外伝06@(@_13_@) 豆腐 (@_13_@)

 うーむ…よもや台湾編でこんな章を書くことになろうとは!!
 何たって豆腐です。今は唐津にしかない川島豆腐に耽溺しちゃって以来,素の豆腐にはがっぽりハマってます。これは沖縄の島豆腐も同じ。
 素じゃない豆腐としては,南九州の豆腐の味噌漬けにも。沖縄の豆腐ようにはもちろんぞっこん。
 けど…これらに比べて中華にはねえ。まずイメージするのは麻婆豆腐だけど,素の豆腐でも醤油をかけずに頂くよになってしまってる今のわしにはもったいなさすぎ!あんなにタレをまぶしちゃったら豆腐の味わいは無くなっちまうじゃん!肉豆腐的な料理も同じこと。
 だから台湾で豆腐なんて全く期待してなかった。
 甘かった。


▲士林夜市 臭豆腐の看板書き

 これまでの台湾行きは,全て3桁超人時代の旅。豆腐なんて「味のない食い物」食うくらいならソーダ水の方が10倍マシ!!とか信じて疑わなかった時代(っても1年半前だけど…)の経験。
 先に言えば――今回カンチャンズッポシはまっちゃった臭豆腐,夜市で何度となく見慣れてた一品。あんまり店が多いから,一度は買った記憶がある。あんまり覚えてもないけど,その時は,「おええ~何コレ!焦げてるじゃん!?」って一口で捨てた記憶もある。
 いやあ…味が分からんのって怖いもんですねえ…


▲阿才之家の入口辺りの陰影

 6日目,仁愛路の阿才的店の話をもう一度。
 ここで
虱目魚[月土]湯(100元)
白飯(15元)
とともに食べた
阿才豆腐(100元)
のことです。
 まあ,一丁豆腐が冷や奴みたく出て来るとはお思いにはなりませんでしょ?
 形態は煮込み豆腐でした。肉入りのアンが絡めてある。けどやはり,店名を冠してるだけあって。豆腐自体が違いました。
 堅い。
 島豆腐並みです。だけどそれだけじゃなくて…何か日本の豆腐と違うど?
 何がしかの中華ハーブが豆腐本体に織り込んでる。けどそれだけでもない。――渋いのよ。焼いた豆腐の焦げ味もあるけど,織り込んであるハーブ自体が苦味としてキイてる。それがやはり渋くキマッてるアンと一体化する。
 渋過ぎる…何ちゅーダンディーな味覚なんだあ!日本の豆腐がおしとやかな女性的な味とすれば,これは男性的,ってのもまだ言葉不足。古武士のような古臭くも小気味良い,しかも一度刀を抜けばズバッと斬れて姫様ご無事でございまするかッあらあのお侍はどこ?あのお方にもう一度お会いしたいわオヨヨオヨヨとか訳のわからん白昼夢に襲われる。(襲われねーよ)
 そんなこんなで大変だったのですが(知らねーよ),完食してふと気がつけば写真も撮ってなかったほどの感動体験でした。
 思えば――あれが臭豆腐との最初の出会いであったようなのでした。つまり,わしはこの店で初めて臭豆腐のアンかけってのを食べたんだと思われます。


▲好記担[イ子]麺の好[口乞]豆腐と担子麺

 時間的にはちょっと順序が逆だけど――8日目の吉林路の好記担[イ子]麺。
好記担[イ子]麺(35元)
と一緒に食べた
好記豆腐(120元)のことです。
 こちらはフワフワした玉子豆腐に近い食感。混ぜてあるのはやはり玉子なんだろけど,日本のみたいな玉子臭さがほとんど感じられない。不思議な透明感のある味で,ひょっとしたら白身だけとかなのかも。
 台湾人もこーゆー味を食うんだなって驚きがありました。


▲士林夜市の臭豆腐屋台。士林だけじゃなく台湾の夜市の超定番

 今や立派な観光地です。士林夜市にはわしも来台の度,一度は行きますけど…今回は他が忙しくて,6日目の夜になって初めて訪れました。
 日本でもだけど,3桁時代と全く違う目で見ると,市場って場所はすごく勉強になる。収穫も多い。つまり,意外な美味との出会いに満ちてきてます。
 繰り返しになるけど臭豆腐って文字は既に見慣れてた。だから,市場の雑踏に紛れ込んだ後も,特に惹かれもせずに他の青蛙ジュースとか豚血餅とかでひとしきり阿鼻叫喚した後,そろそろ帰るかな…って段になってふと臭豆腐屋台を冷やかしてみたのね。
「これは…何?」
 すると屋台の姉ちゃん,ひどく明瞭でハキハキした日本語でご回答。
「臭い豆腐です!」
 うん…まあ文字通りなんだけど…自分ちの売り物をそーハッキリ「臭い!!」って主張するのは,日本語学習の費用対効果的に有効な戦略とは思えないような。
 止めときゃいいのに追加質問。
「どう臭いのよ?」
 すると姉ちゃん,さらにイキイキした優等生口調でご回答。
「とにかくスゴく臭い!」
 いやだからアンタ,商売ってものはだな…。

【後日談】嘘じゃなかった──この台北では,調理後の臭豆腐しか見てなかったのよ!
 3か月後,神戸の中華街のスーパーに瓶詰めの「臭豆腐」を発見して購入。家で蓋を開けた途端…瓶の中から白い煙が吹き出した。
 何だあ!この異臭!!
 卵の腐ったよーなどころじゃない!その緑色のサイコロ形のゲル状物質は,かつて嗅いだどんなモノより激しく臭く…水洗いしても厳しく臭く…焼いてもまだ臭く…終いには形を諦めて炒めたら更にグーンと臭く…ちょっと舐めたら爆発的に臭くて…結局便所に流しました。
 部屋にこもったこの地獄の劇臭は,一晩中換気扇をフル回転させたら朝になってやっと消えました。
 ああおぞましい!下手な幽霊より余程恐ろしい体験でした…。

 士林夜市ではいつもしたたかに迷う。道の方角が微妙にズレて曲がりくねってるからで,それが楽しいんだけどね。
 「臭い豆腐」姉ちゃんの印象が残っちゃったからか,帰り道に臭豆腐専売店が目につく。屋台の1メニューってだけじゃなくて,専門の店舗もかなりあるのね。どこも満席近いけど…しかし豆腐だろ?そんなに血眼になるよなもんなの?
 タイプは,豆腐鍋にして出してるイートインの店と,焼き豆腐で単品売りしてるテイクアウト屋台があるみたい。前者の値段は100元以下,安いとこは50元を切る。後者は手のひらサイズ1切れが10元で,2切れを串刺にして歩き食い出来る形式。


▲士林夜市 串焼き臭豆腐


▲士林夜市 臭豆腐。けちらは鍋形式

 前者の鍋の専門店メニュー。現炒,清蒸,紅焼,麻辣,腸[日王],鴨血,それにこれらの合わせ技型のものとかなり多彩。ただ全て真っ黒な鍋で,見た目あんま大差なし。どれもホント臭そう…ってゆーか専売店を通る度にスゴい異臭が漂ってきますぞ!?現実的に臭いみたいだぞ!?
 なんでそんなん食うんだ?
 とにかく入って,無難そうなのを一つ注文してみることに。
 え!?
 この味覚は…一体何なんだ?
 マジに臭いの。グンと鼻孔を突き上げてくる暴力的な漢方臭。豆腐の焦げ臭さまで混じって,「臭い豆腐」姉ちゃんの言う通り(その呼び方止めてあげて),それはもーシャレになんないほど臭いの!
 久しぶりに自分の舌が信じられなくなってきた。――お前さあ…何でこんな臭いもん,美味いとか感じちゃってるわけ?完璧に臭いんだぞ?日本じゃ法に触れるくらい(触れないけど)物凄く臭いんだぞ?分かってんのかお前!
 混乱状態で宿に帰って食った串刺臭豆腐――ゴメンナサイ。やっぱり美味いんです。止められない旨さなんです…。

 涙ながらに訴える自分の舌(?)に,その夜は台湾で買ったグルメ本を再チェック。
 やっぱりあったぜ!!臭豆腐コーナー!
 住所表示を頼りに何店舗かの場所をマップに落として朝を待ったのです…。
 そして迎えた7日目,まず向かいましたのは大安路の名豊臭豆腐。夜市が開かれる通化街の近くです。11時の開店と同時に席についたわしはほとんどクレイジー・フォー・臭豆腐状態。
麻辣臭豆腐(60元)
 鍋形式で出てきた一品は,日本円で200円以下とは思えないボリューム感。肉なしの汁モノだからカロリーは低いんだけど,味付けと臭いでかなりの食いごたえがありました。
 専売店の風景を見る限り,ご飯を付けずに鍋だけ食う方が一般的みたい。この量なら当然それで腹はくちる。これ以上食えるかッて量ですら。
 辛い!辛いのに,ルー味が全然負けずにカップリング!
 歯ごたえは堅い!堅いのに,咀嚼していくと臭みが滲み出て鼻を突き胃に染み込む!
 そんでもちろん――臭い!!麻辣の辛さも手伝って,日本じゃ売れないどころか近所から苦情が出そうなほどの臭さです。これが誉め言葉になるこの味って何なんだ?
 それが,次章でお話するルー味だったわけです。


▲通化街 麻辣臭豆腐の鍋アップ

 7日目の夕方,師大夜市へ。
 ここはガイドブック的にはマイナーだけど昔から好き。地下鉄で言うと台電大楼駅から北へ広がるエリア。複数の大学の門前町で,路地裏を中心に毎夜盛り上がる学生街は他にないローカルさとポップさについつい長居しちゃう。
 これまでは,夜市の奥手にあるTボーンステーキを出す店目当てだったんだけど――今回の目当ては泰順路の一[ロ乞]独秀。
 泰順路自体は夜市より北側。でも住居表示を頼りにさまようと,結局いつも来る夜市のすぐそばだったわけ。
香[月危][女束ノ又]豆腐(50元)
米粉羹(小)(40元)
 看板には確かに「臭豆腐」。だけど,数種類しかないメニューにそれらしいのは香[月危][女束ノ又]豆腐しかない。しかも…読めない。
 仕方ないから観光客的にメニューを指差す。「あれ…下さい」
 店頭に貼りだしてあった日本語記事(現地のホットペーパーらしい)によると,精製段階でルー味の中華ハーブに漬け込むと,モスグリーンの豆腐が出来上がる(モスグリーンだ!死なないのか?)。それを揚げて作った一品なんだとさ。
 鍋形式じゃなく揚げ豆腐そのもの。醤をつけてもいいらしいけど,結果的にそのまんまが最高でした。
 とにかく苦いし臭い!甘味も辛味もトロミもなく,シンプルに苦くて臭い!!逃げ場なし!!
 でも…それが素晴らしく美味い!
 今回の台湾でのわずかな経験中では,ここの臭豆腐がベスト。でもモスグリーン状態を見る勇気はない…。


▲師大夜市近く,一[ロ乞]独秀の臭豆腐(香[月危][女束ノ又]豆腐)

 8日目の朝は少しマトモな路線に復帰して,寧夏路の豆花荘へ。
招牌花生豆花(35元)
 「招牌」は名物でっせ!ってニュアンス。「花生」はピーナッツね。ピーナッツ入り豆花,日本のコンビニ製品にも時々見かけない?
 ただし,評判だけあってここのはコンビニものとは流石に別次元。
 ピーナッツをどーしてんだろ?クラッシュして,はいはい入れてますよってんじゃなく,ピーナッツそのものの姿はない。ないのに確実にピーナッツの香りが程よく漂う。エキスを混ぜ込んであるの?
 花生じゃない豆花もよく出てる一流品。豆花自体の図太い存在感に,この姿なき花生に誘われる夢心地のジョイント。
 臭豆腐から豆花まで,豆腐って食材にここまで広がりを持たせるって…食材にも文化にも驚嘆ッス。


▲豆花荘の花生豆花

 8日目夕方,再び訪れた丸林魯肉飯のビュッフェで,豆腐の煮物を選ぶ。
 帰国前日のこの頃には,魯肉飯の味の核はルー味ってことは分かってた。魯肉飯が美味いなら臭豆腐もイケるはず!
 頂きま~す!


▲民権東路 丸林魯肉飯(2回目)豆腐のルー味煮込み

 …最高。
 臭豆腐だけど,どっちかってえとルー味煮込み。つまり,次章でお話しするルー味の豆腐のみ。――外観は黒ずんだ方形で,そもそもルー味を知らない時代なら気味が悪くてチョイスしなかったはず。
 苦くて臭い中に,大豆本来の芳醇な甘味がほんのり生きてる。僅かにでもどれが強けりゃ崩れてしまうこの絶妙で高貴なバランス!
 参った。台湾豆腐,最高でした。