外伝04〓━〓〓霜月之講〓━〓〓
(下の句)三条会商店街Tea room 扉のホットとバタートースト


▲京都東山 疎水の建物と紅葉

 今回,少し足を伸ばして滋賀に入ってみました。そこで,前半は滋賀話,後半で京都の喫茶店話の事実上2部制でね。
 京都と滋賀のカフェ特集みたいな記事に踊らされてまんまと来てしもたとも言いますけど…。
 宿泊は大津。京都駅からJRなら10分ちょいなのに,初めて本気で回る街。
 意外に山並みに抱かれてる感じ。県庁所在地にしては,しかも京都から10分にしては閑散とした町です。

 翌朝,琵琶湖東岸を北へ列車で動く。
 一駅西へ戻って山科で乗換。見事に盆地状の町。京都からトンネルを隔てたベッドタウン。
 大津京。ここはもう湖サイドの平地。だけどやはり活気は乏しい。交通網としては,京阪の石山坂本線ってのがJRの湖西線と東海道線の分岐部分の不便を補ってる格好か?
 左手に比叡山の山裾を見つつつさらに北へ。右手に琵琶湖が見えてきてる。
 唐崎まで来ると湖畔の風情。畑も増えてきた。田まである近郷農村の風情。
 比叡山坂本。「びわこ銀行」「叡山歯科」の看板を見る。
 トンネル有。湖畔の平地は山塊の腕の間に断続的に広がってる形。軽いリアス式海岸?
 おごと温泉。平仮名にしてイメージを和らげてる?かなり山側に町が伸びてる。
 堅田で下車。


▲Brezza 野菜とフレッシュトマトのペペロンチーニ

 堅田駅から徒歩10分,Brezza。
 パスタランチ1100円を頂く。野菜とフレッシュトマトのペペロンチーノでした。
 サラダとパンは普通。ペペロンチーノもまずまずだけど,野菜の多彩さと地味主体のオイルは注目するに値する。見た目がスゴく艶やかで楽しいパスタでした。
 昨日,大津のスーパーでも感じたけど。野菜食いの意識はかなり高そう。スーパーの野菜の種類は多めだったし,近郷産のものが多数あった。
 JRで大津京駅へ。京阪石山坂本線に乗り換える。
 この京阪線,浜大津駅前で一部路面電車になる。かと思ったら,浜大津からはまた普通の鉄道に?不思議な鉄道です。
 車両は2両。松山の高浜線を想起させる。
 京阪のマスコットガール「おけいはん」。この人,音大生で本当に森小路けい子って名前なのね。何かの役かと思ってた。
 「競艇番長 炎の格言」って車内広告が多数。シリーズものらしい。曰く──男は大自然と一体になるべし!
 競艇は…自然と一体ってのとはちょい違うと思うし。

 少し南の利芭亭ってイタリアンに行ってみました。
 プリモセットが1050円。
 「エラい待って頂いて…」ってことで因果関係は分からんけど,通常400円オンのはずのデザート盛り合わせを付けていただいた。
 メインはトマトとバジリコのスパゲティ。かなり本格派だったけど…混んでた割にはまあこんなもん?って感じやね。
 イタリアン2食とスーパー1軒見ただけだけど──山一つ隔てただけなのに,この土地には京都的なものは薄いようでした。
 滋賀の食材はかなり京都に入ってます。鮒寿司などの琵琶湖の川魚や赤こんにゃく。そーゆー土地が,京都をどう受け入れてんのか?…って興味だったんだけど,どうも滋賀は滋賀,京都は京都でどちらも独自性が強いらしい。どっちも古い土地だしね。
 旨いもん食うって点ではまあ失敗だった?けど,京都的なものは京都にしかない。その確認をしてから京都に帰りました。


▲京都寺町通松原 ヴェント パスタ

 こーゆー成り行きだったもんだから,京都のイタリアンにはちょい力んじゃって。
 満席で何回かフラれてたosteria vento (オステリア ヴェント)。
 平日なのに…一応11時前段階で電話してみたらあと2席だって?んでとにかく予約して行ってみた。
 プランゾBが1600円。内容は──
前菜4種
スープ
パン
メイン インゲン豆のジェノベーゼ
(他に,鯛とケッパーのトマトソースのチョイス可)
エスプレッソ
 前菜。
1)何か茶色の魚のすり身の載ったカルパッチョ
2)だし巻きみたいな卵のお菓子っぽいもの
3)鯛のマリネ(ジェノベーゼペースト付き)
4)鰯の生身に赤いウニクリームみたいなのが載ったもの
 なかなか本格的でしょ!
 魚好きとしても驚き!ええっ!鯛にジェノベーゼ?鰯にウニクリーム?いや,これが合うのじゃ!何をどう調整してるのか…抜群に合う!
 ジェノベーゼとインゲン豆のパスタ。最高にマッチした初めてのレベルのジェノベーゼパスタぜよ!刺激的なものがまるでない,純粋にまろやかさで夢心地に誘う味わいです。
 だけどインゲン豆にジェノベーゼって…まさにイタリアンで同時にまさに京都なんよ!!
 エスプレッソも唸ったな。苦味に鋭さがない。ないのに,地面が陥没してスコッと落ち込んでくよな,無抵抗に染み落ちてくまろやかな苦味。
 このヴェントは,ある意味──全然イタリアン本場の味じゃない。
 誉め言葉です。
 イタリアンを完全に咀嚼して,京都地場の味と融合させて,そんで食ったことのない未知の味覚を創造してる。それもギラギラしないさりげなさで…!
 鯛にジェノベーゼ,鰯にウニクリーム…反則だ!反則まみれの創造力,イタリアンと京都の核融合。
 やはりこれが京都!


▲京都>河原町四条南>珈琲軽食エルベ外観

 このヴェントの近くにエルベって喫茶店を見つける。
 …雰囲気あり過ぎ!
 京都って,こーゆー一癖ありげな喫茶店があちこちにある。
 喫茶店でまったりする習慣の有無は街の文化。数の多さに加えて,まったりのやり方にもかなり地域差があるみたい。大阪にも数は多いけど,四国や京都のはどーも独自に進化してて怪しさ満点で楽しい。特に京都は──。
 このエルベにも,ちょっと入る勇気が出なかった…。
 なもんでヒヨッて姉小路富小路のCafe Kocsiへ。
 イタリアのバール似のいー雰囲気。満席近い。三条の通りを見下ろすカウンター席に陣取る。
 エスプレッソとフォカッチャサンドを頼む。フォカッチャはトマトとモッツァレラ。
 フォカッチャ生地はまあまあの歯応え。モッツァレラに,おそらくスイートバジルとオリーブオイルが絡めてある。
 虹が出たらしい。最初頃の鴨川でも見たな。11回目の京都参禅,出口が見えてきたのかも。


▲フランソワ チーズケーキとコーヒー

 四条木屋町,フランソワ。
 ここもまったり感はスゴくいい。何度か入り浸ってます。程良い薄暗さ,年期の入った調度が色んな方向に並んでる。
 チーズケーキも激旨!濃ゆいチーズ臭ががっつり来る裏京都的な味覚。天一みたく京都って密かに濃厚ですよね。


▲三条河原町 六曜社のマッチ箱

 六曜社地下店再訪。
 ハマってしまってます。一階もあんだけど…なぜか入る気にならん。地下店って怪しさがいーよね!
「ブラジル」と一言,常連ぶって注文しますと──
「どっちですか?」
「?」聞こえてなかったかと思って復唱。「ブラジルで」
「深煎りですか中煎りですか?」
 あ?ブラジルは煎り方で2種類あんのね。スミマセン…まだ2回目です。
 しかし,いい苦味です。舌にざわざわとさざめく複雑な苦味の感じ,いいです!
 怪しさだけじゃない!ここのコーヒー,ホントに旨いわ…。

 四条寺町で気になってた御多福珈琲店に入ってみる。
 半地下の店内に入ると6席のカウンター。他にテーブル席もあるのに誰も座ってない。そーゆー店かとカウンターにかけてブレンドを注文しました。
 奇妙な雰囲気に気付いたのは…その後まもなくしてから。
 顔突き合わせてる6人の客,わし以外全員が全員──超常連らしい!今日見に行った妙心寺の宝物がどーとか,話もスゴい特殊で…全くついてけまへん!
 居心地悪いってゆーより…絵に描いたよな疎外感に可笑しくなってきた。一見の客には,物凄~くいたたまれない状況やど!
 コーヒーの味なんて覚えてないけど,まあかなり旨かったような?
 とにかく早々に飲み干して店を脱出!…思わず胸を撫で下ろす。
 常連になっちゃえばこんな居心地いい場所ないんだろし,生活の中の喫茶店ってこーゆーもんかもしれんけど。
 こんなブラックホールが,こんな街中にある。京都の鋭い隠し剣,まだまだあるみたいデス。
 全く…恐ろしい町だなココは!!


▲京都四条河原町 栗屋の奥手の安産神社

 この魔界の感じに魅せられてしまいました!
 三条会商店街,Tea room 扉。
 奥に細長い店内。その一番奥手の席に陣取った。
 午前9時半,ほとんど満席状態。1人客5人,2人客3組。うち親子連れが2組。
 その間をカッターシャツをビシッと着込んだおじいさんが,ヨタヨタ気味に給仕して回る。
 黄色い電灯がやや明るめに照らしだす全席ソファの席に,ギターのバラードがだらだらと流れてる。
 ユルい空間です。
ホットとバタートースト390円
 客の半分以上がセットの中で一番安いこれを注文してる。500円の玉子トーストのセットも3割方が頼んでるみたい。
 ホットは美味い。苦味の深度と衝撃力が丁度いい。この苦味が妙に生き生きしてる。スゴく満足感を与えられる苦味。
 バタートースト。バター挟んで台形にカットしたってだけのこれ以上なく普通なトースト。
 なのに?何でこんなに安息させられるんだ?食後とてつもなく平穏なダルさに眠気を感じながら長居してしまってる。
 食の場の総合力。個別の要素もだけど全体の調和した力がスゴく心地良い場。
 食いモノなんてそーゆーものだってのは,確か脳科学で立証済。楽しい心地良い空間では美味しく感じられる。人間の快感の構造ってそんなもん。
 四国や大阪と少し違う京都の喫茶店文化。空間のコスモスの度合いが桁違い。大阪はこの点似てるけど,京都よりやや突き放した感じ。
 京都のは,程よく暖かい。──御多福みたいな例外はあるけど。
 出町柳のゴゴと二条城前のチロルにも今日行くつもりだったけど,どちらも祝日休業。
 二条駅前のBiVi二条裏にも雨林舎ってカフェがあるはずだけど発見できず。ただBiVi内にはコロラドも見つけた。この店チェーン店ながら相変わらずエスプレッソにハマってる。市役所前駅の地下にも見つけた。


▲京都千本出水 はちはちのライ麦パン

 上京区山王町。千本通りのこの辺はあんまり来たことなかった。
 はちはちインフィニティーカフェ。
 「うっそうとした森の中」と紹介されてたけど千本通りから徒歩4分で森?場所の間違いかと調べ直した位ですが…ホントに森でした!山王町のブロックの中へ入る小道を辿るとあぜ道になって一軒の民家に行きついたけど…。
 ここかあ?
 確かに玄関の上に「八八」と暗号じみた小さな表示があるけど,それ以外に店名表示らしきもの無し。しばし躊躇しました。
 「いつもは外人か女性ばかり」とオッサン。本日は野郎ばっか。
 畳の座敷。やや高めの1枚テーブル席。ちょい食いにくいけど,縁側が見えてくつろげるスペースです。書棚には風の旅人がそろえてあった。
 サンドイッチ,950円を注文。
 パンはライ麦中心。コリアンダー入りが一番人気だって。
 サンドイッチが来る。4種のパンにそれぞれ具が乗ってる。薄目のシチューの皿が付いた。
 まずミンチみたいな具の奴。知らないハーブ入りでイケてた。
 チーズかと思った黄色いものが乗ってたのは…何か別のもの。酸味のキイた奇妙な旨味。
 野菜の乗った奴もピクルスじみてるのか妙に美味しい。
 最後のは蜂蜜。ライ麦パンに結構合うんだな。満喫!
 ただコンビネーションはともかく…人気の割にパンはまずまずか?広島のバッカライ・アインやドリアンの勝ちい!


▲松山 モーゼル外観。本格派じゃないけど本気で旨い無添加パンの店

 京阪・京都市役所構内のCourt Rosarian。
 ここのエスプレッソも,本場的じゃなくあくまで日本的。だけど苦味がちょうどよくキマる。
 ラストに四条木屋町の喫茶ソワレに寄ってみた。ブレンドを注文。
 ふんわりした苦味!
 扉と同じく酸味がほとんどない。けどソワレのは苦味も舌を刺さない。苦味があることはあるんだけど口に入れるとすぐに溶け去ってしまう。じゃあ何の味もしないかってえと…何だろう?ちゃんと香りは立ってて満足感はある。紅茶のような珈琲ってゆーか…。
 青白い蛍光灯で統一された照明。壁にかかる暗いタッチの少女の絵画。すぐそこが喧騒の四条通りとは忘れてしまいそな独特のトリップ感に酔わされる店です。


▲松山の東亜珈琲館 外観。旨さと雰囲気ならここも凄い!

 広島への新幹線車窓から見える夕暮れの空。
 低く厚く覆う動きの早い雲。なのに上方は完全な晴天。
 木枯らし一号って話で降ったり止んだり天気が目まぐるしく変わる。雨降ってるのに晴天が見えたり,逆に晴天なのに太陽を厚い雲が覆って不気味に暗かったり。
 今はたまたま西の方が晴れ,豪快な落陽が覗く。
 藤原新也曰くの「神の日」。
 さあ最終月だ!