外伝01-2मुंबई【20年後のバーラト】中日:インドで浮かれたこと

[繰 越]/負債 980

 元旦。朝霧が濃ゆく覆うコンノートプレイスから,南へ歩きだしました。
 コンノートプレイスへ地下鉄で着いたのには感慨があった。初回のインドで最初に徒歩で目指したのがこの場所だったからです。
 ババールガンジの地下鉄駅で昨日見つけたスマートカード100Rs.を購入。うち50Rs.初期チャージ分。並ぶ時間を考えれば安い投資と見た。
 となると使わないと損。Noida City Centre行きブルーラインで,だった一駅,Rajiv Chowk(コンノートプレイス)で降りる。
 改札から出ると聞いていたが,スマートカードさえあればそのままプラットフォームから出入りできるみたい。
 時間は7時36分。ラッシュ時間が遅いのか昨日の夕方とは全く違い,えらくすいてます。
 しかし皆さん厚着です。こういうインドも初めてだけど,この国の内陸は寒暖差が大きいのもあるのでしょうか。ほとんど日本並みの気温なので,わしも今は日本を出た時と同じ格好を取ってます。
 あ,あと昨日見つけられなかったパヤルホテルは元気に営業中らしいです。20年前に初泊をした宿です。

 そもそも今回の企画は,とあるデリーのグルメ本の発見から始まったんですね。
 インドについてのこんな書籍を初めて見た。「あのデリーで食べ歩き?」という限りない疑わしさと,「ひょっとしてデリーってそこまで変貌してるのか?」という期待がないまぜになった企画だったんですね。
 結果として,思いっ切りムリでした。
 目指したAPBC(アンドラ・プラデーシュ州何とかセンター)は発見できませんでした。道を聞こうにも道々に何か誰もいない。霧満ちるアショカロードがあるばかりで…狐につままれてる気分でした。
 仕方ないので,地下鉄でオールドデリーに乗り込みました。
 元旦の朝はやっぱり閑散としてますが,こっちは流石に下町,ほどほどに通行人はいます。いますが,何か…人より猿の方が多いぞ!?特にぺテルチョウク界隈は電線を渡る猿だらけ。
 そんななかを,次の目標,マスジッドの門前町向けてずんずん歩いたんでした。ええと?Chawri BazaarからKarim Hotel?

▲通りがかりのムスリムカレー屋のチャイとコルマカリー+ナン

 当面,この店も見つからないのである。
 だんだん…本気で腹減ってきた。
 祈りの時間になったのか,人通りも増えてきた。
 客入りのいい飯屋はたくさんあるのに,ちまちまグルメ情報を後生大事に抱えてウロウロしとらにゃあかんねん――という思いが段々強くなってきた。
 無理ってのはそういうことなんである。こういう空気の土地ではグルメ歩きそのものに,歩き手自体が嫌気さしてきてしまう。インドでは食は食。行為は原初の行為そのもの。
 てことで良さそうな店に適当に飛び込みました。店名は…アラブ語で分かりゃしません。
チャイ100
コルマカリー+ナン28Rs. 500
 うーん!!これですこれ!
 記憶以上に脂ギッシュでガツンとスパイスが効いてます。
 辛味はスパイシーさのヴァージョンの一つに過ぎず,その複雑なスパイス使いが基調。――ここまでが南アジアと中東に共通の調味です。
 ムスリム飯の特徴はこのスパイス宇宙の作り方が,「肉」中心だってこと。それも肉の脂を中心にしてる。
 インドのスパイス文化そのものは,ヴェジタリアンを基盤にしてる。腐蝕防止とは別に,肉がなくても食べ応えを形成する調味。それが再び肉食に再合成されてるという,宗教史が生んだ面白い状況がこのムスリムカレーなんだと思われる。
 常連の多い店らしく,店のオヤジの威勢もいい。客も,胃袋にカリーを詰めてはさっさと去る。長居の出来る雰囲気ではないけど,それが逆に好ましい味わいの店でした。
 皆さんの標準スタイルはウイグル帽子にクルター。あと,食堂に女がいないのも特徴的です。

▲Karim HotelのNohari

 道を聴いてたら,どうも元々の目当てのカリムホテルは曲がりくねった路地の奥にあることが分かってきた。
 それなら行っとく?てことで探し当てると,N字に折れた半露店の店。そうか,「ホテル」と聞いたから屋内上品タイプを想像したけど,インドのホテルはこういうタイプも含むんだったな。中国の「酒店」の逆ヴァージョンというか。
Nohari 125Rs.500(1100)
 ただ,客がわしともう一人だけ?過去の栄光めいた店か?
 給仕曰く,これとPuriという2種類しかダメだと言われた。昼飯以降がメイン?あるいはホントに潰れかけ?
 だけど,カリーはかなりハイクラスに美味い!
 脂ギッシュなのはさっきの店と同じだけど,スパイスと含めた全体の味がスルリと,軽快にまとまって来る。スパイスが群としてハンサムというか…日本のカレーが追う「ガツンッ」ではなく,収斂する味というか…。
 決してスパイスが弱いわけじゃないんだけど,マトン(なんだろ?この臭みは!!)脂にビシッと馴染んでるというか,統一感が素晴らしい。
 でもこういうタイプの味わいが,南アジアで好まれるもんなんだろうか?どの位の客が付いてるのか知りたい気もしたけど――いずれにしても今回は時間がない。

 ブルーラインでDwarka subcityを目指してみる。
「歩き方」のマップには全く載ってない。おそらく空港の北辺りに出来た,あるいは出来ようとしてる副都心なんだろう。いずれにせよ,こんな気紛れに足を向けれるのもスマートカードのおかげです。
 電車内,皆さん平気でお電話。最初の一言は揃って「Hello,Happy new year!!」。
 Dowarkaは20と少しのセクターに分かれてるらしい。とりあえず9で降りて7を目指すことにしたいけども…距離は全く分からない。当面の目的地はStar city mall,目的店はThe Grill。
 グリーンラインとの分岐を超える。10時38分現在,Remesh Nagar。立ち客はほとんどいなくなった。代わりに客層も一気に豊かな気配を増してきた。服装だけだとニューヨーク的。決して日本的じゃなく,セルフォンいじってるのは2割か?
 窓外の街もえらく近代的になってきた。富裕層は中心部を捨てて新しい居住区を郊外に求めつつある…というところか?
 10時43分,Subhash Nagar。「アグラ・ステーション」と車内放送で言ってるのが「次は…駅でございます」という感じか?
 ケータイはバッチリ3本立ち。

 駅に着く。
 辺りはほぼ荒野。東にビルディングの集落がぽつりぽつりと見えてる。
 異様なインドです。
 メトロのミニバスがあったので乗り込んどく。7Rs.。行き先はヒンドゥー語だけど,まあ東のビルの辺りしか行く先は考えにくい。
 何もない大通りをまっすぐ北進。客は3人。しかも全員セルフォン使用状態。これも不気味なインドです。
 右折。左側に壁の続く道。
 T字路を左折。一人ヒゲのオッサン乗車。
 え!?さらに左折?元来た方向なんですけど…?もうちょっとついて行けてない。
 さらにさらに右折して…大体さっきの北方向を向いた?要は客拾いだったのか?

▲MONGAのSumday SPL.

 MONGA。
Sumday SPL.40Rs.500(1550)
 そしてシティに到着。飯を食ってます。
 サンデー特別定食みたいなもんらしい。元旦だから祭日メニューというわけか?
 アルゴビらしき黄色いカレーとひよこ豆の茶色いサブジーに玉ねぎ,青唐辛子生,それからインド漬け物が付いた。主食はプリー,南インド料理らしい。
 落ち着いたいい味です。黄色のは日本のカレーに似たようでスパイス使いが違う。茶色のは豆の煮物とも思える,ダルの濃厚版といった味わい。
 所在こそ異様だったけど,シティそのものは特筆すべきもののないフツーな佇まい。ひとしきり歩いたけども,荒野の人工都市,それだけと言えばそれだけ。
 12時45分,Duwarka Sector9へのバスで引き上げる。「メトロリンク」と書かれたバスが幾つか走ってたんで,結構簡単に帰れた。この路線は駅からセクター10~9,そして別の駅というルートを往復しているようです。
 メトロに乗って帰路につく。列車の先頭車両は常に「Lady’s Car」らしい。テヘランのバスがそうだったが。

 ババールガンジに帰りついた足を少し伸ばした。南側入口から西へひとしきり歩いた辺り。この界隈は以前もあまりうろついたことはなかったと思う。
New Maduras Restrant
 実はこの午後の早い時間は閉まってて,夜になって出直しました。
 ごく小さな食堂でしたが,きっちりした南インド料理。…銀皿が出た途端,感激に打ち震えました!うおお~!!久方ぶりのミルスじゃあ!!
Thali(South India Meals)90Rs.500(2050)
 もちろん手掴み!伝統通りに3種付いてるカリーをペロリと頂きました!
 うめ~!!
 あまりの感激に写真を撮るのを忘れてましたけど…完璧なミルスでした。感謝感激雨アラレ!――何を言ってるのか分からなくなってきてますが,とにかく完璧な夕食でした。
▲ババールガンジの角のミターイ

角のミターイ210
何かお焼き 200(2460)
 帰りがけに買った2品。
 この通り,特に中央のパティオにはなぜかミターイ屋がちらほらある。
 以前は確か,ビニール袋に詰めたのを持って帰ってただけだった記憶があり,今回もわしはそうしたんだけど,皆さんの標準は紙箱に詰める形式らしい。お宅で家族の輪の中に置き,紅茶でも片手につまむんでしょうか?
 わしは宿で独り,新聞紙の上に広げて,中国茶で頂きました。
 味わいとしては,以前感じた激甘感よりももっと…何というか実体感ある甘味のうねりみたいなものを感じました。甘さがガツンと来た後に,大河のようにゆったりと尾をひいて流れ,その中に砂糖以外の素材の甘味が見え隠れしながら浮かび上がってくる。ココナッツの特徴的な乳臭さも面白いけど,芋系の重い甘さもたまりません。このミターイというスイーツ系列,やはり他と一線を画してます。
 驚いたのは「お焼き」みたいなたこ焼き状のもの。路地裏で売ってた安物なんだけど…韓国のホットックそっくりなんですね。スパイスも,ミターイ風の甘さもなく,小麦の自然な甘味を押し出したシンプルな味わい。
 これを購入したのは,実は,街中の複数の店を見かけたから。手作業じゃなく,どうも(恐らく韓国と同機種の)自動製造機で作ってるんだけど,安いのもあってだろう,かなり普及してるんですね。
 経緯はどうあれ――カルカッタの焼きそばと同じく,こんなに異質なもの,というか既存の味覚と共通性が全くないものをすんなり受け入れちゃう。この辺りは,恐らくインドの別の一面として明確にあるんだと思います。そしてそういう節操を超越した柔軟性ってのは,この国の未来において,時代が加速すればするほど「強み」として威力を発揮するはずで。
 そのようにして,今ここに広がってる20年後のバーラトも形作られてる。そんな気がしてならないのです。
 とか思ってるババールガンジには,今も変わらず野良牛が悠然と闊歩し,道には特大ウンチが撒き散らされたりしてて――この辺がまた堪らなくインドなんですけどね。

[今期計]
消費1800/収益2460
負債 660/
[今期末]/負債 320

▲何かのお焼き