームの如し。
 3桁時代に好物だった青魚が,現在再び別次元の美味として感覚される不思議さ。

 さて話をイタリア行きに戻して――
 も一つ普通じゃないってのは,減量した奴がイタリアンにノメるか!?ってこと。
 定番じゃあヘルシーな和食系だろ?
 けどもう止まらない列車で…9月の京都でも,レオーネ,イル・ヴィアーレ,ジオカトーリとイタリアン全開。日常的にもパルサミコ酢に泥酔状態。
 こりゃもー行って食うしかねーだろ!!って状態なんだわ。
 日本で食える限り,和食は別にして美味な各国料理は――インドと中国とイタリアンだと思う。世に言う3大料理ってえとインドじゃなくフレンチが入るけど…もちろんフレンチもいい。十分ハマってもいるけど。
 パルサミコ酢を理解したばっか程度の駆け出しが言うのも何ですけど…やっぱフレンチは未だイタリアンの亜流。いわば上品ぶったイタリアン。形式美と創造性と可変性はヴァージョンアップされてても,実力的には比肩しがたい。
 印中伊は熟成してる。フレンチは若々しさが売りなのよ。

 実は,元々西欧行きを考えた動機はドイツやフィンランドなどのゲルマン系の食事パン。
 広島のバッカライ・アインや京都のキートンのライ麦パンにハマりっ放し。ゲルマン系の変なハム類にも昔から興味があったし,イタリアンに興味が出てからもウィーン・インで両国とも回るかなとか考えてたのね。
 ただそーなると,2週間じゃどーしても中途半端。二者択一ってことになると――
 実力は伯仲してるとしても,特にアメリカを媒介して今の世界を席巻してるのは,どうひいき目に見てもイタリアン。つまり,白人の食文化のプロトタイプ。
 現代食を見渡す視座たりうる食体験はどちらで期待できるか?
 となると――やはりイタリアンだよね。

 もう一つ,各国の食文化を経験するにつけ,どーしても気になってること。
 それは,現地でヘルシーな食文化が,異国に移入するとモロ肥満リスクの権化に化けちゃうってパターン。
 薄味中華の広東風や中華粥が日本では唐揚げとチャーハンに,ベジタブルカリーが小麦粉どぶどぶのカツカレーになっちゃう。大陸中国の都会を除き,どっちも元々かなりのヘルシー食だってことは,減量中に台湾を2回,南インドを1回旅行して我が身で実証済。
 おそらく──肥満食の代表選手みたいに言われるイタリアンも同じ。これはもう確信に近い。ただの肥満食がこんなにグローバルになるわきゃない!!
 京都でイタリアンの老舗と,最近の,現地食に忠実なイタリアンを食べ比べれば違いは明確。日本でのステレオタイプのイタリアン,チーズぎとぎと胡椒どばどばの老舗系と,酢や果実味のオリーブで適度に繊細に用いた忠実系は…イル・ヴィアーレで確信した。全くの別物!
 けど,今世界を覆うアメリカ系肥満食の源流は,多くがイタリアンなのよね。つまり,健全な食文化が肥満リスクに変幻するプロセスは,日本特有のもんじゃなく現代食に普遍的と思われる。
 工業化?食生活軽視?これはどーも,それだけじゃ説明つかないよな気がする。
 すると何だ?それは,源流のイタリアで確認できるのか?
 インドや中国と違い,イタリアはお世辞にも薔薇色の未来航路が期待される国じゃない。きっと問題も山積してる。食文化においても,その可能性が高い。
 おそらく今回,イタリアの食文化の光だけじゃなく,影の部分も見ることになるだろな。

 そしてそして。もはや帰ってきましたッ!て感じの福岡国際空港。
 唐津からのバスは天神に着くんで,地下鉄駅のコインロッカーにバックバックを押し込んで行動。天神から国内線の福岡空港駅まで地下鉄で動いた。博多駅から国際線へのバスはなくなったけど,国内線から国際線までのバスはまだあったはず…行くと,あっただけじゃなく無料でした。何で?
 知らなかっただけだけど…これは使える。カーゴターミナルとか変なとこ通るし,ルートも変で楽しい。
 今回のフライト。実は昨日までいつも台湾行きで使うキャセイだと思ってた。CA――中国国際航空公司って大陸系の全然別の会社なのね。考えてみりゃ…台湾系のフライトが大陸中国に発着できるわけね~な。
 平日の北京行きだから中国人ばっか。チェックインカウンターへの行列に並ぶと,がんがん抜く抜く!気を抜いてると5人くらいドシドシ平気で割り込む。も~中国人っ相変わらず…。
 ただ。20年前の留学時代には95%位の中国人がこの割り込み暴走族だったけど…今はどーも半分以下。抜かれても平然としてる中国人が相当数いる。衣服足りて,とはよく言ったもので…この脱暴徒化は賞賛したいような寂しいような。
 チェックイン。ローマまでの搭乗券をゲット。リコンファームの不要と,北京空港での宿のクーポンの受渡場所を確認。対応的には不安感は無い。
 手荷物検査はいつも通りトラブったけど,今回はニコヤカ作戦で対応してみた。「ダメですかあ~?」とニッコリしてみたら,ライターは1個しか持ち込めないってことで2個没収されたけど,イソジンのうがい薬と皮膚薬の尊馬油は「何かジプロックの袋ないですか」と囁いてくる。幸い浅いとこにあった袋を出して「これでいい?閉まらないけど…インフルがこの状況だし,あると安心なんですう」とまたニッコリすると「閉まったことにしましょう…今度だけってことで」ってことになりました。この手だな…。ありがとう!検査員のお姉様!
 でもって現在,55番ゲートの待合席。極烏の500mlペット180円也!高いぞ!!
 おっとそろそろ搭乗開始?搭乗ゲートの係員の手が動き始めた。

 19時半。金航線国際大酒店着。
 CAのトランジットサービスだから構わんけど,シングル1泊680元(約1万円)!こんなとこ始めて泊まった…とか感動するほど凄い高級感はないんですけど,まあハイクラス。
 しかしまー。謎のルートだったな~。
 大連経由で北京行きだったんだけど,大連で一度降ろされる。荷物も持つの?空港に入って?えっ?イミグレーション?入国カードをここで出すの?それで乗り換え機は…国内線の表示?
 それで乗り込んでみたら,さっきと同じ機体で同じ席なのよ。
 総合すると――どーも大連を経由するんだからそこで入国手続きすべしアルよって整理らしい。国内線と国際線のセクショナリズムの産物臭い。国内線側が「ウチではイミグレ手続きなんて管轄外。国内線ですから」と主張。けど,対する運輸省みたいな国の役所が「いかん!大連に降りたんだから国際線とは認め難し!」と譲らない…って構図?
 一般感覚では怪奇以外の何物でもないけど,役所感覚なら真っ当な論理。ここは超官僚国家だからね。
 大連発。山あいまで延々続く5階建て位の集合住宅。
 北京。コンベンション会場みたいな巨大な空港と,その周囲に伸びるハイウェイの網。
 上海より遥かに過激な開発フルスロットル。この史上最大の国は,一体どこへ行っちゃうんだろ…?


▲王府井 通りのネオンの景観

 北京は2度目。っても20年前の留学生の旅行で5日遊んでたってことなんであんま参考にならん。
 8時を回ってしまったけど,夜の王府井に久しぶりに行ってみたい。時間もないし,タクって地下鉄駅まで行ってうろつくことに。
 上海の意識でいたら…思いのほか明かりが少ない。城壁近くに来ると確かに上海以上のネオンに満ちてるのに,小店や人通りの少なさがひどく不自然。どーも生活臭が薄い。
 王府井に至ってもそれは変わらないの。
 東華門の屋台街に行ってみた。これも台湾や上海と明らかに違う。人工的に作られた一列に並んだ屋台です。自然発生じゃない。客層は観光客がほとんどっぽい。
 要は外国向けのハリボテ。


▲王府井 東華門美食街の屋台の列

 「臭豆腐」の文字に目が惹かれる。
 台湾でハマったこいつを見たら,やはりトライすべきだろ?


▲王府井 東華門美食街の臭豆腐

 この1皿で10元。やはりイケた!ただやはり屋台の味,揚げて唐辛子ぶっかけただけで絶品とは言い難いけど…まあこんなもんか。
 も1つ王府井美食街って場所を回っても共通してた。とにかく厚みがない。羊肉串とは名ばかりのバーベキューが圧倒的に多い。純粋な中式は麺類くらい。
 少し中心部を離れて散策してみても,今度は寂しい暗い通りと突然現れる超豪華ホテル。それだけだったな…。
 いや,わしにとってはそれなりの感慨があったんよ。20年前,天安門事件直後の共産中国の一般的な街の景観だったから,懐かしかったね。
 つまりそれが,ハリボテの中身。
 正直,とても2食目を行く気にはならなんだです。

 そんで市内を後にしたのが10時前。帰れるかどーかが怖かったから少し早めに切り上げた気だったけど。
 その後たっぷり2時間…帰れるかどーかどころじゃなかった!
 用心のためホテルのマップと住所表示入りのカードはもらってきてた。けどそれを提示しても――
「不レンシー…」
 誰も場所を理解しない!?そもそも捕まえにくいタクシーを何台捕まえても,通りがかりのホテルや係員に尋ねても,何人捕まえても…誰も知らないの!?
「とにかく国際空港までね」とタクシーで戻る。「見つけたら止めるからな」と運ちゃん。
 見つかんないまま空港着。
 空港で尋ね回る。
 近いはずなのに…やはり誰も知らん。
 ホテルのマップには空港からの道順書いてあんだから…と歩き始める。道行く人も稀な深夜の広い道路。
 着かない。
 既に11時を回った。
 途方に暮れてきた。首都机場賓館ってホテルに着いたんで一服。ってそんな場合じゃないんだけど…。
 ドアマンと話してみる。やはり知らんけど「聞いたことはある」!他のドアマンやドア辺りに集まってたタクシーでもない怪しい男とかが,わしの持ってたホテルのカードを囲んであーだこーだ騒ぎ出した。皆さんありがと!でも亡くさんでね…。
 そんなこんなしてたら,えらく恰幅のいい目つきの座ったオヤジが登場。ギロリと睨むと
「50元で送ってやる」
 結局,手下の車に乗る。さらに30分は迷ったけど,何とか帰着。
 ベッドに倒れて大爆睡!
 つ…着けるのか!?イタリアに…