外伝11 獨 Found a demon to love forever.
フランクフルト→アウグスブルク

▲ブロートラント(パンの国!!)にやって来た実感!
初めてパンを購入した空港のバッカライ(パン屋)。駅構内でこの種類!量!大きさ!

 静かな車内に窓からの曙光。
 6時37分。フランクフルト長距離鉄道駅発の列車内。
 フランクフルト空港は,さすがに本格的な国際空港でイミグレもバゲッジもスムーズで何の抵抗感もなかった。というか時差ボケと寝ボケのダブルでブッ飛んでたってのが正確ですか?
 施設内の列車のマーク表示を追いかけてウロウロしてたら,空港直結の鉄道駅に何とか着けた。イタリアと同じスタイルのダラダラ書きの時刻表が貼ってあるからチェックしていくと,トーマスクックで予想した通り直接ミュンヘンに入る便がある。
 朝早くから有人オフィスも開いてたから,ジャーマンレイルパスの「バリデーション」という使用開始の手続きをしてもらう。実はジャーマンレイルバス,昨夜の機内の徒然に初めてしげしげ見たとこで何も分かっちゃいなかったんだが…係員のおっちゃん,物腰柔らかく「ハイハイ」みたいな雰囲気で,ものの30秒程度で終わっちゃいました。
 発車時間がすぐだったんで,構内の店(名前を忘れた。何とかバッカライ)でベーグルサンドとプレッツェルを1つずつテイクアウト購入…してたら時間ギリギリになった。
 どこがツヴァイタークラス(2等)なのか,自由席なのか,皆目分からん。分からんので…とにかく乗る!
 乗っても分からんのでとにかく座る!…さっき検札のおばはんが何も言わなかったから,いーんだろう。ただ,レイルパスに今日の日付を書き込まれたが,これは自分で書かなきゃいけなかったらしい。
 列車は一度フランクフルトの中央駅に入って改めて出発する。ヴェルツブルク,ニュールンベルクを経て,終点がミュンヘンになるらしい。
 しかしこの車窓――予想してなかった,美しさです。大都市にも,建物を大事にしてるのか年期の入った家が多い。緑地も明らかに豊かでアジアとまるで違うんだけど,スゴいのは農村の光景。緩くうねる,目で追ってると眠りを誘われるような丘の連なり。かと思えば,キレイに整地された牧場や農地の平地がズバアッと広がっていく。
 イタリアとも違うけど…どう違うんだろう?でも全く違う。土地利用が合理的な印象を受けるのと,高低差が少なくてカーブがなだらかだからだと思う。
 ふいにデジャヴを感じる。これ…確かインドのカシミールの南部で一度見かけた風景に似てる。ユーラシア大陸塊の,それも周辺部,やや新しい時代の造山活動の形跡を留める大地。

 ドイツ着きたて2時間後なんでTPOなんかもちろん分からん。ただ,肌合いの違いは歴然と感じられる。
 周囲のドイツ人のほとんどは平然と黙して座すか,静かに書籍をめくっていましますジェントルマンばかり。陽気なアメリカ人とも我執の塊イタリア人とも違う。同じ白人とは思えん。
 なもんで,車内の飲み食いの適否に自信がない。初めてのパンも,プレッツェル一つだけ頬張ったきり。
 だけど…日本のと全然違う。ニューヨークで売ってた塩まみれとも異なり,生地そのものは意外なほどにパケット的な素朴さ。そこに付着するツブツブの岩塩が,思いがけない位美味い!辛いと言うよりミネラルな豊かな味わいです。このプレッツェルってのも,外国へ出て変に特化してった嫌いがありそう。
 8時5分,Wurzburg着。駅ホームを自転車で走る人を見かける。列車に載せるのか?(後日談:ドイツでは普通に自転車載せれます)
 人と同じく街の風景も大人しい。なぜかと思ったら,広告の類いが全然見当たらないからみたい。
 9時頃にニュルンベルクを出る。裁判やったとこだけあって厳めしい(?)。
 山が深くなってきた。長いトンネルを通過。
 10時7分,一泊目の予定地ミュンヘンにすんなり到着できました。

 宿全滅。
 歩き方で目星つけてた3軒は,にべもない断り様。隣近所の宿も同様か200近い部屋しか空いてなかった。何で?
 歩き回るうち,民族衣装の皆さんの多さに気付く。祭のパレードが通りまで大音響で登場してきた。断られついでに宿で聞いた情報も総合すると,どうやら…スゴいお祭りのハイシーズンにぶち当たってしまったらしい。
 どうする?
 ミュンヘンは中継点にしたかった。あんまり離れるわけにもいかん。となると隣の街に泊地を求めるのがベターだろうが…歩き方の地図を睨む。近くて面白そうなのは…アウグスブルクか。
 寝ぼけと疲れであまり正常な判断は出来てないっぽいが…まあ成り行き成り行き。アウガストゥスとどう関係があるのかも知らんが,前回ヨーロッパのイタリアの英雄名を冠した街ってのも因果めいててえーんじゃない?みたいな。
 ヒドい!
 我ながら危うくて書いてられない。皆さん,ご旅行は計画的に(byア〇ム)。

 12時5分発Donauworthという列車に乗車。
 さっきまで聞いたこともなかった…というか今も知らない街アウグスブルクAugsburkへ向かっております。
 正午過ぎ。空はぽかぽか陽気。皆さんがんがんビール飲んでます。前の席のカップルは,既に小瓶2本を空にしとる。ほとんど日本人のお茶のペットボトル感覚…ってのはお祭りだからか普段からか?――いずれにせよ,さっきまで気になってたTPOとかPKIとかがどうでもよくなってきた。(後日談:お祭りだからみたいで,日常的に昼から飲んだくれてはいません。)
 12時36分,Kissingという駅。ドイツ語でどーゆー意味だ?熱い口づけしてるカップルの姿が多数…どころか乗降客は皆無で,畑しかない駅。
 にしてもいい鈍行だ。晴天下,車窓には一面の小麦色に覆われた丘。葉詳明の絵そっくりの天地のただ中を,ゆっくりと抜けていきます。日本なら北海道か東北にしかなさそうな風光。
 アウグスブルクに着いて,駅前のインターシティホテルに110εで部屋を決める。高いが,この状況だし,明日早く動ける環境を確保しよう。何より,とりあえずチャンと熟睡しとかんと!!

▲も一つ買ってたベーグルサンドはアウグスブルク行きの車内で昼ご飯に。状況が緊迫して来たからメモりもせずに行動食で腹に入れちゃいましたが…ウマかったんだろうなあ,多分。

 荷を置いたらすぐ駅へ。
 明日の手配である。
 ここまでのルートをおさらいすると――ドイツの大体真ん中のフランクフルトから南部の中心地ミュンヘンへ南下したわけです。
 しかし君!幾らいい加減とは言え,どーゆープランを持ってやってるのか説明したまえ君イ!!
 という課長のツッコミにお答えさせて頂きますとですね,ハイ,お手元の地図をご覧下さい。
 フランクフルトからオーストリアにちょい入って,そこから北に転進。南から北へプラハ経由でチェコを縦断,ドイツに再入国してベルリン,フランクフルトと辿って帰国――とまあ,平たく言えばドイツとチェコを,反時計周りにグルッと一周回る感じ?
 か…感じって君イ!ドイツ編で翌日国外に出てどーすんだね!?まあ,プラハから先は分からんでもないがだよ,オーストリアからチェコ入り?そんなマイナールートを何でわざわざ!?理由を説明したまえ,理由を!!
 な…なんだねその「分かる人には分かるさ」みたいな笑いは!?失敬だろう君イ!!
――と無意味に長くなりましたが,ここまで書けば分かる人には,あるいは観光地図を辿って頂いた方には分かると思います。
 今回の第一目標はベルリン。しかし第二目標地にどうしても行きたくなった。ここを目指すためには,このやや強引な南周りルートをトーマスクックで見つけ出す必要があったわけです。
 世界で最も美しい街に,2日でたどり着くために。

 駅の案内所のオッサンにその第二目的地の最寄りの鉄道駅名を書いた紙片を差し出す。
――Ceske Budejovice。
 まだ自分でも発音できないその地名に,オッサンも「なんだそりゃ?」みたいな顔でしたが,そこは生真面目なドイツ人,発券システムで検索してくれて,チャンと行程をプリントアウトしてくれました。
Augsburg Hbf ab08:39
Linz Hbf an12:09
     ab13:08
Ceske Budejovice an15:56
(ab:Abfahrt アップファールト 出発
 ah:Ankunft アンクンフト 到着)
 全く幸運なことに,どうやら目的のミュンヘン発の列車は,このアウグスブルクから直接乗れるらしい。
 切符も売ってくれるのかと思ったら,オッサン隣の売り場を指差すんで,そこでプリントを差し出す。ジャーマンレイルバスも使いたいと言うと44.40εの切符を買わされた。「VON Salzburg NACH C.Budejovice」とある。つまりレイルパスの使えるドイツ国内より先,国境のオーストリア側のザルツブルクからの切符らしい。
 後はチャンと行程通りの列車に乗るだけ。今日はこの,成り行きで来てしまったアウグスブルクをチャンと歩いておこう。
 さあ,ドイツの街ってどんなだ?

▲バッカライ(パン屋さん)で初めて買ったパン3個

 アウグスブルクの街中へ。
 宿がバス・トラムのフリー乗車券が無料でくれてたんで,トラムに乗ってみる。
 賑やかなスクエアを過ぎたから,そろそろ次で…と思って降りたら,えらく寂しいでした。
 どこだここ?
 賑わいのあった辺りに引き返してら,閑静な古めかしい地区に迷いこむ。ほお!ほどほどに重厚やんけ!

 この街の地名は,やっぱりローマのアウグスツスに由来してて,要は対ゲルマン前進基地として紀元前に建設されたみたい。
 じゃあ昔栄えてただけかと言えばとんでもなくて,15世紀にこのフッゲライを作ったフッガー家というのは,メディチ家をしのぐ財力でドイツ・ルネサンスを牽引してたらしく――フィレンツェほど現代もてはやされてないだけで,スゴい重鎮をうかつに訪れちゃってたらしい。
 ミュンヘン近郷の田舎町じゃなくて…ドイツ最古の町アウグスブルクの近郷に最近出来たのがミュンヘンだったと。
 最古の町に最初に入る。つまり,かなりの幸運に恵まれて,初ドイツの旅行はスタートできたわけで。
 なんてこととは露知らず,寝ぼけたまんま,かなり呑気に散策してた初日でした。

 古い街並みを抜けると石畳の繁華街に出た。
 雰囲気よさげなカフェも多数見かけた記憶もあるんだが…まだドイツのカフェの凄さを知らないもんで,ここでは入ってません。て,見かけたパン屋に入りました。
 店名Back-Factory。
 一つ目はまたbrezel(プレッツェル)。
 宿で食いましたら――岩塩も焦げ味も控え目なのに,ちゃんと小麦の香りは燃え立って来る。別途買ったレバーと意外にマッチする。プレッツェルってチャンと食事パンなんだ…って事実に驚きました。
 2つ目,weltmeistestange。初めて買ったプロートフェン(小さいパン)。
 端正な旨さ。この端正さ,広島のバッカライアインのよりさらにストイックなスカスカした旨味があって…これがドイツパンの基調なんだろか?これも別途買いのクリームチーズのピクルスが最高に合いました。
 3つ目,berliner ballea。
 ペリエだ!ニューオリンズにあったアレと同じ名なんだが…あれほどは周りの粉砂糖はクドくなく,味覚としても甘さは控え目。中にはレアな感じのイチゴジャムが入ってて,これがまた食わせる。
 これで,計1.5ε出したらお釣りが来て…呆然。
 こんなん日本のドイツパン専門店で買ったら,1個でこの位するぞ?ドイツの小パンって…1つ100円しないのかあ!?
 つまりドイツ人にとってパンって,そのくらい「食卓に当たり前なもの」なわけだ!この感覚の違いを意識的に綴っていきたいので,以下「ブロート」又は「プロートフェン」と書きます。

▲初ブロートヴルスト

 店名Bratwurst Flori。
Original Thuringer Rostbratwurst vom Lavasteingrill 2.5ε
 続いて,ドイツ軽食の超定番,ホットドックが売れてた店で買ってみる。
 ヴルストがソーセージの意。ニューヨークの屋台でナンバーワンを取ったりしてるドイツ系ホットドックってのが,つまりこのブロートヴルスト。
 けれど,ニューヨークでは感じなかった衝撃があった。
 ソーセージの力がスゴい!――直球勝負である。レバーとか赤身に近い肉身が,肉汁にたよらずに,凝縮した力を見せつけてくる。胡椒すら最後の最後に気付く程度。肉汁や香辛料が控え目なわけじゃない。それを背景化してしまうほど,ヴルストの肉味が存在感を誇って,自然に表に出てくる。
 パンもまた,それ自体であのプロートフェンの端正な旨さを発揮してる。
 これが,薄いマスタードとケチャップで補完されたホットドックになってる。
 たまらない!何だこの旨さ!ニューヨークで流行るのは当然!

▲スーパー買いの品々(りんご,サワークリーム,レバーペースト)

 あんまりウロウロし過ぎて,帰り道が分からなくなってまごついたが…何とか見当を付けて帰路につく。
 駅が見えた辺りでスーパーがあったんで入ってみた。Netto Marken-Discountというお店。
PETRELLA/PICO SO.AB 100G 1.49ε
~クリームチーズにピクルスが入ったもの。ややしつこいが,小さいパンにはさむとベストフィットでした。
W PFIRSICH EW1.5L 0.49ε
~昔の「桃の天然水」みたいなミネラルウォーター。水道水を飲まないからものすごい量が並んでました。
EINWEGFAND 0.25ε
APFEL PINK LADY VKS 1.99ε
~リンゴ4つ。ニューヨーク同様,日本に比べたら馬鹿安い!
SB LEBERW.SORT. 150G QS 0.69ε
~レバーペースト。安いのにレバーの香りと舌に染み入る重い肉味
 これで計4.91ε,約600円。スーパー事情はイタリアよりはるかに良さそうです。特に,パンに付ける類のものは物凄い種類有り!

 7時にはもう寝てました。
 明日に備えてってゆーより,いつ寝ようと思ったか覚えてない位疲れてました。
 明日は陸路で国境を2つ越える。この旅行で最大の強行軍になるわけで――体力を回復させとかんと,この状況じゃあヤバい!!

§SixWord:生涯愛する悪魔とめぐり合った。

■後日付記:う~ん。思い付きが酷過ぎて,土地勘のある人以外にはどう行程を決めたのかさっぱり分からないと思うので…というかワシ自身分からなくなったので整理しておくと,この日最終的に決めた行程はこういうルートです。

 このうち,アウグスブルク~クロムロフまでのルートはこう。