外伝08〓’inserire 3’Canale!! 補稿:キャナーレ
(日本で食うイタリアン)


▲いい加減なイタリア語看板「マーマチーノ」(松山)

 キャナーレ。倉敷のイタリアンのお店です。
 それなりに有名店なんで,これ以上殺到されるのも困るし…エゴイストながら詳しい場所は書きたくありません。
 この最終章,イタリア旅行後の記憶覚めやらぬうちに,日本国内のちゃんとしたイタリアンを訪ねた旅メモです。
 結果的に──イタ飯ブームが落ち着いた現状からか,かなりのレベルのが食えます!値段や姿勢的にも国内の方がクレバーかもとすら思えてきます。
 総合力的に。マイブームは断然このキャナーレ!こんなお店が,新幹線で1時間強の場所にあって本当にラッキーです!ってゆーか,何で倉敷にあるんでしょ??


▲キャナーレのパスタ。これはイタリア以前に行った初回の時の,夏野菜のパスタです。イタリア以後は,味に集中して堪能したいので写真は撮るのを止めました。

 10月。2度目の訪問ですが帰国後は1回目です。
 店内は白基調。一人客も奥手のカウンター席でゆっくりできる。すぐ横が厨房。シェフは割と若い2人。奥様らしき方が給仕されててすんごく丁寧です。
 前と同じくプランAのドルチェ付きを注文。この一番安いコースが1800円位だけど高いと思ったことがない。
 突き出し:ブラック・オリーブのパテのカナッペ。一口だけど既に本格的にイタリア。
 プリモ:岡山地鶏を酸っぱく煮たもの。この店,いつも地元食材をちゃんと使う。素材最高。恐らくバルサミコの煮込みらしく,肉がとろける甘さ!
 スープ:紫芋のスープ。一回りだけ表面に垂らしたピッカンテのオリーブオイル,紅芋独特の甘味の上で絶妙なアクセントになってます。
 セコンド:色々野菜の入ったスパゲティトマトソース。上に乗ったカリフラワーとアスパラの粉チーズ。ソースは,トマトピューレとかじゃなく野菜の甘味を自然にそのまま生かしきった感じでスゴく素直なのに震える深さ。
 ドルチェ:モンテ・ビアンテ(栗のケーキ)とフルーツ。褐色のモンブランの周囲にオレンジ,ミカン,ブドウが配されてる。甘味の複雑さが凄い。

 11月に再訪。通算3度目。
 突き出し:ジェノベーゼペーストのラスク。…やっぱりウマウマ,ジェノベーゼペースト!しかもここの…何か異様なしっとり感!自家製なのは確かだけど,どーやってここまでに!?小さなラスク1枚なんだけど,この滑らかな旨味,初手からまさにイタリアン!
 プリモ:豚肉のアボルト ローズマリーのソース添え。
 スープ:人参クリームスープ
 セコンド:中村さんのパンチェッタ(塩漬け豚肉)と小松菜のスパゲッティ。
 プリモ,セコンドとも,肉の使い方が尋常じゃない!アボルトの豚肉皮の繊細で柔らかい肉感,パンチェッタの粗野な塩辛さをまとった猛々しい脂味。この同じ豚肉ながら,こうまで完全に異質な両者を立て続けに食わされると…もう降参です!よくぞこんなにクリアに使い分けてくれるわい!
 スパゲティの方は,パンチェッタにかなり多量に絡まった小松菜がまた生きてる。これがために見た目真緑に見える深皿は,パンチェッタの野性的な塩味と小松菜の朴訥な漬け物味の二重奏。それもかなりの浅漬けなのか,普通なら塩辛くて食えないはずのとこがチャンと丁度いい塩具合。粗野と朴訥の顔付きで実は計算しつくされてる。それがこのちょい和風テイストの独創で供される。しかも,中村さんが誰かは知らんが地場の肉屋さんなんでしょう。トレトレ食材とイタリア本場の加工術の自然なジョイント,これぞCanaleの真骨頂!
 ドルチェ:紫芋のミルフィーユ仕立て チョコレートジェラート付き。──紫芋だあ!って…実は昨日も食ったんだけど,紫芋と聞いては引くに引けないウチナージャンキー魂!
 ミルフィーユなんである!サクサクのパイ生地に,ややざらついた食感の紫の芋クリームがちゃんと絡まって…食べたことのない食感と甘味に震撼!
 この店はとにかくスタンスがすごく堅実。イタリアンの技術と独特な食材を惜しみなく発揮しながらも,同じ目の高さで地元の,地味だけどスーパークオリティの食材を目ざとく取り入れて,思いがけない最高の形で加工して出してくる。
 マジメな冒険的イタリアン。日本でも食える,ってゆーより日本でしか食えないイタリアンです。


▲京都PIZZA SALVATORE 自家製サルシッチャと水牛リコッタチーズのビアンコ

 かくして──昨年の夏のインド後に手で食っていい南インド・ヴェジカレー欠乏症に悩んだよなことにはなってません。
 それどころか逆に!!イタリア本国より使える店は多いと感じます。──もちろんちゃんとした王道イタリアンが舌に刻まれたからだろし,イタリアン独自の異国への移入容易性のおかげでもあるんだろけど。
 CANALE以外の総合点の高いお店は,また後半で触れます。
 さて,プレートレベルではそうだとして,食材レベルではどうよ?
 例えば──本国レベルのピッツアは国内で食えるか?
 京都で見つけた答えがこちらの店,サルバトーレ。136%完全無欠の本国レベルのピザショップです!フォカッチャ生地も具も!!
 この店,世界ピザ大会か何かで優勝した実績有。それがインサラータとエスプレッソ付きのセットで千円ぽっきりで食えました。約ε7,つまりトラットリアのピッツア並。


▲摂津本山PANIFICIO Sivelli フォカッチャ1

 じゃあそもそもあの芳醇なイタリアパンは!?
 段々ファン層を広げつつあるいわゆるハードパンとはちょい別物だからまだ珍しいけど,神戸にありました。摂津本山,いわゆる芦屋エリアです。
 JR摂津本山駅を降りてすぐだから,最近はこのためにだけに下車したりもします。
 ちなみに,神戸のイタリアンはハイレベルって定評だけど,わしは正直,本国に忠実かもしれんけど血が通ってない気がしてます。それにどちらかってえと,中華もだけど神戸の中心部を少し外れた方が当たりは多いと思う。
 この摂津本山の駅から少し歩いた辺りのALBAって半地下の生パスタには痺れました!マイベストには,パスタはここと京都烏丸南西のレオーネの2店です。


▲摂津本山PANIFICIO Sivelli フォカッチャ2

 つまり,スポット的に各食材のレベルで見ても,国内で十分本格的に食える。
 エスプレッソと,ジェラートを含むドルチェは,本格的なプランを食わせる店なら相当レベルのを出してくれる。
 エスプレッソはチェーン店の中ではダリーズのが一番だと思う。ただ年季の入ったエスプレッソマシンの個性的な味って意味では,まだまだお飾りマシンの多い日本では難しい。
 それでも,岡山駅近く,奉還町のザ・マーケットってカフェでは,あの腰の座ったドス苦さのあるカッフェが飲めた。びっくりして──たまたま客一人だったんでレジのお姉さんに聞くと…「ええ,うちのマシンすっごく古くて。日によって味がすごく変わるんですよ~」
 つまり本国の巷のエスプレッソって…日本感覚じゃあ,日に日に味が違う位の壊れかけたマシンで出せる味らしい。

 以上の通り,大抵のイタリアン欠乏症には西日本圏内で十分に対応は出来そーなことが分かってきました。
 それ以後はさらに欲が出てきまして──それじゃ,どの町でどんなイタリアンが食えるのか?…ここに興味が移ってしまいました。
 神戸には,それで味を運んだんだけど──大阪にはついでに1つ2つ味見しといたろか…って程度だったんよ。
 だって大阪やで!?たこ焼きの町でイタリアンなんか…全く期待できそにないやん?
 ところが!──ずっぽしハマってもた!
 何で?
 京町堀,ラ・ムレーナ。とにかく全体的に上質。本格派の技術と食材。高級感あるのに値段は2千円以下で内容的には全然手頃。独り客ちらほらいてレベルの高さはお墨付き。
 そこからほど近いピアノ・ピアーノ。注文の声に応える「オカピート!」の声が響く広々した店内。カウンター脇に野菜のアンティパストの皿がずらり。15種類はあり,これが売りっぽい。アンティパスト・グランデが凄そう。サラダも美味い。中でもジェラートは完全無欠にイタリアン!
 鶴橋,Orlo。高架下市場のすぐ脇って渋い立地。木造バラックに近い建物にプラスチックの屋根を布。パスタの味付けはまあまあだし一番大阪的な感じ。
 淡路町,ラ・ルーチェ。老舗。サラダとエスプレッソが本格的。
 谷町九丁目,モンテラート。2階に上がった暗がりに狭く広がる店。アンティパスト,プリモ(グラタン),セコンド(野菜盛り合わせ)まで付く本格プランです。セコンドの野菜はどれも地味ながら深い味。パンも美味くてお代わりしました。
 高津,Grore。公園を見下ろす吹抜け。サラダがクスクスとカシューナッツ入りで斬新。パスタもなかなか。
 要は大衆的イタリアンなんだわ。気取りのない生活者のイタリアン。中味で勝負してんのね。


▲大橋駅前 ポモドーロのナポリタン(紛らわし~)

 同じ路線が博多。
 薬院,ALBERO。Cセット(PLANZO C)が1250円。
 サラダ。チーズとバルサミコがかかった完璧イタリアンサラダ。コリコリ感が何かと思ったら固めの豆が入ってた。
 パン。オリーブオイルと僅かに胡椒を付けて焼いてある。それだけでどんどん食える旨さ。
 メインに白身魚のムニエル ウチワ蝦のソース。全く知らない味のソースでした。ただ,このまったりした旨味はまさにイタリアン。
 エスプレッソ。ビックリ!日本で初めて本物のエスプレッソにありつけた!ズンと錐のように突いてくる小気味のいい苦味!!
 博多の食の聖地,警固交差点すぐのIL SOL LEVANTE。
 ミネストローネが付いたマリナーラとトマトのピッツア。1570円。
 このピザ生地は本物!生地だけで最高!
 これまでボンジュール食堂一筋で通ってきた大橋。パスタハウス ポモドーロ。定番ナポリタンを食ったけど,汗の出るよな力強いトマト香なのに毎日食える程良い味わい。フライパンのまま出す野趣も憎い。
 姪浜,PAPPARE(パッパーレ)。ここでもカルボナーラと定番で行ったけど…流石に卵の福岡!凄まじい厚みの味のカルボナーラ!!


▲鹿児島il monte プリモ・ピアット

 もっと小さい町にも大穴有。(倉敷もそーだが)
 何と鹿児島。東千石町のil monte。
 plansoB1200円。ドルチェはないがプリモ,セコンド,エスプレッソ付きだからお手頃。それに…パスタセットも1000円で置くのに,プラス200円でパスタに頼らんコースを用意する発想が本格派臭い。
 まずパン。ごく実直。フォカッチャとパケットの2種だけど,特にフォカッチャ!ほとんどトスカーナパンの木訥さ。バジルとかハーブの要らない香も無。
 プリモ。少し煮た柿のバジルとオリーブオイル和え。未経験の味覚。ふかし芋状態の柿がハーブ香を纏う不思議な味。
 これに,カリリと揚げた鶏肉にトマトソースをまぶしたものが付いた。捻り過ぎ!
 セコンド。3種から選べた。いさきの上にトマト,その上に野菜を詰めたイカ,さらにその上にパセリらしきハーブ野菜が乗る。複雑な味覚。上物のいさきの白身の味わいが,幾重にも変幻自在に転じて口に入って来る。
 付け合わせはナスと大根の…おそらく浅漬けにしたもの。鹿児島ラーメンの突き出しに出て来るあの大根の浅漬け!これを,ソースなしでこのイタリアンのプレートにさらっと乗せる大胆さや如何!
 さらに芋天?この朝久しぶりに駅前朝市の鶏飯に酔ったけど,その時サービスで付いて来た芋天と同じ素朴さ。ただ,丸っこい小さいものが皮にマブしてある。クスクスと感じたが…もしそーなら何だその大胆さ!!
 エスプレッソもシャープな苦味。何より香りが素晴らしい!!エスプレッソは3口で飲め,1口目は香りを楽しめってゆーけど,この一杯…鼻を近づけた状態のまま1分以上口をつけらんかった。奥深いフレーバーが鼻孔の奥で乱踊する。
 とにかく大胆さが小気味いい!


▲同セコンド

 小都市独特なのは,昔懐かし型の凄い奴。ガラパゴス的な独自進化です。
 同じく鹿児島,西千石町のタベルナ。パスタランチ1000円。サラダ,スープ,パスタ,デザートにエスプレッソ付き。
 スープはさつまいも?初めは普通のポタージュに思えたけど,よく味わうと後味がざらりと焦げ臭い…口内に満ちる甘味の深みは芋の都の本領発揮。
 パスタ。「全て生麺です」ってヒゲのオーナー言うけど,でもこれ…うどん?いや昔の給食に出たナポリタンの麺じゃん?パスタ・フレスカちゃうやん!でも…これはこれで…旨いのよ。しこしこのプリプリで,カイワレ大根とチキンにぴったし…やっぱうどん感覚やな。
 つまり,全然本格イタリアンってのとは違うまま独自に咀嚼して,それはそれで高みに達してしまったヨ!!って類型。

 このタイプ,松山にもあった。
 市駅から大街道に至る手前,ラ・セーラのラザニア。全然本場タイプじゃねーけど…ここでしか食えん。誰も止められん。
 全く同じなのが市駅前のデュエット。
 忠告。ここのナポリタン,安さに騙されて普通を頼むと…腹張り裂けます。美味いから食えちゃうのがまた厄介!