外伝06@(@_08_@) 粥と塩豆ジャン (@_08_@)

 前回の台湾まで,しばらくドップリ浸かってたのがこの中華粥です。
 日本の白粥にちょっと変わり種も入れてみましたけど…って感じの北京系の中華粥じゃないの。流石に米食の伝統のある南中国は粥っても全然別モノ!もう米は食材の一つって感じで,他の食材の味覚とチャンプルになってて――大体「広東粥」って看板の店だったけど,中でも豚の内臓肉でダシをとりピータンをアクセントにした皮蛋痩肉には完璧にノックアウトでした。
 実は今回もその辺がメインになるかな…ってゆー漠然としたイメージがあって,この「粥」の章を設けてたんだけどね。…何か牛肉麺と同じで,他のがスゴ過ぎて…気がついてみたら結局1回しか食べてなかったッス。
 直接に粥の代わりにハマったのは塩豆ジャンでした。今回はそれも交えてお話しやーす。

 3日目,忠孝敦化駅から南へ1本入った香港広東粥麺粉飯点心名店。
 …を目指して行ったんだけど,この店,どーもこの4月に移転したらしい。ガイドブックの住所へ行くとシャッターが降りてて貼り紙が一枚。移転先の住所が書いてあるけど,やたら細かい住所みたい。地図と住所を必死で突き合わせてたら店の前の行商のオバサンが話しかけてきた。
 「その地図は分かりにくい」これがインドなら明らかにペテンだけど。「要するにこの裏道を少し入ったとこが新しい店だよ」
 その通り行ってみると――「広東料理」と看板出した店が確かにありました。そんな馬鹿高い店でもなし,まあ騙しっぽくはないな…ってまだ疑ってたりしながら注文してみる。
白灼魚片 110元
滑蛋牛肉粥 90元
 白灼魚片は基本的に白身魚を焼いたもん。あっさりした中にも薄い絶妙な醤が香り立ってました。
 粥は,同じ値段で皮蛋痩肉粥もあったんだけど,今日はあえて経験のない滑蛋ってのをチョイス。
 結果的にはまあまあ正解でした。衝撃ってよりも,とても幸福感のある味。牛肉もシンプルな味付け。碗の底に隠れてる黄身を溶かすと,粥全体にまろやかな甘みがパッと広がっていきます。
 日本風中華はもちろん,四川や西安のコテコテ×ドロドロ=中華とは…もー全く別の星の料理です。


▲広東料理 滑蛋牛肉粥

 とゆー風に,感動的な粥には出会えたんですよ。出会えたんだけど…今回の衝撃はこっちの方がちょいデカかった…
 [歯減-シ]豆ジャン。
 日本ではほとんど知られてないし,わしも知らんかった。甘くない,塩味の豆乳です。っても分かりにくいから,以下「シエン豆ジャン」と略しますね。

 3日目,中正記念堂近くの盛園豆[将/水]店。
 記念堂脇の閑散とした交差点の道端にポツンと建ってる小屋って風情。早朝から開店してる典型的な早飯屋。駐車場はない。人通りが多いわけじゃないけど店頭は常に賑わってて,バイクとかチャリの客がサクッと腹に入れては出勤の途につくっていう感じ。実力がなきゃ持たない立派ね。
 まず多彩なメニューに狼狽しました。
[舌甘]豆[将/水] 20元
同 加蛋 25元
[歯減-シ]豆[将/水] 23元
同 加蛋 28元
米[将/水] 20元
油[イ1条](以下「油ティアオ」と略す) 15元
などなどなドナドナド~ナ子牛を載~せて~。って感じで(?)25種類程度のメニューがある。
 結局安易なパターンで頼んだ。豆[将/水]と油ティアオ。
 するとオバチャン,もう日本人と見透かして「アマイ?カライ?」と訪ねてきます。エエッ?どゆこと?ちょっと通ぶってみたくて「カ…カライ」と答えてみたら…成り行きでシエン豆ジャンが来てしまったのね。
 結果的に,どーも日本人が言う豆ジャンは[舌甘]豆ジャンらしい。「アマイ」の方。ダイエットに良い低カロリー食品とか言って飲んでるあれは,台湾では「甘モノ」なわけだよ。
 …とか,何となく台湾人気取りで口にすると――何じゃこりゃ?!?
 ドロドロです。シンプルな塩味じゃなくて,ネギやショウガや何やらをグチャグチャにぶちこんで煮込んである。さらにダイエット的には許し難い油条が,これらから出来た液体を吸いまくってブヨブヨになって碗に満ちてる。油条は別に頼んだのに…しょーがないから別買いの油条をちぎって投入するとさらにブヨブヨに,さらに油ギラギラのコテコテ豆乳に…
 西欧のポリッジみたいな,悪く言えばゲロっぽい,日本人的にはちょっと受け入れがたいシロモノだぞこりゃ。
 て感じで――第一印象はヒジョーに最悪。グエエエ~ホントに豆乳かあ?腐ってんじゃね?二度と頼まんぞお…
 けどこれが…
 あれ?確実にゲロっぽいんだけど…あれれ?いけんだろ…ヤバくね?こんなもんを美味いと感じるなんてさあ…
 後でジワジワ腹に応えてくる。胃からこみ上げる満腹感は確かに豆ジャンのもの。視覚も味覚もゲロゲロなのに,内臓が喜んでしまう…やっぱりこーゆーのも美味さってゆーんだろな…
 ざわつく店の片隅で,どーにも落ち着かない味覚に戸惑ったわけよ。

 4日目,復光南路の泰老師豆花。
 陳家涼麺に向かう途中,9時頃の出勤時にえらい人だかりが出来てた。盛園に負けず劣らずのコテコテ大衆店,お世辞にもそんな小綺麗な店じゃないのに…なんで?そんなに美味いってか?
 帰り道に通りがかると,既に1時間は経ってるのにまだ客足は絶えてない…でも,ややすいてきたか?ならば今がチャ~ンス!!


▲泰老師豆ジャン店の店頭光景

 新商品開発にも意欲的な店っぽくて「茶[将/大]」なんてのにも興味をそそられたけど――やっぱり。シエン豆ジャンの魅力には負けた。
[歯減-シ][将/大]豆花(35元)
 この店ではこの呼び名でした。
 ここの豆ジャンには,見た目すぐ分かるネギの他,ザーサイが入ってるらしい。これとゴマ油が本来の甘味のみの豆ジャンに溶け合って,あの胃の底に響く味になるみたい。
 盛園と同じく油条の千切ったのが浮かんでるアツアツの熟々。ただ,油条が違うのかごま油の量が違うのか,盛園ほど油ぎってない分,わし的には味わい深く頂けました。
 もう舌がこの新味覚を学習したらしく,今回はもうヨダレたらたらの舌鼓状態で啜っております。
 そんでやっぱり――豆ジャンや 腹に染み入る 満足感(芭蕉)


▲泰老師豆ジャン店の塩豆ジャン

 6日目早朝,「歩き方」曰く豆花屋が集まってるという中正橋付近をうろつきに来ました。
 結果は惨敗。あんま他の町中と変わらんど!「歩き方」全部がとは言わんけど,台湾編はどーも完璧に信用するのはコワい。団体ツアーの定番所を押さえてる臭いなあ…自分の目と足と舌でしか,結局本物には出会えないみたい。まあ,それが旅行ってもんだろけどさ。
 で…ここまで書いといてナニですが…結局「歩き方」にあった世界豆ジャン大王に入ってしまったわしってどうよ!?いやあ,何だかんだ言っても目安にはなるんだよね~やっぱり歩き方は最高さあ!ヒューヒュー!
シエン豆ジャン 20元
[米需]米飯園 35元
 ここのシエン豆ジャンは,一番素直に豆ジャンで勝負してる感じ。ゴマ油は香り付け程度,ザーサイの形跡はついに見つからず。じゃあネギと油ティアオだけ?ってことはないはずだけど…食べやすくて味も一流。流石は我らの歩き方だぜ!
 恥も外聞もなくなったとこで当社比ですが――ティエン豆ジャン(日本の豆乳)に比べてシエンは2倍は腹に応える。応えるだけじゃなく満足感が凄い。カロリー辺りの満足感なんてのを数値化できるとしたら,おそらく優勝候補です。
 [米需]米飯園も凄かったんだけど,これは「早飯」の章にて。


▲世界豆ジャン大王 塩豆ジャンと粽

 「甘さがなければ辛さは生まれないんですよ」大阪は新福島の南インドカレー屋チョウクの亭主は言いました。
 シエン豆ジャンの味覚,これを何て言うんだろ?「シエン」と言いながら,単に塩辛いわけじゃない。豆乳本来の自然な甘味はもちろんあるわけで,普通は豆乳最大の魅力であるはずのその甘味をあえて後ろに控えさせることで,あの複雑な,シエン豆ジャン独特の「塩辛さ」を作り出してるところが,この料理の凄みなんだと思う。
 甘さを引き立てるためにあえて辛味を入れることは,日本料理でも常道。卵焼きにちょっぴり塩を入れるのがそうだし,ゴーヤチャンプルーのゴーヤの苦味もそーゆー使い方。アクセントとして機能するわけで,何より豆腐だってニガリを入れて豆腐本来の甘さを引き出してるわけよね。
 シエン豆ジャンではそれを逆手に取る。豆乳の甘味をアクセントに,料理の辛味と苦味を最高位に転じさせる。
 日本料理にも元々はあったんだと思う。京都の食を追いかけてるうちにそう思えてきました。例えば――ぶぶうなぎは最も古いうなぎの調理法ですが,あんなの焦げた苦さ以外の何ものでもない。でもうなぎの旨味がバックにあるから,その苦味が旨い。鮒寿司もそうだし,今でも一番受け入れられてるものとしては漬け物だろう。あんなの外人にとっては,臭い以外の何物でもないはずです。
 そういう味覚は,既に触れたように,生物学的に逆行する分,食文化が一定のレベルに達した証として生まれてきた「ゲテモノ食い」なんだと思う。そして,その類いの味覚の喪失は,とりもなおさず味覚の弱体化を,集団単位なら食文化の衰退を意味する。
 他人事じゃない。わし自身,これほど何度も台湾に遊んでて,やっと今回この料理に目覚めたわけで――要するにこれまで長い間,この苦味と辛味を理解できずにいたんだから。
 そのことは,ルー味を知るに至ってさらに思い知らされることになるんですが。

 最終日の朝飯に,再び盛園のシエン豆ジャンを頂きにまいりました。
 この国の食文化は大丈夫です。この朝も店内を埋める人々を見渡しながら,そう確信した次第です。
 さて…我がニッポンは如何に?