韓国のスンデクッは段々知られてきた。わしもかなりハマってますけど,広東のコレって知らなかった。
牛[イ十]。
牛の臓物煮一般を,少なし香港ではこう呼ぶらしい。
それは初日のマカオ,夜の街角で見かけた「明記 牛[イ十]美食」って屋台にて。30パタカでワンパックでした。
宿で食うと――何だこれ?
カレー味の醤油煮みたいな…漢方煮みたいな…とにかく凄くまったりした味。けれど,肉に染みた汁は意外に,ほどよいアッサリさ。ダシの濃さから言えば韓国のスンデより薄い。薄くてまったり,このバランス感覚がいい。
さらに!薄い味の中から真っ黒な成分の味覚が,あくまで繊細にキリリとスパイシーに香る。カレーと滷味の中間みたいな独特の味覚です。ライスにかけるには儚いし,野菜に染ませるには強い,臓物の味覚と最高にうまくコラボする味付けです。
天下一品に象徴されるように,京都人はこっそりこってり好き。あんな感じで,薄味中華の広東でも結構こんな微妙に濃い味が好まれる…ってのも世の真理なんでしょか?
香港2日目,広東道ガード下の市場内で食しました
徳発牛肉玉
牛丸 牛[月南] 牛[イ十] 牛根 粉麺米一律20HK$
2つ選んでも同じ値段らしい。
紅茶も売ってて,これもよく出てた。まだ香港[女乃]茶の威力を知らなくて見逃してしまったが…。
透明な汁に肉団子8つ。
何だ,これだけ?
と思ったけど汁を含んでビックリ!
濃い…!
出汁系の濃さじゃない。上に乗ってるシェン菜と,下に沈んでたザー菜と…その他もあるだろう,中華ハーブの香り。塩味も唐辛子味もほとんど感じとれないのに,その香りだけで食えるんだわ。
それと牛丸。ただのハムみたいなんだけど,蒲鉾に近いアッサリさ。やっぱりバックに中華ハーブが,いい潔さでピリッと効いてる。
このタイプのアッサリ味覚が香港人のお気に入りなのか?
ただし!白状すると…とにかく…怖い!
広東道のガード下の暗い空間に,半分市場になった体育館並みのボロボロの屋台群スペース。その一番端っこじゃ!襲われないのか?
ただ客はかなり群れてる。安いし,どうも庶民的な味は多そうだけど…やっぱ怖い!香港2日目の新入生にはちょっとハード過ぎました。
マカオのタイパ島,大利来記珈琲室,14時25分。
少し早めに通りかかったら…やばい!既に40人以上の行列になってるぞ?
慌てて並ぶ。本で読んでたけどこれほどとは!だって15時から売り出しと聞いてたぞ?
けど,どうも既に売り出してるらしい。ちょっとずつ列が進み始めた。労働節ゆえのフライングか?
あと20人位になったころには,そこら中,ハンバーガーにかぶりついてる奴らだらけになる。
幸い30分ほどで順番が回ってきた。商品名すら分からんから,とりあえず「リャンガ(2つ)」と怒鳴ってみたらすぐ買えた。1つ16パタカとやや高い。
ハンバーガーっつっても,マックのよりかなりデカい。2つはカバンに入らん。
とりあえず1つを道端食いすることに。
え?大したことないじゃん?
パケットに豚肉の素揚げが挟んである。…それだけかよ?しかも骨付きのまんま挟んであるから,スッゴく食べにくいし。他に野菜もピクルスもない。工夫したソースを使ってるどころか,ソースらしきものがかかってない。
このために30分並んだんかよ~!?
…と怒りかけた辺りで,やっと気付いた。
このパンズ――ムチャクチャ美味い!
パケットよりちょっと柔らかいけど,食パンの耳よりちょっと固いって所の,ありそうでなかなかないタイプのパン生地。これが,むっちりしつつも香ばしく,小麦の芳香を発散する。
そう思って改めて味わうと,小麦臭のさらに向こうにある地味な,しかし個性的な味わいが感じられてきた。豚肉の肉汁?おそらく黒胡椒の刺激を纏ってる。骨付き肉の手堅い旨味がじんわりと背景に広がる。加工の少ない肉だから,一口ごとに入ってくる肉の部位が違ってる。これもまた良いアクセント。
あ…この味付け,台湾の胡椒餅に似てる。
あそこまで強烈な胡椒じゃなく,ふんわりとあくまで脇役に徹した控え目さだけど,肉汁と胡椒のばっちしのバランスが,この超絶のパンズに合わさって,一見シンプルだけど綺麗なまとまりを構成してる。
何となく,ザーサイとか脂身とか挟まったベトナムやカンボジアのサンドイッチを想像してたんだけど…これはなかなか素晴らしい肩透かし。
薄味中華の土地の,このシンプルにまとまった一品。なるほど…こーゆーのを生み出す食感の繊細さのある土地なんやね。
香港島上環,正斗潮州滷[我鳥]専売店。
壁の貼り紙に「潮州滷味」と表示あり。
滷味?
あれって…台湾名物なんじゃないの!?
ただ,潮州にもあるとすれば,歴史的にはこっちが本家と考えた方がいーのか?
いずれにせよ…滷味食いたい!ってことで。
滷水[我鳥]肉飯 22HK$
何か…台湾の魯肉飯以上に安っぽい。
タイの鶏飯みたいに,白飯に肉がどっかり乗ってるだけ。
ただし。肉を口にすると――皮や内臓のほか豆腐も混じってる。あの漢方臭い苦味が広がってく。苦味の染み込み方は,素材味の背景に控え目に広がる,台湾滷味の伝統的味覚のタイプ。
構成も味覚も確かに滷味!台湾滷味プラスアルファめいたものはないみたい。
にしても…本場の滷味には野菜素材のはないんだろか?台湾屋台の滷味には野菜も肉も種類がスゴイ。潮州料理って野菜食の色彩は弱そうです。「家郷滷水飯」ってのも同じ22HK$であったからひょっとしたら?
油麻地駅東側すぐ,たまたま見つけて,客も多くて何か気に入った…金翡翠餐庁。
XO醤回鍋牛肉飯,老火例湯付き(珈琲,紅茶でも可) 30HK$
「例湯」ってのは「どの料理にも お付けしますよ この汁を」と川柳にする必要は特にないけど,まあそんな語感なんでしょう。他の店でもよく見た漢字。
この老火例湯,すぐに出て来た。
この味が…台湾の湯にそっくり。四神湯に似てるんだけど,何か一味加えてある。肉汁,それも骨からかなり出汁が出てて,冬瓜みたいな野菜の出汁がこれをまろやかに受け止めてる辺り,台湾の苦瓜湯にも似る。
…徐々に驚きが湧いてきた。
四神湯だぞ!?
あの完璧なバランスに一味加えるなんて!この,どー見ても普通に日常的な定食屋にして,そんな緻密な味のコントロールが出来るのか?
ここって…そーゆー土地なのか?
汁から先に進もう。回鍋肉って四川だったか!?と少し後悔してたらこれも…バランスがいい。確かに唐辛子辛い。辛いんだけど,トゲトゲしくない。何だこの柔らかな辛味の回鍋肉?
西安に1年いて,辛味の料理は飽きるほど食ってきた。回鍋肉も大好物。でもこんなタイプの辛味は…未体験でした。
段々分かってきた。
つまり,この味の丸みみたいなのが広東風なわけだ。ヌルッと喉を通る滑らかさの魔性とゆーか…。
この点,イタリアンにも通ずるものがある。ただ,やはり中華は技術の幅が半端じゃない。この幅で滑らかさを繰り出して来られると…イタリアン以上に抜けられない予感がしてきました。
書いてる奴が言うのも何だけど…肉料理ってタイトル掲げた割には,お肉そのものがジュッワ~と肉汁したたるバカ旨!!みたいな話,全然お話してませんね…。
つまるところ今回,そーゆー直球の肉食動物的な旨味には出会えてません。
それより周辺分野,肉の調理法の部分で感動することが多かった。
佐敦で買ってみたこの広東焼味も,肉質がうんぬんってより,やはり調理法で勝負してる。恐らく焼いてるだけなんだけど,肉の部位によって焼き方や燻し方に変化をつけてあるらしくて,見かけも味も千差万別。
前回の台湾で「赤肉」ってのを食ったけど,あれも凄かった。
中華の肉の焼く,燻すの世界の広がり。ヨーロッパのステーキ文化とまた全然異質な深みがありそう…って位しか理解できませんでした…。