※後日談:振り返ってみれば,この10日ほどで台湾食総論なんて,何とも赤面の至りですけど……まあ書いてしまってるのでとりあえず読んでやってください……。
台湾の食。
これほど近くて何度となく訪れた土地が,いまさらこんなに実力を見せてくれるとは思わなんだ。
以上の14項は,けれど今回ある程度つきつめることが出来たものだけ。ある程度っても,最も恐れ入ったルー味にしても正味ラスト3日間追っただけ。この島の食文化はこんなもんじゃないと思う。その深みからしたら9日間なんて短か過ぎました。
まだまだ正体不明の物件や思考の断片はたくさんあったのね。次回以降への宿題として,そして今後この島を訪れる人への公案として,以下それらを断章としてメモっときます。
1日目。コンビニで買った恋果園 [石炭]燻烏沈李。
成分:李子・糖。
添加物:檸檬酸・焦糖・甘草・香料。
李子は日本の桃。桃の干物みたいな口ごたえでした。
色は真っ黒。
堅くてほんのり酸っぱい。味覚的には桃の梅干しとでも呼びたい食べ物で,宿で寝る前には舌の上で転がしてましたが…ありゃどーゆー類いの食い物だったのかね?
▲石炭火東烏沈丸
渇きモノと言えば,コレにはもっとハマったこんにゃくの干物。
これもコンビニ買いで初日に見つけたもの。
こんにゃくは元が芋だから当然干し芋もアリなんだけど,コレはこんにゃくにしてから改めて水分を飛ばしたもんらしい。――完全に未知の食い物でした。
干した後か先かは分からんけど,甘辛く煮付けてある。唐辛子と醤油みたい。こんにゃくの軟体感と生臭さは幾分残ってて,甘辛い味覚と奇妙にマッチしてました。
口寂しい夜にグチャグチャやるのに最高!日本ではミント類やタバコの位置を,台湾滞在中はすっかり取って代わってました。
これは日本でも欲しい!少なし原料はノンカロだからダイエットにも最適!ただ,台湾でもどこのコンビニにもあるってわけじゃなかったから,見つけたらゲットしてみて!!
▲台北のコンビニで買った蒟蒻干
6日目,士林夜市にて。
「青蛙[タ/カ][タ/カ][女乃]」と看板を出す店をたくさん見たんで,からかうつもりで「まさかホントに蛙じゃないよね!?」と聞いてみた。
すると――「え!?蛙だよ」と真顔で答えるお姉ちゃん。
ホ…ホントに?
ぐえええ~…(カチッ)ぐえッ!
わしの脳裏を鮮やかに駆け抜けた今の幻聴は何かと申しますと――青蛙をジューサーに押し込んで,スイッチを入れますれば,青い体液を飛び散らせて粉砕される青蛙のジローさん(享年5歳)の最後の声。
今回のテーマ的には当然買いだけど…買うのか?ジローさんを買っちゃうのか!?どーするの,わし?
▲士林夜市 青蛙ジュース屋台
我ながら…勇気のある…ってゆーより浅ましい食い意地だと感心するけど。
――結局買っちゃいました。
「ミルク入りにする?」明らかに初体験ってバレバレの外国人の引きつった悲壮な表情に,お姉ちゃんの優しい言葉。
「え?そりゃブラックさ!ミルクも砂糖も要らん!」内心半ペソでなおも強がって墓穴を掘る外国人。
路地に座り込んで一息深呼吸。
さて――。
▲士林夜市の青蛙ジュース
本心から思ってました。
――不味くなきゃ困る!
こんなん平気で飲んでちゃ人道的にどうかと思わない?蛙だぜ?――しかし,困ったな…。
美味いのである!?
苦甘いとゆーか…でも生臭いとかそーゆー不快なのはない。いい具合に苦くて結構イケるんですわ。
結局これは蛙の何なんだ?ネットで幾ら「青蛙 台湾」で検索しても,台湾ドラマ「王子變青蛙」(カエルになった王子様)ばっかヒットする。王子様はいーんだ王子様はッ,わしはジローさんの運命を知りたいだけなんですけど。
こうして…今に到るもついに謎は解けない台湾青蛙なのでした。(ええッ終わるのかあ!)
▲林森南路 渇湯一族小館の告知
林森北路と言えば,今でこそ低調になってるけど日本人オヤジの吹き溜まる歓楽街ですけど,この南路って場所。
北路は台湾車駅から一駅北なのに,ニ駅南の中山記念堂の南側でいきなり林森南路の表示。
どーも…元々林森路って道があった中間に台湾車駅やら記念堂やらを建てたもんだから,南の端っこがこの辺にちょんぎれて残った臭い。
そこを訪ねた目当ては渇湯一族小館。
これ自体,中国語を解する人には馬鹿ウケのネーミングです。「渇」は液体を飲むって意味だから,この店名,「汁飲み一族の小さな館」なわけ。で,この店の主力商品は6種類の汁物の定食だってんだから――このファンキーなセンス,つい覗いてみたくなりません?
そんで行ってみましたら,この貼り紙と錆びたシャッターが待ってました。
読むと――永年ご愛顧いただきましたが,この度,我々一族はお店を閉めることになりました。それと申しますのも,祖父が体を壊し,長女がアメリカに留学し,妹が…って誰がそこまで語れっつーたんだよ!
まだまだ長々書いてあるけど,どこかに移転したとか暖簾分けしたとかじゃなく,要は単に色々あって閉店したってことらしい。けど…今は亡き小館に対する愛情っつーか未練っつーか無様なまでの赤裸々な思いが伝わってくる貼り紙でして――食えなかったけど胸が一杯になった小館跡でございました。
にしても汁物一族。一目お会いしたかったなあ。
やや長めの海外には,普段到底読まないよな偉そーな本を携行する。
いくらその国の言葉を解しても知らず知らずに日本の活字に餓えてるし,何よりヒマだから,ついついページをめくってしまうのね。
今回もそーゆー狙いで、永らくほったらかしにしてた「日本の食と農」ってハードカバーをリュックに入れてった。神門善久という農業経済学者の方の本です。
基本は農業経済の論文なんだけど,導入部では食育から地産地消までグウの音も出ないほどこき下ろしてあってなかなかスカッとする読後感。さらにその末尾部には「食を通じた国際貢献」という文章がありまして,シチュエーション的にとても面白かった。
わしなりに要約すると――体質的に糖尿病に弱い東アジアの諸民族の上に,怒涛の経済発展により,伝統的食生活の崩壊ってゆー共通の災厄が襲いかかり始めてる。長寿県沖縄の転落のような激変は,今後は東アジア各地で普遍的に発生するだろう。だから,この変化の先端にある日本がもし解決策を見いだせば,それはそのまま東アジア全体への最大の国際貢献となる。外国人労働者の増加一つを考えても,それは伝統的な日本型食生活への復帰という形ではありえず,脱ドメスティックな新しい形態であるはずだから――
確かにそーだろけど,わしはそこまで日本人一般の食生活センスを過信はできない。そんな復元力があれば,事態はこれほど深刻化してない。つまりは,日本型食生活は骨抜きにはなってないし,そもそもわしが3桁超人化することもなかったろう。繰り返すけど,東京を含む日本人一般には自力での復元力はない。京都や博多,ひょっとしたら沖縄や秋田にはエリア限定で可能かもしれないけど。
ただ。共感したのは――この危機が東アジア一円に普遍的だって観点でした。
整理すると,3つの共通項を持つってことなのね。
1)本来持っていた伝統的食生活の高い完成度
2)前世紀後半に短期間に遂げた経済発展
3)隠れ肥満を含む肥満による健康被害の高い体質(糖尿病の発症率の高さなど)
食文化は,今一般に理解されてる以上に生活の基礎力を担ってると思います。以上の3点が歴史的に最大規模のものだってことを考えると――我々は史上最大の危機の中にある。
唯一の希望は。このクライシスは東アジア一円で共闘できるものだってこと。つまりこの場合の我々とは,東アジアの20億人くらいの我々だってことです。
▲台北でポツポツ見かけた食料品スーパー松青超市。「マツセイ」と読ますとこから,おそらく日系資本。営業内容はほぼ日本と同じ。ってことは台湾の食生活に日本と同じインパクトを生む存在。
上海で感じた中華は,かなりの病状でした。共産時代の配給制と自由経済時代のファースト感覚の双方から,その最悪の部分を吸収してしまってる。経済の見かけとは逆に,食生活は瀕死の状態。
今回の想定として,台湾も同じなら,その状態確認だけして香港へ足を伸ばそう…って絵も描いてました。けど,台湾の中華はほとんど完全な健康体。大陸のと見かけは同じ中華でも,内容と思想性は全く別次元と思っていい。
そこまで言うかって?いや,これは人体実験済みでして…上海は4日間で8キロ太ったけど,台湾では9日間あんだけ食べて体重に変化なしだったのよ。油とか料理の質が根本的に違うとしか考えられん。
でも美味けりゃいいじゃん!!…言うまでもなく,わしも基本的にそーゆー立場。こしゃまくれてるだけでクソ不味い健康食なんて論外。
けど…明らかに台湾メシは美味い!上海の美味さは名店でもドンヨリしてたけど,台湾のは輪郭のハッキリした美味さです。素食にしたって,肉に似せる技巧に特化した上海に比べ,台湾のは生真面目に味で勝負してる。極めつけは今回グルッたルー味。あんなんローカロの食材の油なしの煮込みだから,あれだけ濃厚なだけど太るはずもないのよ!
じゃあ素食やルー味が伝統食かってゆーと,とてもそんなことは言えない。大体台湾そのものが近代以降の歴史しか持ってない。街中の素食はビュッフェ,ルー味はおでん屋台で,要は極めてファーストフードなの。
つまり,この台湾って島は,かなり理想的でかつ現代的な食生活を構築することに成功してる。もうかなり長期に渡って日本並みのリスクにさらされながらです。
わしは,平然とした顔でそれをやってのけた台湾に感動する。
――そういう食生活って可能なんだ!
加えて――この歴史的リスクを抱えた東アジアに,そういう成功例があるんだ!
東アジアが食生活で滅びない一つの可能性がここにある。
よし明日からルー味を食おう!なんてテレビショッピング的に安直なこと言うつもりは毛頭ない。事例は事例で,台湾食の成功は思想性によるもの。そこにルー味があったからじゃない。
今回は,同じ東アジアに(しかも隣の島に)成功例がある――それだけでいいと思ってます。
素食の項で見たように,台湾にも迷いや混乱は大いにある。彼らも戦ったし,今も戦ってる。
おそらく彼らの感性は,現代史上の孤立感に起因するだろう。自分たちを大陸から追い出した共産中国が国際的に認められて国連から脱退させられ,国際的な疎外感の中で,自分たちだけで生活を築いていかにゃならんのだ!ってゆー腹の据わった覚悟。
…かどーかはともかく,台湾は美味だけじゃなく,その最大の要因としての食生活の健全さをもっとアピールしていいし,注目されてしかるべきだと思うよ。
日本の町に「台湾料理」を名乗る店は増えてきた。博多では魯肉飯を食わす店も見つけた。だからルー味も技術的には食えるはずなのに――ない。分厚い台湾饅湯もない。台湾中華と大陸中華が特に差別化されてないのが現状。
料理だけじゃなく,もっと台湾は己を誇っていい。ここはもうそれだけの独自な,そして東アジアの救いの島なんだから!
加油台湾!為東亜与我[イ門]日本所有的人!