外伝06@(@_10_@) 定食 (@_10_@)

 3日目の昼,南京東路の水[サ+名]楼餐庁へ。
 かなり高級感ある店です。黄色の唐草紋様のテーブルクロス,黒っぽい木製の椅子。けど落ち着いてランチできる丁度いい気取り方。
 花茶が出る。ポット出しで飲み放題,かなりの高級ジャスミン茶。
 客層は,金持ちセレブのちょっとイイもん喰おか?って2~3人連れか,白髪入りかけの油の乗ったカッターシャツ族のビジネスランチ数人組ってとこ。まずまず流行ってるらしく,正午を過ぎると一気に満席になりました。
 168元の商業午飯なるセットがあった。ビジネスランチって意味らしいけど,そのビジネスを「商業」と訳していいのか?…ってゆー語学上の問題はともかく,まあ商業午飯を頼んどこう。
 まずサラダ。普通のシーザーサラダだけどレーズンが入っててなかなかのアクセントになってる。
 ご飯に続いてメインが次々来る。
 牛肉の煮込み。
 筍とチャーシューの炒めもの。
 瓜の海老煮込み。
 鶏足肉スープ。
 これにコーヒーか紅茶が付く。このステイタスで,このメイン4品頂いて日本円で約500円はお得感バリバリっす!


▲商業餐4品

 料理の形態としては,冷菜,煮物,メインの肉料理,湯(汁モノ)。
 核になる食材としては,豚・海老・牛・鶏。
 味付けのタイプとしては,上海・広東・西域・北京系。
 正直,味は特級品ではなかった。不味くはないけど,どっちかってえと上品さで売ってる店らしい。でも,このどの角度でも多彩に配置されたカラーリングとゆーか,それぞれ対照的な料理でお膳を構成する感性――こーゆー懐石みたいな「絵心」を,中華料理も持ってるもんなのか?
 何より…失礼ながら漢民族にそれが体得できるもんなのか?少なし大陸の漢民族は絶対理解しないと断言できるけど,一つ海を隔てただけで。台湾人にはそれが可能なわけ?
 つまり――食のバランスを売るって感覚がです。
 この章では,料理のカテゴリーってえよりお膳の構成力みたいなとこにスポットを当てて,台湾料理に考えたことを書き連ねてみます。

 5日目,京兆伊。
 下午餐のスイーツなんで中華スイーツの章でも触れたけど,ここでは中華のバランス感の観点からね。


▲京兆伊の午餐

 まずお茶。これは最初に出る普通のお茶とは別に,八宝茶が出る。これ自体興味深いけど詳細は客家料理の章で触れるけど楽しい料理です。ただし,メニューに「京式八宝茶」とさめてるように,元の大同辺りの郷土料理を宮廷料理風にアレンジしたもの。
 次に,サイコロ大の小さな菓子を3種置いた皿。リュー打ダグン,蓮蓉巻餅,ワンドオホアン?半分位の字が日本の漢字じゃないし,唯一記載可能な蓮蓉晶餅も「ハスあん入り水晶餅」って訳してる例もあるけど…水晶?とにかく…それぞれもの凄く個性的な味覚が,もの凄く凝縮されてましたわ。
 この上にメインが3種。果仁[女乃][火各]ナット脂ヨーグルト――とにかく何か濃いヨーグルト。竹[竹/生]南瓜羹キヌガサタケ入りかぼちゃスープ――まあパンプキンベースの野菜スープでしたわ。京味葡萄[酉+ノギヘン]餅シンリメイポー――肉入りの月餅か饅頭みたいな…まあ簡単に言って理解不能ですわな!
 最後に菓子パン的な饅頭1つ。八宝高頭って名前でしたけど,こっちの「八宝」は,アンに色々入れてまっせえ!って意味らしく,これまたどこでも経験のない複雑怪奇な美味。
 計8点の構成です。
 日本や欧米の「スイーツ」とは全然違う感覚でしょ?
 書いてて疲れてくるほど,それぞれのメニュー自体が既に小宇宙を成してる。いわゆる菓子の範疇外の食材やスタイルまで横暴に取り込んで自由に遊んでる。
 そもそも「中華スイーツ」なんてカテゴリーは,中華に本来ない。「小[ロ乞]」という,食事にするにはカロリーと栄養素に欠ける非効率な遊びの「おやつ」って概念のみ。中華ではラーメンや小龍包なんかはこれに含まれる。
 逆に言えば,日本や西洋の食事のカテゴリーまで相当はみ出してしまうのが中華スイーツ。
 さらにそれらが,茶‐前菜‐スープ‐メインと重層的に構成されてる。当然,互いにカブることなしにです。それぞれが個性的な上に,各々引き立て合ってる。このバランス感覚とコスモスの構成力。
 おそらくこーゆー高級おやつは,明とか清の時代の王侯や金持ちがおやつとして食してきたものを模したものなんでしょうから,この構成もその歴史の中で成立してきたもの。
 ふと想起したのは,北京の町の構成。壮大な規模の王宮,その周囲に配した池,外周を巡る方形の外壁,四方に置かれた壇。あの形而上学的な,はたから見てると危険なほど空虚で巨大な都市の呪術。そうだった――この漢民族って社会集団は,作り出してきた概念装置のスケールではインド人と並ぶ実績を持つ民族なのを…てっきり忘れとったがや。
 ただ,まだまだ今のところ,中華でこーゆー絵心のあるお膳ってのは珍しい類です。京兆伊のは宮廷料理の歴史が紡ぎ出したのを忠実に再現した,言わば生きた化石のお膳なのであって,その構想力が現存してるから出来た料理じゃない。京都のようなリアルな創造の場って感触はなかった。いくら金を積んで満漢全席とか食べても,味はともかくその意味では同じだと思う。やはり水[サ+名]楼のような膳の演出力は中華においては希有な存在。
 後日談になるけど,京都の中華はこの絵心において,本国にない次元まで達してると感じてます。
 しかしながら――水[サ+名]楼みたいな店が,わしみたいな観光客にも発見できる程度には出現し始めてるのも,また現実の台湾の姿。
 さて。日本でそーゆーあるべき食事の創造と実験の現場と言えば,いわゆるカフェですよね。
 最後に紹介するのは,カフェとして成功してるあるお店。中華ではないんだけどね。


▲中山北路 ナニナニの親子蛯麺

 7泊目,中山北路三段のNaniNani。
 晴光市場の対面,地下鉄で言えば民権西路から北に,微妙な位置の小さなロータリーがある。その脇手に忽然と見つかる店でして,色んな意味で中途半端で見つけにくい。観光客の導線とも地元の往来ともズレた場所です。
 でも,逆にこの場所ゆえに,ハマってしまうとこんな心地よいエアスポットな場所はない。この店のことだから,ひょっとして計算してこの位置なのかも?
 店内は明るい。抽象画めいた粘土色の壁面。穏やかでハイソな雰囲気。だからってあんま気取ってもおらず,よく気も使ってくれる。お冷やがなくなるとサッと継ぎ足しにくるなんて漢民族の店じゃ非常に珍しい配慮です。
 何時間でもたゆたっていたい空間。店名の「NaniNani」は明らかに日本語だけど,日本人スタッフらしき人はいない。日本滞在経験のある台湾人が企画したものか?
 料理もかなりコッテる。パスタ中心だけど,中華の要素を織り込んだ面白いメニューが多くて飽きがこない。
小龍蛯親子麺套餐(220元)
 これにプラスでエスプレッソ(60元)を頼んでみた。流石に値は少し貼るけど850円程度。
 この9日間で唯一の洋食でした。
 まあ…何でこの漢字がパスタなのかはよく分からへんのですけど…巷じゃあ「義太利麺」と書いて「イタリー麺」,つまりパスタって表現もあるにはある。ただ,中華麺は同じ小麦粉麺ってことで特に呼び名を変える必然性もないってのもまた説得力あるにはある。
 それに「小龍」とあるけど小龍包とは何の関連もなさそう。この2文字の意味は最後までよくわからんかった。
 「套餐」ってのは「セット」。サラダとスープとパンが付いて出た。これらもなかなかどうしてイケてる!スープは中華系なのに合うんだなこれが!!
 ってゆうのも残る「蛯親子」。蛯の親も子も蛯だろ?と思いつつ,オレンジ色の不可解なパスタを頬張ってみると…なるほど!親子かあ!
 蛯の味噌と身なんだな!味噌がクリームの中に溶けて濃厚に絡まり,滴るダシには蛯の身から滲み出たエキスが軽やかに踊り出す。中華なのよ!!でも麺は見事にアルデンテなパスタで!
 このイタリアと中国の中間にして融合した経験のない味覚!こんなに奇妙な取り合わせなのにまるで違和感なし!そのオリジナリティが,サラダとも中華スープともパンと実にマッチングしても~たまりません!
 口内に残る蛯の味噌の舌触りの上にエスプレッソが流れても…これまた妙~なコラボレーション。スタバ並みの値段だけあってエスプレッソそのものも最高でした!
 こーゆー味覚の絵を描けるってゆうのは…日本なら京都しかない。ここには台湾の西洋料理の実力を見に行ったつもりでしたが,台湾でこの類の創造力を見せつけられるとは!
 明らかに特異だけどね。でもやっぱ,こーゆー変化球も繰り出せるほど,台湾ってゆうのは構成力の可能性を持ってんのね…いや意外や意外!

 
▲フォルモサ看板

 台北ではTシャツも売り出されてて,わし思わず買いそうになってじいました。――フォルモサのオヤジ顔!
 いーよねコレ!
 椰子汁爺と並んで,今回脳裏にこびりついた顔ですねん。
 フォルモサは定食屋チェーン店。魯肉飯と四神湯が売り物らしく,お持ち帰りセットまで売り出してる。
 けど,店内でのメインは定食類。例えばこんな感じ。


▲フォルモサ超値套餐ポスター

 結局ここでは食わなかったんすけどね。
 でもさ。セットの構成はかなり良さそうだし,こーゆーバランスの一品を出すセンスが出来てきてるのは面白い!一昔前には台北にもちらほらある吉野家でしか見かけなかったセット食が,台湾版で登場してきてる。九如にしても阿宗麺線本店にしてもそうだ。中国本土にはちょっとなかったし。
 元々栄養的に優れた食事には長けてる台湾料理。今後の展開が楽しみ…ってゆうか,次回は絶対フォルモサ食うぜよ!