外伝11 獨 When all else fails,start running.
プラハ→ドレスデン

▲市民会館のBreakfast Sets

 時差ボケに効く薬,どこかに売ってないですか?
 4回目の朝,やっとこさ,まともに目が覚めるようになった。
 7時12分,地下鉄I.P.PavlovaからC線でMuzeumへ,A線乗り換えでMustekで下車,徒歩すぐ。
 市民会館。チェコ語ではObecni dum。おべつにい,どぅむ?「どぅむ」の辺りが「ドーム」の意味なんでしょうか?由緒正しいレトロ建築でした。
 ここの一階でモーニングを頂くこととする。
Breakfast Sets
 選んだ「Czech」(多分Cセット)は,メニューには英文でこんな感じに書かれてた。
「filter coffee or tea,bread & rolls(homemade),butter,honey,jam
+100g fine sousage,mustard,gherkin
+apple strudel
190kc(7.90ε)」
 3本も出てきた「ファイン・ソーセージ」は…日本の高めの市販品程度かのう?
 パンは4種類あった。特筆すべきは黒っぽいパンで,穀物臭がワーンと鼻に寄せて来る。全般的にハイレベルではあった。
 一番びっくりしたのはこれに付いて出てきたジャム,バター,蜂蜜。
 ジャムのレアな手作り感ある旨さはクルムロフで体験済みだけど,アルペンバターと表記されたこのバター――感動的な香気です。清々しさがスゴい。
 加えて蜂蜜。甘味の奥で,ムン!と深々と拡散してく苦味に似たコクがあって…広島のドイツパンの店,バッカライアインで売ってたが,ヨーロッパの蜂蜜ってホントに違うらしい。
 これらがまた,黒パンめいたパンに絶妙に合う。
 コーヒーは,やはりまろやかな苦味のタイプ。彼らの好みはこのタイプらしい。
 満足!
 にしても…誰もおらんなあ,店内。座席数100を超える広いスペースなのに,現段階で客は数人。不人気な店とは思えんから…きっとチェコ人にとって「モーニング」とゆーのはあんまり一般的な朝食形式じゃないんだと思われる。かと言ってほかに朝の賑わいのある店もないから,朝食から外食って習慣自体がないと見えた。

▲Grand cafe prahaのBohemia pieとKafe

 旧市街広場に出る。
 パティオに面するグランド・ホテルの一階に目的地発見。
Grand cafe praha
Bohemia pie
Kafe 114kc
 暗めの木目調のいい雰囲気ながら,開店直後のガラガラ店内でしたが――結果的にカフェ三昧だった今回の旅行の,これが最初の食経験になりました。
 コーヒーは大したことない…と最初思った。
 パイは甘酸っぱかった。ソースに絡まった杏と,ベリーに似た黒々した果実が真ん中に居座る。これだけで十分複雑な酸味なのに,さらにカシューナッツが4つ乗って…何が入ってんだ,この生地?何かの豆が砕いてあるらしく,豆の香りも複雑に漂う。ソースも何か分からないが,卵とは異質な…カスタードに似て非なるもの。
 とことん複雑な甘酸っぱさなんである。
 そして,これらを味わいながらコーヒーを頂くと…!?
 フワリとした渋み。それに,まろやかなコクが非常に程よい。いいぞ,これ!
 付いてきたコーヒー同量ほどのミルクも気になった。さっきのバターの衝撃もあったんで入れてみたら…スゴい!何だこのミルクとコーヒー?渋みも乳甘さも素晴らしく芳わしいぞ!
 このミルク…さらに気になって,こっそりミルクだけを口に含む。
 !
 濃厚ってんじゃない。甘味の尾が煌めくというか…後味がスゴい清涼感!そう,さっきのバターと通ずるこの薄く染み渡る清涼感,これが日本の乳製品で味わったことのない味覚なんである。
 そうか,忘れてた…ここはアルプスの麓なんだな。つまりハイジのおじいさんのミルクなわけで…。

 そのまま南下するとベツレヘム礼拝堂って場所に出た。結婚式か何かがあるらしく,ユダヤ式の堅調で古めかしい礼服に身を包んだ一群の間をすり抜ける。
 間違ってカレン橋脇に出た後,22番トラムでI.P.へ戻る頃には10時を回ってしまった。
 トラム,今回は中ほどの席に座ったからよく見えたが,前方の電光表示に次の駅名が一応出る。アナウンスもゆっくりなので十分聞き取れる。ただ一駅間の距離が長いから,降り間違えた時歩く距離はちょっとショッキングだろう。香港の5倍,広島の3倍はありそう。
 街の広告には外資がやたら目につく。コーラ,ケンタッキー,マック…今まで見たヨーロッパで一番アメリカに侵略されてる印象。ひょっとしたら今,旧東欧全体がそうなのかも?
 10時40分,宿をチェックアウト。――精算済って意味なのか「Everything is OK」とオバチャン,ニッコリと笑顔。チェコ人ってホント,静かな笑みの社会だなあって印象。
 駅のチケット売り場へ。日本並みの混み具合ですんなり買えた。
 一番早い便は12時半…って駅で待つには大きい時間だな。コルナの残金ではギリギリ足らず,ユーロ払いしたらコルナがかなり余ったし――こうなると昼飯はプラハしかないっしょ?
 ちゃんとコインロッカーもあった。小さいのが600kc。筐体にリュックを放り込んで,昨日の一銭定食屋へ再突入!

▲今ひとたびのコルラのご飯

 11時15分にはテーブルに着けた。
 今回はレシートをくれた。それによると――
Lahudky 51.5kc
Rohlik selsky 5.0kc
Cockova polevka 25.0kc
Brambory 19.0kc
Krkonossky gulass 69.0kc
 これにサービス料と税金らしいものが加算されてる。
Z.DANE 20% 142.1
DPH 20% 28.4
 これで合計(CELKEM)171.0――ということになってるらしい。
 折角メモっといて何ですが,じゃあこのうちどれが何なのか?ってことになると…やっぱしさっぱり訳分からん。「Krkonossky gulass」はビールだと思うが。
 とにかく食ったのは「レンボン」(と売り場で聞こえた)のスープ,ビーフストロガノフみたいなの,チキンの酢の物と小パン。
 ビーフストロガノフ(?)は食べ慣れた味でした。ただ深みはかなりある。
 パンも旨い。噛み締めると,米みたいにある瞬間パッと麦の穀物味が爆発する。
 サラダ。チキンの他にパプリカとモヤシに似た野菜が入った,
 少し唐辛子の効いた酢の物。こんなんが東欧にあるのか?奇妙に和風に似た味覚でした。
 あるのか?と言えばこのスープです。複雑な青臭さの豆味。グリーンピースに似たのも混ざってると思うが…突拍子もない類推をするなら…インドのダールそっくり!「豆食文化」のエリアってあるんだろか?
 今朝のボヘミアパイから思ってる,さらに突拍子もない思いは――チェコの食文化って何か…センスのタイプ的にアジアと繋がってないか?ってこと。この,何かスゴく懐かしく感じられる味わいは…。
 気の迷いなんだろうか?ハンガリーならともかく,チェコとアジアの関連性なんて――?
 とか,何とも歯切れの悪い戸惑いの中で終えたチェコ2泊のつまみ食い滞在だったんでした。

 昨日買って飲め切れずにいた変なコーラ「KORUNNI」を傍らに,国際列車の座席で発車を待ってます。
 この名前は日本語の「苦労人」から来ているそうで,チェコ人の堅実さを物語っているという(嘘)。
 12時34分,定刻よりちょっと遅れてプラハを発。
 この道行きではエルベ川の眺めが素晴らしいと聞いてたから,右の窓側席をキープ。方向転換が懸念されたけど,結局最後までなくてちゃんと川が見れました。
 12時45分。既に街並みが遠ざかり,エルベ川が右手に見え隠れしてきてます。
 12時50分。エルベが雄大に蛇行し始めた。堤防はごく低く,近いとこでは車窓から30mほどのところにエルベの左岸。灌木が気まぐれに並ぶ河原。
 ホントに流れてるんだろうか?と疑われるような,たおやかな流れです。
 13時01分,Kuralpy通過。久しぶりにトンネルを通る。川の両岸を森が覆う景観が増えたが,工場も時々見える。この辺はあまり古い生活エリアではないようだ。
 13時28分,工場だらけの平地エリアに出た。Lovosiceと読める駅。やはりロボが多いのか?
 2コブの小山を左手に見て進む。右岸に尖塔の一際目立つ美しい集落。全般,山がちになってきたようだ。
 13時33分,右岸に広い山裾。緑の多い,赤と灰の屋根が目を引く,ため息が出るほど美しい集落。戸数50足らずか。
 ここから,こんな集落が幾つも続いた後,次第に別荘らしき建物が増え始める。
 川を行く輸送船もかなりの数が見える。動脈としての機能も未だ生きてるらしい。川遊びらしきプレジャーボートも目立ってきた。
 13時40分。ダムを通過。高低差5mほどと見える小規模なもの。周囲の街の規模も大きい。橋の数も格段に増えた。この雰囲気の変わり方は…もう国境近くか?
 13時43分,Usti nad Laben。hlavni nadraziと併記があり,「などらじ」は多分チェコ語表記だから,まだチェコ領内。地図で見ても確認できたから,一つ別の都市圏が形成されてる模様。
 街を過ぎると案の定,一気にさっきまでと同じ農村風景に戻った。
 13時51分,前方に岩盤の堅そうな山。エルベはこれを大きく右に迂回。線路もこれに従って回りこんでいく。
 美しい。
 13時53分,Povlryと読める駅通過。
 そうか。どこかに似てると思ったら,広島の三次から吉田に抜ける辺りの可愛川添いの蛇行に似てる。

ゲンゼディープ Gansediebのドレスナーザウアーブラーテン Sauerbraten
 例によって本文中の記述には登場しません。次章を待て!!

 鼻風邪がぶり返してきた。
 どうもこっちの列車内は弱い。白人様御専門のウイルス様方が活発に営業中みたい。
 そう言えばチェコ人…斎藤夫婦は鼻摘んでたけど,ルーマニアほど強烈じゃなかったな。――腋臭。
 13時58分,右岸に工場群とその従業員団地らしきものを通り過ぎる。
 突然。曇天が裂け,陽光の塊が地に満ちる。
 14時丁度,Decin着。地図ではチェコ側最後の街になるはずだから最後にもう一度だけ突っ込ませて頂く――「でちん」?
 この街で大半の客が下車した。荷物も持って行かれてるし車内に係員も来ないからイミグレではないようだが,そんなに大きな街にも見えない。なぜでしょう?
 14時5分,列車動く。行く手,南に晴れ間が出る。トンネル2つ。
 にわかに,現金なほどエルベの護岸が堅固になってきた。
 14時9分,再び両岸に森。というより谷川の風情になった。山肌には崩れた岩肌をむき出しの所も見えてる。見事な色彩の地層が1km以上続く。この安定度は日本じゃ考えられない。この地塊が老いた,動かぬ大地であることを物語る。
 ひょっとしたら。西洋の石の文化と日本の木の文化が,お互いの自然の性格を人間が「写実」した,みたいなことを言うとき,あの性格ってのは,災害や人為による自然の可変性,つまり「人間を相手にしてくれる」度合って尺度も大きいのかもしれない。
 右岸,木陰の細道が続く。その道を絵のように走る自転車を,列車が追い越していきます。陽光いよいよ厚く重なる。
 あの道を,自分の脚力で自転車を駆れたら…という夢想が下車を誘惑する。
 kで始まる駅通過。
 ここから駅名表示の形態がはっきりと変わった。
 14時25分,Bad schandau。さっきと違う車掌が検札にやってくる。ジャーマンレイルパスを示してみると,微笑でチェック。「ダンケシェーン」と去る。
 2日振り。ドイツに入った。

 突如,POLIZEIと表示された防弾チョッキの強面2人が登場。
 パスポートチェックを始めてるらしい。が,なぜかわしは飛ばされました。
 大丈夫か?ひょっとして…わしチェコ密入国してたことになっちゃうんじゃないか!?入る時にもパスポートに全く触られなかったんだが!?
 ま…終わったことじゃ。エルベが平和だし…まあいいか。
 今,水平距離で10mほどのとこを流れてんのよ。
 ただし――下流になったからか,あんまり綺麗じゃなさそう。
 この水路網を縫ってゴルゴ13がボートやら潜水やらで現場からの脱出を図る話があったが…僭越ながら,潜った後はよく目を洗うことをお薦めしたい。
 左岸直下に船着場と公園。陽光うららか。
 車速が一気に増すと,エルベは車窓から消えていきました。
 今,臨席に座ってた東洋人の女の子をポリツァイが連行して別室に消えた。何だ!?
 共犯みたいな疑いがかかるかもと身構えたけど,幸い,やはりわしには何もない。
 ドイツ入りして立て続けに事件性のある出来事が続く気がしてちょっとドキドキだが,まあわし自身は罪トガにも問われてない。少し寂しい。
 15時ちょうど,列車は最新建築の塊の中で止まった。
 ドレスデン到着。さて宿は取れるかいな?

Cafe Schinkelwache
Tasse Kaffee 2.20
Original Dresdner Eierschecke 2.90
次章を待て!!

§SixWord:ほかのすべてに失敗したら,走ってみろ。