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ドレスデン

▲ここはどこかと言うと,ドレスデン駅構内ど真ん中。
日本では考えられないほど自転車にオープン。平気で構内に乗り入れて来るだけじゃなく,ホームから車内まで乗って来る。ただし見てるとマナーには気を使ってるっぽく,歩いてて危険を感じたことがないから,日本みたいに目の敵にもされてない。ごく普通に市民権を得てる。

「ピルナッシャー・プラッツに行くトラムはどれ?」
 恐る恐る教えを請う相手は,でっぷりドドーン!と貫禄ある案内オバハン。
 片言のドイツ語と手話だが,オバハン,失礼ながら意外に親身にご教示下さる。12番か7番が行くらしい。自己改札はトラム内。
 ドレスデン駅前ホームに入って来るトラムは真新しい。黄色い静かそうな車体で,歴史より利便を優先してるっぽい。何ともドイツに帰って来た感。
 車両内に専用モニター。以降4駅まで確認可。ピルナッシャー・プラッツは3駅目。
 間違えようがない。
 間違えてないはずだが,降りたピルナッシャー広場は広く整然とした車道の十字路。安宿街って雰囲気は愚か,古都ドレスデンのイメージと全然かけ離れた公園都市の風情。
 広島の100m道路を想起した。同時に「公園都市」の理由に気付く。
 戦争で一度灰燼に帰した街並み特有の,怨念を秘めた白々しさ。
 Wikipediaより――ドレスデン爆撃は,第二次世界大戦末期の1945年2月13日から15日にかけて連合国軍(イギリス空軍およびアメリカ空軍)によって行われたドイツ東部の都市,ドレスデンへの無差別爆撃。
 4度におよぶ空襲にのべ1300機の重爆撃機が参加し,合計3900トンの爆弾が投下された。この爆撃によりドレスデンの街の85%が破壊され,2万5000人とも15万人とも言われる一般市民が死亡した。
 某プログより――当時(1945年2月)敗色濃いドイツは,特にソ連方面からの難民が押し寄せていて,文化都市的性格のあったドレスデンに何十万人か流れ着いていたと言うことがある。人であふれている文化都市に対して,英米は人員殺傷目的で大空襲を行った。
 しかも,その空襲の真の狙いは,間近まで迫ったソ連軍に,英米の空軍力を見せ付けると言うことにあった。
 別の某プログより――爆撃は巨大な炎の嵐となり,生きながら焼かれた人たちは50万人以上にのぼる。これは,一回限りの虐殺では史上最大のものである。
 ドレスデンで虐殺された人の数は,広島と長崎を合算したものより多かった。
 さらに某プログより――各ホームページに記載されたドレスデン爆撃の犠牲者数には諸説あることが分かりました。大きく分けて「3万5000人以上説」と「13万5000人説」に分けられ,20万以上という数字もないわけではありません。つまり、一般的な認識としては「ドレスデン空襲の犠牲者に定説は無い」ということが言えると思います。
 ――客観的に見ると,ドレスデン爆撃は2つの面を持つ。まず殺害規模として,相当に悲惨かつ卑劣なものだったこと。そして,戦後の評価への強い政治的誘導。主に「ヒロシマ・ナガサキばかりじゃない」という病的な言い訳,あるいは贖罪の材料として。
 南京と同じ構造です。事実を度外視するバイアスがあっちゃあ,いずれにせよ犠牲者は浮かばれる訳がない。

 脳裏を離れない焼け野原の映像と対照的な,ある意味で親和性があるんかも知れんが――入居した宿city herbergeは,まさに公園のような緑地の中に立つ真っ白な長方体の建物。
 一泊50ε。結構なお値段だけど,安宿事情が悪いと聞いてたドレスデンにしてはまあまあか…と妥協。
 ドイツ伝統のユースホステルの類らしい。客層には国内旅行らしき若い衆の団体多し。トイレ・シャワー共同だけども数は十分あるし,部屋は簡素だけども清潔感満点。ただし,タバコは(内緒でしか)吸えないみたい。
 さて15時半。街に出よう。

▲city herberge外観。素っ気ないと言えばこんな素っ気ない建物もない。
お部屋の写真

 広場にほど近いゲンゼディープGansediebというレストランへ。歩き方にある店。
ドレスナーザウアーブラーテンSauerbraten 12.60ε
(注釈
独語:mit Apfelrot hohl und kurtoffelklossen
英語:Sliced of beef,served with apple seasoned red cabbage and potato dumplings)
ビールHefe 2.60ε
15.20ε
ゲンゼディープ Gansediebのドレスナーザウアーブラーテン Sauerbraten(再掲)
 1500円と結構なお値段ですが…これでなら安いぞ!
 この地方名物で食ってみたかったものの一つ,ローストビーフ。噛めば噛むほど味の深まるなかなかのものだけど…やっぱ中華チャーシューほどの複雑さじゃない。
 でも紫キャベツの渋い甘味とこれに絡まったソースの絶妙さ…これには刮目した。
 ビールにはこれだけでもいい感じ。もちろんビールそのものも最高!――予備知識ないんで適当に頼んだけど。
 英訳にはポテト・プディングとなってるマッシュポテトみたいなのは――スゴい!餅のように…とゆーかポンティケージョが一番近いと思うが,台湾で言うQな歯触りが堪らない上に,ちゃんと芋の味がふくよかにたゆたってくる。あんな美味い芋,初めて食った。ジャガイモがあそこまで調理できるなんて…。
 中途半端な時間だったんで客はまばらだった。暗すぎるほど照明を落とした木目調のシックな店内。夜は酒場として賑わうんだろな。


▲東西にトラムの走る大通り

 街が雄大です。
 地勢はフラット。エルベ川を挟む広大な平地です。
 幅広過ぎる片道3車線の道を,ゆったりと流れる自動車。アメリカにも似た空気だけど,ああいう荒れたオーラは全くない。少なし今回訪れた中では,ドイツの街で身の危険を感じたことはなかった。
 ここまで古都アウグスブルク,世界遺産チェスキー・クルムロフ,百塔の街プラハと動いて来たわけで,比べるのは相手が悪い。が,このドレスデンだって15世紀のザクセン公国の都。統一まで第二次大戦で焼かれたまんまになってたという現代史が,この街の「出来立てホヤホヤ感」を醸成してるっぽい。
 北へ向かいエルベ河岸が近づくと,けれども歴史的な建造物群がそこかしこに並ぶようになる。道や敷地がそれより南に比べてはるかに複雑になるから,正真正銘の旧市街と王宮跡らしい。ただ,あちこちで大規模な改修工事中で,看板のドイツ語はどうやら歴史観光エリアの「再開発」をやってるみたい。
 統一直後にもし来てたなら,ここには――ザクセン公国の荘厳な遺構が,戦時の絨毯爆撃で骸になったまま打ち捨てられた光景が広がっていたんだろう。
 そんな幻視を抱きつつ,今は学生の群れがはしゃいでる王宮のパティオに面したカッフェに腰を下ろす夕暮れ。
Cafe Schinkelwache
Tasse Kaffee 2.20
Original Dresdner Eierschecke 2.90(再掲)
 コーヒーはインスタントより少しウマい位だったけど――ドレスデン名物アイルシェッカー!
 最初,美味過ぎてワケ分かんなくなった。
 こいつをチーズケーキと呼ぶのなら,日本で売ってんのは別の名で呼ぶべきだ!
 何ちゅー複雑な甘さ!しかも,幾ら味覚の焦点を絞ろうとしても何だか分からない。ひどくぼやけた味なんである。何なんだ,コレ!
 視覚に頼って観察しながら,部分部分を味わってみる。上の表層部は,日本で食べ慣れたものよりよく焼けて,焦げ色が厚くついてる。
 その下には,日本のに一番近いチーズケーキ生地。
 中間には,日本で言うレアチーズケーキみたいなタイプの,白いクリーム状のチーズケーキ生地。
 さらに下層。これは日本では珍しい,苦味を帯びた,しかしやはりほんのりチーズ臭を纏った生地がある。
 最下部は,簡単には切れないほど,ほとんどハードパンみたいによく焼けた生地。
 この5層のアンサンブルの甘味らしいんである!――それぞれを分けて口にしても,大した甘味も旨味もない。けれど絡まることで,ゴレンジャー(古過ぎ)の如く圧巻の甘味を醸し出してる。そういうスイーツらしいんである!
 これが典型的なザクセンのアイルシェッカーなんかどうかは知らない。けれどここのが標準だとすれば…恐るべき構成力!
 味覚のパートが多彩過ぎる。しかもそれらが,相反する二極の味覚じゃなく,グラデーションを成してる。
 実感した。この土地の食感覚は,極めて繊細です。そしてそれが最も表出してるカテゴリーとして,どうもケーキ類が匂うわけである。

▲即席観覧車もある中央広場

 橋から望見するエルベの河辺は,暮色に染まって遥かに伸び広がる。旧市街の建造物の影と相まって,すこぶる荘厳な風光を作り出してく。
 美しい。
 川を渡ると,これまた一味違う落ち着いた街並みになった。
 北へ一直線に,木立に覆われた歩道が伸びてく。ゆったりした造りの商店がぽつりぽつりと続く。
 黄昏。木陰。行き交う散策者。一軒建の店舗に灯り始めた明かり。思わず歩調を落とす。
 さらに北に,コンクリートのドデカい建造物。Neustadfer Markthalleとの表記。マルクトハーレは市場の意味だったと思う。
 ぐるりと回る。生鮮食料品がほとんどで,買い食いはしづらかったけど,午前中は食材を仕入れる主婦とかで溢れるんだろか。この時間は客はまばらだけど,店仕舞い前というほどには人影は少なくはない。
 サラリーマン風のスーツを着込んだ禿頭の紳士がパンを買ってた。数個のブロートフェン。家族分の今晩のパン?
 店名はWiener Feinbacker。ウィーン?と迷いはしたが今日はここしかないみたい。ブロートフェン2つ,ケーキ1つを購入。▲マルクトハーレで購入したパンSchrippenと惣菜(再掲)
~以下,宿で食った感想――ガイザーと同じ味。端正なドイツパン。やはりチェコのパンと一線を画す。
黒い小パン
~異様に黒いパンで,これまた異様に固い。噛み締めてくと,経験のない香ばしい苦味にたどり着く。ライ麦じゃなさそうだが(それも日本で食っただけだが)…大麦かカラス麦か何かのパンなのか?
Eiershecke
~さっきのカフェ,シンケイワクフェの感激の余韻で購入。チーズケーキのこの形式のをアイルシェッカーと呼ぶみたい。層を作ってるとこまでは同じでした。ただ,ここのは,一層目が日本の程も甘くて他の層を殺してしまってる印象。やはり非常に繊細なモノらしい。
 あと,肉屋の店頭で購入。店名Fleischeerei Richer&Imbis。
 肉屋の店頭は,何かに書いてた通り確かに狙い目みたい。ハムと胡瓜の酢の物(1εちょい)を購入したが,同種のおかずは6種類あった。すぐ横には立ち食い用らしき丸テーブルもあって,サラリーマン風の若い男が軽食取ってた。頼み方が分からんがハムとかをサンドイッチにしてくれるらしい。つまり,日本で言う肉屋の機能に加えて惣菜屋,兼インビスとしても稼働してるわけ。
 宿で頂いたお味の方は――脂身か何かのゼラチンが和えてあって,面白い美味さです。100gでかなり良質なパンのおかずになりました。

 市場を出る頃にはかなり日が落ちてました。
 トラムの系統がどうにも分かりにくい。新市街の適当なとこから乗りこんで川を越えたまではよかったけど,宿のずっと西に着いてしまったんで,夜のとばりをひとしきり歩く。
 夕方に出た広場の南,ショッピングモールになってるエリアを突っ切る。ハイセンスなファッション店が多数入居。建築構造としてもやたら現代的な地区です。翌日歩いたとこではこの色彩が,南は駅まで,東はトラムのターミナル辺りまで続いてる。
 つまりドレスデンって街には,駅のある南側から現代市街,旧市街,河辺,新市街と連なっている。この広さにこの多彩さ,ちょっとない街だと思う。もちろんその背景には,半世紀前の爆撃による廃虚からゆっくり復興してきた血のにじむ歴史があるわけだけれども。


▲中央広場の賑わい

§SixWord:無教養の詩人,あまりに多くを見すぎた。