外伝11 獨 Open road,no map,Great Scenery.
アウグスブルク→リンツ→チェコ国境

▲YOMA’Sのパケットサンド

 早朝の雨が肌にしっとり染みてくる。
 早速パーカーのフードが役立ってます。
 アウグスブルク駅構内のYOMA’Sという売店で朝飯を買い込む。ドイツ国内あちこちで見かけたチェーン店でした。
ハンバーグのパケットのセット 4.6ε
 どーゆーセットになったのか,もう一つ何かのサンドイッチと水,HARIBOという飴みたいのが付いてきました。
 パケットはそれ自体がかなり旨い!焦げではなく生地がパサパサな旨さ。ハンバーグは…これ肉汁でも香辛料でもなくて,旨いのはやはり肉味そのもので食わすもんらしい。いい味!
「Raucherbereich」…ラウヒャーベライヒっての?読めない位長い単語が喫煙場所って意味らしい。そこで一服してたら,アラブっぽい清掃員の兄ちゃんが掃除に来ました。実質的な社会階層は,ある程度あるみたい。
 にしても皆さん厚着です。コートやジャンバーまで着ててほとんど冬着なんだが…わし昨日までTシャツ1枚でした。

 8時37分,アウグスブルク駅を列車は後にする。
 ふう,と確保した席の横を見たら,ドイツの歩き方を広げてる暇そうなアジア人と目が合ってしまう。
 大阪人の爺様でした。朝イチから旅の徒然のお喋りの餌食になってしまいましたが…初心者としては色々有意義な情報も賜りました。お世話になりました。だけど…やっぱりアンタ喋り過ぎ!
 以下,情報群を列記します。
凡例:○無駄情報
   ●有益情報
○ わしは今回1か月滞在でウルムを基地にあちこち回ってる。
○ ドレスデンで2週間ほどドイツ語学校で勉強した。
○ 今日はミュンヘンでオクトーバーフェスを見る。
● オクトーバーフェスは昨日から始まって約1か月続く。
● この時期のミュンヘンは宿の値段は倍額になる。200ε以下の宿泊はほぼ不可能。私は3か月前にネット予約しようとしたが無理だった。
● フランクフルトでも来週から見本市が10日ほど続く。私はマンハイムにしか宿が取れなかった。
○ 昔半年いた会社はドレスデンにある。
● チェコは治安悪し。特にプラハには日本人狙いのスリ多し。観光名所の橋の上は特に多発地帯。
● ドレスデンは,旧東ドイツと言っても,民族性からか治安は旧西と同レベル。失業率は高いが彼らは犯罪には手を出さない。
○ ベルリン中央駅は,東ドイツ側跡地を活用した3層のホームから成る緻密,壮大な構造。
○ 同じく東ドイツ跡地を活用したドイツ国会議事堂は,2時間の行列当たり前の観光名所。
○ ベルリンの博物館は,大阪中之島みたいなエリアに5つの博物館を集めた大規模なもの。見応え十分。
○ ボーダフォンを買収したソフトバンクの携帯は,ドイツのどこでも通じる。
〇 わしのソフトバンク携帯には,毎朝8時に奥さんから定期連絡メールが入る。
○ 自分は自動車系じゃないが,こちらの工場に後輩がたくさんいるので会うのが楽しみ。
――とまあ,さすがに大阪人,ミュンヘンまでの小一時間でとめどなく喋らはる喋らはる!
 しかし貴重な情報です。とりわけ,フランクフルトの見本市情報はなかなか重い。到底泊まれないが…まあ帰りに考えよう。鉄道のこの使いやすさなら,どうとでもなるだろう。

 9時半,大阪オヤジがミュンヘンで降り,にわかに静寂に引き戻されたコーチ内。
 ちょい周りを気にしてみると,目が合ったドイツ人紳士が「良かったね,これからは静かにね」みたいな笑みを浮かべとる。シンデレラエキスプレスの列車に残った奴みたいな痛い状況。
 立ち直りを期して,もうひとつのパケットを食う。
 ハム,レタス,胡瓜,トマトの当たり前の構成。ドレッシングや胡椒はほとんど使われてないのに――これが…旨い!何でだ?パケットは確かに旨いが,やはり際立ったインパクトはない。野菜はシャキシャキだけど飛び抜けた鮮度じゃない。ハムは,これは確かに絶品だけど,これもパンの味を隠すような強さじゃない。――何が飛び出たわけでもないのに,キレイなバランスを保ってる。
 端正なバランス感覚。これが,今のとこ一番驚いてるドイツの食感覚です。パン以外のドイツ飯って「変な内臓肉が腐ったよな臭い」みたいな先入観持ってたんだけど…そーゆードイツには出会わないんである。
 考えたら分かる。ドイツパンの素朴な,噛み締める深みみたいな繊細な味に,そーゆーおどろおどろしい味がマッチするはずはない。

▲独墺国境辺りの丘陵風景

 10時を回る。
 曇天だが雨は上がってきた。
 車窓が牧草地と灌木の風景になってきた。分水嶺のはずだけど,意外にも山や大地の起伏は減ってきてる。違うプレートの上に入ったようになだらかなんだが,森が多くで見通しは必ずしもよくない。
 アウグスブルク駅で買った水は,チャンと炭酸入りでした。「Sprudel」と書いたのを買えばいいらしい。
 後部席に北京語を喋る東洋人カップル。
 もうひとつ向こうのコンパートメントには,ギターよりもう少しデカいケースを脇に置いた日本人らしき女の子。うーん,「のだめ」の影響恐るべし。
 列車内をうろついてみた。トイレもキレイだし言うことないんだが…喫煙スペースはない。
 列車名はrailjet63 Munchen Hbf-BudapestKp。終点はハンガリー,つまり3か国を縦断する列車。
 サービス面では――売り子が頻繁に通る。この列車はもう時間がないが,水などの持ち込みの必要は薄い。コーヒー,ビールもあるが,小瓶のワインまで売ってる。この辺がヨーロッパ。
 通路天井にモニター有。飛行機みたいに行程と現在地を表示した地図が映されてるから,不安感は全くない。今,電光表示は「1209 Linz Hauptbanhof」となってる。遅れの予定は今んとこなし。
 ちなみに「Nachster Halt」は次の駅。「plan」が元々の到着時刻で,「aktuell」が現在の予定時刻らしい。
 他に電気設備として,一席毎にヘッドライトも備えてある。これも飛行機並。

 10時半,窓外にスゴい村が繰り返し現れ始める。
 ほんの一瞬現れて,後方遥かに消えて行くんだが――
 森の間から,数十軒のレンガ色の丈夫そうな家屋の集落。
 どれもひときわ高く古めかしそうな教会の尖塔に,まとわりつくように形作られた村。
 家屋と同じほどのサイロの多い,牧畜が主産業と見える農村。
 遠く,山々がいかつく聳え始め,段々近づく。陽光強まる。
 10時55分にオーストリアのザルツブルクへ着く。これも…スゴい街だ。駅に入る前の川沿いの城の凄絶さを見た瞬間,思わず降りてしまいそうになった。
 2度目のオーストラリアに入ったことになる。トレッキングらしき一群,臨席に座る。
 山裾まで続く牧場の一本道にサングラスのランニングおやじ2人。
 家屋に煙突を見かけるようになった。昼時だからか半数は煙を上る。
 定刻12時09分ぴったしにリンツ Linz Hbf.着。高い建物はあまりないが,かなりデカい街。
 駅構内も広い。早速昼食を探索。

▲リンツ駅,presto coffee shopのKaffeeとSchinkenstangerl

 店名presto coffee shop。
Kaffee 1.89ε
Schinkenstangerl 1.65ε
 サンドイッチの名前は,シンケンのグリルって意味だろうか?この具もまあまあな上に,パンズがいい。トスカーナパンに似た素朴で塩味のない,小麦そのものの味。ドイツパンの酸味はない。オーストリアは食文化的にはイタリアに近いのかもしれない。
 コーヒーも意外に旨い!今回初めて飲むコーヒーだけどコクの深さはなかなかだと思う。エスプレッソではないが,あれに通ずる。やはりイタリアを感じる。
 ホームに戻る。ドイツもオーストリアもイタリアと同じく,入構時の改札はなくて車内の検札だけみたいだから,出入り自体は自由に動ける。
 乗り換え列車名は「REX1934」。この名前は確か鈍行だと思う。表示されてたタイムテーブルは――
Linz 1308
Pregarten 1343
Freistadt 1405
Summerau 1414
Horni Dvoriste 1442
Kaplice 1515
Ceske Budejovice 1556
 下車駅ブディジョヴィチェ(読めん!)は終点らしい。そこから先の目処が立たなかったら,ここで一泊する覚悟。
 到着は4時近い。この距離を3時間てとこからも,国際列車ながら全くの鈍行。
 列車に乗り込む。3両編成。車体は赤にグレイのライン。客は数えるほど。
 13時9分定刻,発。

▲リンツ駅プラットホーム,Ceske Budejovice行き表示

 13時20分,steyregg…って何て読むんだ?駅前には斜面を駆け上る家並みが立ち並ぶ。
 リンツを発って10分も待たずに,車窓は一気に山がちになった。
 家屋の色に黄色が増えた気がする。
 リンツより前からだが,道路と併走することが多くなり,今は完全に車道を左に見ながら走ってる。つまり,緩やかだが谷間のルートを走ってるらしい。ただし,川らしきものは見えない。
 13時25分,St.Georgen a.d.Gusen…ってどこまで長い名前なんだって駅。田舎だが筆の整地は整然としてる。
 13時27分,St.Georgen a.d.Gusen Haltestelle…って長いぞ!両脇に山がいよいよ迫り,その合間を縫って走る感じで蛇行してきた。のどかな間隔で丘のあちこちに一軒家。
 13時31分,Lungitz。一時的に丘が緩やかになり,前方に展望が開けてくる。よく耕した畑が,丘のてっぺんまで延々と続く。最上部に横列する灌木5本。
 牧草地ではなくちゃんと畑のようだ。トウモロコシか?
 左側に広い,けれども緩くうねった複雑な地形の盆地が見えてきた。その盆地の東側外周を回り込むように線路は伸びいく。盆地底部に十数カ所の集落が散在。
 盆地を離れると,今度は前方丘の上を覆うような集落。駅もあるようだがなぜか停車しなかった。Gから始まる駅名。
 右側斜面を一面畑が埋める。勾配は15度強。Sから始まる駅を通過。
 13時45分,Pregarten。2軒の家を一階部のみ繋げたような駅舎。これがこの辺りの定式化された駅らしい。ホームには,日本でよく見る波形長方形のタイル。何で?
 反対方向行きの列車と初めてすれ違う。国際線だが立派な過疎線。
 駅のあった高台から左側の谷底集落へ,さっき下車した赤シャツおやじが坂道を降りていく背中を見送る。
 傾斜が30度近くなった。牧草地と森林とがまだらに続く。森の脇には炭用らしい薪の堆積。
 植生はモミの木が増えてきた。
 少しウトウトする。
 目を開けると,やや広い谷間。13時58分,Kefermarkt。家屋200ほど。尖塔有り。太陽パネルや衛星放送アンテナを取り付けた家屋目立つ。やや裕福な印象があるが,別荘も?
 14時ちょうどにLasberg St.Oswald。畑の他には家5軒のみ。
 明らかに起伏が緩やかになった。傾斜は5度程度。右手一面に黄色いコスモスの畑。
 14時6分,Freistadt。自由の街みたいに読めるが?材木を積んだ貨車と製材工場有。
 牧草地,群れているのは羊らしい。30頭ほどか。
 右手線路脇,明らかな炭焼小屋を見る。材の搬出で名のあるエリアか?…と思ってたら一気に森が深まった。樹木しか見えん。木々の向こうが闇に消えてる。針葉樹が多いが広葉樹も混ざり,自然林っぽい。
 丘の上に製材所と牧草地,牛と馬の群れ。
 14時15分,Summerau。赤い帽子の駅員さんが,黄Tシャツにオレンジのつなぎのブルーワーカーのヒゲおやじと並び立ち,憮然として列車を見守る。
 10台ほどの自転車置き場に停車3台。ストッパー付き。ドイツ系のこの辺って,自転車を大事にしたインフラが多いみたい。
 時間調整か?Summerauでしばらく止まってます。――あ!?降りてタバコ吸ってるオッサンがおる!わしも吸いたい!でもいつ出発か分からんし…。そんな情報収集する語学力も経験も…。

 さて,ここからは
Horni Dvoriste 1442
Kaplice 1515
と進むはずだが。
 2度目の検札があった。このための停車か?そろそろチェコ入りのはずだから,ひょっとしてイミグレ?…と思ったら,やはりただの検札。じゃあなんで列車を止まってんの?
 今気付いたが,車内に自転車とスキー板の絵がある。持ち込みOKってことらしい。赤線で「ダメ」表示になってるのは唯一タバコのみ。なんでソコだけ厳しいかなあ!えーから車内喫煙所を設けてくれえ!
 あと,窓際に「Wissen aus erster Hand.」なる本が幾つもぶら下がってる。自由に読めってこと?
 14時38分,ようやく発車。どうやら単線になったらしい。ひょっとして線路幅の変更対応だったの?
 10度近い下り坂に入る。左右は完全に森。30秒に一度は警笛を鳴らしてゆっくり走るとこが不気味。心なしか揺れが大きくなった。ひょっとして…お国柄による整備レベルの違いか?
 と。景観はパッと開けて,左側に集落のある平地が一望。
 どうやら…チェコである。

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▲チェスキークロムロフ,Pekarstvi u preclickuのKureci bageta(サンドイッチ),Oblozene vejce(丸い棒)
高知県,ピクルス屋いく農園のIku farm pickleを添えて。

§SixWord:開けた道,地図はなし,みごとな景色。

◆後日付記:こういうルートだったと思われる。