外伝06@(@_11_@) 素食 (@_11_@)

 さて上海で熱狂した素食です!
 台湾でも「素食」ってゆう店名は何度も見かけてました。だけど,朝から肉食ってた頃はとてもじゃないけど近寄る気さえしなかった。一度として立ち寄ったことありませんでした。
 今回気をつけて見たら――あるはあるはもー目白押し!大陸の比じゃない!大陸ではごく一部の仏教徒の食事だけど,台湾では既にファッション。ほぼ西欧のベジタリアンと同じセンスだと思う。少なし日本よりはるかに一般的です。
 例えば,母の日のプレゼント代わりにこんなランチの催しとかもありました。


▲南京東路 長寿素食の母親節セットポスター

 だけど,圧倒的に多いのは,街角の素食ビュッフェ。まずこれにハマりました!
 なぜか台湾にこれだけ素食店があふれてんのに,ガイドブックにはほとんど紹介記事はない。1食300元レベルの高級店ばっか載ってる。ただ,街を歩けば人気店は一目瞭然だし,そもそも普通の店以上にハズレの確率は少ない。やはり熱心な信者の経営してるとこが多いらしくて,安い上に誠実で家庭的な味がメジャーなのよ。


▲三素素食館 ビュッフェのプレート群

 武晶街,明星へ行った時に見つけた繁盛店,三来素食館。
 「23年老年」の表示。弁当55元と,お土産に黒粳米20元を購入しました。
 とにかくいつ通ってもほほ満席!顔ぶれもバラバラで,若い層も常にいる。
 プレート数は50近い。ホントこれでもかッってほど種類がある。弁当箱で持ち帰りも可なので,イートインは客の半数位か?このプレート群がキラキラ輝く空間に,中国語の仏教の歌が延々BGMでした。
 観光店みたく肉に見せた技巧的な料理は,そんなに多くはない。野菜や穀物で素直に美味い料理が中心。そんでこれが!!ホントに多彩に美味いんだ!


▲三素素食館 ビュッフェでの初回の一食

 肉もどきに使ってあるガンモドキみたいなのにはもー完全にハマってる。今回はコンニャクの固い奴にルー味で味付けしたのにゾッコン。写真の手前の黒い奴ね。
 プレートの左手の巻物は,食パンに辛みをつけた野菜を巻いたものでした。サンドイッチのような中華の春巻き系のような奇妙な一品でしたが,やっぱりイケてます。
 一食目はこの類いを取り過ぎました。これらがあれば野菜もなんぼでもイケる!次からは普通の野菜もかなり入れるよにしました。
 あ~至福!極楽浄土へ真っ逆様!!やっぱ仏様の功徳は違うよね~とか罰当たりな満足感に浸りきりつつ出た店先に…わんさか並んでる黒い羊羹みたいな角柱。
 表示は――黒粳米餅?何だって?
 バンバン売れてるぞ?見る見るうちに減ってく。無くなりそうなとこで1塊だけとにかく買って帰りました。
 宿で開けてみる。――うーん…どうもグロいなあ…


▲西門街 県茶カップと三素黒米餅

 少し赤みがある。どす黒い艶めいた光をわずかに放つ,ブツブツした塊の外観はアスファルトを思わせます。
 あんだけの売れ行きだったけど…台湾人って変なんが好きだしな…でも!と…とにかく一口食ってみよやないか!
 ほお…!!なかなかですがな!
 黒色の米,いわゆる赤米です。対馬とかに残ってる古い米の種類。沖縄で一度だけ食べた赤黒米に似た味。ヤマトで言う赤飯のエグさをもっと強くした感じ。
 だけど,元々なのか加工によるのか,お握りと餅の中間状になってて,その粘りがエグさを緩和してる。むしろアクセントとして心地よい。
 表面片側にはゴマがまぶしてある。内部には微かに杏の酸味が香る。この複雑な甘味と充実した穀物臭が,餅の粘りと米粒のプリプリ感の中に充満してる。それらが口の中にとろける安息感。腹に落ちて醸す満足感。
 粳米餅は早飯の定番でもある。日本のどっかで食えないかなあ?


▲三素の素食プレート群をもひとつ

 [ネ羊]意素食天地。これも武晶街一段で,三素のすぐ近所。この界隈では2軒がしのぎを削ってる感じでした。
 味は似た感じだけど,どっちかてえと天地の方が抹香臭い…いや宗教的には熱心でオーソドックスな感じかな?


▲西門街 天地の素食ビュッフェの弁当

 モノはやはり美味かったです。
 今回は肉もどき半分と見たまま野菜半分で盛り付けてみました。肉もどきは,少なし今のわしにはもちろん肉以上に美味。和食の豆腐はもちろん島豆腐より美味いかも。豆腐の加工法に加え,おそらくルー味の使い方なんだろね。
 見たまま野菜の方もやはりそれだけでイケてた。肉汁の力は借りない!って覚悟がこの潔い綺麗な旨味を実験するのか?最近日本でもよくやる,ドレッシング代わりに柔らかめの豆腐を添えて食えば,そろだけで絶品でした。
 しかし…豆腐製品の割合高すぎない?もしかして――わしの選択がそうだってだけじゃなく,素食って豆腐があって初めて成立した,ヴェジvsノンヴェジを超越したカテゴリーと言えるのかもよ。
 ご飯も汁もつけずに弁当で持ち帰って宿で食べました。こんだけ豆腐が入ってんだし,当然ながら十分に満足満足!
 ちなみに。弁当箱に印刷されてるこの絵柄ってウイグルの北部にある景勝地・天地?あそこって,仏教的に意味のある土地なの?


▲西門街 素食天地の箱
 4日目,やはり西門街近くだけど,路地裏でふと見つけた玄徳素食って店。
 ここもご飯抜きで持ち帰りにした。75元。弁当箱いっぱいで日本円にして250円です。台湾の物価は大抵日本並みな中で,どんだけ良心的な営業姿勢であることか!
 ここが標準レベルなんでしょうか。ちょっと味は落ちるかな。けど,やはり誠実なスタンスで丁寧に作られた料理ってのはちゃんと伝わってくる。店員さんの対応も,日本のコンビニやファミレス的なマニュアル丁寧じゃなくて,ホントに誠実なのね…。
 最近は,料理の技術そのものよりそーゆー生真面目な味に魅せられるよになってることもあって――近所にあったら通いたくなる味であり,店でした。

 玄徳素食のある裏通りに,全真素食って店も見つけた。「真」の字があってもイスラムって意味ではないらしく,火鍋類の専門店らしかった。
 メニューは――
麻辣豆腐鍋120元
招牌素食鍋120元
養生薬膳鍋160元
韓式泡菜鍋160元
印度[ロ加][ロ利]鍋160元
 値段的にも客がつついてる鍋の実物からも,1人分としては多過ぎるんで入らなかったけど,素食鍋ってのは野菜オンリーの鍋モノ?何食わすのか興味はある。
 なるほど。こーゆーバリエーションもあるのね…。

 4日目。今や完全に観光地と化した永康街を再訪。天[缶套]ってゆー養生料理の店を訪ねてみました。
 320元の定食を注文。千円近い。日本でも並以上の値段。
 それで?――午後2時,客はゼロ。店員2人はやたら高飛車に説明しまくり,厨房に告げた後は絶えず大声で雑談に余念なし。高名だけど実はダメの料理屋さんの典型的なアラームサインが,あちらこちらに見えてますけど…まあ千円の話。この際じっくり観察してみまひょ。
 30分後,予想はまさに必殺必中。それも――結局,メインは鶏肉の鍋と焼き魚。疑似肉でも何でもない,ただの鶏と魚。どこがどうヴェジとか養生料理なんですかあ?全く不明なんすけど。鶏は博多の水炊きみたいで中華ですらない。そんで水炊きの方が美味い。しかも魚は…これ,ひょっとしてサバの塩焼きですかあ?
 で極めつけは。デザートに何がでたか?これもどっかで見たなと思ったら…え!?君はまさか…懐かしの石焼き芋君ですかあ?
 何が悲しゅーて…台湾まで来てサバ塩と焼き芋食わなあかんのやッああ!?わしは日本に帰りたくてたまらない単身赴任の駐在員じゃねえよ!!
 泣きたくなるほど寂しい一食でした…ある意味,今回の旅行のナンバーワン!
 どーも…少なしこの店での養生料理ってのは,器用に勘違いされてるみたい。一体何と勘違いしてんのか想像もつかんけど…とにかく,素食も含めた「健康食」が内容を伴わないファッション記号に堕ちてしまってる,まさに日本と同じ現象が存在し始めてるってことなのね…。それがこの永康街だってことは,日本か西洋のセンスからもたらされたものとも考え得るんだけど。
 原因はともかく。台湾の素食の立ち位置は,最初にも触れたように,揺らぎつつある。他の全ての伝統食文化と同じように。それでも他より――例えば日本食よりはるかに健全な推移で,スムーズに現代化してるんだろけど,この養生料理のよな訳の分からん亜流を生み出しながらのた打ってる。それは,カツ丼みたいな「日本食」を食ってるわしらと同じ混迷なのよ。


▲師大近くで見かけた健康素食の看板。台湾最大の教育者養成機関のこの街でも,素食の意味は問い直されつつあるんだな。

 6日目,忠孝新生駅近く,観自在素食館。
 科技大学の学生御用達の店らしい。昨日16時くらいに行ってみたら,閉まってた。婆ちゃんが掃除してたので「ダメ?」と残念そーな顔で訪ねると,婆ちゃん申し訳ない位に済まなさそーな低姿勢で「17時から開くからね…」
 今日は500元以上する素食バイキングを食いに行く予定だったんだけど,直前で急遽考え直して立ち寄ってしまいました。――違うだろ?街中の素食がやっぱり素食だろ!!
 ここも料理のプレートは30以上。野菜そのものから肉に似せたタイプまでホントに多彩な料理群。こちらは90元で弁当箱に詰め放題。
 「え!?あんた日本人?」レジの兄ちゃんがギョッとするから,こっちもビビる。そ…そりゃこちらはクリスマスに大晦日にドンチャンしてる不真面目な仏教徒ですけど…たまには功徳も積みたいんスけど…ダメですかあ?――やはり外人はまだまだひどく珍しいらしい。
 この日は宿の2泊目だったんで,宿に持ち帰って頂きま~す!

▲忠孝新生近く 観自在素食の弁当アップ

 ハムそっくりのとトンカツそのもののがあった。ハムの身はプリプリにみずみずしいし,トンカツの焦げ方はまさにそれ。高級素食店の技巧は感じられないし,いずれにせよこの値段だぞ?「これは…さすがに肉だろ?」
 …違うのじゃ!豆腐製品のハムと,野菜のカツレツ…。
 しかも,これが美味い!わし的には,もー肉以上ッス。肉もどきは元々,ステーキ的な赤身そのものよりもミンチやハムに似た食感だけど,観自在のは全く同じ。味は肉とは明らかに違うけど,こっちはハナから技巧的に似せる気がないみたい。その代わり,肉より美味い!いや…っていうか比べられないな…全く別の食材で,それが肉なしで十分なほど美味い!っていうのが正確。
 他の,特に何かに似せてない当たり前の野菜料理も…当然のように満足させてくれます。肉もどきもだけど,とにかくコシャマクレタ技巧のないシンプルな美味しさ!料理に染み出したその誠実なスタンスが,最高の調味料。
 この外伝の外で繰り返し書いてることだけど――肉や油や砂糖で安易に出した美味と,それらに頼らずに工夫と繊細さと誠意を注いだ美味は,全く違う次元の旨さで,かつ!!後者の深みは前者の比じゃあないっちゃん。直接は宗教的な理由にせよ,その制約をあえて己に課して成立するジャンルの美味。
 歴史を経てたどり着いたその姿が,日本にもぽつぽつある気取らない自然体のヴェジ料理の店,高知の「ま~る」や博多の「マナキッチン」とそっくりな味と思想と雰囲気に重なってくる不思議さ。
 多様なようで実は重なるかもしれない「普遍的な食事」のイメージ。
 様々に揺らぎながらも,それが今の台湾の素食なのかなと,わしの目には映りました。


▲台北の街角で見かけた素食